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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
340/343

第340話 お姉ちゃんの男友達

芝田兄の友人、松江の相談を受けた村上たち。

彼等は、芝田兄の友人高松が、ウーマニズム団体による結婚契約書により拘束された結婚生活に苦しんでいる事を知り、渡辺の会社で法律相談を行う片桐を紹介した。

ウーマニズム団体の事務所で、その指導者と交渉し、結婚契約の破棄への同意を勝ち取った片桐。



交渉を終えて事務所に戻る車の中、高松は片桐に言った。

「ありがとうございます」

「これから、どうしますか?」と片桐。

「離婚したいです。夫婦関係の修復はもう不可能でしょうから。結局、俺が彼女を好きだって思ったのは勘違いだったんでしょうね」と高松。


「好きっていうのは一緒の時間を過ごして作っていくものだと思います」と片桐。

「俺はそのつもりだったんですけどね」と高松。

片桐は「両方がその気持ちを育てる意思を持つ事が大事なんです。一方が相手に対して、自分にそう思わせてくれるのを期待するのは夫婦じゃないです」



高松は言った。

「結局、俺って単に体を求めただけだったのかもしれない。セックスしていいのは結婚した相手とだけですから」

「そんな事は無いと思います」と片桐。

「けど社会的にそういうお約束になっていて、それで男性を縛るんですよね。俺、彼女が初めてでした。それで必死になってあんな契約まで」と高松。

「童貞って、知らないが故の憧れってあって、それに踊らされるんですよね。それに付け込んで男性を躍らせて支配しようとする発想です」と片桐。

「それは怖いですね」と高松。



片桐は高松に「契約を受けた事で彼女、喜びましたか?」と問う。

「喜んでましたよ。それを見て俺も嬉しかった」と高松。

「男性が女性を喜ばせたいのは本能ですよ」と片桐。

「けどそれって、そうすれば好きになって貰えてセックスが出来るから、なのかも知れない」と高松。


片桐は「どっちかなんて意味はあるのかって友達が言ってました。互いに喜んで貰えて互いに好きになって、互いに優しくなって、相手の言葉に耳を傾けて、そういういい関係を作るって意味では同じなんだって」

「けど、そうはならなかったんですよね。俺が人を見る目が無かったって事なんですよね」と高松。

「それでいいんだって吹き込む人達の問題でもあると思います」と片桐。



高松は片桐に「あの契約って何だったんでしょうか」と問う。

「恣意的な感情を根拠として契約で規定するというのはそもそも間違いですね。契約は具体的な行為を定めて、守ったか否かを外部から見て明確にできるもので無くては駄目です。ヘイトだとか偏見だとか言って、それが具体的に何を意味するのかを明記しないものもありますが、そういう法や契約は欠陥です」と片桐。

「そういう法律とかがあるのは、知識が無い人が作ったんでしょうか」と高松。

「というより、その欠陥を利用して他者を支配したい人が作るんですよ。言わば確信犯です」と片桐。


「俺、精一杯優しくしたつもりだったんですよね」と高松。

「その優しさが契約に縛られた故のもの・・・と解釈されたのでしょうね」と片桐。

「契約って、義務として、そうしなければいけない。けど優しさって、そうしたいからする。それを義務として強制するって、おかしいですよね」と高松。

「そう思います。結婚って、優しくして優しくされて・・・って、互いに優しさを交換するものです。義務として強制した優しさなんて哀しいです」と片桐。

「それは支配ですものね」と高松。

片桐は言った。

「長野宣子という脳外科医が、家庭は妻の所有物で夫は寄生虫だ・・・とか言って批判されましたけど、寄生虫って宿主から養分を吸うんですよね。だったら養分って何かって事になると、お金ですよね。それは男性が稼ぐから、昔は男尊女卑だった。けど、あの時代だって妻を寄生虫だなんて思う人は居ないし、仮に居ても口には出しません。あの人が言っている事は家庭を構成する片割れである夫に対する人格的支配の主張で、それ自体が犯罪的です。けれども悪質なのは、その根源が夫に対する憎悪なのですよ。あれはまさにヘイトスピーチで、社会的に糾弾されるべき案件です」



そして高松は片桐に「あの、こういう事を女性に聞くのもどうかと思いますけど」

「構いませんよ」と片桐。

「風俗をどう思いますか?」と高松。

「・・・」

高松は「童貞の知らないが故の憧れに踊らされる・・・って話。風俗で童貞を捨てるのはどうなんだろう・・・って」


片桐は言った。

「私は必ずしも悪い事ではないと思います。買春とか社会的にすごく批判されるし、素人童貞とか言って馬鹿にされてりしますよね。けどそれって、そういう憧れで男性を躍らせて支配したい人達が、そういう邪な目的で広めている部分があるんじゃないでしょうか。確かに背後に暴力的な人達が居るリスクとか、そういう女性に本気になって迷惑をかけてしまう事もあるでしょう。家庭を持つ人が入り浸るのも問題でしょう。けど、それは向き合い方次第だと思います」

「そうですよね」と高松。

「それに、"タウンハンター"の"犀場竜"とか、"ツクネ"の"爆雷也先生"とか、ああいう所の女性が大好きな漫画のヒーローとか居ますし」と片桐。



片桐は、自分の脳内にもかつてあった男女関係のイメージを想った。

確かにあれは「嘘」では無かったのかも知れない。だが、それは確かに「何か」を歪めてきたのではないのか。

そんな想いで片桐は言った。


「男性にとっての人生の目標って、セックスする事だ・・・って、そう思ってる女性は多いです。だから、ある程度の好感を持てる男性を仕分けして、チャンスをあげるんだと。機嫌をとって認めて貰い、御褒美としてのそれが貰えるかもしれないチャンスを・・・。傲慢ですよね」

高松は「それが人生の目的・・・って、それに近い感覚はどこかにあったのかも知れない。けど、言葉にすると哀し過ぎますよね。それに、経験した後で言うのも何だけど、今にして思えば、あんなのにそれほどの価値が・・・って」


「それが相手にとって人生の目標で全てだと思っているから、女性はパートナーにお金や時間や労力といった全ての資源を自分に差し出させる権利がある・・・と思っているのでしょうね。だから、ある評論家が、女性は全ての資源を自分に差し出す男を好きになるのだ、と言っていました。多く持っていても差し出さなければ意味は無いと。そうやって男性に根こそぎ差し出させて吸い尽くそうとする人を、タガメ女って言うんですよね」と片桐。

「男性には、仕事とか趣味とか、もっと創造的な事に使う部分は必要ですよね。社会で活躍するスキルを磨くとか」と高松。

「だから、昔の人は、若い頃は恋愛にかまけず勉強に専念しろとか言ったんですね。けど、それまで我慢を強制するのは無理があるし、だからそれに反抗して、不良なんてのに憧れる人も出る。それに恋愛はそれを過ぎたらとか言っても、本当に仕事で活躍するのは30代と言われてます」と片桐。


「それで、だったら女性を接待するスキルを磨く事に全てを注ぎ込んで、ゲームな恋愛に人生をかけると。"色男金と力は無かりけり"って、その結果ですね」と高松。

「女性は、そういう人を相手に20代に遊んで、30代になって結婚すればいいとか。けどその時期って、女性としての魅力が落ちて男女の立場が逆転するそうです。それを受け入れてくれる高松さんみたいな人ばかりじゃ無いから」片桐

「俺は、女性を接待するスキルを磨いてモノになる自信なんて無いです。そんなゲームよりもっと生産的な事をやりたい」と高松。

「そういう、恋愛に積極的じゃない人を、非モテとか言って馬鹿にしたりするのはおかしいですよね。何にエネルギーを使うかは人それぞれなのに」と片桐。

「そうですね。逆に、ああいう変なマウンティングさえ無ければ、ゲーム的な恋愛に人生をかける、という生き方も有りとは思うんです。三又とかヤリ捨てみたいな事で、女の敵とか言われてますけど」と高松。

「あれは、そういう相手を選んだ女性の自己責任ですよ」と片桐。



もうすぐ会社の事務所に着く。片桐にとって大切な男性がそこに居る。

そんな事を想って、片桐は言った。

「友達が言ってました。セックスって、感触的なものより、誰かと寄り添って寂しさを埋め合う事に意味があるんだって。私にも好きな人が居ます。その人の人生の目標は、会社を作って、みんなを幸せにする事でした」

「その人って・・・、いや、何でもありません。その目標、叶うといいですね」

そう言って高松は、片桐の会社を大学を出たばかりでつい最近創業した、渡辺という創業者の事を思い出した。



杉原姉は、ベットの上で先日の芝田兄を思い出していた。

彼が結婚した事は知っていた。

(今更、何しに来たんだろう)

グループで話しかけてくれた松江を思い出した。彼は自分の事が好きだったのだろうか。



その時、携帯が鳴った。

携帯をとって「もしもし」

「杉原さんよね?」と電話の相手。

杉原姉は相手の声を思い出す。そして「川原さん、いや、今は高松さんね」

それは離婚しようとしている高松の妻だった。


「私、離婚するの」と高松妻。

「そうなの」と杉原姉。

「あの契約書は公序良俗に反するから無効だって」と高松妻。

「結局、男ってそうなのよね」と杉原姉。


高松妻は涙を含む声で言った。

「私、彼を支配してたのかな?」

「そんな事・・・それに川原さん、妥協して彼と結婚したんでしょ?」と杉原姉。

「そうだけど、彼だって妥協して私と結婚したんじゃないのかな」と高松妻。


杉原姉は「男なんて女なら誰でもいいのよ。体が目当てなんだもん。支配されてナンボじゃない」

「けど、同じ人間なんだよね」と高松妻。

「・・・」



高松妻は「一人はやっぱり寂しいよ」

「同性の友達が居ればいいじゃない」と杉原姉。


「私、やっぱり男性と居たい」と高松妻。

「女性として女性に惹かれる人だって居るよ」と杉原姉。

「それ、杉原さんの事じゃないわよね?」と高松妻。

杉原姉は慌てて「そんなつもりじゃ・・・。それに、私だってそっち側の人じゃないもの。けど・・・」


「ごめん。そういう、女性が憧れる女性って確かに居ると思う。けど、そういう人って、男性みたいでかっこよくて、つまりは男性の代替品なんじゃないのかな?」と高松妻。

「・・・」

高松妻は「こんな話を聞いたの。悩みを抱える女性の相談に乗ってる人に、どんな悩みが多いかって聞いたら、恋愛も結婚も出産もせずに年をとってしまった人の後悔が一番多くて深刻なんだって。私、そんなふうになりたくないよ」



携帯での会話を終える。

そしてまた、杉原姉は芝田兄と松江を思い出す。追い返してしまった事が、心に刺さる。

いたたまれなくなって、妹に電話した。

そして、再び、あの二人と会う事になった。



喫茶店で向き合う芝田兄と松江。杉原には妹が付き添う。

杉原姉は目の前の芝田兄を見る。かつて自分が恋した男性の姿を前に、やはり胸が熱くなる。そして言った。

「芝田君、結婚したそうね」

「うん」と芝田兄。

「今更私のものになってくれる訳じゃないのよね」と杉原姉。

「それは出来ない」と芝田兄。


「それで松江君と付き合えと?」と杉原姉。

すると松江が杉原姉に言った。

「そんな気は無いだろ? 俺も、もう期待はしてない」

そう言った彼に杉原姉は「松江君、グループは?」

「辞めたよ」と松江。


杉原姉は言った。

「そうよね。松江君、ウーマニズムなんか本当は興味無くて、私の体が欲しかったのよね?」

芝田兄は激高してテーブルをドンと叩き、「そんな訳無いだろ」と怒鳴る。

そんな芝田兄を抑えるように、松江は杉原姉に言った。

「いや、そうかも知れない。杉原さんの事は気になってたけど、それが何なのかは自分にも解らないんだ」

「男が女に求める事なんて一つしか無いじゃない」と杉原姉。


そんな姉に杉原は言う。

「あのね、姉さん。私が津川君と付き合うようになったのは、体育祭で彼が怪我した事で私が責任感じて、それで私のことが好きになってくれたからなの。彼はそれは実は性欲なんじゃないかって悩んで。けど結局それは単にやりたいって事じゃなくて、互いに理解し合って、そういう事でも許し合えるような関係が欲しいって。だから同じ事なんだと思う。姉さんはそれが汚いと思う? 私は思わないよ」


松江は言った。

「ウーマニズムって結局、男性を否定する事なんだよね。俺はそれが女性の立場だから、そうであっても理解したいと」

芝田兄は松江に「それは理解っていうより共感だよな。理解って理屈で理性をもって向き合う事だけど、共感は理性じゃなくて感情で丸呑みして、その相手の感情が男性としての何かに対する否定なら、男性である自分を自分で殺すって事なんだよな。それが本当に女性の立場だってんなら、俺は結婚なんかしなかったよ」


そして杉原は松江に「友達が言ってたけど、ちゃんと相手の想いに道理で向き合うなら、それで相手の要求を批判するのも理解なんだって。私は男性を否定するのが女性の立場とは思いません。けど、本当に姉さんが男性を否定するなら、そんなのに共感とか言って丸呑みしたりせず、ちゃんと突き放してあげるのも理解だと思います」

「そうだね。俺、杉原さんのこと、好きになるの、止める。今まで付きまとったりしてごめんね」と松江は言った。


杉原姉は俯いて聞いていた。

そして数秒の沈黙の後、松江に問うた。

「ねえ、松江君、もしかして私のこと好きになったのって、松江君が芝田君の友達だから?」

「そうだよ。杉原さんの気持ちを知ったのは、こいつが彼女作ってからだったけど、自分からこいつの事好きになってくれた子が居たのが嬉しかった。だから幸せになって欲しかった。けど自分を好きになった訳でもない子を幸せにできるなんて思うのは、傲慢だよね。さよなら」

そう言って松江は席を立った。その後ろ姿を見て、杉原姉は思わず声をかけた。

「あの・・・松江君」


「何?」と松江は振り向く。

「友達で居てくれる・・・ってのはどうかな?」と杉原姉。

松江は「いいよ」と言って笑顔を見せた。



彼等と別れて、杉原姉妹は喫茶店を出る。

歩きながら杉原姉は妹に言った。

「ごめんね、和恵」

「いいよ。もう大丈夫?」と杉原。

「会社には行けると思う。それで、また戻ってきてくれる?」と杉原姉。

「それは駄目」と杉原は姉にきっぱりと言った。



その後、松江は高松から、離婚を止める事にしたと連絡を受けた。


喫茶店で会って話す。

「小遣い制は廃止か?」と松江。

「そりゃな。生活費は出し合う事になって、嫁はバイト始めた」と高松。

「自分で出すのは解禁か?」と松江。

「嫁が自分から誘うそうだ。女性って性欲に波があって、定期的にできるんだろ?」と高松。

「けどその波って、一か月周期だからな。排卵日から生理直前までは、やりたくない日が続くそうだ」と松江。

「って事は二週間禁欲かよ。勘弁してくれ」と高松。


「今まではどうしてたんだ?」と松江。

「隠れて出してたに決まってるだろ」と高松は言って頭を掻いた。

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