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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第95話 岩井君嵐のハーレム

 岩井は牧村や矢吹に負けないイケメンであったが、ブラコンな姉のせいでシスコン認定され、クラスの女子からは引かれてしまっていた。

 だが、女装が異常に似合うため、本来は男嫌いだった筈の宮下も含め複数の女子からの女装前提の好意を寄せられた。


 その宮下がレズとしての恋人を得た後、演劇部の三人の下級生、二年に進級した町田南・洲本望・大滝苺は次第に岩井の周囲をうろうろするようになり、相談事と称して休日に呼び出したり、昼休みに弁当を持って岩井の居る教室に押しかけたりするようになった。

 そんな時、彼女達は常に三人一緒に行動し、三人で彼を囲む姿は岩井に好意を持つ他の女子に対する牽制ともなった。

 その一方で、恋愛関係を求めて岩井にアプローチする事も無かった。

 周囲の奴等は、彼女達が「みんなの岩井先輩」の協定を結んでいるであろう事に気付いていた。岩井本人以外は・・・。



 そんな均衡状態が突如として破られたのが五月の連休が過ぎた頃だった。


 その日、岩井が登校すると、校門の所で町田が待ち構えていた。

 何の気無しに岩井が「おはよう、町田さん」と声をかける。

「おはようございます、先輩。あの、実はお弁当を間違えて二つ作っちゃって、一つ貰ってくれませんか」と町田。

 手渡されたのは小型の弁当箱入りの代物。

 普段は購買でパンを買う派の岩井である。深く考えずにそれを受け取った。


 そして生徒玄関に行くと、今度は洲本が待ち構えていた。

「おはようございます、先輩。あの、実はお弁当を間違えて二つ作っちゃって、一つ貰ってくれませんか」と洲本。

 手渡されたのは、サンドイッチの包みだ。

「悪いけど、弁当はさっき町田さんから貰っちゃったんだよ」と岩井。

「食べきれなかったら残しても構いません」と洲本。

 洲本は強引にそれを押し付けて、自教室に去っていった。


 これをどうしたものかと頭を悩ませながら自教室に向かう岩井を、階段の登り口で待ち構えていたのが大滝だ。

「おはようございます、先輩。あの、実はお弁当を間違えて二つ作っちゃって、一つ貰ってくれませんか」と大滝。

 手渡されたのは、お握りの包み。

「悪いけど、さっき町田さんと洲本さんが・・・」と岩井。

「食べきれなかったら他の人に手伝ってもらっても構いません」と大滝。



そして昼休み。

「それで、食べるのを手伝って欲しいと?」と岩井の周囲の男子達。

岩井と八木・清水・内海ら数人が囲む机の上に三つのお弁当が並ぶ。

「さすがに一人で全部は無理だからな」と言う岩井に、男子達は尻込みする。

「けど、あの三人の愛情弁当だろ? いいのかなぁ」と内海が言った。

「愛情弁当って・・・、今までそんな事、誰も言ってなかったんだけどなぁ」と首を傾げる岩井。


「どうしたの? あなた達」と、騒ぎを察した岸本が声をかけた。

 岩井が事情を説明する。


「岩井君、そこに座りなさい」と岸本。

「座ってるけど」と岩井。

「女性が男性にお弁当を差し出すのは、恋心を伝える大切な意思表示なのよ。ちゃんと全部、自分で食べてあげなきゃ駄目でしょ」と岸本。

「いや、間違って造り過ぎたからって・・・」と岩井。

「そんなの嘘に決まってるじゃない」と岸本。

「けど、今までそんな事、誰も言って来なかったんだよ」と岩井。

「抜け駆け禁止の協定が崩れたのよ。これから誰を選ぶか決めなきゃならなくなるわよ。今のうちに考えておく事ね」と岸本は言った。


「やっぱりそうだよな」「ま、頑張れや」と、他の男子達は口々に言って席を立つ。

「おい、見捨てるのかよ」と岩井が泣きそうな声を上げる。

 やれやれ・・・といった表情で「仕方ないな、少し協力してやるよ」と言ったのは八木だ。

「ありがとうな、八木。やはり持つべきものは友達だ」と岩井。

「それじゃ、これをやるから」と八木は小さな錠剤を差し出す。

「何だよこれは」と岩井。

「胃薬だ。食べ過ぎに効く」



 その後、同じような事件が立て続けに起こった。

「今日の放課後、買い物に付き合って欲しい」というメールが岩井の元に三人それぞれから届き、岩井は言い争う三人と付き合って買い物に行く破目になった。

 週末の土曜日には「エアコンの調子が悪いので、家に来て欲しい」というメールが三人それぞれから届いた。



 週明けの月曜には「大切な話があるので四時に校舎裏に来て欲しい」というメールを三人それぞれから受け取った。

 行ってみると三人とも居て「何であんたがここに居るのよ」と言い争いになっている。

 岩井はとりあえず彼女達に声をかけ、騒ぎを鎮めた。

「で、大切な話って・・・」と岩井。

 三人同時に「私と付き合って下さい」

「つまり、三人の中から誰かを選べ・・・って事?」と岩井。

 三人同時に「私を選んでくれますよね」

 そして言い争いを始める彼女達を岩井はどうにか宥める。


「君達の気持ちは嬉しいし、普通に恋愛したい気持ちはあるけど、今の段階で誰を特別に思っているかと言われても困る」と岩井。

「先輩にも好みって、ありますよね」と町田。

「そう言われてもなぁ・・・」と岩井。

「何か条件とか・・・」と洲本。


「条件ねぇ・・・」

 考え込む岩井は、やがて一つの答えに辿り着いた。

「だったら一つだけ。女装を要求しない人と付き合いたい」


「えーっ? 岩井先輩から女装を取ったら、何が残るんですか?」と三人は声を揃えた。

 岩井唖然

 そして三人に背を向けてしゃがみ込み、「いいんだ。どうせ俺なんて・・・」といじける岩井


 その時、大滝が言った。

「そうですよね。岩井先輩はちゃんと男性として魅力的なんだから。女装なんてしなくても綺麗です。私、もう、そんなの要求しません」

「大滝、ずるい」と町田。

「私だって」と洲本。

 ようやく元気を取り戻す岩井だが、「他に条件とか言っても、なぁ」


 その時、大滝が声を上げた。

「私、岩井先輩と結婚したいです」

「いや、何言ってるのよ。付き合うかどうかって時に、いきなり結婚なんて最終オーダー要求するとか」と町田。

「そうだよ、図々しいわよ」と洲本。

 だが大滝は続けて「それで私、結婚する時、専業主婦とか小遣い制とか、求めません」


 岩井はクラスで佐川達が言っていた事を思い出して「本当にそれでいいの?」

 そこに町田が割って入った。

「私だってそんなの求めません。それより私、先輩を待たせたりしませんから、今すぐエッチOKします」

「いや、俺、そこまで飢えてないから」と慌てる岩井。

 負けずに洲本は「先輩、SМって興味あります? 私は縛りとかOKですよ」

「だから、そういうのは要らないってば」とドン引きする岩井。


 その時、大滝が言った。

「先輩が町田さんか洲本さんを選ぶなら、私は構いません。その代わり、私とも付き合って下さい」

「何? あんた二又許すっての?」と町田が声を上げる。

「許すも何も、岩井先輩は岩井先輩のものだよ」と大滝。

「だったら私も」と町田。

「私だって」と洲本。


 最早、岩井を無視して話を進める三人。

「それじゃ岩井先輩、私達三人まとめて、よろしくお願いしますね」と三人の女子。

 (もう、どうとでもしてくれ)と岩井は心の中で呟いた。

「それじゃ早速行っちゃいますか」と町田が気勢を上げる。

「行くって何を?」と岩井。

「さっき言ったじゃないですか。今すぐエッチOKだって」と三人の女子。



 ラブホテルのベッドの上で横たわる全裸の四人。

 (さすがに疲れた)とぐったりする岩井に、町田が話を切り出した。

「ところで岩井先輩、先々週の土曜、誰と会ってたんですか?」

「あの人、私達と同じ学年ですよね?」と洲本。

「もしかしてバスケ部の沢口さんの事?」と怪訝な顔の岩井。

 三人揃って岩井に向ける視線が怖い。


 なるほどそういう事かと、岩井は納得した。

 自分が他の女子と付き合っていると勘違いして、抜け駆け禁止の協定が崩れたのだ。

「あれは下田との仲を取り持って欲しいって相談受けたんだよ」と岩井。

「下田先輩の?」と大滝。

「そう。あいつ体が小さくて子供みたいだろ? 沢口さん、ああいうのが好みなんだよ」と岩井。


 沢口は昨年の大会で活躍した山本を目当てにバスケ部に入部した後、同様に小柄な内山と付き合った。

 だが、地元のバスケ教室の指導の中で、小中学生のバスケ少年達に慕われるようになり、内山と別れて逆子供ハーレムを満喫するようになった沢口は、やがてバスケ少年達の同級生女子の嫉妬の的となり、小学生に手を出したという噂をたてられて指導会に出れなくなっていたのだ。



 その日の放課後、演劇部の部室では北村と野村が残っていた。

 宮下はレズのパートナーとデート。沢口と付き合い始めた下田もデートで部活に居ない。

「下田君に彼女が出来たんだって? 何で私に一言も無しに・・・」と愚痴をこぼす北村。

 (俺達、北村さんの彼氏じゃないんだが)と野村は思ったが、寂しそうな北村を見ると、口には出せなかった。

「野村君はどこかに行ったりしないわよね?」と北村。

「どこかって?」と野村。

 そう言いながら野村は北村を見る。そして思った。

 (この人ってこんな顔もするんだ・・・)



 岩井はしばらくハーレム状態が続いた。

 だが、三人の女子の面倒を見るのは、やはり岩井には負担が大きかった。

 しかも家では相変わらずブラコン姉が相手をしろと迫ってくる。

 やがて岩井ら三年生が引退すると、入れ替わりに四人の一年生男子が入部した。


「何で今頃になって・・・」

 教室で演劇部の話題に盛り上がる岩井と数人の男子たち。岩井の隣には大滝が居た。

「三年生女子に怖い人が二人も居て、入部に二の足踏んでたらしいよ」と岩井が説明。

「ゲスレズと首領様だってさ」と八木。

「ゲスレズは宮下さんだってのは解るけど、首領様って?」と清水。

「北村さんの事だよ」と岩井。

「で、その人達が引退したって事で?・・・」と村上。


 彼等は四人ともそれなりのルックスで、そんな後輩男子にちやほやされた町田と洲本は、岩井から離れて逆ハーレムを満喫するようになったのだ。


「で、大滝さんは、そいつらの事はいいの?」と岩井。

「私にも優しくしてくれるし、いい子達だけど、やっぱり私は岩井先輩がいい」と大滝。

「そうか」と岩井。

「先輩、ハーレム解消しちゃって、残念じゃありません?」と大滝。

「いや、むしろ三人相手にってのは大変だったから。それに、残ったのが大滝さんで良かった」と岩井。

「嬉しい」と大滝。

「何か俺にして欲しい事って、ある?」と岩井。

「甘えちゃっていいですか?」と大滝。

「いいよ」と岩井。

「だったら、たまには、また先輩の女装が見たいです」と大滝。

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