本当に怖いのは…
これは、私が体験した話です。
私は、ごく普通の25歳のOL。 名前は、M子(仮)とでもしておこう。
住まいは、会社近くのアパート。
これでも、数年付き合っていた彼氏と2人で暮らしていた。
何で、付き合っていたと過去形かって?
そんなの数日前に、別れたからだ。
別れた理由は、一言で言うなら気持ちが冷めたからだ。
最初は些細な、すれ違いだったけど、気づけば修復不可能な所まできてしまった。むこうは、それでも私の事を好きでいてくれたようだが、私から別れを切り出した。
彼は、しぶしぶであったとは思うが、荷物を纏めて出ていった。
彼と別れて、数日たった夜、アパートの予備の鍵を彼に預けている事を思いだし、彼に連絡をとった。まぁ、連絡と言ってもメールだけどね。
M子 [アパートの鍵を返して]
彼 [分かった。ただ、最後にM子の顔が見たい]
返事は、すぐに返ってきた。
「最後に、会いたいか…」
正直、私にはそんな気はないが、こちらから頼んでいる事もあってか、
M子 [分かった。明日は、仕事だから、明後日ならいいけど、どこで会う?]
彼 [M子に任せるよ]
「私に任せるか… なら、早く返して貰って、その後に、買い物でも行きますか」
M子 [なら、明後日の9時に、○○駅]
彼 [分かった]
連絡もとり終えたので、スマホを扱いながらベッドに横になった。
◆
~明後日~
朝、目が覚め準備をする。
今日も外は暑いので、日焼け止めを入念に塗ってから、出発した。
駅についた頃には、それらしき人物が既に待っていた。何故それらしき人物なのかと聞かれると、すごい痩せていたからだ。
彼も、私に気づいたのか、駆け足で近寄ってくる。
近寄ってきて、気づいたが目もとの隈も濃い。
「久しぶり。元気にしてた?」
「えぇ。私は、元気にしてたけど、そっちこそ大丈夫?」
「俺? 大丈夫大丈夫」
「そう? それにしては、随分痩せているように見えるけど?」
「あぁ、それか… ただ、最近食欲がなくて、寝付けないだけだよ…」
「そ… そっか…」
少しの間、どちらも喋らなかった。その沈黙に耐えられなくなった私は、
「わ… 私、この後用があるから、鍵返して貰ってもいい?」
「あぁ、ごめんね」
彼は、謝りながらポケットから鍵を取り出し、手渡してくる。それを、受け取ると、
「そ… それじゃあ、行くね」
返事を待たずに、その場を後にし、切符を購入する。切符を買った後、振り返ったら、彼はまだその場にいて、こっちを見ていた。私は、急いで改札を通った。
◆
買い物を終え、アパートに帰りつき鍵を開けて、中へ入ると涼しい風が、出迎えてくれた。
「エアコンをつけたまま出ちゃったか… ま、涼しいからいいか」
買った服が入った袋をベッドの上に置いてから、料理を作る気が起きなかったので、デリバリーピザを注文する。
届いたピザを食べながら、私は録画していた映画を視聴する。
満腹や歩き疲れもあったせいか、気づけば2本目の映画の途中で夢の中に旅立っていた。
「はっ!! やば、寝てた!!」
起きた私は、近くにあったスマホで時間を確認する。
時刻は、20時過ぎだった。
「なんだ… まだ、20時かって、あれ?」
視線を前に移すと、TVが消えていた。
「寝ぼけて消したのかな?」
私は、テレビを再度つけ、途中の映画を見た後、お風呂に入ってから眠りについた。
◆
「疲れた…」
今日は、いつもより仕事量が多かった。
アパート帰りついた私は、帰りに買った牛丼をテーブルの上に置いてから、ベッドにダイブする。
「ちょっと、寝ようかな…」
スマホを取り出してから、アラームを設定した後、私は、そのまま眠りについた。
ピピピピピッ
「んん… もう、そんな時間…」
目を擦りながら、薄暗い部屋の中、スマホを確認する。
「ふぁ… さて、ご飯でも…」
私は、固まってしまう。
「私、いつ電気消したっけ…」
すぐ部屋の電気をつける。
見える範囲では、誰もいない。
玄関を確認しにいくも、鍵はかかったままだった。
「自分で、寝ている間に消した…」
そう言ってみるが、すぐにそれはないという考えに至る。だって、部屋の電気のリモコンは、寝る前と変わらない位置にあったからだ。
部屋に戻って改めて部屋を見渡すも、いつもとかわりない。だけど、私の視線はある場所で止まる。視線の先にあるのは、クローゼットだ。
私は、恐る恐る立ち上がり、心臓は、バクバクと速くなるのを感じながら、クローゼットに近づいていく。
手をかけ、一気にクローゼットを勢いよく開く。
だけどクローゼットの中には、誰もいなかった。
「いるわけないか… 気にしす… ぎ…」
ふと、クローゼットの中身に違和感を感じる。
「何だが、いつもと違うような…」
あの人の荷物がないから?
でも、何だが違うような気が…
「あれ? この段ボール…」
そこには、見覚えのある段ボールが置いていた。
「これも… これも…」
どの段ボールにも、見覚えがあるだけでなく、ある共通点がある。
「これって、全部、ベッドの下に置いていた筈じゃ… あ…」
私は、すぐにベッドの方へ振り返る。
背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
私は、玄関に通じる入り口の方へゆっくりと移動し、その場にしゃがみこみ、ベッドの下を覗いてみる。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は、脇目も降らずに玄関へ駆け出し、靴も履かずに外へと飛び出した。
ベッドの下には、私を見つめる顔が見えたからだ。
◆
気づけば、アパート近くの公園まで来ていた。
私は、深呼吸をし気持ちを落ち着かせ、警察へと電話する。
私は、警察にあった事を伝えると、警官が公園まで来てくれた。
「貴方が、通報された人ですね。怖いと思いますが、現場まで案内して頂いても宜しいですか?」
パトカーから降りてきた警官は、優しい声でそう聞いてきた。
「は… はい。お願いします」
私も、パトカーに乗り込み、私の案内でアパートへ戻る。
「こっちです」
2人の警官を連れて、玄関の前までやってくる。
「こ… ここです」
「分かりました。私たちが、先行しますので、すみませんが後ろからついて来て貰っても宜しいですか?」
「は… はい」
私の返事を聞いて、警官は部屋の中へと入っていく。鍵は、そのままだった。
警官は、トイレやお風呂場など玄関に近い場所から確認してくれる。
「いませんね…」
「はい…」
「たぶん逃げたのかも知れませんが、一応部屋も確認させて貰いますね」
「はい。お願いします」
警官の後ろから、部屋の中を確認するも、出て来た時と変わりはないようにみえる。
「あのベッドの下に、人がいたんですね」
警官の1人がそう確認してきたので、答える。
「はい、そうです…」
「分かりました。貴方は、一応ここにいて下さい」
警官は、ベッドに近づいてしゃがみこみ、ベッドの下を見る。
「うわっ!!」
ベッドの下を見た警官が短い叫び声をあげる。
「どうした!!」
私の近くに待機していた警官が尋ねる。
「ひ… 人がベッドの下にいます!!」
「嘘!!」
「何!!」
私だけでなく、2人目の警官も驚く。
2人目の警官は、1人目と入れ替わりに、ベッドの下を確認し、驚愕の顔を浮かべながら、
「おい、お前何してる。そこから、出てこい!!」
ベッドの下にいる人に話しかける。
だけど、返事は返ってこない。
それに、不審がった警官が、勇敢にもベッドの人物にむけて、手を伸ばし少しして引っ込めた。
「あ… あの、どうなっているんでしょうか?」
気になった私は、警官に尋ねる。
警官は、首を横に振り、
「分かりません。ただ、ベッドの下にいる人は、既に亡くなっていると思います…」
「「!!」」
「本当ですか、先輩!!」
「あぁ、だから連絡をとるから、一度外に出るぞ。M子さんも、外に出て貰ってもいいですか?」
「わ… 分かりました」
私は、訳も分からず、警官の言う通りに外に出る。
外に出ると、先輩警官が、どこかへ連絡を取り出し、少しして、複数のパトカーや救急車がやって来た。
運ばれていく、死体をチラッと見たが、見覚えのある顔だった。
「えっとM子さんでしたっけ? 貴方、あの人の事を知ってるんですか?」
近くにいた男性が話しかけてきた。
「あ… あの…」
「あぁ、悪い悪い。私は、こういう者です」
男性は、警察手帳を見せてくれる。
「それで、先ほど運ばれた人に見覚えでも?」
「はい… それが…」
私は、運ばれていった人が、元彼である事を伝えた。
その後、何度か事情聴取を受け、その日から、近くのホテルで寝泊まりをした。
◆
後日、警察から話があると呼び出しがかかったので、私は警察署へむかい、女性警官に個室へ案内される。少しして、あの時の刑事さんがやって来た。
「お待たせして、悪いね」
「いいえ… それで、お話というのは?」
「あぁ、報告と確認して貰い物があってね」
「報告と確認したい事ですか?」
「そうです。まず、報告から。M子さんのベッドの下に隠れていた人物は、貴方が言った通り、貴方の元彼で間違いないですね」
「やはり、そうですか…」
「それで、彼の死因ですが、睡眠薬などの過剰摂取が原因で、一応自殺として処理されます」
「睡眠薬などの過剰摂取の自殺ですか…」
「はい、そうです。他の外傷もなかったようですし、胃の中に残っていた薬を調べた結果、最近通院していた病院で処方された物で間違いないみたいですから」
「そうですか…」
私は、鍵を返して貰った時の一言を思い出した。
「次に、確認して貰いたい物ですが、これになります。見覚えはありませんか?」
刑事さんは、そう言って懐から袋に入った鍵を見せてくれる。
「鍵ですか?」
「はい、そうです。彼のズボンのポケットから見つかった物です」
「…手にとってもいいですか?」
「はい、構いません。ただ、袋から取り出すのは止めて下さいね」
「分かりました…」
私は、手にとって見てみる。
少し見た後、まさかと思いアパートの鍵を取り出し、見比べてみる。
「アパートの鍵…」
「どうやら、知っているようですね。こちらでも、確認した結果、M子さんの部屋の鍵で間違いありません」
「でも、何で… 確かに鍵は返して貰った筈…」
「ここ数日間の動向を調査した結果、☆日前に、合鍵を作られたようですね」
「…!!」
計算したら、私が連絡した次の日だった。
「どうやら、貴方も知らなかったようですね」
「はい、知りませんでした…」
「そうですか。話は以上になります。ありがとうございました。外まで、案内しますよ」
話は終わったようで、刑事さんは立ち上がる。
「あ… あの」
「何でしょうか?」
「聞きたい事があるのですが、いいですか?」
「答えられる範囲なら」
「彼は、いつから私の部屋にいたのでしょうか?」
刑事さんは、メモ帳を取り出し、ペラペラめくる。
「予想になりますがいいですか?」
「はい、構いません」
「彼が、所持していた携帯のGPS位置を調べた結果、○月△日の10時前が最後ですね。因みに、場所は、貴方の家なんで、私たちは、この日からいたと判断してますね」
「!!」
その日は、彼から鍵を返して貰った後、買い物に行っていた日だった。
「…もう一ついいですか?」
「とうぞ」
「か… 彼が亡くなったのは、いつなんですか?」
刑事さんは、再度メモ帳をめくり、
「これも、大まかになりますが、私たちの見解では、◎月□日の10時~12時の間ですね」
「そうですか… あの日の前じ… つ…」
私は、血の気が引いていくのを感じる。
「どうかされましたか?」
「な… 何でもないです!!」
「聞きたい事は、それだけですか?」
「は… はい。ありがとうございました!!」
私は、刑事さんにお礼を言った後、刑事さんの見送りを辞退し、1人で、警察署を後にした。
警察署を後にした私は、現場検証が終えているアパートへと戻ってきた。
アパートに戻った私は、本当に必要な物だけ持って、すぐに引っ越した。家財は、大家さんに処分を任せた。
◆
彼女の見送りは拒否されたので、私は自分の部署に戻る前に、自販機で缶コーヒーを買いにいく。
「お疲れ様です!!」
買っている最中に、後ろから声をかけられる。
「なんだ、お前か…」
そこには、同じ部署の後輩がいた。今回の事件も、こいつと担当していた。
「ほら、やるよ」
買った缶コーヒーを後輩に投げ、新しい缶コーヒーを買う。
「ありがとうございます!!」
缶コーヒーを取り出し、一口飲んだ所で、
「そういえば、さっきM子さん見ましたけど、彼女にあの話はしたんですか?」
「あの話?」
「ほら、あれですよあれ」
言っている内容を理解した私は、
「いや、してないよ。終わった事なのに、わざわざ怖がらせる事はないだろう」
「そうですね。まさか、自殺したとはいえ、元カレがベッドの下で、ナイフを持っていたなんて知りたくはないですね」
「そういう事だ。ほら、早く飲んで、次の現場にいくぞ!!」
缶コーヒーを飲み干し、次の現場にむかった。
作者より
初めて書いたホラー?ですが、如何だったでしょうか?
残暑が続く9月ですが、少しでも、ゾクリとして頂けたら幸いです。
この作品は、出だしはあんな感じで書いてますが、完全フィクションで、作者が、眠る前にふと思い付き、その場のノリで、文字にした作品になります。
(捕捉)
裏話になりますが、エアコンとテレビの犯人は、元カレです。
また、元カレが殺害じゃなくて、自殺を選んだのは、もともとその気があったのもあるが、最大の理由は、M子に新しい男がいなかったからです。
復縁がない事を理解していた元カレは、新しい男がいない今なら、ここで死ねば自分の事をずっと忘れないだろうという考えです。
また、もし新しい男の影があった場合、死体が2つ増えてました。
因みに、今の睡眠薬では、過剰摂取しても危険はそれほど高くないそうです。