第7話 幼女とオタク
小島昭平は、見かけからしてオタクを自己主張する男子だ。
太目な体形で眼鏡、ボサボサの頭、身の回りのキャラグッズ、会話でネットスラングを連発する。「オタクですが何か?」と言って、キモ連呼する女子を笑い飛ばす。
特に彼に対して攻撃的なのが、厚化粧と偽ブランド品で武装しギャル語を連発する大野零未だ。彼女のキモ連呼に対して小島が「アホギャル」と嘲笑で返すのは日常事であった。
一方で水沢小依は身長も低く容姿が幼く、小学生にしか見えない。言動も幼く、当初から「好意を示すとロリコン認定される」として殆どの男子から避けられる傾向があった。
その中で「ロリコン認定上等」を公言する小島だけは、彼女を全く避けないどころか「小依たんモエー」などと口走るため、女子の中には、水沢を小島の魔の手から守るべき・・・などと、過激な主張する者も居た。
特に女好き男嫌いを自認する宮下莉奈などは、露骨に小島を牽制する一方で、自らは「小依ちゃんカッワイー」と叫んでやたらハグして、水沢から迷惑がられるのは日常事であった。
4月の後半頃の休み時間であった。
宮下が、小島を避けようとしない水沢に「小島はロリコンだから近付いちゃ駄目」と言うと、水沢は「ロリコンって何?」と聞き返した。
「小依ちゃんみたいな小さな子供を好きになる変態だよ」と宮下。
「小依は子供じゃなくて女子高生だよ」と水沢。
「そうじゃなくて、子供に見える人を好きになるって事だよ」と宮下。
「じゃ、小島君は小依の事が好きなの?」と水沢。
宮下は、言った事が逆効果になったような気がして、訂正した。
「小さな子に手を出して、エッチな事をする変態なの。だから近付いちゃ駄目」
水沢は小島を見る。小島はこちらを気にする様子も無く、お菓子を食べながら携帯ゲームをしていた。
次の休み時間、水沢は小島の所に行って「ねえ、小島君ってロリコンなの?」と聞いた。
小島は「何をもってロリコンと言うのかは知らない。けど、小依たんみたいなちっちゃい子については・・・」と言いかけると、小島は眼鏡のこめかみに人差し指を当て、「可愛いは正義」とポーズをとりつつ答えた。
水沢は「ふーん。宮下ちゃんが言ってたけど、小依にエッチな事したいの?」
それを聞くと小島は残念そうな目で宮下の方を見てため息をついた。
そして「それは無い。小依たんは永遠に清い存在で居るべきなんだ。だから僕自らそれを汚したりしない。キリッ」と真面目な顔で断言した。
水沢は「じゃ、宮下ちゃんは嘘をついてるの?」
「そだよ。あの人は男性が嫌いだから、小依たんを男性から遠ざけようとしていると思われ」と小島。
「じゃ、宮下ちゃんには近づかないほうがいい?」と水沢。
それを聞いて小島は少し考えると、水沢に「別にそこまでしなくていいよ。小依たんにも友達は必要だろ? ただ、男をディスるような話は華麗にスルーすればいいのさ」と言った。
それを聞いて水沢は笑顔で「わかった」と言う。
小島は手元にあるチョコを一つ差し出して「これ食べる?」
水沢はそれを食べて「美味しい。中がとろっとして」
「中身がクリームになってるんだ」と小島。
「小島君はお菓子に詳しいの?」と水沢。
「ゲームしながら食べるお菓子に拘るのは、オタクの嗜みだからね。これも食べてみる?」と小島。
そうした小島と水沢の様子を見て大野は言った。
「いいのかよ宮下、水沢っちオタに餌付けされてんじゃん」
宮下は慌てて水沢の所に行き、「小依ちゃん、小島は危険だから近付いちゃ駄目だよ」と言って小島から引き離そうとしたが、小島は平然と「何かな宮下女史。ゲスレズにやるお菓子は無いぞ」と言い放った。
宮下は「誰がゲスレズだ」と怒ったが、水沢は小島の上着の裾を引っ張り「小島君、差別は駄目だよ」と言う。
小島は「そだね、差別はいけないね。オタク差別とかオタク差別とかオタク差別とか」と言い、宮下に「これ食べる?」と言ってチョコを差し出した。
宮下は「いらない。それより小依ちゃん、あっちに行こうよ」と水沢の手を引くが、水沢が「宮下ちゃん、オタク差別は駄目だよ。小島君もちゃんとごめんなさいしたんだから、宮下ちゃんもごめんなさいしなくちゃ」と言うと、宮下は言葉に詰まった。
宮下はすごすごと引き返すと、大野に訴えた。
「オタク差別って悪くないよね? オタクは社会の害悪なんだから、駆除しなきゃ駄目だよね」
さすがに大野も苦笑いしてごまかすと、今度は藤河芳美の所に来て、同じ事を訴えた。
藤河はBL好きを公言し、学校にその手の本を持ち込む、自他共に認める腐女子で、宮下とは互いの趣味を批判し合う反面、異性愛を否定する立場としてうまが合う悪友である。
近くで聞いていた八木俊一は、そんな宮下を見て苦笑した。八木は小島のようなオタクとしての自己主張はしないが、百合日常系の女子キャラを愛する所謂「萌え豚」としての趣味は隠さず、「レズは美しくホモは汚い」を公言する奴だ。
そんな八木をよそに宮下は藤河に「オタク差別はきれいな差別だよね? 差別は女性とかに向けるのが悪いんであって、オタク差別とかオヤジ差別とか・・・」
そこに八木がふざけて「腐女子差別とか?」と付け足すと、宮下はつられて「そう、腐女子差別とか」
それを聞くと藤河は、鬼の形相で「腐女子差別がどうしたって?!・・・」