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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第59話 学生の本分

 進路希望を四年制大学として提出した芝田は、兄から「ところで拓真は、どこの大学に行くんだ?」と聞かれた。

 四人で同じ大学・・・としか考えていなかった芝田。

「そういえば村上はどこを受けるんだっけ?」と芝田がつぶやく。

「お前、友達に流されて進路を決めるとか、計画性無さ過ぎだぞ」と芝田兄。

「まあ、そうだけどさ」と芝田。

「それに、村上君が受けるレベルの大学に、お前が簡単に受かるのか?」と芝田兄。



 翌日、芝田は、改めて村上に志望大学について話す。

「昨日兄貴に、どこの大学を受けるのかと聞かれたんだが、お前はどこを考えてるんだ?」

「県立大学を考えてるけどね。あそこなら、いろんな学部がある」と村上。

「つまり、みんなの希望に沿った学部があるって事よね」と秋葉が口を挟む。

「っていうか、俺がまだはっきり決めてないからなんだが・・・」と村上。

「芝田君の成績だと苦しいかも」と秋葉。

「私も危ないと思う」と中条も言った。

 とりあえず担任に相談し、進路指導部の教諭に聞きに行くようアドバイスを受けた。

 (中村先生、あまり進学指導に詳しくないのかも・・・)と秋葉は思った。


 進路指導室で常駐している相馬教諭に相談する。

 県立大を受験したいという四人に、相馬は言った。

「かなり勉強が必要だと思うよ。この間の中間テストの成績を見るとね。けど、あと二年あるから、これからしっかり勉強すれば大丈夫と思うよ。しっかり勉強すればね。大事な事だから二度言ったが・・・」

「先生、俺達の事、信用してないでしょ?」と芝田。

「だって芝田お前、中間試験で赤点とってるだろ? 受験もそうだが、進級して卒業する事も考えろよ」と相馬。



 四人は県立大学の過去問題集を借りて、村上のアパートで対策会議だ。

 進路指導教諭の話では、中条と芝田はかなり危ない。村上と秋葉が多少はマシといった所だという。

「それより、学部ごとに必要な教科が違うんだが・・・」と芝田。

「そっちを先ず決める必要がある訳だ」と村上。


「で、村上は何になりたいんだ?」と芝田。

「研究する人・・・かな」と村上。

「それだと理学部かな?」と秋葉。

「芝田君は?」と中条。

「元々工場に就職するつもりだったから、技術屋ってとこか」と芝田。

「じゃ、工学部だね」と村上。

「秋葉さんは?」と芝田。

「経済学部よ。ビジネスウーマンみたいなイメージ」と秋葉。


「里子ちゃんは?」と村上が聞いた。

「文学部かな?」と中条。

「就職先はあるの?」と秋葉。

「村上君のお嫁さんっ・・・って言いたいけど、今時、専業主婦前提って駄目だよね?」と中条。

「えーっと・・・」と村上は困り顔。

「村上君、そこは専業主婦でいいって言わなきゃ」と秋葉が言う。


「他人事だと思って・・・」と村上は口を尖らす。

「いや、他人事じゃないんだけど」と秋葉は芝田を見る。

 芝田は「文学部でも事務の口とか、あるんじゃね?」と話を逸らそうと試みた。それを見て、秋葉は芝田の耳を引っ張った。

「ってか秋葉さん、ビジネスウーマンじゃなかったのかよ?」と芝田。

 そんな彼等を見て中条は慌てて言った。

「あの・・・、私、ちゃんと共稼ぎで働くよ。小遣い制なんかも要求しないし」


「で、試験科目は何になるんだ?」と芝田。

 問題集の解説を見ると、理科系は英語と数学と理科との事。

「俺が得意なのは理科だけじゃん」と村上。

「俺だって数学だけだぞ」と芝田。

「お前は全科目でそれだけだろ? 俺は国語と社会が活かせないんだよ」と村上。

 秋葉は「私達は英語と国語と社会よね」

「社会がネックだよね」と中条。

 理科と社会はそれぞれ一教科の選択となっている。村上と芝田は理科で化学を、秋葉と中条は社会で日本史を選択する事にした。



「で、結局全部英語が必須かよ」と芝田。

「国内で研究するのに必要か?」と村上。

「外国で国際学会に出たりするから」と秋葉。

「そんなに偉くなるつもりは無いんだが・・・」と村上。

「中条さんは英語、できるんだよね?」と秋葉。

「私は単に覚えるだけだから」と中条。

「英語ってそういうものだよね?」と村上。

「とりあえず、やってみようよ」と秋葉。


 秋葉が参考書から単語を読んで他の三人が答える。答えられなかった単語を書き出す。

「随分あるな」と芝田・村上が頭を抱える。

「それは何度も書いて練習よ」と秋葉。

「憶えた先から忘れていくんだが?」と村上。

「語呂合わせで・・・ってのもあるわよ」と秋葉が言った。

「いい国作ろう鎌倉幕府・・・みたいにか?」と芝田。


 秋葉が語呂合わせの英単語集を出して、読み上げる。

 そのうち、芝田が突っ込みを入れだした。

「今年の秋はおーたむい・・・って幼児かよ?」

「カミュに傾倒・・・ってカミュって誰だよ?」

そう言う芝田に、秋葉は「詩人でしょ?」

「語呂合わせが無理矢理過ぎない?」と村上も突っ込みを入れた。


「まあね。けど英単語ってパターンがあるのよ。このコミュニケートにしても、コミュニケーション、コミュニティ、コミュニズム、みんなコミュって付くわよね?」と秋葉が解説した。

「確かに。カミュすげーな」と芝田。

「いや、カミュは語呂合わせのネタだから、本人は関係無いと思うぞ」と村上はあきれ顔で言った。


 秋葉は説明を続ける。

「つまりね、コミュってのは、仲間で会話するみたいなイメージの言葉で、そこからいろんな単語に派生するのよ」

「コミュ力とか言うし」と中条。

「日本語になってるじゃん」と芝田

「そこからコミュニケーションが対話、コミュニティが仲間グループ、コミュニズムが共産主義」と秋葉。

「共産主義って仲間か? 独裁者が好き勝手するイメージしか無いんだが・・・」と芝田が疑問を呈する。

「元々は仲間で財産共有するって話なんだよ。そのボスが独裁者になる訳だ」と解説する村上。

「いじめやる奴が、俺達友達だろ、とか言うみたいなもんだな」と芝田が言った。



 次に化学。

「元素記号ってどうやって覚えるんだよ。そもそも酸素は何でОなんだ?」と芝田が苦情を言った。

「酸素は英語でオキシジェン。その頭文字だ」と村上。

「なるほどな」と芝田。

「ナトリウムがNa、アルミニウムがAlなのと同じさ」と村上。

「そういう事か。けど鉄はアイアンなのにFe、金はゴールドなのにAuなのは何でだ?」と芝田。

「何でだろう?」と村上も首を傾げた。


 四人は悩んだ挙句、村上がネットで調べる。そして言った。

「どうやらラテン語らしい」



 日本史では秋葉が、人名を覚えにくいと、苦情を言った。

「家康とか家光とか、江戸幕府だとみんな家ってついて、名前が似ていてごっちゃになるのよ」

 村上が解説する。

「残りの一文字で見分けるんだよ。昔の侍は成人する時、普通父親から一文字貰うんだよ。それが代々受け継がれる。それが徳川だと家って訳。だから逆に、家とつけば徳川って解る」

「なるほどね。足利幕府だと義だもんね。けど、二代将軍の秀忠は?」と秋葉。

「あれは豊臣秀吉から一文字貰ったのさ」と村上。

「秀忠って秀吉の隠し子だったの?」と中条が口を挟む。

「そうじゃなくて、秀吉の養女と政略結婚して、義理の父って事になったのさ」と村上。


「なるほどね。秀忠って恐妻家で影が薄いイメージがあるものね?」と秋葉。

「嫁が権力者の娘とか。けどその豊臣も滅んだんだよな?」と芝田。

 村上は「だから実家を滅ぼした立場って事で、余計に気を使うのさ」と説明した。

「政略結婚めんどくせー。渡辺がああなるのも解るわ」と芝田は遠い目で言った。


 芝田がトイレに立つ。戸口まで三歩ほど行った所で、思い出したように振り返って言った。

「ところでオータムって何だっけ?」

 村上は笑いながら「芝田、鶏は三歩歩くと忘れるって、知ってるか?」

「俺の頭は鶏並みかよ」と芝田は口を尖らせた。



 週末が開けて月曜、いつものように雑談する四人だが、その日は直江が混ざっていた。

 直江はふと「ところで、お堅い人との恋愛ってどう思う?」と言い出した。

「七尾さんの事?」と秋葉が反応。

 直江は慌てて「何で七尾さんだと思うの?」

「そりゃ、うちのクラスで堅物と言えば七尾さんだろ」と芝田。

「ま、相手にそもそも恋愛する気があるかどうか・・・だろ?」と村上。

「だよな」と、直江は残念そうに頷いた。

 すると中条が口を挟んだ。

「けど七尾さん、直江君と居る時、すごく楽しそう」

「そう見える?」と直江。

「うん」と中条は笑顔で・・・。

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