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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第90話 なんたってスクールアイドル

 演劇部では一学期の公演の後、三年は引退する予定だ。その演目をどうするのかの構想は、新学期前から始まっていた。

 だが、一学期が始まってから、その話は進まなくなった。


 問題は部長の北村だ。

 北村は部室に入り浸りはするのだが、常に心ここに在らずな状態だったり、かと思えばイライラ気味で周囲に八つ当たりしたり・・・。

 困りきったという体の野村に、岩井が「彼女、どうしたんだ?」と尋ねる。


「クラスで孤立してるんだよ」と野村。

「そんなの前からじゃん」と岩井。

「前も支持はされてなかったけどね、委員長として任されてはいたんだ。それが転校生が来て、みんながその子を支持して、委員長の座もね」と野村。

「仕切り屋のお株を取られたって訳か」と岩井。

「仕切り屋っていうより、ただの目立ちたがり屋なんだけどね。だから北村さんは副委員長としてサポート役を、って事になったんだけど、実態は仕事は丸投げで、口だけ出してくるっていう・・・」と、隣に居た下田が言った。

「何でみんな、そんなの支持するんだ?」と岩井。


「何せアイドルだから。去年の選挙運動で来ただろ。ツインピンクスの八上美園だよ」と野村。

「そんなのがまた、何でうちに来たんだ? スクールアイドルって学校の宣伝に貢献してるんだろ? そんなのが転校するかよ」と岩井。

 側で聞いていた宮下が口を挟む。

「米沢さんが居るからじゃないかしら。友達だって言ってたし・・・」

「だったら、同じクラスに来るんじゃね? 何でうちのクラスなんだか・・・」と不満顔の野村。



 彼等は米沢の所に行き、事情を聞く事にした。

 米沢は言う。

「確かに相談を受けて、お父様にお願いはしたわよ。けど二人も転校生が居る二組に入れるのは無理があるでしょ?」

「なるほど」と岩井。

「それに私、あの子、嫌いだし」と米沢は容赦無い。

「友達なんでしょ?」と宮下。

「そりゃ、学校を左右する立場としては、影響力のあるアイドルとの友好関係は必要ですからね」

 (ひとりの生徒が学校を左右する立場ってのも、どうかと思うが・・・)と彼等は思った。口には出さなかったが・・・。


「それに、友達が居るからその学校に転校とか、安易過ぎよね。お願いされたから話は通したけど、あの子、我儘なのよ」と米沢。

「けど米沢さんだって、婚約者が居るからうちに転校したんでしょ?」と野村が突っ込む。

「・・・・・」

「それで八上さん、何で転校したの?」と北村が聞くと、米沢は言った。

「コンビ解消したのよ。所謂けんか別れね。それと北村さん、そのうちクラスの人達も、八上さんに愛想を尽かすと思うわよ」



 まもなく四組は米沢の言った通りになった。

 よく居るアイドルの典型と言うべきか、ちやほやされるのが当然だと思っている八上は、四組で傍若無人にふるまい、次第に四組の生徒達は彼女に距離をとった。


 八上は二組に来て米沢に愚痴をこぼす。

 だが米沢は「ツインピンクスから抜けた以上、あなたはもうアイドルじゃないでしょ?」と正論であしらう。

「ネットにはまだ私に期待しているファンが大勢居るのよ」と八上。

「どーせキモいオタクだろ」と大野が口を挟む。

「あら、オタクは中高生男子の一定割合を占めてるのよ」と八上。

「そうなのか? 小島」と八木が言う。周囲は(そう言う八木もオタクだろうが)と一様に思った。


「知名度があるからってだけで有難がる馬鹿なドルオタと一緒にして欲しくないと思われ。それにツインピンクスで人気があるのはもう一人の子だし」と小島。

「あの子は後輩よ。なのに激しい追っかけが居るからって生意気に・・・」と八上。

「同学年の友達じゃなかったの?」と篠田が口を挟む。

「同学年だと一緒に卒業するって事になるからね。卒業生の穴を埋めるため後輩の新入生が参加するんだよ」と矢吹が解説。

「つまり後輩が人気なのが気に入らないって訳かよ」とあきれて言う佐川。

「あんな子居なくても、私一人で上に行って見せるわよ」と八上。



 八上はアイドル活動再開を宣言し、コンビの相方を募集した。

 応募者は八上の面接を受ける。

 最初に面接を受けたのが吉江だったが、八上は冷たく言い放った。

「あなた、才能も感じないし華もオーラも無いわね。アイドルって誰でもなれるものじゃない、特別な存在なのよ」


「次の人、どうぞ」の声で面接室に入ったのは、小島のオタク仲間の勧めで応募した水沢だ。

「あら、あなた、可愛いわね」と八上。

 ロり要素を期待した八上。だが試しに自分の持ち歌を歌わせてみると、水沢は音痴だった。


「次の人、どうぞ」の声で面接室に入ったのは岸本だ。

八上は「あなた、華があるわね。アイドルとしての素養は十分だわ。一緒に頑張りましょう。ところで岸本さん。彼氏は?」

「居るわよ」と岸本。

「別れてくれるかしら」と八上。

「いいわよ」と岸本。

「そんなに簡単に言っていいの?」と八上。

「構わないわよ。どうせすぐ次の彼氏ができるから」と岸本。

「そうじゃなくて、アイドルは恋愛禁止なの」と八上。

岸本は「それは無理」


「次の人、どうぞ」の声で面接室に入ったのは担任の女性教員だ。

「須藤先生もアイドルになりたいんですか?」と八上。

「違います。生活指導で話があって来たのよ。アイドルとして活動するな、とは言いません。だけど、きちんと学業を優先すべき事、解っているわよね?」と須藤教諭。

「スクールアイドルは学校の知名度を高めるために活動しているんです。理解して下さい」と八上。

須藤は「前に居た私立ならともかく、うちは県立です。公立高校にそんなものは要りません」



 米沢の所で愚痴をこぼす八上。

 思いきり迷惑そうな米沢をよそに、面白半分に会話に加わる清水と内海、八木ら数人の男子。

「税金で食わせて貰っているから宣伝は要らないなんて、公務員の怠慢だわ」と八上。

「生徒の宣伝に頼りたくないって事なんじゃない?」と内海が窘める。

「だったら野球部を甲子園に送って知名度上げるのを期待する、ってのはどうなのよ」と八上が口を尖らす。

「そりゃそうだけどさ」と内海。

「どっちみち、アイドルが自分だけで、ってのは限界があるんじゃね? マネージャーみたいな支援してくれる人が必要だと思うよ」と八木が指摘。

「やってくれるの?」と八上。

「いや、俺は嫌だけどさ」と八木。

「紅峰学園ではどうだったの?」と清水。

「部活としてやってるのよ。部員はアイドル本人以外にも男女大勢いて、マネージャーとかブログ担当とか振り付け、作曲、ファンクラブ会長まで居て、みんなでサポートする訳」と米沢が説明。

「なるほどね」



 そこに「八上さん、居ますか?」と、いかにもオタクといった風の男子が二名。

「どうした? 大塚氏に田畑氏」と小島。

 二人は小島のオタク仲間のパソコン部員。学年は二年生だ。

「四組に行ったら、八上さんがここに入り浸ってるって聞いたんだけど」

「私のファン? サインが欲しいのかしら」と、嬉々として色紙を出す八上。

 大塚と田畑は言った。

「それは要らないけど、せっかくうちの学校に来たアイドルなんだし、押しに一肌脱ごうかと」


 行き詰っていた八上はこれを歓迎した。大塚は八上美園ファンクラブの会長、田畑が副会長となり、彼等の協力で八上は活動を再開した。

 ネットでブログを立ち上げ、放課後には街頭ライブに繰り出す。



 四組の問題が片付き、ようやく北村がやる気を取り戻した演劇部では、一学期の公演の構想を再開していた。

「何か話題の目玉になるような売り物が欲しいわね」と北村。


 そこに「だったら提案があるんだけど」と言って演劇部室に入ってきたのは大塚・田畑と八上だ。

 散々自分を悩ませた張本人に、北村は思いっきり迷惑そうな視線を向けつつ「提案って何かしら」と言った。

「アイドルを主演女優として起用してみない? 絶対話題になると思うよ」

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