第91話 バックオーライ
バスケ部では新学期前・・・三学期の頃から「上の大会進出」を目指す特訓が始まっていた。
春の大会、つまり地区大会で勝ち残って県大会に進む目標に向けて大谷が俄然やる気を見せたのだ。
内海・内山や下級生達も巻き込んで、朝練に放課後遅くまで、そして休日練習。
「去年はあと一歩だったんだ。四月になれば新入生が入るから人数合わせは不要になる。俺達にとっては最後の大会だ」と大谷が気勢を上げる。
人数合わせが要らないなら自分達は大会に出ないだろ・・・と文句を言う内海・内山も問答無用で付き合わされたが、武藤と高橋は「大谷がやっと本気を出した」と喜んだ。
「まがりなりにもプロ選手を目指すんだものね」と高橋。
「いや、実は違うんだよ」と内山。
「岸本さんにご褒美を出すって言われたんだ」と彼は説明。
「どんな?」
内山は「大谷が後ろでやらせてくれって要求して・・・」
年が改まってまもなく、三人でラブホテルに行った時、大谷が言った一言が始まりだった。
「なぁ、後ろで・・・っての、試させてくれない?」と大谷が切り出すと、岸本が何か言う前に内山が反応した。
「岸本さんにそんな変態プレイやれって言うのかよ」
「いや、お前に言ってないんだが」と大谷。
「今までの彼で要求した人も居たけど、断ったわよ」と岸本も拒否を示した。
「それに、オカマでそれをやり過ぎて、閉じなくなって垂れ流し状態・・・って人も居るらしいぞ」と内山が怖い事を言う。
「やり過ぎなきゃいい訳だろ」と大谷。
「それに、お尻って敏感な所かも知れないけど、気持ちよくなるための神経とは違うだろ」と内山の批判が続く。
「AV女優なんか、あんなに気持ち良さそうにしてるじゃん」と大谷。
「そんなの、ただの演技だろ」と内山。
「やって見なきゃ解らないじゃん」と大谷。
すると、意外にも岸本が肯定的な姿勢に転じた。
「そうね。じゃ、こうしたらどうかしら。春の大会で勝ち進んで上の大会に行けたら、試させてあげてもいいわよ」
「大谷って最低」と松本が言うと、内海も「AVの真似とか、さすがに引くぞ」とあきれたように言った。
だが高橋は「けど、それで大谷君が本気出すなら、悪い話じゃないけどね」
「だろ? これはバスケ部全体の名誉の問題であり、そもそも俺達にとって最後の大会なんだからな」と大谷。
そして武藤は「大谷が言う台詞じゃないと思うぞ。けど、俺も成績は残したいし、後輩達にも勝つ喜びを感じて欲しい。じゃ、練習再開だ」
元々、練習もいい加減だったにも拘わらず高橋や武藤の上をいっていた大谷が本気になった事で、大きな成果が出た。
そして大谷の実力の向上は、武藤や高橋にも良い影響を与えた。
下級生たちも、いきなり練習がきつくなった事には戸惑ったが、春の大会で勝ち進む快感を知りながら、夏と秋の残念な結果との落差に涙を呑んだ彼等であった。
まもなく下級生たちもその気になり、練習にも熱が入った。
やがて四月となり、新一年生からの入部者が来た。
男子三名に女子二名。内山と内海は大喜びだ。
「これで俺達が数合わせで足を引っ張らずに済む」と口を揃える内山と内海。
「先輩達、発想が低レベル過ぎじゃないですか?」とあきれる二年生たちは先輩に言った。
「他校にはもっとレベルの高い奴等は居ますよ」
「そもそも去年は何であそこまで行ったんだ?」と今更ながらに内海が言うと、内山が「山本が活躍したからだろ?」
大谷達は再び仮入部して試合に出てくれるよう、山本を説得した。だが山本はそっけなかった。
「去年の春だけ、って約束だっただろ」
「学校全体の名誉のためだ。部が高い成績を残す事を願うのは、上坂高校の生徒として当然だろ」と大谷。
「学校じゃなくて大谷の変態プレイのためだろ」と山本。
その時、近くで聞いていた米沢が口を挟んだ。
「成績を残したいというなら、助っ人に頼らず部員自身が強くなるよう、腕利きのコーチを雇うのが常道だと思うわよ」
「急にそんな事を言っても、手当とかどうするんだよ」と、部長の武藤が急な展開に慌てた。
「これだけあればお釣りが来ると思うわよ」と米沢は鞄から無造作に札束入りの紙袋を出す。
「いや、お金があればいいって訳じゃなくて、こういうのには予算の名目ってのがさ・・・」と武藤。
「こういう予算の出所は、大抵PTAからの寄付よ。で、その会長がうちのお父様。私から話しておくわ」と米沢。
まもなく、臨時コーチとして赴任してきたのが佐々木だ。
日本各地を転々と渡り歩いて各地の高校バスケ部の強化を請け負う、高校バスケ界では知られた腕利きだ。
顧問の紹介を受けた佐々木は、男子選手たちを前にして言った。
「俺がお前等を指導するのは一か月程度だが、バスケの技はそんな短期間で身に付くものじゃない。だがその奇跡を起こすために俺は来た。当然、並大抵の事じゃないから、覚悟するように」
選手たちは喜んだ。
「凄い技を教えてくれるんですよね?」
「甘ったれるな。技ってのは、それを使いこなす体があって初めて可能になるんだ。だから先ず体力作りから始めてもらう」と佐々木は言った。
そう言って男子選手たちに手渡されたのは、一見リストバンドだが、ずっしり重い。
「これをつけて練習するんですか?」と生徒たち。
「そうだ。一個2kgある。これを両手両足につけてもらう」と佐々木。
「げ・・・」
「そしてこれを毎日500gづつ重くしていく」と佐々木。
「げげ・・・」
「それから大谷、お前はその他にこれを付けてもらう」と佐々木。
「な・・・何ですか? それ」と大谷は顔を青くして・・・。
「俺が考案したハイパーダンク養成ギプスだ」と佐々木。
練習は深夜まで及び、帰宅時には全員筋肉痛で歩く事もままならない。七転八倒する部員たちを前に佐々木は注射器を取り出した。
「痛い所を出してみろ。対処薬を打ってやるから」と佐々木。
「これ打てば痛みは引くんですよね」と生徒たち。
「これは鎮痛剤じゃなくて筋細胞再生の促進剤だ。練習ってのは、筋肉に負荷をかけて壊す事で、より強靭なものに再生させるものだ。痛いのは当たり前だ。試合一週間前までこれを続けて体を作り変える」と佐々木。
三日目、ついに内海と内山は音を上げ、選手を止めてマネージャーになると言い出した。
激怒する松本。
「下級生に頑張らせて自分達は辛いから逃げるとか、先輩としてどうなのよ!」
「俺達どっちみち試合に出ないんだから、こんなのに参加する意味無いじゃん」と内海。
「私だって運動苦手なのに選手で頑張ってるのよ!」と松本。
「女子はあの特訓受けてないでしょ」と内山。
「受けろってんなら受けてやるわよ。むしろ男子しか受けられないとか、これって女性差別じゃないの?!」と松本。
この言葉で下級生女子が慌てた。下手をして自分達もこのきつい特訓をやらされたら、たまったものではないと・・・。
「先輩、落ち着いて下さい。私達、内海先輩達がきつい訓練から逃げるなんてだらしないとか、思ってませんから」と後輩女子。
「そうですよ。こんなのが先輩で情けないとか、男として問題外だとか死ねばいいのにとか全然思ってませんから」と、別の後輩女子。
「いや、私はそこまで言ってないから」と松本は慌てる。
「言ってないけど、思ってはいるんだ」と無表情で呟き、抜け殻のようになる内海と内山。
横でこれを聞いていた下級生男子もドン引きした。
「マネージャーだって立派な役目だし、俺達は自分が強くなるためにやってるんで、試合に出ない先輩を道連れにするつもりはありませんから」
ようやく騒ぎがおさまると、下級生男子は一様に呟いた。
「うちの女子ってあんなのだっけ」
「引くわぁ」
きつい練習を続けて大会一週間前。両手両足の重りを外す男子選手たち。
軽くなった体に気付き、意気上がる彼等に、佐々木は言った。
「この練習で得た身の軽さを応用したテクニックを一週間で叩き込む」
その日の帰り、岸本は大谷をラブホテルに誘った。
そして言った。
「頑張った大谷君にご褒美として、特別なプレイを用意しているの。先ず、これを飲んで」
「これは?」
「精力剤よ」
期待に胸を躍らせながら小さなコップのそれを飲み干した大谷は、たちまち眠気に襲われ、岸本の胸で短い眠りについた。
30分ほどで目を覚ました大谷は、腰から股間にかけてを締め付ける、ごつい革製のまわしのようなものに気付いた。あわてて外そうとするが、鍵がついていて外れない。
「な・・・何だよこれは」と大谷。
「貞操帯よ。大谷君、オナ禁って知ってる? 射精を我慢して性欲を最大限まで高めて闘争本能を盛り上げるの。男性ホルモン過剰になって運動能力にもすごくプラスなのよ。試合まで一週間、我慢してもらうわよ」と岸本。
青くなる大谷。
「さっきのって睡眠薬? 精力剤じゃなかったの?」と大谷。
「精力剤も入っているわよ。大谷君のあそこ、大変なことになってるでしょ?」と岸本。
「岸本さん、もしかして楽しんでる?」と大谷。
「当然でしょ? 女にとって、男に我慢させる事ほど気持ちいいものは無いもの(笑)」と岸本。
連休中の学校で合宿する選手達。
夜遅くまで厳しい練習を続け、泥のように眠る。だが、ムラムラの止まらない大谷は眠るどころではなかった。
試合当日、マイクロバスを仕立てて試合会場に向かう男女の部員達の中で、禁欲続きの大谷は野獣のように目を血走らせ、息が荒い。
そんな大谷に、下級生女子達は一様に呟いた。
「大谷先輩、何だか怖い」
そして試合が始まると、彼等の活躍は目覚ましかった。特に猛獣のように突進する大谷の勢いに相手チームは圧倒された。
勝ち進んだ彼等は準優勝を果たし、県大会への出場権を勝ち取った。
連休が終わり、バスケ部始まって以来の快挙となった県大会出場に向けて、壮行会が開かれた。
全校生徒を前に壇上に並ぶ男子選手達。
特に大活躍した大谷へ、女生徒たちの黄色い声援が上がり、彼は幸せを嚙み締めた。
県大会ではさすがに他の強豪校の壁は厚く、接戦が続いた末に四回戦で敗退したが、大谷は満足だった。
その日、大谷・内山・岸本は三人でラブホテルに向かった。
(内山も・・・って事は前後同時のハードプレイって訳かな)と、大谷は胸を躍らせながら部屋に入り、順番にシャワーを浴びる。
大谷がシャワーから出ると、ベットに座っていた岸本が大谷を隣に誘った。反対側には内山が居る。
そして大谷が岸本の隣に体を横たえた瞬間、岸本と内山は大谷の両手に手錠をかけ、ベットの足に繋いだ紐で固定した。
「ちょっと・・・何だよこれ」と、青くなる大谷。
「何って、後ろが感じるかどうか試すんだろ?」と内山が言った。
「自分にも同じのがついてるんだから。それで試さないと本当に感じるかどうか解らないでしょ?」と楽しそうな岸本。
「いや、後ろでやらせてくれるって・・・」と大谷。
「私は試させてあげる、としか言ってないわよ」と岸本。
大谷唖然。
岸本は楽しそうに人差し指にローションを塗る。
大谷は焦り顔で「わ・・・解った。俺が悪かった。もう二度と後ろでやらせろとか言わないから。こんな変態プレイ止めよう。な・・・な・・・」
青くなってじたじたする大谷を見ながら、岸本は楽しそうに言った。
「そうねぇ。けど私、前から思ってたの。女って入れられる一方だけど、たまには入れる側になってみたいなぁ・・・って」