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ポインセチア・ノート:Φ  作者: 紫音
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プロローグΦ:「不完全な予言者」

オレの名前はアイビー・マリーゴールド。

明日で18歳になる。

魔術の属性は風。趣味は読書と空を見上げる事。


オレは獣人でありながらも、人間と同じようなペースで老けている。アンモビウム王国に住む奴らは大体18歳なら人間の10歳位の姿になるのが普通らしい。だが、オレは18歳で18歳なりの姿をしている……らしい。

俺と住人の違いはそれだけではない。獣の耳は無く、代わりに人間の耳を持っている。


何故、こんなにも違うのか?

今は亡き母が人間だったからだろう。オレは母親似だ。元父(ばかやろう)は獣人で、オレが生まれる前に――と、とにかく欠け落ちしたらしい。クソ野郎だ。


俺が人間に近い獣人のせいで、同い年のバカや年上のバカは俺をで「老け顔」や「老人」、「人間モドキ」、と呼んでくる。


『我々は諸外国と違い、聖なる民族だ!!』


ふと、アザミ・アイリス国王の有り難い言葉を思い出す。

これが聖なる者かよ。

元父(ばかやろう)と言い、差別する奴らと言い、下らない民族だ。本当に。


そういう奴らが嫌いだから、他人とは出来るだけ関わらないように森の中に佇むこの家で暮らしている。

城下町に行く事は二年に一回位の頻度。食料も母が残した魔術がかけれている畑でどうにかなっている。

畑からは毎日農作物が生えるし、井戸水も旨いし、布団もふかふか。

外に出る必要なんて有るわけが無い。


老後まで、きっと一人で幸せに過ごして行くのだろう――。



『やれやれ、ニゲラにそっくりだよな』


1月20日の晩。不思議な夢を見た。

オレの家に誰かが居る夢を見た。

そいつはオレに似ていた。髪の色と瞳の色はほぼ同じだ。


しかし、髪の長さと年齢は違っていた。もしかして、未来のオレ?まさかな――


『さて、まだ今回は試行段階。残念ながら、君――いや、お前とは話す事が出来ない。一方的に話す位だ』


何を言ってるか分からないが、こいつは何か態度が偉そうで嫌いだ。絶対に鏡を見て、自惚れしてるだろ。


『手短に話すが――おっと話せないか』


いや、話せよ。うざいな……。


『良いか?明日、カルミアが来る……。飛ぶ日は8月23日。場所はお前の家。覚えておけ』



1月21日、18歳の誕生日。


寝起きからして、あまり良くなかった。

初めて変な夢を見た気がする。まるで、体を乗っ取られるような痺れる全身の感覚、とても気色悪い。あの感覚を忘れたい。


イライラしながらコップに水を入れて軽く飲む。

飲み終えると、寒い中なのに鳥の(さえ)ずる心地よい声が聞こえてくる。聞いていく内に段々と苛立ちが和らいでくる。


たかが、夢だよな。たかが夢なのにこんなに苛つくなんてバカみたいだよな。忘れよう――。

二度寝をしようとしていた、その時……。


「はぁ!ファイニス!(炎よ!)」


その刹那、畑から何かが破裂するような音がした。


急いで、俺は二階の寝室から一階に降りて、直ぐ傍に有る筈の畑に向かった。向かうにつれて、焦げ臭い匂いが鼻をしつこく刺激してくる。


まさか、畑燃えてる事無いよな?嘘だよな?


答えは分かって居る癖に、現実に目を背きながらも畑に一番近い戸を開けた。

開けた瞬間、俺は膝を突く事になる。


そこには9歳位の女が畑の魔術を解除してめちゃくちゃにしていた。女は薄いピンクの色の髪をして、ドレスを身につけていた。


「はぁ!!とりゃ!!自然の摂理に反した悪い魔術め!!」


女は小さな火を操り畑の植物を燃やしたり、土を掘ったり――好き放題にしていた。

オレがその惨状を見て立ち尽くしていると、女はオレを見て得意気に笑った。


「ざまあ見ろ!悪い根暗――」


女が決め台詞を吐こうとした、その時――。


「カルミアアァ!!!」


城下町の方角からこちらに何がやってきた。土埃と共にやって来た男がまるで、女に突撃するかのような勢いで急接近した。

女はヤバいと一瞬表情に出ていた。女が逃げようとしたその瞬間、男は追い付く。女の頭上にデカイ拳が雷の様に落ちた。


「ふぎゃあああぁ!?」


女は泣きながら転げ回っていた。


大体、朝7時の出来事だった。



「申し訳なかったな……。馬鹿娘が畑を燃やして……。自然の摂理に反すると思う物を嫌っているのだ。はぁ……」


男の名前はアザミ・アイリス国王。威厳の有るような顎髭を貯えている厳つい顔と、筋肉質な図体をしている。

アザミ王から発せられる独特のオーラは部屋の雰囲気と合っていない。この人が居るだけで、緊張感が漂う。早く帰ってくれないだろうか……。

外から「バカじゃないもん」と外で縛られているカルミアが叫んでいる。バカだろ。


「だ、大丈夫です……。それよりも、何故王様がこんな所に?」


「ああ、我はお主の父親ウド・マリーゴールドとは旧友でな、ウドの奴が妻のウコギとお主を置いて蒸発したと聞いた」

「父親――ねぇ」


父親の名前を聞くだけでもイラッとする――が、アザミ王の前で暴れるのは気が引ける。グッと堪えていると、アザミ王は赤紫色のマントの中から見えるブリオーとかいう服の何処からか手紙を取り出した。


「我が国には予言者が居た。だが、この間何者かに殺されてしまってな……。遺言として、次の言葉を残した」


『アイビー・マリーゴールドは国を守る重要な人物となる。アイビー・マリーゴールドを次期国王にせよ』


何を言ってるんだ?

俺が、国王に……?

現実的ではない言葉にオレは放心してしまった。アザミ王は俺の心を察しているのか、軽く肩を叩く。


「つまりだ……。あのじゃじゃ馬……カルミアの花嫁になってくれ」


「…………ええええぇ!?」


今まで出した事の無い悲鳴に近い声を外に居るワルガキ(カルミア)に聞こえる位に響かせた。



「嫌だっ!誰が!こんな根が暗そうな奴と!結婚しなければならない!」


それはこっちの台詞だよ。クソガキ。

――なんて、言いたいが、アザミ王が居る所で言う勇気は流石に無い……。

アザミ王は深いため息をしながら、仲介に入る。


「カルミアよ、この同い年の青年は良い奴だ。きっと気が合う筈だ」


「でも~、……っ!」


カルミアはアザミ王に口答えしながら、俺に敵意のある目付きで見ていた。

こんなに嫌なら結婚を諦めれば良いのに……。


そうはいかないのは、亡くなった予言者が『完全なる予言者』だったからだろう。

完全に当たる予言――避けられない運命なんて、凡人の俺には理解出来ない。


「ということで、私は城に帰ります!さようなら!父上と根暗!」


「おいこら!待たぬか!!」


カルミアは走り去った。アザミ王も後を追おうとした、だが――。


「か、カルミ――痛っ!?」


アザミ王が腰に手を当てて(ひざまず)く。


「どうしたんですか……!」


「ああ、もう……!こんな時にギックリ腰がっ…!すまないが、カルミアを追ってくれ!」


「そんなの……、――っ!?」


オレはカルミアの後を追う。久しぶりに走るからか、一分もしない内に息切れをし始める。


森を出ると、町の住民が俺を物珍しそうな視線で見る。滅多に出ないから外国から来た奴と思われているんだろう。

視線を嫌がりながら、カルミアの小さくなった後ろ姿を出来るだけ早く走った。



暫くすると、町を抜けて草原に辿り着いた。この草原は魔獣がまだ生息したり、「デススポット」という土がある。デススポットに入ると魔力を一秒で吸われてしまい、最悪の場合死に至るらしい。

――とにかく、この草原は危険だ。


前方を見ると、カルミアが息を切らして膝に手をついていた。カルミアを捕まえるには好機だ。


「はぁ……はぁ……。しつこいっ……」


カルミアは此方を見ながら睨んでいる。取り敢えず、このバカをゲンコツか何かで気絶させて――。


その時。

カルミアの後ろに黒い塊が近づくのが見えた。黒い塊がけたたましい足音で近付いてくる。

あの動物は――。

いや、名称を思い出す暇は無い。


「あっ……ああ……」


カルミアがその動物を見た瞬間に固まっていた。良く見ると小刻みに震えている。先ほどの態度と比べたら想像もつかない。

俺は運動不足の足を無理に早く動かす。


間に合え――


間に合え――!


間に合えっ――!!


近付くと、動物の恐ろしい姿が明確に認識出来た。鉄のような鋭い角、光を吸収しない程に黒い皮膚、赤い眼。

子どもが恐がるのも無理は無い。俺だって恐い。


カルミアの肩に触れると、彼女は振り向いた。彼女は恐怖で大粒の涙を流している。

――こう見ると、可愛いじゃないか。


「――風よ突き飛ばせ!」

「きゃああっ!?」


俺はカルミアを魔術で突き飛ばすと、目を瞑った。


俺はあの動物の角で串刺しにされる、と悟ったからだ。悟った瞬間に腹部に熱い激痛が走る。


ああ、俺は、死ぬのか……。


走馬灯なのか、何かが聞こえてきた。


『死なせないよ。オレも、世界も……な?』


今朝の夢に出てきた男の声がした。

うるさい……、走馬灯ならお母さん呼んで来いよ――。

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