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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第338話 前進せよ!芝田プロジェクト

阿蘇通電子は芝田の勤務先だ。

芝田が配属された開発チームの新入社員関口が、昼休みに先輩の駿河と携帯ゲームで対戦している。

「またやられた」と悔しがる駿河。

「ゲームで関口に挑んでも無駄ですよ」と言って笑う、同僚の名護。

「そう言うけどさぁ」と駿河。

「こいつはゲームだけは無敵だから」と芝田も笑う。

「ゲームだけはね」と榊。

関口は「負け惜しみは最高の賛辞ですから」


「そんなに才能有り余ってるんなら、表示キーを使える新しい家電のネタでも考えろ」と駿河が関口に言いながら口を尖らす。

「あれって芝田先輩の発明なんですよね? 特許でも取れば良かったのに」と関口は駿河に・・・。

「昔、似たようなのを液晶で作った所があるんだよ。使う所が無くて消えたけど」と芝田。

「今はLEDがあるからなぁ」と名護。


「けど、何でオタク向けが本業の筈のうちの部署で家電とか」と関口は不思議そうに言う。

「本来の用途はパソコンのキーなんだよ。オタク向けの特殊仕様のね」と芝田は後輩に説明してみせた。

「それって・・・」と関口。

「芝田、実物見せてやりなよ」と榊。


芝田が大学で試作したパソコンを出して電源を入れる。

そして「これさ。作画コンピュータ、グラビティ95だ」



CGが得意だという事で、新人女子の則村が使ってみる。

彼女はしばらく動かすと、目を丸くして言った。

「これ、すごく書きやすいじゃないですか。描線モードや色の指定をメニューじゃなくてキー入力でやるなんて」

「それだけじゃないぞ。基本キャラ出してみろ」

そう言って、基本キャラを出して改造モードを使ってみせる芝田。

操作しながら「顔の形や目の大きさ、口や鼻の形、髪とか体系の各部とか、いろんな所を変えて、新しいキャラを作る」と芝田は説明してみせた。


関口が動かしてみる。

そして「垂れ目が吊り目に、目の上線と下線も、これなら俺でも自分のキャラを作れる。これ、商品化しないんですか?」

「特殊なキー使うだろ? そのキーの用途がこれだけだと、製造ラインの採算が取れないっていうんだ。だから家電用途で需要を増やせとさ」と榊。

「オタクってのは分野が細分化してるからね。全体の市場はデカくても、絵を描きたいってのは結局その一部なんだよな」と駿河。

「けどそれ。描かなくていいってより、描けないんじゃないですか。だから描けない奴が描けるようになれば・・・」と関口。

則村は「そんな奴、努力が足りないだけよ」

「そりゃ描ける人の理屈だろ」と名護が物言い。



「結局多いのは、ただのゲーマーだよな」と関口。

「そりゃお前の事だろーが」と芝田。

関口は「だったらゲーム用に作ってみたらどうですか?」

「いや、作画は作業が複雑だから、必要なコマンドが多くなってメニューがああいう事になるんだよ。それを可変キーでと」と榊。

「それに作画で使うポインティングデバイスは本来、画面に係りっきりじゃなきゃいけないのよ。だからコマンドは別個に左手でキー押しが正解よね」と則村。


だが関口は「けど、格ゲーだってパンチとかキックとかジャンプとか三連撃とか防御とか後退とかカメハメ波とか、ゲームによっていろんなコマンドを使いますよね。それを目の前に並ぶキーを押して一瞬で・・・って、すごい複雑なバトルが出来ません? しかも必要なコマンドはゲーム毎に違う」

名護も「動画だって編集するならいろんなコマンドが必要ですよ。操作したい瞬間にキーを一押し」


関口は言った。

「パソコンっていろんな用途に使えるけど、その分、中途半端なんだよ。今のパソコンは英語入力が基本で、それに日本語機能を追加して、だからキーは文字打つためって前提になってる。けど、よりいろんな用途で便利に使うには、その用途に特化したハードにするのが正解だけど、そのハードの特化すべき在り方って、基本はキーの付け方ですよね。そんな中でキートップに小型表示パネルを貼って機能を変える。ならソフト変えるだけで、いろんな用途に特化したパソコンに変身する」



その時、係長が部屋に戻り、部下たちに言った。

「休み時間は終わりだ。業務に戻るぞ」

「係長、話があるんですが」と、芝田の同僚たちが口を揃えて上司に・・・。


みんなで係長に提言。そして話を聞いた彼等の上司は言った。

「なるほどな。確かに、うちが受け持つオタク仕様コンピュータって、そういう事になるんだろうな。けどそれ、うち単独でやれるのか? 風呂敷を広げ過ぎだと思うぞ」

「いろんな企業と共同開発という事になるかと思います」と駿河。


「本来のパソコンの機能はどうなる」と係長。

「文字入力にも当然使えるし、母音と子音で五十音配列にすれば訓練とか不要になりますよ」と榊。

「従来型に慣れてた人はどうなる」と係長。

「とりあえず、それにも使えますって事で、メインはオタク向けではどうですか」と名護。

「従来型は業務用、特に在宅勤務用が伸びるだろう。それに乗り続ける方が有利だと思う向きは多いだろうな」と係長。


芝田が言った。

「そこなんですけど、在宅勤務は業務内容が勤務先のサーバーで動きますよね。つまり、今までパソコン単体に入ってたゲームが、サービス企業のサーバーに依存するネトゲに代わったのと同じ事が、業務市場でも起こるって事です。って事は、業務用の多様なパソコン搭載アプリケーションの出番が減るって事じゃないでしょうか。その時、みんなが娯楽用でうち仕様のパソコン使ってたら、どうなります? 通信機能も付いててこっちでも在宅勤務やれるんだったら・・・って事になりません?」


係長は「とりあえず仕様を作ってみろ」

「他の会社の奴に声かけていいですか?」と榊。

「それはいいが、知的所有権は確保する必要があるだろ」と係長。

「出来ればオープンで行きたいです。他の所が使ってくれないと話になりませんからね」と芝田。

「そうだな。だが、うち以外の所がキーパテント握るような話になるのだけは、避けろよな」と係長。

「もちろんです」と同僚たちは口を揃えた。



芝田たちは、関係しそうなメーカーに勤める知り合いに、片っ端から声をかけた。

パソコンメーカーやソフトメーカー、ゲーム会社、ネット会社など様々な会社に居る人たち。

ゲーム会社に勤めた刈部や小島、そして大塚と田畑。家電会社に居る園田。

重電機メーカーでロボット開発部門に居る曽根。ネット会社に居る小宮。

大手ソフトメーカーに居る国立大卒の剣持。菓子メーカーに居る泉野まで、作画コンピュータを知る人達は至る所に居た。



呼びかけに応じ結集したオタクたち。

阿蘇通春月支社の一室を借りて非公式な会議を設けた。

それぞれの関心と、それぞれの特技を持つ彼等は、一つだけ大きな目的を共有していた。

それは「面白いものを創りたい」


「つまりこれを、何でもありの万能オタク向けパソコンに改造するための仕様を・・・って訳だ」とパソコンメーカーの人。

「とりあえず、ゲーム機能面の商品化が出来ないかな」と阿蘇通の関口。

「キートップ表示による全てのキーの役割可変機能を持たせたキーボードかぁ」とゲーム会社の人。

「格ゲーで凄い技を連打出来そう」と小島が言った。

「格ゲーやシューティングのシステム自体も、これ前提に開発すれば、いろんな面で進化するぞ」と阿蘇通の駿河が言った。



「それに、別の方向での進化もあるし」と刈部。

「どんな?」とネット会社の人。

「三次元化だよ」と刈部が答えた。

「三次元ゴーグルかよ」と家電会社の人。

「このパソコンの画面を三次元で見たいならそれ用の眼鏡があればOKだよね。ディスプレイ上で右目用と左目用の画面を高速切り替えする。眼鏡の左右を透明不透明を切り替えるタイミングに合わせてディスプレー画面を右目用と左目用に高速切り替えする。右目用画面の時は眼鏡の左目を不透明に、左目用画面の時はその逆と。それで画面が立体的に見えれば、画面の手前の空間を、3Dポインティングデバイスで操作できる三次元空間になる」と大塚が言った。


「ポインティングデバイスは当然電子ペンだけど、三次元で使う時は?」と阿蘇通の則村。

「三次元マウスの原理を使った三次元電子ペンだろ。例えば、エロゲームで立体視映像の女子キャラをあちこち触って反応を見る。マウスのポインタで触った事にするってゲームはあるけど、三次元電子ペンで立体に見える女子キャラの、あんな所やこんな所を直接つつくって、かなり萌えね?」と小島。

「これだから男って」と泉野。

「この期に及んでエロでアピールかよ」と県立大の宍戸助手があきれ顔。


「いや、新しいメディアが台頭する影には大抵エロいコンテンツがその需要を切り開くって法則があると聞く。キリッ」と小島。

「映画の発展時のポルノ映画とか、ビデオデッキ時代にAVとか、ネットのエロサイトとか」と小宮。

「これだから男って」と泉野。

「まあさ、いろんな切り口から切り込んでみるべき、って方法論は正しいと思う」とネット会社の人。



「エロなら、三次元ゴーグルでVRは欲しいよね」と小島。

「いや、エロで無くても欲しいぞ」と園田。

「けど、そうするとキー自体が見えなくなる。他の入力方法が必要だな」と曽根。

「音声入力とかデータグローブとか」と田畑。

「ってかキーボードを丸みのある掌型にして、各指に合わせてキーを配置するとか」と榊。

「そこらへんは、これからデザインしようよ。どっちみちキー数は限定する事になるんだから」と剣持。



「成功すれば凄い利益になるよね」と重電会社の人。

「俺はそんなのどうでもいいから、滅茶苦茶楽しめる何かを造りたい」とゲーム会社の人。

「そうだね。仮にそれが売れないとしても、俺自身が楽しめるものなら、きっと他の奴も楽しめる。だったら支持は後からついてくる」と小島。

「だよな。みんな、面白いものを創ろうぜ」と芝田は呼びかけた。

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