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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第37話 探検!オタク部屋

 新学期が始まってしばらく経った日、「小島、お前に頼みがある」と山本が、深刻そうな表情で小島に頼み込んでいた。

「金なら貸さないぞ」と冷淡に突き放す小島に対して、山本は言う。

「金なんかいらないからゲーム貸してくれ、色々持ってるんだろ?」

「何で俺が、お前にゲームを貸さなきゃいけないん?」と小島。

「俺ん家で水沢とするんだよ」と山本。

「何で俺が、お前と小依たんの自宅デートの面倒見なきゃいけないん?」とますます冷淡な小島だったが、山本の「あいつ最近、誘ってくるんだよ」の一言で顔色を変えた。

「誘う・・・って何を?」と小島。

「だから・・・アレだよ」と山本。

「な・・・」


 これが普通のカップルなら、ただののろけで済むのだが・・・。山本は続けた。

「山本君、私のこと欲しくないの?・・・とか言って、邪けんにすると泣きそうになるし、一緒にゲームでもして誤魔化すしか無いだろ。それで俺の持ってるやつはやり尽くして、しかもあいつ、やたら上達早くて、格ゲーなんか俺より強くなりやがって」と山本。

 そこに横から「何の話?」と水沢が割って入る。その笑顔にたちまち軟化した小島は水沢に言った。

「山本に俺の持ってるゲームを貸そうかって話だお。小依たんとの自宅デートに一肌脱ぐお」

 (調子のいい奴)と山本は呆れたが、水沢は「じゃ、小島君ん家に借りに行くの? 小依も行く」とはしゃぎ出した。



 三人が小島の家に着く。玄関に入ると小島の妹に出くわした。

 兄の好みそのままの水沢を見た小島妹は「何このロリっ子は・・・」と不審がるが、後から山本が入って来るのを見て、少なくとも兄の彼女ではないと納得して、自分の部屋に引き上げた。

「あれが小島の妹か。聞きしに勝る小汚いギャルだな」と山本。



 小島の部屋に入る。雑然と積まれた大量の漫画本にゲームソフト。棚にあるいくつものフィギュアを見て、水沢は歓声を上げた。

「着せ替え人形だ。あれで遊んでいい?」とはしゃぐ水沢に、小島と山本は青くなった。

「ダメ、絶対!」

「えーっ? 着せ替え人形だよね。だって布の服着てるもん」と水沢。

 何も知らない女子があれを脱がそうものなら大変な事になると、二人は焦った。


「あのね、小依たん。あれは人形じゃないお。異世界で魔王の呪いにかけられた女の子だお」と小島。

「そうなの?」と水沢。

「勇者が奪還して、魔王の手の届かないこの世界で匿ってるお。けど魔法は消えてないから、うっかり触ると小依たんも、魔法であんな姿になっちゃうお」と小島。



 とりあえずフィギュアから水沢の関心を逸らす事に成功すると、山本はゲームを物色する。

「先ず格ゲーだよな。それとシューティング、後RPGも・・・」


 水沢が横から「ねえ、これは?」と恋愛シュミレーションゲームを出すと、山本が「んな糞つまんねーゲームいらねーよ」とにべもなく却下した。

 だが小島は「山本も少しは、こういうので女子の気持ちを学んだほうがいいと思われ」

 山本は「お前、オタクに彼女はいらないとか言ってるくせに」と言うと、小島は「二次元女子はリアルとは別だお」

「それに小島君、小依には優しいもんね」と水沢。

 小島と水沢で「ねー」とやっているのを見て、山本は「小島のは単に甘やかしてるだけだろ」とぶつぶつ言う。

 その間に小島は、ゲーム機に恋愛ゲームをセットし、山本にコントローラーを持たせてゲームスタート。フラグが出ると山本に選ばせて、残念な結果が出る。小島がヒロインの気持ちを代弁する能書きを垂れるのを、水沢が笑いながら見た。


 その後、山本と水沢は紙袋ひとつ分のゲームを持って、小島家をあとにした。



「で、どうだったの?小島のオタク部屋訪問は」と、体育後の女子更衣室での着替え中に聞いたのは、吉江だった。

 水沢は「面白かったよ。中二病ごっことか」

 女子全員がどっと笑った。

「どんな設定?」と吉江。

「異世界の女の子がね、魔王の呪いで人形にされてるの。それを勇者様が奪還して、魔王の手の届かないこの世界で小島君が匿ってるの。魔力を封じ込めるガラスケースの中に何人居たっけかな・・・」と水沢。


 それを聞いて女子達は残念そうに溜息をついた。

「それ、エロフィギュアだから。服を脱がすと、あんな所やこんな所がリアルに表現されてて、エッチな遊びに使うの」と藤河が解説する。

「そうなの?」と聞き返す水沢に「だから言ったでしょ。小島はロリコンで、小さい女の子にエロい事したい危険人物だって」と宮下。

 だが水沢が「でもそれ、二次元と同じだよね? 小島君、二次元とリアルは別だって言ってたよ」と言うと、宮下は反論できなかった。


 だが続けて水沢は「けど山本君も、そのエッチなフィギュアで遊んでるのかな? 山本君もエッチな事したいのかな?」と溜息をつく。

 岸本は「フィギュアはやらないと思うけど、山本君だって男の子なんだから、そりゃエロい事くらいやりたいでしょうね」と言った。

「けどこの前、小依のこと欲しくないの? って聞いたら、すっごく迷惑そうだったよ」と更に溜息をついた。

「それは照れてるだけよ。あいつお子ちゃまだから」と岸本。

「そうなのかなぁ・・・」と水沢。



 その後しばらく経った日曜。いつものように、山本家に遊びに来た水沢。山本の部屋のベットに秋用の布団が敷いてある。

「ふかふかのお布団だぁ」と水沢は喜び、そこに飛び込んで添い寝をねだる。

 山本がその隣に体を横たえ、両手を上げて大きく伸びをした瞬間、水沢は山本の両手首に金具をひっかけてベットの上に固定した。

 驚いて山本が見ると、何と手錠である。


「な・・何だよこれは!」と山本。

「あのね、山本君がなかなか小依のこと、求めてくれないから、岸本さんに相談したの。そしたらこれ使うといいよ・・・って貸してくれたの」

 そう言って水沢は山本のズボンを脱がしにかかった。

「いや、これ俺が求めた事にならないから、とにかく外せ、な、な・・・」

 こんな初体験は嫌だと、山本も必死だ。


「でも、外しても山本君、求めてくれないよね」と口を尖らせる水沢。

「求める。何でも言う事聞く。男どうしの約束だ」と山本。

「小依は女の子だよ」と水沢。

「とにかく外せ。これじゃ逆レイプだ。むしろ犯罪だ」と山本。

 その言葉に不安になる水沢は「もしかして小依のこと嫌いになった?」

 悲しそうな水沢の表情を見て、山本も躊躇したが、ここは心を鬼にしてもと「こんなのでされたら、俺だって嫌いになるぞ」と言う。


 水沢はようやく「解った」と寂しそうに言って、手錠を外そうとカチャカチャするが・・・。

「外れないよ」と水沢。

「鍵はどうした鍵は」と山本。

「貰ってないよ」と水沢。

 山本は岸本の面白がっている表情を思い浮かべて「あの女は・・・」と呟いた。


 水沢はスマホを取り出して岸本に連絡した。やがて玄関のチャイムが鳴る。水沢は転がるように階段を駆け降り、岸本を連れて部屋に戻った。

 岸本は、ズボンを脱がされた状態でベッドに転がされている山本を見て、クスッと笑って一言「あら可愛い」

 山本はじたばたしながら「鍵なら玄関で受け取れよ。何でここまで連れてくるんだよ」と叫んだ。

「あら、嫌だったかしら。じゃ私は帰るわね」と岸本は楽しそうに水沢に鍵を渡す。


 嫌な予感がした山本は、岸本に「ちょっと待て。ここまで来たなら鍵外して行けよ」と叫んだが、岸本は水沢に「鍵を外すのは全部終わってからにしなさい」

 山本はこれを聞いて唖然。

「でも山本君、小依のこと嫌いになるって・・・」と言う水沢に、岸本は「ならないわよ。だって男の子だもん。それにね・・・」と言って水沢にひそひそと何かを耳打ちした。

 それを聞いて水沢は、にっこり笑って「うん、解った」



「それで、その後どうなったの?」と吉江が訊ねる。

 翌日の教室では、岸本の周りに女子達が集まって、前日の山本と水沢の件で大盛り上がりだ。

 山本は少し離れた自分の席で、うんざりしたように机にうつ伏している。

「岸本さん、帰るふりしてドアの外で全部聞いてやがった」と山本。

 山本の横には内海と水沢と小島がいる。岸本が話を続けた。


「それでね、水沢さん、上に乗って頑張るんだけど、なかなかうまくいかなくて、痛そうにしてる訳よ。それで山本君、痛いなら止めろって言うんだけど、水沢さん無理しようとするのよね。で、結局山本君が、お前が痛いと俺も痛いから・・・って言って、水沢さん泣く泣く諦めたって訳」

 それを聞いて女子達は声を揃えて「山本君やっさしー」

 岸本は「その後、手錠外したんだけど、水沢さんすごくしょげてて、山本君、慰めるの大変だったんだから」

 盛り上がる女子達を横目に山本は「もー嫌だこいつら・・・」



 横に居た小島は「で・・・小依たんはまだ清い処女なんだよね」と心配そうに聞く。

「そうだよ」と山本。

 だが小島は「でも、山本のアレが小依たんのアレに・・・・うぅー・・・・・っ」と机にうつ伏して呻く。それを楽しそうに頭を撫でる水沢。


 山本は小島を横目に「勝手に呻いてろ」と一言言うと、水沢に向き直って、言った。

「ところで水沢、あの時岸本さんに耳打ちされてたの、何て言われたんだよ」

 水沢は楽しそうに「聞きたい?」

「聞く権利はあると思うぞ」と迫る山本。

 水沢は言った。

「あのね・・・そうすれば山本君を悪者にしないで済むよ・・・だって」



 それを聞いて場がしんと静まった。

 次の瞬間、山本は哀しそうな表情でおもむろに立ち上がると、水沢を抱きしめた。そして言った。

「そんな事、お前が考えなくていいんだよ。この馬鹿」

 水沢は一瞬驚いたが、すぐに悲しそうに目を伏せて言った。

「だって・・・だって怖かったんだもん」


 水沢は幼い頃両親を亡くし、二人の兄に育てられた。

 彼等に甘えて育った水沢は、男性に対して悪い印象を持たずに成長し、小学校で男子生徒とも無理無く打ち融けていた。

 だが中学に入ってまもなく、彼女に好意を持つ男子生徒が現れた。水沢はそれを嬉しいと感じていたが、その頃には、小さな体型と幼い容姿が際立っていた水沢である。

 彼の水沢への好意は「ロリコン」と周囲に認定され、彼はたちまち苛めの対象となった。水沢にはどうする事も出来ないまま、彼は登校できなくきなり、転校して水沢の前から消えた。

 そして同じ目に遭う事を恐れた男子達は、水沢を避けるようになった。



「ちょっと待ってよ。確か水沢さん、ロリコンが何なのか知らなかった筈よね?」と篠田が問い質す。

 水沢はあっけらかんと笑顔で「知らない振りしてたの」と答えた。

 全員唖然とし、溜息をついた。

「そりゃこの、社会総ぐるみでロリコン撲滅とか叫んでる御時世、ロリコンが何なのか知らないなんて、有り得ないわな」と内海。

「それだけ水沢さんには、辛い過去だって事だろうよ」と清水。


 水沢は続けた。

「でね、だから小島君がロリコン認定なんて平気だ・・・って言ってくれたの、すごく嬉しかったの」

「だからあのデブオタにあんなに懐いてた訳か」と大野。


 だがその小島は残念そうに「けどやっぱり、デブを彼氏にするのは嫌だったお?」

「そういう訳でも無いんだけどね」と水沢が言うと、小島は「えっ?」と驚いて水沢を見た。

「小島君、私に手を出さないって断言してたでしょ?」と水沢。

「ちょっと待って、じゃ、もしああ言わなかったら、俺の彼女になってくれてた?」と聞き返す。

 水沢は少し考えると、笑顔で「なってたかも知れないし、なってなかったかも知れない」


 ガーン・・・という表情で小島は頭を抱えた。

「可能性はあったんだ・・・俺のばかぁ!」

 周囲の男子は口々に「自業自得だな」「デブのくせにカッコつけるからだ」「同情の余地無し」と散々に言う。

「いいんだ。オタクに彼女なんていらないもん」と後を向いて背をかがめていじける小島の頭を、楽しそうに撫でる水沢。

 それを横目に「アホらし・・・」と呟く山本。



 翌朝、目を覚ました山本の脳裏には、昨日のあの、クラス全員の前で水沢を抱きしめた記憶が蘇っていた。

 みんなの前で何という恥ずかしい事を・・・。これが世に言う黒歴史という奴かと、山本は昨晩から憂鬱な気分が続いていた。

 水沢がいつものように迎えに来る。いつもに増して元気だ。こいつには昨日の事が、よほど嬉しかったのだろう・・・と彼女の様子を見る山本。

 それに関しては満更でもないのだが、他の奴らの顔が目に浮かぶと、暗澹たる気分になる。


 学校に着いて、玄関で上履きに履き変え、教室に向かいながら水沢は言った。

「今度、戦隊物の映画があるけど、一緒に行かない?」

 夏祭りの戦隊物ごっこを思い出しながら、山本は言った。

「今やってる奴の映画版だろ?」

「評判いいみたいだよ」と水沢。

「やる事も無いし、行くか」と山本。

「やったー。じゃ時間確認するね」と言って水沢は、スマホを出して検索しようとする。


 だが、その画面をちらっと見て、山本の顔色が変わった。

 水沢のスマホを引ったくって、待ち受け画像を見ると、紛れもなく昨日、自分が水沢を抱きしめた時の写真ではないか。

「な・・・何だよこの待ち受けは・・・」と聞くと、水沢は楽しそうに言った。

「昨日データが回ってきたの。女の子達みんな持ってるよ」

 山本はそれを持って教室に走った。



 山本は荒々しく教室のドアを開けて「誰だよこの写真撮って拡散したのは!」と叫んで、水沢のスマホ画面を突き出した。

 そこに居た女子達が一気に盛り上がる。

「ヒーローキター!」

「みんな感動したんだよ。かっこよかったって」とはしゃぐ女子達。

「そんな感動いらねーよ」と山本。


 岸本は楽しそうにふざけてみせる。

「何言ってるの。あのスカートめくりなんてやってたガキンチョが、今じゃこんなにも男になって、母さんはもう思い残す事は・・・」

「誰が母さんだ、誰が!」と山本は岸本に言うと、更に女子全員に向かって言った。

「ってかこれ盗撮だろーが。お前ら清水の時何て言ってたよ。盗撮は犯罪だって・・・」


 その時、後から水沢が山本の上着の裾を引っ張った。

「ねえねえ山本君、その写真撮って拡散したの、その清水君だよ」

「な・・・・」

 山本は絶句した。そして足音を偲ばせて反対側のドアから逃げようとしている清水を見つけて叫んだ。

「おいこら清水てめー、待ちやがれ!」

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