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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第86話 父帰る

 年の瀬が迫った日、村上に父が正月に帰るとの連絡があった。

 他の三名に連絡し、「秘密基地での年越しは無しって事かな?」という話になった。


 だが翌日、秋葉が「やっぱりお節は作りに行く」と言い出した。

 秋葉からのリンクメールで芝田もその気になる。

「あの親父とは久しぶりだからな」と芝田。

 中条も「村上君のお父さんに挨拶したい」



 30日に父が帰還。

「真言、元気にしてたか?」と村上父。

「親父がいなくても何の問題も無いよ」と村上。

「こいつ、自立ぶりやがって」と村上父。

村上は「それより、親父は定年したら、どうするんだよ。この部屋で父と息子・・・とか俺は御免だからな」

「いや、介護くらい面倒見ろよ。それに、どうせ結婚して出て行くだろ? 中条さんだっけ?」と村上父。


 村上は大掃除は終えていたが、お節の準備は昨年同様、秋葉に止められている。

 そんな予定を父に説明する村上。

「お節はその秋葉さんという子が作ってくれるのか? とんだハーレム主人公だな、おい。誰に似たんだ?」と村上父。

「秋葉さんは芝田の彼女だよ」と村上。



 大晦日当日、九時過ぎに秋葉が来た。何と母親が一緒だ。


 秋葉母が村上父に「始めまして。睦月の母です。真言君には娘がお世話になってます。いろんな方面で・・・」

 接客業らしい屈託の無さで、村上父に愛想を振りまく秋葉母。

 ひとしきり雑談すると、彼女は村上の耳元でささやいた。

「お父様、真言君に似て、素敵な方ね」

「本人の前で言わない方がいいですよ。調子に乗りますから」と村上。


 間もなく芝田と中条も到着。

「久しぶりだね、芝田君。ちゃんと勉強には、ついて行けてるかい?」と村上父。

「こいつ、赤点があるんだよ」と村上。

「何とかなるさ。成績は天下の回り物だ」とこの期に及んでお気楽な芝田。

「そんな台詞、聞いた事無いぞ」と村上はあきれ顔。

 もじもじしている中条に気付いた村上父は「君が中条さんだね?」

中条は「始めまして。村上君のお父さん」


 やがて村上父は、秋葉母におせちの材料の買い出しに連行された。

 それを見送った芝田と秋葉。

「あれ、お前の親父を狙ってるんじゃないのか?」と芝田は村上に言った。

「お母さん、食いついたらなかなか離れないわよ」と秋葉。



 秋葉と母親と村上でおせち作りを進める。作業中、秋葉母は村上に、彼の父の事をやたらと聞いた。

 茶の間では父が芝田と中条相手に曝露話をしている。村上も負けずに父の過去を曝露した。 

「母とは俺が子供の頃離婚したんですよ。原因は母の金遣いの荒さだったみたいでして。当時は俺も、なんてケチな・・・って思いましたけど、結局、母はお金を使う事自体が快楽だったんですよね。母にとって結婚生活って、夫からどれだけせしめるかってゲームみたいな感覚だったみたいで。それで親父は最後に言ったそうです。自分は結婚相手って、一緒に世間に対抗する仲間だと思ってた。けど貴方にとっては夫自体がゲームの勝敗を競う対戦相手だったんだね・・・って」


 そのうち村上父も手伝わされる。

 秋葉母に夕食のおかずの一品を、とねだられ、村上父は豚バラ炒めを作った。

「固くならないよう、弱火でゆっくり炒めるのがコツ。これ豆な」と村上父。



 夕食で年越し蕎麦を食べながら雑談。村上父と秋葉母が子供の曝露話の競争を始め、村上と秋葉が赤くなって必死で止めた。

 やがて年越しの時間が迫り、年明けまでカウントダウン。クラッカーを鳴らして新年を祝った。


 すると秋葉母は言った。

「後はみんな泊まっていけるんでしょ? 私達大人は邪魔者だから退散するわね」

「ちょっと待て。秋葉さんは帰るとして、俺はどうするんだ?」と村上父。

「私の家に来ればいいでしょ? いいお酒があるのよ」と秋葉母。

村上父は「俺、飲めないよ」

「鍛えようとしないからでしょ?」と秋葉母。


 強引にお持ち帰りされる父を村上は呼び止め、「これ、持ってけ」と耳元でささやいて避妊具を無理矢理持たせた。

「妊娠したとか言われたら逃げられないぞ」と村上。

「息子が親に言う事かよ。普通、逆だろ?」と村上父。

村上は「親父は母さん以外、恋愛経験無いだろ?」



 結局、村上たち4人はそのままアパートで暮の夜を過ごし、翌朝、アパートの前の駐車場で丘陵から昇る初日の出を迎えた。

 そして4人で初詣に行き、中条家へお年始に行った。

「秋葉さんちには行く?」と村上。

「秋葉ママの邪魔したら、怒られるんじゃね?」と芝田。

「確認してみる」と秋葉。


 スマホで母の番号を押して二言三言話した秋葉は、電話を終えると、言った。

「村上パパ連れて、初詣のハシゴだってさ」

「あの人、神社詣りなんて趣味あるんだ。意外だな」と村上。

「それ全部、縁結びの神社だよ」と秋葉。


 村上父はその夜も秋葉家に半ば強制的に宿泊させられ、翌日、予定を1日切り上げて、遠方の仕事先に戻った。

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