第69話 本当にあったかもしれない怖い話
「夏と言えば怪談よね」
夏休みの村上のアパートで四人で居た時、出し抜けに秋葉がそんな事を言い出した。
そして「百物語やらない?。蝋燭を百本立てて火を点けて、順番に怖い話をするの。終わると一つづつ火を消して、最後の火を消すと・・・って奴」と秋葉。
「いいね」と仲間たちが賛同。
「蝋燭立てるのは金属製のお盆でいいよね?」と村上。
「蝋燭はうちから持ってくる」と中条が請け負った。
中条家には仏壇用の蝋燭が大量にある。法事に来た人が供物として持ち込んだり、墓のある寺への毎年のお年始のお返しに貰ったり・・・が溜まったのだ。
翌日中条がそこから二箱持ち出し、四人で村上のアパートにお泊り。夕食を食べたら準備だ。
テーブルの上に金属製のお盆を二つ。一面に蝋を垂らして蝋燭を固定し、並んだ蝋燭に点火。
電灯を消すと、先ず村上が先頭を切った。
「芝田と子供の頃、山を探検した時、沢を歩いたんだが、後で聞くとあの沢は権太郎沢って言う伝説があったんだ。その頃は俺達、何も知らずに歩いたんだが、トイレに行きたくなって、一人で藪に入って立ちションしようとしたんだ。それでふと足元を見たら、人の顔が地面に浮かんで、真っ赤に目を血走らせているんだよ。俺はびっくりして、慌ててチャックを戻しながら芝田の所に逃げ帰って、二人で退散したんだ。その伝説ってのが、泥棒が掴まって生き埋めにされたって話で、頭だけ出ている時にそいつが、最後に水を飲みたいって言ったら、村人がこれでも飲めと言って顔に小便をかけて、泥棒は村を呪いながら死んだそうだ」
「そういえば、お前が立ちションに行った後、青い顔して戻って、急いで帰ったって事、あったよな」と芝田。
「それじゃ、本当にあったの?」と中条。
「さあね?」と村上は意味深な顔で言って、蝋燭を一つ消した。
次に中条の番
「学校の裏山、戦場ヶ峰っ言ったよね? それでお祖父ちゃんに聞いたんだけど、あそこで昔、戦があって大勢戦死者が出たって事で・・・」
次々に怪談を話す四人。だが彼等も一人25個もの怪談を知っている訳ではなく、だんだん話がいい加減になる。
芝田が話す。
「兄貴が高校の頃付き合ってた彼女が居たんだ。親がまだ生きてた頃で、厳しい親だったんだが、たまたま留守で彼女を連れ込んだ訳。その時部屋にあったお宝本はベットの下に隠したんだが、いざ始めようって時になって、親が急に帰ってきたんだ。とりあえず誤魔化そうと彼女を残して玄関に行くと、死んだ爺さんの昔の写真が必要だから取りに来たとか言って、アルバムが兄貴の部屋にある筈だって、部屋に乗り込んで来たんだが、彼女はどこかに隠れてやり過ごした。親がそれを持ってまた出て行くと、彼女はベットの下から出てきた」
「それが怖い話?」と秋葉。
「いや、隠してたお宝本が彼女に見つかったんだぞ。怖いだろ?」と芝田。
そのうち彼等は妙な事に気付いた。まだたくさん残っている筈の蝋燭が、既に残り少ない。
次は秋葉だ。
「私が杉原含めて四人で、こんなふうに百物語をやった時なんだけど、杉原の次が私だったのね。何回も順番が廻ってきたんだけど、三人終われば順番廻ってくるわよね。なのに、なかなか番が回って来ないって事に気付いたの。杉原の番になって、次は私の番って時に、誰かが話始めたの。誰か順番を間違えたのかな?・・・、誰だろうと思って見たら、私がもう一人居て話しているの」
その時、いきなり何かが最後の蝋燭を消し、真っ暗になって部屋に悲鳴が響いた。電灯を点けてテーブルの上を見ると、途中で消した蝋燭の燃え残りとともに、多くの蝋燭が燃え尽きていた。
なーんだ・・・という顔で芝田が「蝋燭が短くて百話分もたなかっただけじゃん」
漫研の面々が合宿と称して一年二年の五人でお泊りの計画を立てた。三年は受験で参加する余裕は無い。
言い出したのは高梨だった。是非自分の家に・・・という話に、全員乗り気になる。
だが、そのうち彼女は所蔵品の自慢を始めた。怪しげなオカルトグッズやら、心霊写真やら、心霊スポットの土やら・・・。
「賽の河原って知ってますか? そこでは夜になると小さな子供の霊が石を積んで小さな石積みを作って、鬼がそれを崩していじめるって言うんです。そういう場所だって心霊スポットがあって、小さな石積みがたくさん並んでるんですが、そこの石を拾って来たんです。夜になると子供の泣き声が・・・」
という具体に高梨は、とんでもなくばち当たりな事まで言い出し、全員ドン引きした。
これをどうにかしようと鈴木が声を上げた。
「それより、うちに来ませんか? 夜は基本、家族居ないんで」
鈴木は母親と二人暮らし。母親は夜の仕事で朝方まで居ない。
彼等が鈴木家を訪問し、彼の部屋で落ち着くと、誰となく肝試しをやろうと言い出した。
鈴木家は学校の近くだ。学校の裏山の戦場ヶ峰に古いトンネルがある。お化けが出るという噂があり、ここを探検しようという事になった。
夜になり、五人で現場に向かおうという段階で、田中が特攻制服を着込む。
「これ着ていれば怖いものは無いんで」と田中。
「田中って実は怖がり?」と八木。
田中は「そんな事無いっす」
すると高梨が言った。
「これがあれば大丈夫。弱い霊は近付きません」と言ってポケットから小石を出す。
「それは?」と八木が聞くと・・・。
「賽の河原の石です」と高梨。
特攻制服の田中は青くなって後ずさり。
「持ってきたのかよ。もっと怖いわ。そんなもん捨てて行きなさい」と八木。
「大丈夫です。涎掛けに包めば悪さはしません」と高梨。
五人で出かけて、現場に到着。
鈴木は持参した携帯ラジオを鳴らす。そして言った。
「これ鳴らしていれば、怖くないですよね?」
騒々しさで雰囲気は台無しになると、藤河の命令でラジオは止められた。
トンネルに入って懐中電灯を点ける。
高梨が、あそこに子供が居る、ここに落ち武者が居ると随所で言い出し、その度に全員後ずさり。
先頭に居た筈の田中が、いつの間にか最後尾を歩いていた。
トンネルを出ると小さな墓石がある。
高梨は「あそこに居る首の無い人が、負けた側の大将です」と言って、三歩ほど近付くと、立ち止まって言った。
「大将、こっちに来ます」
鈴木は思わず尻もちをつく。
どこからともなく赤ん坊の泣き声が聞こえ、五人は悲鳴を上げてトンネルの中を駆けて入口に戻った。
鈴木の携帯ラジオから声が聞こえている事に、八木は気付いた。
「以上、産婦人科訪問のコーナーでした。遠藤さん、出産おめでとうございます」とラジオの音が・・・。
山本と水沢は、小島と彼のオタク部屋でゲームをしていた。山本と水沢がゲームに集中し、小島があれこれ裏技の蘊蓄を垂れる。
やがて夕方になる頃、水沢がコックリさんをやろうと言い出した。
小島が紙に書いて準備。十円玉を置いて三人で抑える
三人で声を合わせて「コックリさんおいでください」
三人が指で押さえた十円玉が動く
最初の質問は「山本の成績はどうなりますか?」
「さんねんかつつきまわろす」の順番で十円玉が動き、(残念が続きま、ワロス、だな)と一同解釈。
山本が「言い回しが殆ど小島じゃん」と呟いた。
二番目の質問は「水沢さんの夏休みはどうですか?」
「てんしなこよりたんけきはつひい」の順番で十円玉が動き、(天使な小依たん激ハッピー、だな)と・・・。
三番目の質問は「小島に彼女は出来ますか?」
「ろりつこはくたんうま」の順番で十円玉が動き、(ロりっ子瀑誕ウマー、だろ)と・・・。
「小島、動かしてるだろ?」と山本。
「無実だお」と、しらじらしく言う小島。
「途中で止めると、祟られるよ」と水沢が言った。