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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第56話 新しい仲間達

新年度になって新入部員が入った部活はバスケ部だけではなかった。


漫研では、男子二名に女子一名が入部した。

人目を引いたのは男子のひとり、田中だ。額の両脇に剃り込みを入れ、眉は全剃り。さらにその制服だ。

上坂高校の制服は紺のブレザーなのだが、田中のそれは上着の丈が膝まであり、襟はしっかり立てていて、到底ブレザーに見えない。ズボンはやたら幅広。これで白ければ、暴走族の特攻服だ。

漫研の新入部員紹介で、いきなり「押忍」と来た。全員びびって後ずさりするが、もう一人の一年男子の鈴木曰く。

「怖がらなくていいですよ。ただのキャラ作りなんで」


八木がおそるおそる「その制服は?」と聞くと、田中は答えた。

「支給品がぬるいんで、少し改造したっス」

「改造ってレベルじゃないが」と八木。

「どう改造するとああなるの?」と藤河。

「布面積めっちゃ増えてるし」と三年女子。

彼女たち三年生はもうすぐ引退である。


「で、分野は?」と新部長の藤河。

「ツッパリ漫画っス」と田中。

 全員納得。

「それで、鈴木君の分野は?」と八木が聞く。

「異世界転生のファンタジーです」と鈴木。


 女子の高梨は暗そうな子で、目が前髪で半分隠れている。

「高梨さんの分野は?」と藤河。

「ホラーです」と高梨。

 三年生のひとり、都築が嬉しそうに言った。

「私もホラーなの。一緒に頑張ろうね」

高梨は「はい、先輩。それで、右肩にいる人は先輩の守護霊ですね?」

全員後ずさり。



 藤河は三人を案内すると称して、あちこち連れ回して先輩風を吹かせる。漫画のシーンの背景のネタの取り方を・・・という口実だった。

 二年二組の教室に連れ込むと、芝田と村上が居た。

「この二人がマッキー&タッキーのモデルよ」と藤河。

「マッキー&タッキーって何ですか?」と一年生たち。

「知らないの?」と藤河は残念そうに言う。

「普通知らないと思うよ。それは藤河さんが書いたBL漫画だよ」と八木が説明。


 村上と芝田は、口を尖らせた。

「モデルだと思われないようにって約束なのに、自分から宣言してどーすんだよ。藤河さん、約束守る気無いでしょ?」と村上。

「大体、絵とか名前とか変えるんじゃなかった? 文化祭で売ってたの、あのまんまなんだけど」と芝田も指摘。

「あ・・・」

「てへ、とか言って誤魔化したりしないよね?」と、村上と芝田。

「ごめんなさい。忘れてました」と藤河。



 そんな中、暗そうな女子が中条に興味津々そうに声をかけた。

「そっちが中条先輩ですね? 私、高梨って言います」

 口下手どうし共感があるのかと思いきや、そうでも無かったらしい。

 高梨は中条の右側を指して「すると先輩の右側に居る子がお兄さんですね?」


 周囲に居る一同後ずさりするが、村上は(去年の夏祭りの話が広まったのだろう)と冷静だった。

 だが、続く高梨の「お兄さんの隣に居る女の子が、霊界に居る今の妹さんですね?」の台詞に、村上も思わず後ずさりする。

 横では、わざとらしく目を逸らす秋葉。彼女を見て村上は言った。

「秋葉さん、あの時の事、あちこち言い触らしたでしょ?」

「えーっと・・・、てへ」と誤魔化す秋葉。



 その時、大野が教室に入ってきて田中を見つけて言った。

「何その子、気合入った格好してんじゃん」

「押忍」と田中。

「漫研の新入部員だよ」と八木。

「自分、田中と言います」と田中が自己紹介。

大野は「あんた、アタシの彼氏にならない?」


大野と付き合う事になった田中は、とりあえず放課後一緒に、と約束をした。

 生徒玄関で待ち合わせる。

 だが、そこに現れた田中が着ていたのは、普通の制服だった。あの特攻服まがいは学校のロッカーに・・・との事。大野は「親がうるさいのだろう」と無理やり自分を納得させた。

 だが、大野が「それじゃ、行こうか」と言うと、田中はカツラをかぶって剃り跡に付け眉毛をつけて、ツッパリルック封印。

「他校の不良に絡まれると厄介なんで」と田中。


そして翌日。

「それで速攻別れた訳?」と笑って大野に言う吉江。

 教室で、大野は周囲の女子に不満たらたら状態。

「恰好だけの奴なんて・・・」とこぼす大野の愚痴に、男子達は一様に(厚化粧命の大野さんが言うかよ)と思った。

「だから言ったじゃん。あれは漫画書くための雰囲気作りだって・・・」と藤河。

「ツッパリに憧れてるけど、リアルでやるのは怖いから、漫画で欲求満たして・・・って所じゃね?」と佐川。

「そもそも、今時ああいうのに憧れるとか、って感覚がどーかと思われ」と小島。

「気合入ってる奴っていーじゃん」と大野。

「気合い入れる方向性間違ってね?」と小島。



 写真部では男女一名づつの新入部員。

 男子が篠崎、女子が鈴村で、聞くと二人とも去年の文化祭を見たと言う。

「先輩達の写真、すごく良かったです」と声を揃える二人。

「女性の撮影の仕方、教えて下さい」と篠崎は清水に・・・。

「モデルとして綺麗に撮ってもらうのって、どんなふうにするんですか?」と鈴村は吉江に・・・。


 照れる清水と吉江は、二人とも「しっかり仕込んでやるから」と言って先輩風を吹かす。

そして清水は「女性を撮るもいいが、風景を撮るのも大事だぞ」

吉江は「私達も自分の写真を撮らなきゃだよ」

 二人とも柄にも無い事を言う。


 そのうち篠崎が吉江に「俺にも先輩の写真、撮らせてもらえますか?」

 満更でもない吉江だが、向こうで清水が鈴村に「先輩も私の写真、撮ってもらえますか?」と言われてデレデレしているのを見て、腹が立って清水の足を思い切り踏んだ。

そして吉江は「鈴村さん、言っておくけど、清水君は私のだからね」


 その後、恋バナでわいわいやってる女子二名を横目に、篠崎はそっと清水に耳打ちする。

「先輩も盗撮って、やるんですよね? 盗撮君の噂をちらっと・・・」

「ああいうのは、もう止めたんだ」と清水。

 篠崎は「あれだけのテクをお蔵入りとか、勿体ないですよ。再開しません? 実は俺もやるんですよ」

 篠崎はそっと一枚の写真を出す。清水はそれを見て顔色を変え、篠崎の両肩に手を置いて言った。

「悪い事は言わん。こういうのだけは止めておけ。シャレ抜きで犯罪だ」



 園芸部では女子一名が入部した。

 彼女の名は渋谷。文化祭でじゃがバターを売っているのを見て決めたとの事。入部して農業を極めたいと真顔で言う。

 片桐が聞いた事の無い農業機材や、肥料の種類の蘊蓄を延々と語るのを見て、冷や汗ものの片桐であった。

 渋谷の家は昔からの農家で、かつて大地主だったが、農地改革で過去の威光を失ったという。


 自分がそれを取り戻すのだと意気込むのを見て苦笑する渡辺に、渋谷は言った。

「渡辺先輩は会社を創るんですよね。どんなのを創るんですか?」

「今、検討している所だ」と渡辺。

すると渋谷は「だったら農業会社にしません? 耕作を止めた農家の土地を借り集めて大規模経営するんです」

 考えておくと、渡辺は苦笑しながら答えた。

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