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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第89話 卒業の年

 三年に進級した村上達の新学期が始まった。

 いつものように三人で登校する村上達。


 校門の所で佐川と鉢合わせになる。

「よう、芝田。ちゃんと進級出来たのか?」と佐川。

「楽勝だよ」と芝田。

「楽勝な奴はそもそも追試なんて受けないだろ」と佐川は笑った。


 生徒玄関で水沢と一緒に登校した山本が「よう、芝田。ちゃんと進級出来たのか?」

「当たり前だ」とうんざり顔の芝田。

 教室に入ると大谷や清水、小島らが口々に「よう、芝田。ちゃんと進級出来たのか?」

「お前等、いい加減にしろ」と芝田は憤慨した。



 始業時間となり、体育館で始業式。

 それが終わると教室に戻ってホームルームだ。


 担任の中村が今後の日程を説明。そして一年間の係を決める。

 誰が何をやるかを自分達で決めさせるために、司会役の委員長と副委員長が必要になる。

 担任の「高校最後の年だ。委員長としてクラスをまとめてくれる奴は居ないか?」の一言で、水上と米沢の視線がぶつかり、火花が散った。

 だが担任は「言っとくが生徒会役員は委員長にはなれないから」と念を押し、女王様気取りの二人を制した。

 結局、二年に引き続いて直江が委員長となった。


「次に副委員長だが」と担任が言うと、二年次に副委員長だった中条に何人かの視線が向いた。

 中条の脳裏には昨年の文化祭での気苦労の記憶がよぎり、どうしようか・・・という表情が浮かぶ。

 村上は「里子ちゃんは去年頑張ったんだから、気が進まないなら断ってもいいからね」とささやいた。

 庇って貰えていると中条は感じ、笑顔を見せる。

 その時水上は「生徒会役員でも、副委員長ならやれますよね?」と言って手を挙げた。

 副委員長が決まると、残りの係の一覧が示され、自分が何をやるかを考えて来るように・・・と担任の弁。


 最後に担任は言った。

「三年は進路の年だ。一学期中には正式決定して、就職なら夏休みに出願だ。進学でも早い所は一学期に手続きが始まる。真剣に考えるように」。

 何人かの生徒はだるそうな反応を示す。

「そんなにマジにならなきゃ駄目ですか?」と山本が言う。

 担任は「別にいいぞ。留年っていう手もあるからな」



 ホームルームが終わると、在校生は午後の入学式のための会場設営作業だ。

 体育館に紅白幕を張り、新入生と父兄の椅子を並べ、来賓席を設定。長机に白布をかけると教員が表示を貼る。

「PТA会長 米沢権之助様」の表示を見て、クラスメート達は口々に言った。


「あれ、米沢さんのお父さんだよね?」

「さすが大物」

 米沢は笑いながら言った。

「お父様は忙しいからと、何度もお断りしたのだけれど、他の父兄の方から、米沢さんを差し置いて会長になんてなれない、って」

「それだけ人望があるって事だよね?」


「そうじゃなくて、面倒な役職から逃げる口実にされたんだよ」と渡辺が笑った。

「それで、忙しい時は代理を出せばいいから、って言われて、仕方なく」と米沢。

「じゃ、今日も代理の人が来るの?」

「うちの爺やが来るわよ」と答える米沢は、柄にも無く、わくわく気分を隠せないでいる。



 設営作業が終わると在校生は放課となるが、部活の生徒は勧誘があるので、多くの在校生は自教室で弁当を食べながら時間を潰していた。

 そんな中で教室の窓から校門の方を見ていた米沢は、やがて一台の自動車が校門を入るのを見ると「来た」と叫んで教室から飛び出す。

 駐車場に止まった自動車に米沢が駆け寄る。

 車から上品で優しそうな老紳士が降り、彼に抱き付いてはしゃぐ米沢を二階の窓から眺める男子達は、口々に言った。

「あの米沢さんが、まるで女子高生みたいだ」

「いや、米沢さんは女子高生だから」


 はしゃぐ米沢を前に老紳士は笑顔で言った

「お嬢様、学校は楽しいですか?」

「とっても楽しいわ。教室に来て。みんなに紹介するわ」と米沢。



 米沢が老紳士を連れて教室に入る。

「みんな、紹介するわ。うちの爺やよ」と米沢。

「津村と申します」と優しそうな笑顔の老紳士。


「爺やさんだ」「執事さんだ」「金持ちのシンボルだ」と男子達は物珍しげに盛り上がる。

 嬉々として津村を質問責めにする女子達。

 そんな彼等彼女等に受け答えしながら、津村は傍らに居る米沢に言った。

「ところで渡辺様はどちらに・・・」

「あら、ついさっきまで居たのだけれど」と米沢。



 園芸部の部室で憂鬱そうにしている渡辺。そこに片桐が入ってきて、言った。

「米沢さんの爺やさんが渡辺君を探しているみたいだけど」

「俺、あの人、苦手だ」と渡辺の一言。


「それは寂しい事をおっしゃる」と背後から津村の声。

 渡辺はビクッとして振り向き、慌てて言った。

「いや、冗談ですから。津村さんの事を苦手だなんて」

「それはよろしゅうございました。ところで、弥生お嬢様の事は、いつ認めて下さいますか?」と津村。

 なるほど、苦手とはこういう事かと、片桐は苦笑した。



 やがて入学式の時間が迫り、津村は職員室に向かった。

 入学式が始まり、新入生とその父兄たちの前で来賓祝辞を代読する津村。


 式が終わり、新入生のホームルームが終わって、帰宅する新入生を生徒玄関前で待ち構える各部の部員たち。

 渡辺は片桐・渋谷と並んで「園芸部の入部を歓迎します」と連呼し、ビラを配る。

 向こうにはバスケ部の武藤達、写真部の清水達、漫研の藤河達、家庭科部の薙沢たちも居た。

 パソコン部の小島たちの所には何故か水沢と、だるそうにしている山本。



 新入生が帰宅し、勧誘が終わると渡辺は片桐達に言った。

「俺はこのまま帰る」

「部室には寄らないの?」と訝る片桐に、渡辺は言う。

「多分、津村さんが待ち構えてる。あの人と出くわすと色々と面倒だ」と渡辺。


「それは寂しい事をおっしゃる」と背後から津村の声。

 渡辺はビクッとして振り向く。

「今日はうちに泊まっていけるのよね?」と、津村の隣に居る米沢が言った。


 まるで行動を見透かされているようだと感じた渡辺は、もしやと思い、衣服のあちこちを探ると、後ろの襟裏に何かが着いているのに気付いた。

 外して見ると、盗聴器と発信機だ。

「矢吹の野郎・・・」と渡辺は呟く。


「じゃ、渡辺君を借りて行くわね。今日はマンションには帰らないと思うから、よろしくね」と米沢は、あっけにとられている片桐に言い、津村と二人で渡辺を帰りの車に乗せた。

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