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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第32話 花火の下で

 村上・芝田・中条は三人で上坂の夏祭りに来た。そこで戦隊ヒーローごっこをやっていた山本たち三人に遭遇。さらに水上たち六人に遭遇。


 12人でわいわい言いながら場が盛り上がっている時、ふと中条は、横を浴衣を着た小さな男の子が走り過ぎるのを見た。

 その横顔が、幼くして死んだ彼女の兄と瓜二つ・・・、とそう感じた中条は、思わずその子の跡を追った。

「お兄ちゃん・・・」と呟きながら走る中条。

 公園の奥まで来た所で、中条は行く先に小さな女の子がしゃがんで泣いているのを見た。男の子がその子の肩に手を置き、女の子は男の子に抱きつく。

 そして手を繋いで、人ごみの中に消えた。



 中条は、自分の兄がずっと昔に亡くなった事を思い出し、「人違いだったんだ」・・・と呟いた。

 そして、仲間達に黙って抜け出してしまった事に気付き、急いでさっき居た所に戻ったが、村上達の姿は見当たらない。

 はぐれた事に気付いた彼女は、二人を探そうと、反対側方向へ向かって歩いた。

「あれ、中条さん?」

 そう彼女に声をかけたのは大谷だった。


「芝田達と一緒じゃないの?」と大谷。

「はぐれちゃったの。大谷君はひとり?」と中条。

「彼女と約束があったんだけど、ドタキャンされて、どうやら振られたみたいだ」と大谷。

 中条は、いつも彼女が欲しいアピールを連発する彼の言動を思い出し、思わず口元が綻んだ。


「女の子と付き合うようになったんだね」と中条。

「部活の先輩が、ナンパとか合コンとか教えてくれてね」と大谷。

 中条は、以前聞いた話を思い出し、笑いながら言った。

「そういえば前に、芝田君が無理やりナンパに付き合わされたって言ってた」と中条。

「あの時は、俺達も初心者だったからなぁ・・・」

 そう言って大谷は廻りを見回し、「そこらへん廻りながら、あいつら探そうか」

「うん」と中条。



 大谷は中条の手を引き、連れ回す。

 中条はあれこれ話しかけられながら、綿飴を買ってもらい、射的を教えてもらい・・・。躊躇いの無いスキンシップに「ぐいぐい来る」ものを感じ、女性に慣れているのだな・・・と思った。そして・・・。

 (村上君も芝田君も、これくらい積極的だったらいいのに・・・)。

 やがて疲れて池の前のベンチに座る。まもなく中条は、大谷の肩にもたれて小さな寝息を立てた。


 大谷は中条の上体を、ゆっくり横にして膝枕をさせると、その頬を撫でながら「そんなに無防備だと襲っちゃうぞ」と呟いた。

 その時「いい・・・よ」と小さな声が、中条の口から洩れる。寝言だった。

「村上・・・君も・・・芝田君・・・も・・・大好き・・・だから」

 それを聞いて大谷は、笑顔で大きく溜息をついた。

 そして彼女の頭を膝上から外すと、立ち上がって精一杯の大声で叫んだ


「村上ー、芝田ー、中条さんはここに居るぞ」



 間も無く村上と芝田が聞きつけて駆けてきた。中条も眠そうに眼をこすりながら「あ・・・村上君、芝田君」と嬉しそうに手を振った。

「大谷と一緒だったか。どうしたんだよ、いきなり居なくなって心配したぞ」と芝田。

「すまんな大谷、迷惑かけたみたいで」と村上。

 大谷は「いいさ。こっちも彼女にドタキャンされて一人だったし」と笑って答えた。



 その時、浴衣姿の女性が三人連れ立って歩いてきた。

「あ、やっぱり大谷だ。やっほー」と女性の中の一人が手を振る。

「もしかして大谷君の彼女?」と聞く中条に「そうだよ。今頃来やがって」と大谷が答えた。

「振られた訳じゃないみたいだね。良かったね大谷君」と中条。


「まあな」

 大谷はそう答えると、その中の一人に「新しい男でも出来たのかと思ったぞ」と話しかけた。

「そんな訳無いじゃん。友達の面倒見る羽目になって、仕方なくだよ。それで彼氏が出来たって言ったら、見たいって言うし」と大谷の彼女。

 別の一人が「そっちが彼氏? いかにも肉食って感じ」と言うと、もう一人が「そういえば中条さんって誰よ」

 大谷が「友達の連れだ。はぐれてたんで面倒見てただけ」と答えると、最初に彼と話した彼女らしい女性が「何か奢ってよ」とねだる。

「だいぶ金使っちゃったしな」と大谷。

「さっきの中条さんに? で、手は出さなかったの?」と大谷の彼女。

「出すかよ」と大谷。



 大谷達が去っていくのと入れ違いに、杉原・秋葉・津川の三人が来た。

「さっきの声って大谷君だよね? 今度は何やらかしたの?」と秋葉。

 村上が「中条さんが迷子になって、大谷が保護して面倒見てくれたらしい」と答えた。

「大谷君が? 何かされなかった?」と杉原。

 中条は「綿飴奢ってくれて、射的教えてくれて、楽しかったよ」と嬉しそうに答えた。

「そうか。そういや、あそこから居なくなったのって、どこかに行ってたのか?」と改めて芝田が聞く。


 中条の表情が少し曇った。そして言った。

「あのね、お兄ちゃんが居たの」

 杉原が「いや、芝田君ならここに居るでしょ」と突っ込む。

 村上が「そうじゃなくて、中条さんが小さい時に亡くなった、本当のお兄さん・・・だよね?」と説明しつつ、中条に確認する。

 秋葉が「えーっ? 中条さん、そんな事があったんだ。それで芝田君・・・」と言うと芝田が「妹萌えゲームマニアの変態だと思ってたと?」

 杉原と秋葉はしばらく沈黙の後「まさか・・・、被害妄想強すぎだよ。あは、あはは」としらじらしく笑う。


 一方で津川が「だけど昔死んだお兄さん・・・って事は、まさか幽霊?」と青ざめた表情で言う。

 中条は「人違いだったの。年も同じくらいで顔もそっくりだったんで、思わず追いかけたんだけど、別の妹みたいな子が居て、その子と行っちゃった」と寂しそうに言った。

 その表情を見て村上は言った。

「ねえ中条さん。お盆って死んだ人の魂が帰ってくる季節なんだよね。もしかしたらそれって、本当にお兄さんの魂で、お兄さんは新しい世界で、別の子のお兄さんとして面倒見てあげてるのかも知れないね」と笑顔を見せて言った。


 中条の表情にも笑顔が戻る。

「だとしたら、きっとその子は幸せだね。お兄ちゃん優しいもん」

 そして秋葉が言った。

「ねえ、お参りに行こうよ。もうすぐ御神輿で、その後花火だよ」。



 石段を登ると大きな社殿がある。社務所があり、お守りやお御籤を売っている。

 お参りを済ませてお御籤をやろうと窓口に行くと、巫女さん姿の薙沢と宮下がいた。

「薙沢さんとゲスレズじゃん。二人ともここの人だったの?」と男子三人声を揃える。

「バイトだよ」と薙沢。

「ゲスレズ言うな。ってか何で薙沢ちゃんは普通に呼んで、私だけ・・・」と宮下は口を尖らせた。

「だってなぁ」と男子三人声を揃える。


 村上がお御籤の代金を払っている間に、清水が来て「薙沢さんとゲスレズじゃん」

 佐川が来て「薙沢さんとゲスレズじゃん」と言い、薙沢の窓口の列に並んで談笑を始める。

「あんた等いい加減にしてよ」とキレる宮下。

 そのうち一般客まで薙沢の窓口の列に並び、誰も寄りつかない窓口の宮下がふてくされる。

 秋葉がお御籤を終えると、帰り際に宮下に言った。

「接客業は笑顔だよ」



 清水と佐川が何となく合流して8人になった彼等が石段を降りると、御神輿が始まっていた。担いでいる中に武藤が居た。

「あいつの親は蕎麦屋だから」と津川。

 なるほど、商店街の人が駆り出されるのか・・・と妙に納得する彼等。

 その時、中条が「探偵さんも商店街の人なの?」と、担ぎ手の中に鹿島を見つけて、言う。


 神輿の後に山車が続く。山車の上に何人かのお囃子。手すりに腰掛けるようにして、浴衣姿の岸本が横笛を吹いていた。

「岸本さん、何やっても絵になるよなぁ」と男子達が声を揃える。清水はそれに向けて何度もシャッターを押した。



 やがて花火の時間になる。神社の石段からがよく見えるというので向かったが、中条が足の痛みを訴えた。

 芝田が中条をおんぶして「さあ、石段を登るぞ」と気勢を上げたが、津川は「それで石段登るつもりかよ」

 見ると、芝田もかなり疲れているのが解る。

「何言ってんだ。お兄ちゃんに出来ない事など無い」と強がる芝田に、中条は「芝田君、無理しなくていいよ。私、降りるから」

 その時、石段の方を見に行った村上が戻ってきた。

「石段は人で一杯みたいだ。橋のほうがよく見えるぞ」


 彼等は、橋の歩道の上で打ち上がる花火を眺めた。

 中条は芝田の背中で、片手で村上の手を握っている。

 津川は杉原の肩に手を置き、杉原はその手に自分の手を重ねている。

 それを横目に、秋葉は呟いた。

「今度は私の番でいいよね?」

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