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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第72話 賞賛のノルマ

 クラス全員で海へ行った二年二組のクラスメート達。

 そこで中条の自信の無さを知って、彼女を元気づけようと、中条を褒める清水と内海に対して、高橋と吉江が物言い。

 そして、アイスクリームを手に悪戦苦闘する清水と内海。

 高橋と吉江から「自分の彼女の好きな所を十個挙げる事」という課題を課されたのだ。


「スポーツ万能」と内海。

「あと六つ」と高橋。

「恋愛に積極的」と清水。

「あと四つ」と吉江。


 元々は、安全な告白相手というだけで高橋を選んだ内海である。

 清水に至っては、他人に告白する手助けをしているうちに懐かれたに過ぎない。

 二つ三つなら思いつくが、やがてネタは切れる。傍で見ている村上と芝田はお気楽だ。

「水着選びに付き合わされるとか、メじゃない苦行だな」と芝田。

「生活指導喰らって反省文書かされるのも、あんな感じらしいよ」と村上。

「お前等、他人事だと思ってるだろ」と内海も清水も口を尖らす。

「いや、他人事だから」と笑う芝田と村上。



 中条はケラケラ笑っている。

 すると秋葉は言った。

「他人事って言うけど、元々は彼氏の普通の義務なんだからね」

 村上と芝田は慌てた。清水と内海も矛先を二人に向けて言う。

「そうだぞ。お前等もちゃんと言えなきゃ、秋葉さんと中条さんが可哀想だぞ」

「そうよね。私、可哀想な子よね」と秋葉。

「またそれかよ」と芝田。


 とんだ墓穴を掘ったと後悔した村上だったが、もう遅い。逃げられそうにないな・・・と観念した。

「素直、小さい、童顔、キモいとか絶対言わない」と村上。

「それ、素直と同じじゃね?」と芝田が突っ込む。

「いや、微妙に違うから。それと、抱きしめると腕の中にすっぽり収まる、軽いからおんぶが楽」と村上。

「お手軽って事?」と秋葉が突っ込む。

村上は「ずっとおんぶしていられるって事さ。それと、頭を撫でてやると喜ぶ、膝枕されると気持ちいい、膝枕してやると気持ちいい、膝の上に座ってくれる、それと頬っぺたが柔らかい。これで十個だ」


「何だか、単にのろけているようにしか聞こえんのだが」と内海。

「彼女を褒めるって、そういう事だろ?」と村上。

「それに中条さん、めっちゃ喜んでるし」と清水。

(微笑ましいというか、お手軽と言うか)と秋葉は思った。



「で、芝田君はどうなの?」

 芝田も観念してノルマに挑戦する。

「胸が大きい」と芝田。

「のっけにそれかよ」と内海は笑う。

「外野は黙ってろ! それと美人、料理が上手、しゃべってると楽しい・・・」

 そうやって、何とか十個言い終える芝田。

「最後の四つは村上のパクリだろ?」と清水は他人事のように手厳しい。

「俺だって、それは好きな所なんだよ」と芝田。


「それより、あんた達、まだ十個言ってないんだけど?」と吉江と高橋が口を尖らす。

 清水と内海は溜息をつくと、声を揃えて残りを言った。

「膝枕が気持ちいい、頬っぺたが柔らかい、握った手が柔らかくて気持ちいい。それで十個だ」

「まあいいわ。じゃ、追加であと十個、行ってみようか!」と秋葉が言い出す。

 調子に乗る女子達に男子達唖然。



 すると芝田が11番目を言った。

「秋葉さんが山奥の温泉に行くと言い出したんだが、間違えて別の温泉の地図持ってきて、道が全然違って滅茶苦茶苦労した事」

「そんな事があったの?」と高橋。

「いや、それ好きな所じゃなくて、単なる曝露話でしょ?」と秋葉は異議を唱える。

「いや、アリだと思うよ。だって前に言ったじゃん。好きな女性の価値は楽しかった思い出だって」と村上が芝田を援護した。

「けどそれが楽しかったの?」と高橋。

「楽しかったぞ。温泉巡りのおっさんだって、滅茶苦茶笑ってたじゃん」と村上。


「どこに行ったの?」と高橋は興味津々らしい。

「青湯温泉って所でね」と中条。

「あそこかぁ。登山道を半日歩くんだよね?」と高橋。

「それがこの人、間違えて青場温泉って所の地図、持ってきてさ」との芝田の説明に全員笑う。

「歩くのは大変だったけど、景色がすごく綺麗だったよ」と中条。

「そうか。登山ってのも、いいなぁ」と高橋が遠い目で笑顔を見せた。

 内海はそんな高橋を見て、嫌な予感しかしなかった。



「ところで芝田君、私の好きな所って、ある?」と中条が柄にもない事を言い出した。

「中条さんの?」と芝田。

「そうだよな、芝田は中条さんの彼氏みたいなものでもあるんだから」と内海と清水が加勢。

「だったら村上君も私の好きな所、言えるわよね?」と秋葉も便乗。


 村上は苦笑いすると「胸が大きい、美人、料理が上手、しゃべってると楽しい・・・」と、芝田が言った事を繰り返す。

秋葉は「まあいいわ。それが村上君にとっても私の魅力って事なんでしょ? けど村上君って貧乳好きじゃなかった?」

「あ・・・」と慌てる村上を見て全員笑う。

「じゃ、芝田君は?」と中条が催促。

芝田は「素直、小さい、童顔、キモいとか絶対言わない・・・それとあとお前、何って言ってたっけ?」

「俺に聞くなよ!」と村上は口を尖らせた。



 他の仲間達もひとしきり泳いで海から上がる。

 そのうち誰ともなく「スイカ割りがやりたい」と言い出した。

「あるんだろ? スイカ」と大谷が渡辺に言うと「無いよ」と渡辺。

「何でだよ。夏の定番だろ?」と大谷。

渡辺は「持ってきてるのは売れ残りの処分品だ。スイカは古くなると、すが入って品質が落ちるんだよ」

大谷は「スイカ割りなんだから、丸くて叩いて割れたらいいんだよ。気が利かないなぁ」

「そういうスイカは切り分けて、ちゃんとした所を売るから、丸いままの処分品なんて無いのさ」と渡辺。

「そうなのか?」と大谷はがっかりして言う。


「だったら誰か砂に埋めて頭出させてスイカの代わりにすりゃいいじゃん」と大野が怖い事を言う。

「大野さん鬼畜すぎ!」と清水が言った。

「漫画でよくやるじゃん」と大野。

「だから、そういうのを真似ちゃ駄目だって!」と内海。

「女子って自分達が犠牲にならないものだから、好き勝手言うのな」と小島は手厳しい。

「ああいうのをリアルでやったらイジメだもんな。イジメやる奴に人権なんか無い、だろ? 佐川」と鹿島。

「だな。まあさ、身動きできないようにして、ってのはさすがにな」と佐川は言った。


「だったらスイカ役も目隠しして放し飼いにするってのはどうだ?」と山本。

「なるほど、それはアイディアだ」と鹿島が言うと、佐川と武藤が山本の両手を押えて目隠しをする。

山本は「俺がスイカ役かよ!」

「こういうのは言い出しっぺがやるものだ」と佐川が笑って言った。

「トップバッターは誰だ?」と内海が言う。

女子達が内海を指名し、内海は目隠しされて獲物を持たされる。

「せめて俺にも武器をよこせよ」と山本。

「それだと、どっちがスイカか解らんだろ」と佐川。

「いや、スイカどうしのチャンバラだ」と大谷が賛成した。



 山本も獲物を持たされ、両者目隠しで向きかって周囲が「右だ」「そのまま前へ」と好き勝手に指示を飛ばす。

 両者、完全に迷走。

「これじゃ、どっちに言ってるか解らんぞ」と山本がうろうろしながら文句を言う。

 内海も「せめて誰か一人づつ指示役を決めてくれよ」と言い出す。


 すると村上が「だったら自分の彼女が・・・ってのはどうよ。どっちも彼女持ちなんだしさ」

「けど、それだと彼女が居なきゃスイカ役にされない、って事になるよね?」と津川は不公平感を示した。

「いいじゃん。そんな幸せな奴には、こういうペナルティが必要だろ。リア充税だ」と言ったのは八木だ。

 唖然とする周囲を見て、八木は慌てて言った。

「あ・・・。言っとくけど、これ冗談だからね?」

「いや、それは解ってるけどさ、お前、自分が恋愛と無関係とかまだ思ってる?」と内海が溜息をついて言う。

 そして、隣に居た藤河が、思い切り八木の足を踏んだ。


 高橋と水沢が指示役になって、紙を丸めたメガホンを持つ。


 改めてスタート。

 高橋の的確な指示に対して、水沢の意味不明な言葉で山本は迷走する。

 内海は不安になった。持っている棒でまともに打ち込めば山本は怪我をするのではないか。

 だが、そこは高橋も考えているだろう。

 どうせ棒杭か何かに当てさせて笑いをとるつもりなのだろうと考え、高橋の「そこよ」の掛け声で、内海は思い切り獲物を振り下ろした。

 景気のいい音とともに「痛てぇ」と山本の声。

 慌てて内海は目隠しを外して「山本、大丈夫か?」と叫ぶ。

 手に持っていた獲物はハリセンだった。



「じゃ、次は村上の番だな」

「え? 何で?・・・」と村上唖然。

「指示役を彼女に・・・って言ったのはお前だろ? 言い出しっぺが先陣を切るのがルールだ」


 スタートラインに立たされて目隠しをされ、ハリセンを持たされる。

 対峙するのは芝田、中条と秋葉が指示役のメガホンを持った。

 (里子ちゃん、まだ口下手でまともな指示なんて出来ないだろ)と村上は思った。

 (秋葉さん、絶対面白がって変な指示出すぞ)と芝田は思った。


 そしてゲームスタート。

 中条の残念な指示でまごつくだけの村上の周りを、芝田がハリセンを構えてぐるぐる回る。

 (どこまで歩かされるんだ?)と芝田の脳内で疑問が膨れ上がる。

 どうも、さっきから左へ左へと言われている。中条がまともな指示を出せていないので、村上は恐らく動けない。

 数学が得意な芝田の頭の中で、定規とコンパスが動く。

 芝田の脳内幾何学図形が導き出した答えは、村上を中心に時計と逆回りを回っている自らの姿だった。

(よぉし。それなら・・・)と芝田は心の中で呟く。

 芝田は左に90°方向転換して三歩前進。まごつく村上の気配を察して「そこだ」と思い切り振り下ろす。

 ハリセンが村上の頭に命中して景気の良い音を立てた。



 次は大谷と内山の対戦。

 岸本が一人でメガホンを二つ持って、両方に指示を出す。

 笑いながら露骨に内山を勝たせようとする岸本に、全員苦笑。


 内山にやられた大谷は「リベンジだ。今度は武藤が来い」と自分の部活仲間を指名した。

 だが武藤は「俺、彼女居ないよ」

 その時、「私が指示役やる」と松本が名乗りを上げた。

「いや、別に部活仲間だからって、彼女役なんてやらなくていいんだぞ」と言いながら、武藤は目隠しされてハリセンを持たされる。

「武藤の奴、全然解ってないよな」と周囲一同ひそひそと言い合った。

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