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1.蘇生失敗

1.蘇生失敗

 私は小林健斗85才。平凡な家庭に生まれ、そこそ良い理系の大学を卒業してそこそこ良い会社に入社し技術者として定年まで勤め上げた。

 妻ともその会社で出会い結婚し子供もでき孫の顔も見ることができた。定年後は孫の世話をしながら余生を過ごしていたが、5年前から心臓を患いとうとう一月前から入院中だ。

 子供や孫が何度も見舞いに来てくれているので寂しくはないが、もうそろそろ寿命の限界だなと感じている。

 入院中も何度か血圧が低下し深い眠りに落ちそうになりながらも持ちこたえてきた。今の病院は患者の血圧を24時間監視していて異常が発生すれば即座に看護師さんがやってきて蘇生してくれる。私にも血圧計の数値が見えるが、意識が薄れてきて上の血圧が60を下回った時はこれで終わりかと思ったのだが、すぐに点滴の薬が入れ替えられて元に戻ってしまった。血圧を上げる薬を使用したのだと後で看護師さんから聞かされた。「そうまでして生かす必要がありますか?」とその看護師さんに言ってみたが、ニコニコしながら「必要ありますよ」と返された。

 そして何度目かの血圧低下。今度は血圧が50を下回った。もうろうとする意識の中で新記録達成かと下らないことを考えていると体が大きく揺れる感覚がし、何人もの人たちの大きな声が聞こえる中で意識を失ってしまった。

 再度目覚めると真っ白な空間の中で体が浮いているような感触。とうとう天国にやってきたのかと思っていると目の前に女の人が立ってこちらを見ている。

 どこかで見たことがあるなと思い出してみたら、そうだ、写真で見たことがあるオリンピックの聖火を神殿のようなところで作っているギリシャの女性と同じ容姿と同じ格好。

 目の前の聖火の女性が困った顔をしながら私に話しかける。

 「本当に申し訳ございません」

 といきなり言われても何を返答してよいのか分からず黙っていると

 「今日は4万年に一度行われる銀河星雲すべての神々の集いの日でした。私はその議長当番として地球に神々を招待して情報交換をしていたのです。そこで、二柱の神が言い争いになり誤って雷を落としてしまいました。雷は避雷針に落ちて何も壊れることはなかったのですが、貴方の命を救うために大切なお薬を運んでいる女性が雷に驚いて階段で転んでしまい、そのため薬が間に合わず、このようなことになってしまいました」

 あの揺れと大声はそれだったか。でもこれが天命というものか。

 「あまり気にしないでください。もう十分生きましたし、悔いはありません。お気持ちだけいただいておきます」

 と言うと、聖火の女性が慌てた様子になり

 「そんなわけにはいきません。お詫びのしるしに貴方に悔いのない人生を送っていただきたいと考えているのです」

 と言われても

 「私は悔いのない人生を送ってきたつもりですよ」

 と返答するが

 「つもり?」

 <変なところに突っかかるなぁ>

 「容姿が良いわけではないので特別女性にもてていたわけではないですけど、優しい女性と結婚ができましたし」

 「ふむふむ、容姿が」

 <だから話の一部だけを切り取るなって>

 「裕福な生活ではなかったですけど、特別貧しい暮らしをしていたわけでもありません」

 「なるほど、裕福ではなかったと」

 「体だって最後は若くないので心臓の病気で入院していましたけど、それまでは健康そのものですよ。まあ、目は近眼でしたけどね」

 「若くない、それと心臓と目が悪かった」

 「いや、ですからね、喧嘩が強いわけでもないですけどそれなりに体力はあって若いうちは病気らしい病気もしていないし、健康診断だってA判定かたまにBでしたよ」

 「喧嘩が弱い、しかもSランクでなかった」

 <健康診断にSランクなんかないよ>

 「人を動かすことは苦手でしたけど技術者としては結構優秀な部類に入っていたと自負しています」

 「動かすのが苦手」

 <私の言っていること理解していないよね>

 「貴方にとっての人生の悔いが分かりました」

 「いやいや、全く分かっていないでしょ」

 「貴方にはこれから悔いのない人生を送っていただくことにします」

 「もう決めちゃったの?」

 「はい、決めちゃいました。それでは、これから悔いのない人生を送ってくださいね」

 と、満面の笑みで答えられた。その瞬間目の前が真っ白になり、まぶしさのあまり目を閉じる。


 あたりの明るさが収まったころに目を開けると知らない女性の顔が目の前に現れた。

 さっきの人の話を聞かない聖火の女性ではなく、ショートカットで優しそうな感じの延齢は20才くらいの綺麗な人だ。

 そして、私はその女性に抱き上げらえているようで、まさかと思い自分の手を見ると明らかに赤ちゃんの手。

 確かに「若くない」と言いましたよ。でもね、だからって赤ちゃんはないんじゃない?

 私のこの女性の周りにも何人かの女性たちがいて、みんなメイドのような恰好をしている。そのメイドの一人が

 「マリアン様もこれでフォード辺境伯家四男ケイト様の母君ですね。おめでとうございます。」

 <この若い女性が母、私は辺境伯家の四男?>

 <その前に、私は赤ちゃんであるのに会話が理解できるのはなんで?>

 <それはとりあえず置いておいて、これからみんなの話を聞いて私の置かれている状況を把握するひつようがあるな>


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