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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
73/343

第73話 晩夏の夜の夢

 クラス全員で海に行った二年二組のクラスメート達。

 海から上がって入浴を終えると、夕食は野外でバーベキューだ。


「火は十分に通しなさいよ」と米沢。

「何せ賞味期限切れだからな」と佐川。

「それは言わない約束だろ」と渡辺。


 金網に並んだ肉が焼け始める。大谷が焼けた肉を浚っていくのに、高橋がはしゃぎながら武藤と一緒に対抗する。

 大谷が取ろうとした肉を高橋が浚う。だか、やはり大谷は一枚上手だ。

 高橋が取ろうとした肉を大谷に浚われる。すると、内海が「これ、あげる」と、自分がとった肉を高橋の皿に入れてあげた。

「内海君は優しいね」と嬉しそうな高橋。


 それを見た松本は肉をとっては高橋にあげ、それが続くと高橋は「もういいよ。松本は自分で食べなよ」

「博子ちゃんは優しいね」と松本が言うのを、武藤と大谷はあきれ顔で見る。


 すると岸本が「大谷君にはこれをあげるわ」と言って、野菜を皿に入れてあげた。

 不満顔の大谷に、岸本は「肉ばっかりじゃなくて、野菜も食べなきゃ駄目よ」

「俺だけじゃなくて内山も食べるみたいに?」と大谷が下ネタを飛ばすと、内山が「岸本さんに下品な事を言うな!」と口を尖らせた。



 別の金網では、芝田と村上が肉を取り合う。

 中条は遠慮して野菜ばかり取る。それを見かねた村上は焼けた肉を見繕って中条の皿に入れてあげた。


 芝田が「それでこそ保護者だな」と微笑ましそうに笑うと、横で秋葉が芝田の耳を引っ張った。

「何、他人事みたいに言ってるのかしら? 芝田君は」

「そうだな、悪かった」と芝田は言うと、自分がとった肉も中条の皿に入れてあげた。

 それを見て秋葉は、芝田の足を思い切り踏んだ。



 その反対側では、小島と山本が肉を取り合うのを、水沢が笑って見ていた。

 敏捷な山本相手ではまるで勝負にならず、小島が取ろうとした肉は悉く山本に浚われた。

 そのうち、水沢があまり食べていないのを見た山本は「お前も少しは食べろよ」と言って、水沢の皿に肉を入れてあげる。


「山本君優しいね。もっと甘えていい?」と水沢。

「して欲しい事があるなら言ってみろ」と山本。

「あれ、やって」と言って水沢は、吉江に「あーん」を強要されている清水を指さした。

「あんな恥ずかしい事、できるか!」と山本。

水沢は「じゃ、小依がやってあげる。山本君、あーん」

「いらねーよ」と山本。


 水沢は残念そうな表情をすると「じゃ、小島君にやってあげる。小島君、あーん」

「わーい。小依たんマジ天使」と喜ぶ小島。

「小島も少しは遠慮しろ」と不満顔の山本。

「だって小島君、あんまりお肉、食べてないでしょ? 山本君に取られちゃって」と水沢は言って、また「小島君、あーん」

山本は「あー解ったよ、やってやるよ。ほら水沢、口を開けろ。あーん」

「わーい」と楽しそうに口を開ける水沢。


 水沢の口元に肉をつまんだ箸を運ぶ。

 水沢は美味しそうに、もぐもぐ。

「うまいか?」と山本。

「うん」

 その時山本は、金網の向こうに清水の不審な動作を見た。

 そして山本は「おいこら清水、今、写真撮ったろ? 待ちやがれ!」



 バーベキューが終わると、海岸で花火で遊んだ。

 中条達は芝田が買ってきた花火を四人で楽しんだ。牧村達は打ち上げ花火に次々に点火。みんなで「たーまやー」と叫んだ。

 山本はネズミ花火をたくさん買ってきて、火をつけてばら撒く。

 そのうち大谷が買ってきたロケット花火で、大谷と山本が互いに向けて打ち合いを初め、ハリセンを持って飛んできた米沢に没収された。



 やがて遊び疲れて各自の部屋に入る。

 芝田達の部屋では、最初は各自のベットで横になった。

 だが、右下のベッドに居た村上が「里子ちゃん、こっちに来る?」と言うと、中条嬉しそうに村上のベッドに移動した。右上のベッドに居た秋葉は芝田を呼び込む。


 その時、誰かが部屋をノックした。七尾だった。そして七尾は言った。

「ここに来ればベッドが空いてると言われたんだけど」

 右側の二つのベットで二人づつ添い寝している様子を見て、そういう事かと七尾は納得した。

「吉江さんと清水君が、その、始めちゃって・・・」と顔を赤らめる七尾。

 開いてるベッドで・・・と秋葉に促され、七尾は左上のベットに入った。



 また誰かが部屋をノック。直江だった。そして直江は言った。

「岸本さん達に遠慮して出て来たんだけど・・・」

「追い出されたの?」と秋葉。

直江は「岸本さんには混ざるか?・・・って言われたんだけど、さすがに4Pは・・・」

「混ざらなかったの?」と七尾の声が聞こえて直江は慌てて言った。

「え? 七尾さん、何で?」

「私も遠慮して出てきたの。で、直江君は誘われたんだよね?」と追及する七尾の声が怖い。

「だから断ったってば」と直江は必死に弁解。

「でも4Pでなかったら混ざってたでしょ?」と七尾。

「勘弁してよ」と直江。


「とにかく開いてるベッドに入れよ」と芝田に言われ、開いている左下のベットに入った。

 (私と一緒のベッドには来ないのかな)と七尾は思い、来て欲しいと言えない自分が歯痒いと感じた。

 そしてそれ以上に、既に恋人なのに未だに遠慮のある直江への、複雑な気持ちが胸にわだかまる。

 そして思った。(まだ自分が堅物だと思っているのだろうか?)



 その時、また誰かがドアをノックした。坂井と柿崎だ。

「水上さんに遠慮して出てきたんだが、ここに来れば空いてると言われて・・・」と柿崎。

 こうも立て続けに来る退避者に不審を感じた村上は「誰に言われたの?」と確認する。

「岸本さん」と坂井。

「もしかして、七尾さんと直江君も?」と村上。

「岸本さんだけど」と二人声を揃える。

 村上達は岸本の面白がっている様子を思い浮かべて苦笑した。


 七尾は下で寝ている直江に言った。

「私達、いちおうカップルなんだし、一緒に寝ようよ。坂井さん達は下のベッド使うといいよ」

「そんな迷惑かけられないよ」と柿崎が言うと秋葉が「柿崎君、野暮は言いっこ無しだよ」

 一つ空いたベッドを見て柿崎は言った。

「じゃ、坂井さんはあれを使いなよ。俺は他を探すから」

「みんな水上さん達みたいになってるかもだよ」と坂井。

「だったらロビーの長椅子で寝るさ」と柿崎。

 そう言って立ち去ろうとする柿崎の上着の裾を坂井は掴んだ。そして言った。

「あんな所じゃ風邪ひくかもだよ。ここで寝ようよ」 



 8人の男女で雑談が盛り上がる。

 芝田と秋葉、そして直江が会話を主導し、村上と柿崎、そして坂井が突っ込む。中条と七尾は時々話を振られて答える。

 (自分はこの人と同じ立ち位置なのだろうか?)と七尾は中条を見た。

 その中条が楽しそうに会話に加わりながら、隣に居る村上にじゃれている様子が微笑ましかった。


 隣で楽しそうに会話を盛り上げている直江を見て、同じように彼にじゃれてみたくなるが、七尾は躊躇した。

 躊躇している場合ではない、自分には時間が無いのだと、七尾の脳内でもう一人の七尾が叫んでいた。

 やがて夜も深け、寝ようという事になって灯りを消した。



 柿崎は隣で寝ている坂井をちらっと見る。


 幼い頃から仲の良い牧村と坂井。

 その坂井への親しみが、やがて淡い恋心へと変わる中、周囲に居る女の子はみんな牧村を好きになるという現実に彼は直面した。

 坂井も同じなのだろうと、ずっと思っていた。

 自分にも牧村にも優しくする坂井に甘えてはいけないと、柿崎は自身に言い聞かせ続けてきた。


 去年のクリスマスで、坂井は実は牧村が好きな訳ではないと知り、そして他に好きな男が居て、もしかしたらそれが自分ではないかという期待が脳内に居座った。

 だが柿崎は「人には見たいものが見える」という一般法則がある事も知っていた。見たくないものも見なくてはいけないのだ・・・と。

 坂井は誰に対しても優しいのだ。一緒のベッドに誘ってくれても、それは単に優しいだけなのだ。

 それに甘えてはいけないのだと、彼は自分自身に言い聞かせた。

 そして今はこの距離に感謝しようと、そう心に決めて柿崎は目を閉じた。


 坂井は隣で寝ている男が何もしてこない事に、安堵とともに苛立ちを覚えた。

 次第に苛立ちのほうが募り、我慢できなくなって目を開けて隣を見る。柿崎は既に熟睡していた。

「こういう人なんだよな」と呟くと、そっと手を伸ばして柿崎の頬を撫でた。

 周囲の様子を伺いつつ、仰向けに寝ている彼の顔を覗き込み、そして唇を重ねた。

 そして「今はこれで満足しよう」と呟いて、再び目を閉じた。



 七尾が浅い眠りから醒める。夜明けまで間がある。

 周囲を見回し、秋葉・中条・坂井に呼び掛けて熟睡している事を確認する。さらに村上・芝田・柿崎に呼びかけて、熟睡している事を確認した。

 最後に直江に「おきてる?」

 直江はねぼけているように「うーん・・・」と唸る。


 七尾は覚悟決め、片手を伸ばして直江の胸板を探る。

「七尾・・・さん?」と寝言のような声を上げる、朧げな意識の直江に七尾は顔を近づけ、覆いかぶさるように唇を重ねた。

 そして七尾は用意していた避妊具を出す。

 直江は次第にはっきりする意識の中で、七尾がしようとしている事を知って、覚悟を決めた。



 翌朝、目を覚ましてベッドから起き上がる、何事も無かったかのような七尾と坂井。何も知らない柿崎。

 そして、一人だけバツが悪そうな直江。

 女子達がキッチンで朝食の支度をしていた。ロビーで食事し、午前中は海岸で遊び、午後解散。


 迎えに来た各自の家族の車に乗る者、それに便乗する者、バスで帰る者。

 村上達には、芝田兄の車が迎えに来た。


 村上はずっと気になっていた事があった。それを車内で芝田兄に聞いた。

「そういえば中条さんのお祖父さん、帰りは迷いませんでしたか?」

「だいぶ迷ったみたいだよ」と芝田兄は笑って答えた。




 夏休み終盤、内海は松本・武藤とともに、登山がやりたいと言い出した高橋に付き合わされていた。

 武藤と内海は、テント機材入りの大きなリュックを背負わされていた。

 非力な内海も、高橋より小さなリュックを・・・という訳にはいかない。


 松本だけ小さなリュックだが、さらに体力が無いので、内海と一緒に喘ぎながら岩場をよじ登る。

 遥か先では高橋と武藤が楽しそうに息を弾ませている。


 足元の断崖に目がくらむ。

「崩れたりしないよね」と松本が泣き言を吐く。

「下を見ちゃ駄目だ」と言いながら、内海は棒のようになった足を必死に動かす。そして心に中で泣き言をつぶやいた。

 (芝田の奴があんな話を出すから、俺達がこんな目に・・・。あの野郎!)

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