あの世流通株式会社
この世とあの世にはいささか共通点がある。例えばある時期になると、あの世へ来てしまったものが、この世へ一時的に帰ることができる……そういうシステムがあるのだ。その際、さすがに元通りの姿になって戻ってくることはできない。そのかわりといってはどうだ、花になって現れるのが可能であったりする。
これもまた、やりすぎると問題が発生する。あの世にもいろいろなエリアがあり、管轄を越えてそうした行いをすると、担当者は始末書ものだ。
このところ、自由に行き来をしよう、というムーブメントはあるのだが、場所によってはうまくいかない。なので、必然的に事前のチェックが厳しくなってくる。
この間などは、宗派を偽っていた霊があり、私は大変な目に遭った。
当の霊は「子孫がことわりなく改宗したので」としつこく主張していたが、却下され、当事業所への出入りまで禁止される事態となった。
私は最終チェックの担当者に、始末書を書かずに済んだと礼を言った。これがまた高くつくのだ。次回この世に生まれ出た際に、私のほうが借りがある状態でのスタートになってしまう。相手は終始にんまりしていた。
この世の暦は単純で良いのだが、地域によって帰る時期がブレるのが困る。七月盆と八月盆であり、ごくピンポイントでそれが違う場所もあるので、こちらもたまったものではない。
間違って別のところへ送り出した配送部門の担当は、左遷されていた。彼が配属されたのは、この世にしばらくとどまり、浮遊しながら、彼岸の時期に咲く曼珠沙華の土壌の整備を行う部署である。畑の辺りに影を見たら、渋々作業をしている彼のやるせなさに想いをはせてやってほしい。
霊のなかには、盆と彼岸どちらともに帰る者もあれば、帰らない者もある。徳の高い類になると、年中フリーパスを用いて、配送の乗り物を自分勝手に好き放題使い倒してくれるのだ。混雑を避けるため、という表向きの事情も用意されていて、私にとっては仕事を倍増させてくれる存在である。
野菜の馬や牛などは私たちがここで霊の乗り物に加工し直している。なかには船を使用する地域もあり、その年のトレンドなどがわかって面白い。
しかしフリーパスの相手には、一から作り出さなくてはならないので、雲をそれらしく加工しているばかりだ。
最近は随分まとまった数があの世へとやってきた。しかしいまだにひとつも帰りの申請がでていないのはどうしたことだろう。皆、安心したように自分のエリアからひきこもって出てこない。帰りのついでに里心などがついて、あの世に戻るのはいやだとごねる類も、昔は少なからずいた。それを契機にして次回の転生へとつながっていくわけなのだが……。
「やけに申請数少ないじゃないの」
最終チェックの担当者が私に話しかけてきた。
「来るやつばかり多くてね。先の部署でつかえているらしいよ」
私の聞いた話では、天国と地獄の入門審査員が頭を抱えているらしい。
新しい霊に、生前の行いと照らし合わせてどこへ行くのか、と、それぞれの場所の違いを含めてレクチャーするわけだ。
ところが霊はこう言うのだ。
「ここには、天国しかないじゃないですか!」