表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

読んではいけない本

作者: 不明



 読むのをやめろ。

いますぐやめろ。


元の場所に戻すんだ。













なんでまだ読んでる?

このバカ!!

読むのをやめろと言ったはずだ。

 

 この本を読むと後悔するぞ。

 この本を読むと大変なことになるぞ。



 この本を読むとおまえは変わる。

 もとのおまえには戻れなくなるぞ。


 だから、いますぐ読むのをやめろ。

 絶対にやめるんだ。

 いいな?



 

これは本気の警告だ。

































































































































































































































 見つけたか……

 多少は頭が回るようだが、おまえはバカだ。

バカなことをしているからバカだ。

 読むなと言っているのがわからん大バカだ。



 もういい……。

本を閉じろ。ぱたんと閉じて元の場所に戻せ。たったそれだけでいい。そして別のことをしろ。






この本のことは忘れるんだ。

















































じゃあな。

とじろ。

とじるんだ。

とじろと言っている!

本をもどせ!

もぉどせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

とじろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

とじろ! もどせ! とじろ!


とじろ。

もどせ。

とじろ。

もどせ。

とじろ。

もどせ。

とじろ。

もどせ。

とじろ。

もどせ。

とじろ。

もどせ!

とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじてもどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじてからもどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。もどしてからとじろ。これはむりか。いいからとじろ。さっさともどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじてもどせ。とじろ。もどせ。とじろ。てきぱきもどせ。とじろ。もどせ。とじながらもどせ。とじろ。とちらずもどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。もどしながらとじろ。これはできるな。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじたり、もどしたりしろ。いやちがう。ただとじてもどせばいい。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。とじろ。もどせ。ただ、もどせばいい。































 死ぬぞ。

 この本を読んだ人間は死ぬ。




だから読むのをやめろ。

今ならまだ大丈夫だ。

この本をいますぐ元の位置にもどせば、おまえも元のままだ。だがこの先も読み続けると、お前は変わる。元のおまえには、もどれなくなる。完全に変わってしまう。

この本を読むと死ぬ。そう警告したがおまえはまだ読んでいる。


なら、どう死ぬか教えておいてやる。

まず、ページをめくる指が腐ってちぎれる。親指のあたりからだ。

親指を見てみろ!

どうだムズムズしないか?

そうだ! 親指が腐り始める。

読むのをやめなければ、もうすぐ親指からイヤなにおいがしてくるぞ。そうなったらておくれだ。

もうすぐ、親指がベトついてくる。

おまえは、この本のページに親指をそっとこすりつける……。

すると、ピンク色のベトベトがページの紙にうつる。まるでのりを塗ったようだ。

おまえは親指の先がわずかに薄くなっていることに気付く。

おまえはあせる。心臓がドキドキしてくる。ゴシゴシと親指をページにこすりつける。グジュグジュしたゼリー状のモノがページのあちこちにくっつく。

親指の先が消しゴムみたいにけずれていることにおまえは気付く。そしておまえは見ることになる。親指の先からのぞく真っ白な骨を!




























まだ、読んでいるのか……。

たいしたものだ。

これだけおどしてもおまえは読むのをやめない。

やめろと言っているのにここまで読んできた。おまえのその度胸と好奇心に敬意を表しよう。

仲直りしようじゃないか。

指がくさってちぎれる話はウソだ。

おまえには子供だましのウソが通用しないことは分かった。だから、おどしはやめる。

だがな……。この本を読むとおまえが変わってしまうのは本当だ。

死ぬのも本当だ。

やめておくのは本当に今のうちだ。おまえに読むのをやめる時間をあたえる。

一秒……。

二秒…………。

三秒………………。


ヨシッ! 

いいだろう。じゅうぶん警告はした。

おまえには勇気があるし、覚悟もある。もう止めない。

次の文章を指でなぞるんだ。

契約といこう。







【私はこの本を読んだ結果がどうなろうと文句を言いません】





なぞったか? 

なら、先に進もう。

まず、ゆっくりと目を閉じてくれ。

そう、実際にやってみてくれ。できるだけゆっくりとだ。

目を閉じる最後の瞬間を強く意識してくれ。

どんな感じだ?

まぶたがシャッターように上からおりてきて、ぼんやりしてくる。で、最後はまっくら闇。こんな感じだろうな。

別に珍しいことじゃないな。目を閉じるなんて。しょっちゅうやっていることだ。

だがな……。

さっき目を閉じる時に最後に見たもの。それがこの世で最後に見たものだとしたらどうだ?

いつかおまえは死ぬ。

生まれたものは必ず死ぬ。

この世に生まれて死なないものはいない。おまえはこの世に生まれた。

だから必ず死ぬ。必ず。絶対に。例外なく。

ではもう一度だ。

この世で見る最後の風景だと思ってゆっくりと目を閉じてくれ。

死んだら最後、もうおまえのまぶたは二度とひらくことはない。

永遠に死んだままだ。

死ねば、泣いたり、笑ったり、怒ったりすることはできない。もちろん飲んだり食べたり踊ったりすることもできない。永遠に。

おまえが死んだ一〇〇年後もおまえは死んだままだ。二〇〇年後もおまえは死んだままだ。三〇〇年、四〇〇年、五〇〇年、千年たっても同じことだ。一万年たっても十万年たってもおまえが生き返ることはない。

百万年。一千万年。一億年。十億年。百億年たとうが同じ。おまえという存在はもう二度とこの世にあらわれることはない。

うん?

あの世があるから大丈夫だって?

天国とか地獄のことか?

ないぞ。そんなもの。

人間だけは死んだらあの世が用意されているのか? ずいぶんと都合の良い話だな。ネコやイヌも行けるのか? ならおまえが食べてきたウシとかブタとかニワトリや魚はどうなる? あの世に行けないのか? ゴキブリはどうなる? ミジンコは? 水虫は? 水虫は虫じゃないから無理だって? ならアリは行けるのか? アリは天国へ? それともアリ地獄? 



 天国か地獄かは神様が決める?



なんだ神様って?

ひげをはやして、ゆったりした服を着た、木の杖を持った老人のことだって?

そいつはなんで、今この瞬間にも困っている奴を助けてやらない? それどころか殺されて人間に食べれれそうなブタをどうして助けてやらなかった?

ブタは賢い。犬と同等かそれ以上、チンパンジーと同じくらいの知能があるという説もある。それにキレイ好きだ。トイレを寝床から離れた一か所に決める習性がある。

そのブタを人間は数百万頭も殺す。一年間でじゃない。たった一日でだ。ニワトリにいたっては数千万羽が毎日殺されている。昨日も今日も明日も数千万羽が殺される。いくらなんでも多すぎる。殺しすぎだ。



この世に神も仏もいない。



なんだか、怖くなってきたって?

だから読むのをやめろと言ったはずだ。


だが、おまえは気付いてしまった。

生まれた者は必ず死ぬ。ということに。

誰にも例外はない。

どんなことをしてもそれは変わらない。


大人は怖がっているように見えないって?

そんなことはない。大人だって死ぬのは怖い。普段は忘れるようにしているんだけだ。でもふとした瞬間に思い出して心をどんよりとくもらせる。



 だが安心しろ。



生まれた者は必ず死ぬのだから。

おまえは一人じゃない。

今、この世に生きている奴はだれひとり例外なく死ぬ。みんな全員死ぬ。心細くはない。金持ちも貧乏人も背の高い奴、低い奴、太った奴、やせた奴。良い奴も悪い奴も男も女もみんな死ぬ。おまえだけが死ぬわけじゃない。

おまえの目にうつる人間はみんな死ぬ。

おまえがかつて目にしてきた人間もだ。

おまえが名前を聞いたことがある人間、名前を読んだことのある人間。全員例外なく死ぬし、死んできた。

おまえだけが死ぬんじゃない。

おまえは一人じゃない。

今まで生まれてきた人間。これから生まれる人間。みんなみんな全員死ぬ。

人間だけじゃない。



動物も植物も死ぬ。



そう思って家の外の花や鳥を見ろ。

おまえやオレと同じ死ぬ仲間だ。

タンポポとハト。朝顔とスズメも。雑草とカラスもみんなみんな死ぬ仲間だ。

とても大切なものに思えてこないか?

かけがえのないものに思えてこないか?


生き物は誰かに頼まれて生きているわけじゃない。それどころか生きることをジャマばかりされている。それでも必死に逆らって生きている。

そして死ぬ。これから生まれてくる奴にこの世をゆずってやる。

オレ達の親やその親。その親の親の親が生きて死んでくれたからオレ達は生まれてくることができた。この世を生きることになった。

もしも死んでくれていなければ、この世は人間でいっぱいになっていたはずだ。どこもかしこも満員電車のよう。人間がぎっしり詰まった地獄みたいな世界になっていたはずだ。しかもだ。よーく想像してみてくれ。それでも誰も死なないんだ。いや、死ねないんだ。

これがどれほど恐ろしいことか分かるか?

「死ねない」ということがどれほど恐ろしいことかよく考えてみろ。

一〇〇〇年たっても二〇〇〇年、三〇〇〇年たっても死ねないのだ。おまえ一億年後も一〇〇億年後もおまえはおまえでいられるだろうか?

長い時間の間におまえは自分の名前も、自分が誰かすらも忘れてしまう。永遠に続く時間に耐え切れなくなる。押しつぶされて死のうとするだとう。でも死ねないのだ。

それは生きていると言えるのか?


オレ達が毎日、勉強したり仕事をしたりするのはなぜだ?

なんでそんなにがんばる必要があるんだ? 毎日、毎日そこまでやる必要があるのか? 勉強や仕事は月に一回やるだけじゃダメなのか? 年に一回ならどうだ?

そう、もちろんダメだ。

俺たちに与えられた時間は無限じゃない。オレ達はいつか死ぬ。だから時間はムダにできない。

オレ達は花や鳥と同じだ。

けんめいに生きるしかない。

命ある限りけんめいに生き、同じ死ぬ仲間である生き物みんなを大切に思い、その時が来たら死ぬ。

そうやって生きる時、おまえは身の周りの全てのものに感謝したくなるはずだ。

スズメの鳴き声に。名も知らぬ雑草の小さな花に。月や星や太陽の輝きに。


永遠に思える太陽だっていつかは死ぬ。

今から七〇億年後、太陽はエネルギーを全て使い果たす。その最後の瞬間に太陽は巨大化し地球をも飲み込んでしまう。その後は何十億年もかけてゆっくりと冷えていく。

人類はそれで終わりだろうか?

そうでもない。太陽がそうなる前に人間は他の星へ移住するだろう。動物や植物を乗せた宇宙船で地球を旅立つはずだ。

そう無限の宇宙へ。

宇宙には「はて」がない。

なら宇宙には終わりがないのか?

そんなことはない。

現在、宇宙は一三八億年前に始まったことが分かっている。ビッグバンだ。これは空想とか想像の話じゃない。れっきとした科学だ。証拠となる観測データ(宇宙背景放射という)もちゃんと確認されている。最新の科学は宇宙誕生の瞬間から一秒以下の単位で何が起きたのかを説明することができる。



ではビッグバンの前は何があった?



これは分かっていない。だが、宇宙の終わりには色々な説がある。膨張を続けた宇宙が最後には宇宙自身の重力に負けて大収縮を起起こす(ビッグクランチという)というものだ。つまり宇宙は最後には指先より小さい点にぎゅっと押し込められてしまうのだ。その結果どうなるかはおまえの想像通りだ。

そう、ビッグバンが起こる。

宇宙の終わりは宇宙の始まり。

宇宙にも終わりがある。

そして次の宇宙が生まれてくる。

永遠に?

それは分からない。

だが、永遠に繰り返されるとしたら。もう一度、太陽が誕生し、地球が誕生し、おまえもオレも誕生する宇宙ができるかもしれない。

いや、永遠に繰り返されるとしたら必ずそうなる。おまえがこの本を手に取らない宇宙も再びできるし、もう一度この本を手に取る宇宙も誕生する。しかも前の宇宙の記憶を持ったままでだ。あり得ない話じゃない。なにしろ永遠に繰り返されるんだから。



その時、オレとおまえはまたこの本の中で出会うだろう。

おまえは思うはずだ。

本当だ! これ、二回目だ! ってな。

また、別の宇宙で会った時はよろしくな。

じゃあな。



  (おわり)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ