表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
60/343

第60話 岩井君の親衛隊

 岩井は、本来なら牧村に負けない美少年であった。

 だが、三学年に在籍していたブラコンな姉が、教室に乗り込んでは過剰なスキンシップを繰り返したせいで、入学早々に女子達に引かれていた不運なイケメンである。

 その姉が卒業した事で、岩井にもモテ期が到来するのでは・・・、誰もがそんな予感で岩井を見ていた。

 そんな状況に気をもんでいたのが、宮下である。


 本来は女好き男嫌いなレズ体質の宮下だったが、岩井の女装姿に一目惚れしてしまい、それが男と知った後も、諦めきれない悶々とした日々が続いていた。

 そんな岩井に親衛隊が出来たのでは・・・という話が出た。三人の一年女子が、彼の周りをうろうろし出したのだ。

 ようやくまともな恋愛が出来る・・・と喜んだ岩井だったが、三人で牽制し合っているのか、告白して来る様子は無かった。

 いっそ、岩井のほうから接触してみろ、などと無責任に煽る声も出る。

 そんな頃、彼の下駄箱から、ラブレターらしき呼び出しの手紙が発見された。



 恐らく、その三人のうちの誰かであろう、と岩井は思いつつ、約束の場所に出向くと、来たのは三人一緒である。

 他の二人は付き添いかよ・・・と思いつつ、岩井は言った。

「で、この手紙を書いたのは誰かな?」

 三人は互いに目を合わせると「三人で書いたんですが・・・」

 ハーレム前提の告白か? そんな無茶な・・・けれども、もしかして恋愛以外の話なのかも、と少しがっかりしつつ、岩井は確認した。

「で、どんな用事?」

 三人は声を揃えて「私達と付き合って下さい」


 近くの繁みで大きな音がして、見ると、前のめりにコケている女子生徒が居る。

「宮下さん、何やってるの?」と岩井。

「いや、たまたま通りかかっただけで」と苦し過ぎる言い訳をする宮下。


「それより何? 三人でって・・・」と宮下は必死に話を逸らそうと試みると、三人は答えた。

「岩井先輩を見て、一目惚れっていうか、すごく綺麗な人だなって・・・」

「あはは、すごく嬉しいけどさ」と岩井。

「ドレスが凄く似合うし、周りの女性なんか目じゃないっていうか・・・」と三人のうちの一人が言う。

「な・・・何の話?」と嫌な予感を感じる岩井。

「だから去年の文化祭ですよ。劇の録画映像見て、感動しちゃって。先輩の女装・・・」と三人の一年女子。


 (要するに宮下さんの同類かよ)と、岩井はかなり落胆した。

 だが、それでもレズという訳では無さそうだ。女装で惚れられたにしても、ブラコンよりはマシかと、岩井は気を取り直した。


 一方の宮下は、いきなり同調。そして言った。

「そうよね。岩井君の女装って最高よね。あれの演出、私がやったのよ」

「そうだったんですか」と三人のうちの一人。

「けどね、付き合うのに何人も一緒にって、どうかと思うわよ」と宮下。

「そうですか? 部活って大勢でやるものだと思いますけど」と三人のうちの別の一人。

「部活?」と唖然とする岩井。


「ですから、演劇部に入って私達の活動に付き合って欲しいんです」と三人のうちのもう一人の女子。

 前のめりにコケる岩井を見て三人は言った。

「岩井先輩、何やってるんですか?」



 がっかりしながら、彼女達に演劇部の部室へと連行される岩井。状況を呑み込めないまま、ついて行く宮下。

 部室には、一人の女子と二人の男子。

 女子に見覚えがある。去年の文化祭で、一年二組の教室に乗り込んで馬鹿にされた、一年四組の委員長だった人だ。

「演劇部にようこそ。部長の北村佳南よ」

 他の二人は野村と下田。あのとき北村と一緒に居た男子だ。


 演劇部は卒業した三年に多くの部員が居て、いくつもの芝居が高い評価を得ていた。

 そんな先輩たちに憧れて、北村は入部した。

 他にも下級生部員は居たのだが、先輩たちの理想主義についていけず、退部者が続き、残った部員は彼等三人だけだった。そこに、一年生三名が入部。

 なし崩し的に入部させられた岩井と宮下は、一年生とともに、北村の「芝居とは」のドヤ顔での弁舌を聞かされた。

 その最中、岩井は隣にいる下田に尋ねた。


「君達って北村さんの何なの?」

「まさか、彼氏とかに見えたりしてないよね?」と下田。

「あはは、そんなふうに見られたら、俺も嫌だな」と岩井。

「あの人って、仕切りたがり屋っていうかさ。そのくせ、やる事は残念で、けどクラスの奴等って、みんなやる気無くて。北村さんがやるって言うんだから任せとけばいーじゃん、みたいに、みんな無責任でさ、それで独りで空回りするのを放っておけなくて、ついつい野村と一緒に手を貸して、関わっちゃってるうちに、ずるずるここまで来ちゃった訳さ」と野村が言った。

 なるほど、あの劇の残念さは、そういう事だったのかと、納得する岩井。

「あの劇も北村さん、先輩たちに認めて欲しいって、クラス巻き込んだんだよ。先輩たちが三年一組の企画に行っちゃって、しかも、もうすぐ卒業で、自分達で後を引き継げますって言いたかったんだよね。だから三年に負けるのは当然だって納得してたけど、お前等に負けたのは相当悔しかったみたいだよ」と下田。



 その日から、活動としての演劇の企画が始まった。

 台本は何本か、北村自作のオリジナルがあるのだが、どれも残念過ぎる出来で、最後まで読むのも辛い。

「ストーリー展開が無理過ぎ」と宮下。

「会話とか空回りしてね?」と岩井。

 男子二人と一年生が北村に遠慮して言えなかったダメ出しが、岩井と宮下の口からバンバン出て来る。

 さすがに北村はキレた。そして言った。

「だったらあなた達、作って見なさいよ。劇の台本作るのって大変なんだから」


 岩井は考えた。そして宮下に言った。

「去年の文化祭の劇の台本作ったのって、宮下さんだよね?」

「あれは主に藤河が書いたのよ。漫画書いてるから、ストーリー作りには慣れてるって」


 その会話に一年生が割って入り、言った。

「藤河さんって、あのマッキー&タッキーの作者の人ですか?」

 どうやらファンらしい。そんな人が台本を書いてくれると、決まってもいないのに、一年生がはしゃぎ出す。


 すると下田が提案した。

「だったらいっそ、それを原作にしたらどうかな? よくあるじゃん。漫画原作のドラマとか」

「それだ」と一気に全員乗り気になる。

 さっそく藤河に交渉しようと、話が決まる。そんな中で岩井が下田に言った。

「ところでお前、マッキー&タッキーが、どんな漫画か知ってるのか?」

「何か問題のある作品なのか?」と下田。

「あれ、BLだぞ」と岩井。

下田は一言、「げっ・・・」



 宮下と岩井が藤河に原作話を持ち掛けると、早速藤河は乗り気になった。

 そして村上と芝田の所に来て言った。

「あんた達、演劇部の芝居に出ない? 今度マッキー&タッキー原作の劇をやるの」

「ちょっと、藤河」と宮下が藤河の暴走に慌てる。

「だってあれ、この二人がモデルなんだよ。イメージぴったりじゃん」と藤河。


「絶対嫌だ」と村上と芝田が声を揃える。

「いい加減、俺達をモデル扱いするの、止めてくれないかな。そう思われないようにって約束も、なし崩しになっちゃうし」と芝田が苦情を言う。

 やれやれ・・・と村上も溜息をつく。


「けど、中条さんはどうなの? お芝居、やりたいよね?」と藤河は食い下がる。

「私、お芝居はちょっと・・・」と中条。

「何でよ。写真のモデルはやったじゃん。小さいし童顔だし、イメージぴったりなんだけど」と藤河。



「子役ってんなら、もっと適役がいるじゃん」と横で聞いていた津川は言って水沢の方を見る。

 なるほど・・・と、藤河は水沢の所に行って、彼女に言った。

「水沢さん、芝居に出てみない?」

 水沢は何も考えずに「お芝居? いいよ」と笑顔で答えた。


 ところが宮下は「小依ちゃんは駄目よ」と却下を宣言。

「養い親は、ホモ役って言っても男よ。それが、汚れを知らない小依ちゃんに、頭なでなでしたりハグしたりするのよ。冗談じゃないわ」

「それ、今更じゃね?」と津川は言いながら、山本に抱き付き小島の頭を撫でている水沢を見る。

「いっそ、小島と山本に養い親の役をやらせたらどうよ」と岩井。

「けど、それだと親二人に子供一人じゃなくて、子供二人に親一人になるぞ」と津川。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ