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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第44話 ホワイト過ぎるクリスマス

 期末試験が終り、クリスマスが近付いた。秋葉と芝田、中条と村上は、それぞれデートの計画を立てた。

 芝田も村上も、待ち合わせの時間と場所を前日に電話で決める時、プレゼントを用意していない事に気付き、午前10時に店が開店してからどこかで買って・・・という事で、11時に・・・となった。

 場所は・・・となった時、それぞれ中条と初めて三人で入った、あのケーキ屋が頭に浮かんだ。

「それじゃ、11時にケーキ屋の前で」・・・。芝田は秋葉に、村上は中条に、全く同じ内容を伝えて電話を切った。



 そして当日。朝から大雪になり、寒さと吹雪の中を、四人はそれぞれのデートに向かった。

 村上と芝田は、それぞれデパートで10時の開店とともに、プレゼントを物色する。もちろん、村上は芝田が、芝田は村上が、そんな事をしているとは思いもしなかった。

 やがて買物を終えた芝田は時計を見る。10時40分には着きそうだ。まだ時間には早いが、秋葉は中条ほど寛大ではない。待ち合わせで女子より後から来た・・・で後々まで根に持たれたという話を思い出し、とりあえず待合場所に向かった。


 吹雪の中、誰かが先に来ている・・・と芝田は焦ったが、そこに居たのは中条だった。芝田はほっとするとともに、彼女に話しかけた。

「どうしたの? もしかして村上と待ち合わせ?」

「うん」と中条は俯き加減。

芝田は「村上のやつ、こんな吹雪の中を・・・」

「私が早く来過ぎたの」と中条。

「待ち合わせ時間は?」と芝田が問うと・・・。

「11時」


 この吹雪で後20分、彼女を立たせておくのはしのびないと、芝田は思い、言った。

「中に入って待とうか」

「うん」と中条は俯き加減。



 中に入って店員に、待ち合わせしているので玄関先が見える席を・・・と言うと、二階に案内された。窓際で、すぐ下が玄関だ。

 とりあえずコーヒーを注文し、芝田が奥の窓際の席に座ると、中条は対面ではなく、隣の席に座って、嬉しそうに芝田の腕を掴んだ。久しぶりだから嬉しいのか? 長いこと構ってやれなかったのが寂しかったのか?

 芝田は思わず中条の頭を撫でると「もしかして、村上とうまくいってないとか?」と聞く。


「そんな事無いよ。村上君優しいし、けど・・・」と中条。

「けど?」と芝田。

「芝田君がいないと、やっぱりちょっと寂しい。三人で居た時、すごく楽しかったから」。思わず抱きしめそうになるのを、芝田は堪えた。

中条は「ねえ、芝田君」

「何だ?」と芝田。

「秋葉さんと居て、楽しい?」と中条。

 芝田は中条を見て、こいつに変な気遣いは無用だと感じた。「楽しいぞ。やたら人をからかって来る所とかな」と言って笑った。

「秋葉さん、綺麗だよね」と中条は自然な笑顔で芝田に言った。そして「よかったね、芝田君」

 芝田はまた中条の頭を撫でると「村上と居て楽しいか?」と聞いた。

「楽しいよ。芝田君が居た時ほどおしゃべりは弾まないけど、頭を撫でてもらうのがすごく気持ちいいの」と中条。

芝田は「そうか」と一言。


 芝田は二人のあの部屋での緩い時間を想像し、微笑ましいと感じた。続けて中条が芝田に訊ねた。

「ところで芝田君って、村上君とはどんなふうにして仲良くなったの?」

「そうだな。あれは小学校五年の頃だったかな」と、芝田は話し始めた。



 芝田達が高学年になって始まった歴史の授業が発端だった。平安時代を習う中で、真言宗という用語が出た時、それが村上の名前と同じだという事で、何人かの生徒が、からかいのネタにし始めたのだ。

 村上が負けずに言い返すうちに、いじめへとエスカレートし始めた。


「それで俺、あいつに聞いたんだよ。親は何でそんな名前つけたのかって。そうしたら村上の親の名前が倫也(ともや)って言って、ともは倫理の倫。つまり村上の爺さん、倫理とか道徳とかに拘る人で、自分の子供も・・・って育てられたらしい。それで・・・」と芝田。

「お父さんも村上君に道徳的な人になるよう?」と中条。

「それがさ、村上の親は道徳ってのが大嫌いに育ったんだそうだ。つまりさ、道徳って昔の人がこれが正しい・・・って言ったのを受け継ぐだけで、理由とか考えないだろ? けど正しさってのは、何でそうなのかって理由、つまり論理が大事だと・・・」と芝田。

「人扁の倫じゃなくて言扁の論?」と中条。

「そう。それで言葉による真理って事で真言(まこと)」と芝田。



 芝田は、そんな村上の名前の由来を知った後、村上と一緒になっていじめグループに対抗し、ついには四人を相手に殴り合いになった。

 村上が二人を引き受けて殴られている間に、芝田が二人を叩きのめし、次いで後の二人を、という具体で、村上もそれなりの怪我をしたのだが、いじめグループのリーダー格の母親がPТA会長で市会議員。四名に暴行し怪我を負わせたとして問題にされた。

 この時、村上の父親が教師生徒の前で、相手四名の父兄を相手に激論し、遂にはPТA会長を論破して泣かせたという。


「それで、いじめはどうなったの?」と中条

「担任が生徒全員に、親から自分の名前の由来を聞いて作文を書くようにって、宿題を出して発表させたんだよ。それで村上も、さっき言った事書いて、いじめは収まったんだけどね、なんせ相手が市会議員だから、村上の親は居ずらくなって、家が道路工事の敷地になって売ったのを機会に、あのアパートの一部屋買って村上を住まわせて、親本人は全国飛びまわる部署に転属に・・・って訳だ」と芝田。

「それであの秘密基地?」と中条。

「市会議員はその後の選挙で落ちて、ただの人になっちゃったけどね」と芝田。


「じゃ、村上君のお父さんの事、よく知ってるんだ。それで村上君のことを弟だって言うようになったの?」と中条。

「中学に入った頃まで盛んに言ってたよ。けど、あまり言わなくなった」と芝田。

「何かあったの?」と中条。

「あいつが言ったんだよ。国どうしの関係で自分達は兄の国だ・・・とか言っちゃうどこかの人達みたいだ・・・って」と芝田。

「それは酷い」と、中条は大笑いした。



 話をしているうちに彼等は、入り口に来る筈の待ち合わせ相手の事を忘れていた。

 中条がそれに気付き、時計を見ると約束の五分前。まだ時間になっていない事に安心し、その後、窓の下を気にしながら談笑を続けた。

 その間、入り口では・・・。



 10時50分に村上到着。まもなく秋葉到着。

 二階席では、芝田と中条が小学校の頃の話に夢中になっていたが、彼等は知る由も無い。

 相変わらずの吹雪の中、この寒さの中に立つ秋葉を気遣った村上は、中で待つ事を提案し、店に入って一階の入り口すぐの席に座った。

 もうすぐ来ると思うが、多少遅れるかも知れない・・・という事で、とりあえずコーヒーを注文し、談笑で時間を潰した。


 秋葉は村上に聞いた。「ところで村上君って、芝田君とはどんなふうにして仲良くなったの?」

「そうだね。あれは小学校五年の頃だったっけ・・・」



 話をしながら外をちらちらと確認したが、芝田も中条も入り口には姿を現さない。10分が過ぎ20分が過ぎて、次第に二人は不安になった。

 中条に連絡してみる・・・と言って村上は携帯を探し、家に置き忘れた事に気付いた。

「村上君、デートで携帯を忘れるって、ちょっとどうかと思うけど」と秋葉。

「ごめん。プレゼント買ってなくてさ、待ち合わせ前に買わなきゃ・・・ってので頭が一杯で、つい」と村上。


 秋葉は自分が芝田に連絡すると言って、スマホを出して電話をかけたが、出ない。

「そういえば中条さんって携帯持ってたっけ?」と秋葉。

「最近買ってもらったんだよ。ガラケーだけどね」と村上。

「じゃ、そっちに電話してみる。番号教えて?」と秋葉。

「それが、電話帳機能に入れてるんで、憶えてなくてさ」と村上。

 とりあえず秋葉は芝田の携帯にメールを打ってみたが、返事が来る様子は無かった。



 その頃、二階席の芝田達は・・・。

 あれから、窓の下の入り口に注意を向けつつ談笑を続ける芝田と中条だったが、秋葉も村上も入り口に姿を現さない。10分が過ぎ20分が過ぎて、次第に二人は不安になった。

 秋葉に連絡してみる・・・と言って芝田は携帯を探し、家に置き忘れた事に気付いた。

「ごめん。プレゼント買ってなくてさ、待ち合わせ前に買わなきゃ・・・ってので頭が一杯で、つい」と芝田。


 中条は、自分が村上に連絡すると言って、携帯を出して電話をかけたが、出ない。

「そういえば中条さん、携帯買ってもらったんだね」と芝田。

「村上君と、ちゃんと付き合うようになったって事で、お祖父ちゃんがね。秋葉さんには私が電話してみる。番号教えて」と中条。

「それが、電話帳機能に入れてるんで、憶えてなくてさ」と芝田。



 時間がどんどん過ぎる中、彼等の不安は募った。何か事故にでも巻き込まれたのか。秋葉は中条の家電にかけてみたが、彼女の祖父も留守らしく、誰も出なかった。

 秋葉や芝田の家も留守で、誰も出ない。

 芝田は、秋葉の電話番号なら杉原が知っている筈だと提案したが、中条の携帯は買ったばかりで、電話帳には村上の携帯しか登録されていない。



 そんな中、打開策を思い付いたのが秋葉だった。ポケットを探して見つけたのが、鹿島の名刺だ。

「鹿島君なら、中条さんの携帯番号知ってるかも」と秋葉。

「買ったばかりだよ」と村上。

「とにかく、かけてみようよ」。秋葉が名刺の番号に電話する。


鹿島が電話に出る。

「はいこちら、探偵は何でも知っている、の鹿島英治探偵事務所。ご依頼ですか?」と鹿島の声。

「私、秋葉だけど」

「あれ、秋葉さん、芝田とデートじゃなかったの? あ、何で知ってるかって?、それは我が灰色の脳細胞を駆使した名推理で・・・」と鹿島。

「私は芝田君の彼女で今日はクリスマス。子供でも解るわよ。それで・・・」と秋葉が話す中、スマホから鹿島の声に混ざって、佐川の「おいこら鹿島、手を離すな」という声が聞える。


「何やってるの?」と聞く秋葉に鹿島は「渡辺のマンションでパーティーだよ。クラスの奴らは大半来てる。秋葉さんも芝田連れてきなよ」

「その芝田君とすれ違いになって、電話にも出ないの。もしかしたら中条さんと一緒にいるかも知れなくて、鹿島君、最近中条さんが携帯買ったの知ってる?」と秋葉。

「知ってるよ。探偵は何でも知っている・・・ですから」と鹿島。

「番号教えて」と秋葉。


 鹿島はノートパソコンを開いてデータを探す。秋葉の携帯に鹿島の背後からの小島の「おいこら鹿島、仕事サボるな」という声が聞える。

 秋葉は鹿島が告げた番号をメモし、電話をかけた。



 二階席の中条の携帯が鳴った。

「もしもし」

「中条さん? そこに芝田君居る?」と秋葉の声。

 中条は嬉しそうに「秋葉さんだよ」と言って、携帯を芝田に渡した。


「秋葉さん? 芝田だけど今・・・」と芝田。

「今どこに居るのよ」といきなり秋葉の怒鳴り声。

「いや、待ち合わせのケーキ屋だよ。約束の20分前に来て待ってるよ。秋葉さんこそどこに居るの?」と芝田。

「芝田君居ないじゃない。ケーキ屋の入り口脇の席でずーっと待ってたのに・・・」と秋葉。

「こっちは二階の入口真上の席で見ていたんだが、いつ来たの?」と芝田。

「約束の10分前」と秋葉。

「あ・・・」

ちょうど小学校の時の話題で、入り口から目を離した時間だった事を思い出す芝田。


 秋葉は続けた。

「それで芝田君、スマホは?・・・」

「家に忘れた」と芝田。

「何やってるの。デートで携帯忘れるとか・・・」と秋葉。

「ごめん。それで、そこに村上は居るよね?」と芝田。

「居るわよ」と秋葉。

「奴の携帯が繋がらないんだが・・・」と芝田。

「家に忘れたんだってさ」と秋葉。

「何やってんだか、あいつ。デートで携帯忘れるとか・・・」と芝田。

「あんたが言うな!」と秋葉の怒鳴り声で通話が切れた。



 芝田は中条を見て「村上達、この下だってさ。さて、選手交代だ。奴とのデート、楽しんできなよ」と中条の頭を撫でながら笑顔で言った。

 だが中条は(これでまた芝田君とはちゃんと会えなくなる)という想いが膨らんだ。これっきりは嫌だ・・・。

 中条はいきなり芝田の襟を両手で掴むと、思い切り引きよせ、強引に唇を重ねた。

 そして視線を階段降り口に向けると、そこには呆然と立ち尽くす秋葉と、その背後に村上の姿があった。

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