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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第31話 みんなの夏祭り

 八月半ば、上坂神社の秋祭りがある。

 神社は石段を上った小高い所にあり、石段の下に、鳥居や狛犬や駐車場がある、わりと広い空間がある。その脇から大きな池のある公園に入る。

 祭りでは、この鳥居から公園にかけて出店が並ぶ。花火は八時から。それまで四時間くらいは・・・というので、村上と芝田は、四時に中条の家に迎えに行く事で打ち合わせた。と言っても、行く方向はいつもの通学路だ。

 村上が中条家に向かっている間に、芝田の自転車が追い付く。二人で中条家に行き、ここに芝田の自転車を置いて、三人で商店街方面へ。神社はその向こうだ。



 歩きながら芝田は浴衣姿の中条を見て楽しそうに言った。

「やっぱり女子の浴衣姿は絵になる。うん」

 中条は嬉しそうに「芝田君達も浴衣で来ればいいのに」

 芝田は「男子が浴衣着て需要とかあるのかよ」と笑う。

 中条は言った。

「私、見たい。芝田君と村上君の浴衣姿」


 それを聞きながら村上は思った。考えてみれば、女子だから・・・というのは、自分達が男性だから故の感覚なのかも知れないと。

「じゃ、来年は俺達も・・・って事で」と村上が言うと、芝田は「憶えてたらな」



 神社に着いた。鳥居の向こうに屋台が並んでいる。

 鳥居のすぐ脇の屋台では、女性の髪飾りを売っている。刺し串に細かい細工を房のように垂らしたものが目を引いた。藤娘というのが付けてるのに似ている。

 芝田はそれを買うと「きっと里子に似合うと思うぞ」と言って、中条の右耳の後あたりに差そうとしたが、串が引っかかる所も無く、するりと抜けてしまう。

 芝田は困り顔で「これ、どうやって付けるんだ?」と村上に振った。


「きっと髷を結って挿すんだよ」と村上。

「髷ってどうやって結うんだ?」と芝田。

「三つ編を結って絡めるんじゃないのか?」と村上。

 村上は小さな梳かし櫛とゴム紐を買うと、中条をベンチに座らせて、セミロングの髪を梳かし、後ろ頭で髪を二本の束にまとめて、紐で根元を縛った。

 芝田と手分けをし、それぞれの束を三本に分けて二本を交差して一本をそれに絡める。

 あれこれ工夫しながら二人に髪をいじられる「面倒見てもらう感」が中条には心地よかった。


「出来た」と芝田が歓声を上げる。

 後ろ頭で二本の三つ編を絡めた丸い髷に髪飾りの櫛を挿して飾りの房を垂らす。

「お姫様みたいだ。馬子にも衣装ってこの事だな」と芝田が言うと「お前、それ誉め言葉じゃないって知ってるか?」と村上。

 中条は嬉しそうにクスクス笑う。村上はとりあえずたこ焼きを買い、三人で食べながら屋台を廻った。



 その頃小島は、お面を売る屋台の前で、棚に並ぶお面とにらみ合っていた。それを山本と連れ立った水沢が見つけた。

「あ、小島君だ。何してるの?」と嬉しそうな水沢。

 小島は難しそうな顔で「キャラ面はいにしえのオタク文化の原点なのだよ古代君」

「古代君て誰だよ。ってか、要するに、一押しアニメのやつ探してるんだろ」と山本

「じゃ、魔法少女?」と水沢。

 小島は頭を抱えるポーズで「魔法少女物が一押しのオタクなんて、漫画かアニメの中だけだお。今時高年齢向けのハイ・クォリティなアニメが山ほどある中で、子供向けの作品に拘るとか、そんなのオタクではない」とドヤ顔をして見せた。


「じゃ、何が目当てなんだよ」と言う山本に、小島は一枚の戦隊物のお面を指さした。

「これだよ。異空戦隊マホレンジャーだお。異世界転生した若者達が伝説の魔法で変身し、魔王軍と戦う」と小島。

「結局、子供向けじゃん」と山本はあきれ顔で言った。

 だが水沢は「私、それ知ってる。お兄ちゃんが小さい頃見てた」

「昔のかよ」と山本。


「歴代の戦隊物の中でも傑出した名作だお。けど残念ながらここには揃ってないお」と小島。

「戦隊物ごっこだ。やろうよ山本君も」と嬉しそうな水沢。

 小さい頃に、兄たちがそれで遊んでいたのを思い出して、水沢ははしゃいだ。

「足りない色は他の戦隊物ので代用したらいいじゃん」とミもフタも無い言い方の山本。

「お前、特撮文化を何だと・・・」と言いながら、とりあえず小島は、そこにある三枚を買った。



「じゃ、小依たんはピンク、山本はグリーン」と小島。

「何でお前がレッドなんだよ」と山本。

「レッドはリーダーだお。チビには無理と思われ」と小島。

「デブはもっと駄目だろ」と山本。

「ねえねえ、どっちでもいいから、早くやろうよ」と水沢が急かした。


 三人は掛け声を合わせてポーズをとる。

「紅蓮の炎、マホレッド」と小島。

「疾風背負って、マホグリーン」と山本。

「命を創る、マホピンク」と水沢。

「三人揃ってマホレンジャー」とホーズを決めた彼等は、後で見ていた村上達三人に気付いた。



「その三人だと小島だけ浮いて見えるのは何でだ?」と芝田。

「巨大なお世話なりよ」と小島。

「俺達がガキだと言いたいのかよ」と山本。

 だが水沢は思い付いたように「あっそーだ。レッド、キター!」と歓声を上げて芝田の手を引き、「ねえねえ、芝田君もやろうよ。んでレッドやってレッド」とはしゃぐ。

「やるって、戦隊物ごっこを?」と芝田が面くらう。

 小島は「隊員が足りないお。お前らが居れば数が揃う」と言うが「いや、俺、そういう趣味・・・」と芝田が渋る。


 だがその隣で中条がぽつりと遠い目で「マホレンジャー」と呟いた。

「中条さん、知ってるの?」と村上。

「お兄ちゃんが、昔、好きだったの」と中条。

「何だよ。結局芝田もファンだったんじゃん」と言う山本に、村上が「そうじゃなくて、小さい頃亡くなった、中条さんの本当のお兄さんだよ」と説明した。

 一瞬、全員が沈黙した。

「そうだったんだ。それでか・・・。芝田ってただの妹萌えゲームマニアの変態じゃなかったのか」と山本。

「お前ら、俺を何だと思ってたんだよ」と芝田は憤慨した。


 村上は財布を出し、代用できそうな他の戦隊物のお面を物色しつつ「他の色はブルーとイエローでいいか?」と小島に聞く。

「あとオレンジ。マホレンジャーは全部で六人だ」と小島。

「じゃ、私もやる」と、中条は村上の上着の裾を引いた。

 六人で順番に掛け声とポーズ。中条の脳裏に、幼い兄の戦隊物ごっこの様子が蘇る。順番が来る。

 ホーズとともに「大地を守るマホイエロー」と、それまで村上も芝田も聞いた事の無いはっきりした声。

 そして「六人揃ってマホレンジャー」



 その時、後から「何やってるの、あんた達」と声がした。そこに居たのは水上と牧村、篠田、直江、坂井、柿崎。

 篠田が「いい年して戦隊ごっこ? きもーい」と言うと水上も「小島君の趣味でしょ? 山本君とか芝田君とかが付き合うのは解るけど、中条さんまで巻き込むのはどうかしら」

 山本が反発して「何こいつら、何も知らないで」と言うと、中条も「違うの。私のお兄ちゃんが昔、この番組が好きで・・・」

「要するに芝田君が無理やりやらせた訳ね?」と言う篠田に、村上が説明した。

「篠田さん、お兄ちゃんってのは、中条さんが小さい時に亡くなった本当のお兄さんの事だよ」


 一瞬で場の空気は沈んだ。

 そして直江が「それでか。芝田っててっきり妹萌えゲームマニアの変態だと・・・」

「だからお前ら俺を何だと思ってたんだ」と芝田が怒る。


 水沢と村上は笑ったが、中条が「ごめんなさい。私のせいで・・・」と言うと、小島は「中条さんは悪くないお。悪いのは・・・」

 四人の男子の非難の視線が篠田に集中する。

「いい年して? きもい? 無理やり?」と山本が言えば、芝田も「亡くなった兄弟の思い出にひたる人に、これは無いわ」と追求する。


 篠田は泣きそうになって、水上に助けを求める。

 水上は溜息をつくと、中条に向き直って「ごめんなさいね。中条さんにそんな事があったなんて知らなくて。辛かったわよね?」と言うと「ちょっと借りるわよ」と言って、中条がつけていたお面をとって斜めにかぶると、戦隊物のポーズをとって「大地を守るマホイエロー。六人揃ってマホレンジャー」。


 浴衣で取るポーズが映える。

「おー・・・」と男性陣は思わず拍手。

「どうかしら」と水上は、笑顔で中条にお面を返す。

 中条は一言「かっこいい」

 芝田は「やっぱり水上さんは何やっても絵になるよなぁ。性格キツイけど」

 村上は「美人だし、動作もきびきびしてるし、性格キツイけど」

 山本は「傍で見てる分には悪くない。性格キツイから直接相手は遠慮するけど」

 水上は、こめかみをヒクヒクさせながら「あんた達、私怒らすとクラスで孤立するわよ」

 それを見て牧村は笑いながら「水上さん、そうムキにならないで・・・」と彼女を宥めた。


 追求から逃れた篠田は「今度は牧村君のが見たい」とはしゃぎ出す。

 芝田は牧村にレッドのお面を渡して「出番だぞ、リーダー」

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