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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
301/343

第301話 秋葉vs芦沼、宿命の決着

村上たちが卒論を提出した間もない頃。

既に春休みに入り、村上たちは残りの大学生活を満喫しようと大学に来たものの、やる事も無く、部室で雑談に耽っていた。


そんな時、ふと中条が言った。

「バレンタインデー、終わっちゃったね」

「俺たちの卒論でそれどころじゃ無かったからな」と芝田。

「私たちの卒論・・・じゃないけどね」と秋葉。

「けど、ホワイトデーがありますよ」と真田。

「バレンタインデーの予備日かよ」と桜木。

「そこまで無理にやらなくても。バレンタインデーに反対とかって意見もあるし」と真鍋。

「あれはネタで、むしろ自虐だよ。モテなくて悔しいみたいに受け取られかねない事言って、恋愛脳の頭の悪いモテヒャッハーをサポートしてるだけじゃん」と村上。



そこに芦沼が来た。そして村上たちに言った。

「ホワイトデーにスイーツパーティやらない? 今年もいっぱい貰えるからお裾分けするわよ」

すると秋葉が「私の方がいっぱい貰えるわよ」と対抗し始めた。

「また始まったよ」と男子部員たちがあきれ顔。

「まあ、これももうすぐ終わりだし」と桜木。


そんな彼等を他所に、秋葉と芦沼は「どっちがたくさん貰えるかで勝負よ」と張り合い気分。

「理学部の男子がみんな、くれるって言ってるし」と芦沼。

「経済学部の男子もみんな、私にチョコをくれるって言ってるけどね」と秋葉。



すると中川が言いにそうに・・・。

「あの、秋葉先輩。先輩たちが言ってたんですけど、秋葉さんにチョコをあげるかって話になって、バレンタインデーで義理は果たしたからいいかな・・・って」

「貰ったかしら?」と首を傾げる秋葉。

中川は「忘れてました。先輩、学校に来ないから預かってたんです」

冷蔵庫からチョコの入った袋を出す中川。


「去年より少ないわね」と秋葉。

「ってか年々少なくなってない?」と芝田。

「さんざん悪戯したり、からかって迷惑かけてたからなぁ」と村上。

秋葉は「まあいいわ。貰ったチョコの数で勝負するんだから、鈴木君、解ってるわよね?」

「多数派工作ですか? 卒業直近のこの時期に?・・・」と、鈴木と中川。

「数ってんなら一袋いくらの一口チョコでも一個は一個よ」と秋葉はドヤ顔。

「セコ過ぎません?」と鈴木。

「経済的って言うのよ。私たちの学部の名前は何だっけ?」と秋葉。


すると芦沼が言った。

「秋葉さん、小さいチョコで数を稼ごうとか思っても無駄よ。ちゃんと重量を計っての勝負だからね」

「えーっと・・・」

そう言って、秋葉はしばし視線を斜め上に逸らして言葉を濁す。

そして秋葉は、村上と芝田の肩に手を置いて「あなた達、ホワイトデーなんて馬鹿馬鹿しくてやってられないと言ってたわよね?」

「ちゃぶ台返しで来たよ」と芝田はあきれ顔。

「まあ予備日だし、双方向だし」と桜木。



すると中条が「だったらお菓子作りで勝負・・・ってのはどうかな?」

「里子ちゃんナイス」と秋葉がそれに飛びつく。

「いや、それはハンデあり過ぎなんじゃ」と桜木は心配顔で言う。

村上も「それに本来の趣旨は・・・」

「その本来の趣旨が残念だって話だったじゃない。芦沼さん、逃げないわよね?」と秋葉。


「受けて立とうじゃない」と芦沼。

「芦沼さん、安い挑発に乗り過ぎだよ」と村上。

「ごめんなさい。私が変な事言ったせいで」と中条。

芦沼は「いいのよ、私にも考えがあるから」



当日。

文学部棟の一室を借りて関係者が揃う。理学部と経済学部の学生たち、そして他の学部の学生も・・・。

村上たちの立ち合いの基、対峙する秋葉と芦沼。双方、自作品の入った大きな箱を持参。


「それじゃ、先ず、私からね」

秋葉はそう言って、大きなホールケーキを出す。

「自作のチョコケーキよ。味は保証するわよ」と秋葉はドヤ顔。

「さすが秋葉さんの女子力」と経済学部の学生たち。

そして秋葉は「どう? 芦沼さん」



それに対して「私のは、これよ」と芦沼は自作品の箱を開けた。

そこには全裸の芦沼を模ったチョコの立体像。細部までリアルに再現されている。


「誰がこんなものを作ったのよ」と秋葉。

「もちろん私よ。自作ですもの」と芦沼。

秋葉は「小島君でしょ? フィギュア作りとか、彼、得意だもの」

すると小島が「いや、工学部の三次元形成装置で作ったでござる」

「それ、自分で作ったって言えるの?」と秋葉が物言い。

「三次元スキャナーで自分の体を使ったんだから、自作でしょ?」と芦沼。


秋葉は言った。

「こんなの自作じゃないわ。市販のチョコを溶かして固めただけの、なんちゃって手作りチョコじゃない」

戸田が困り顔で「秋葉さん、それだけは言っちゃいけないと思うんだけど」

渋谷が「だったらカカオから自前で育てた渋谷農園の究極手作りチョコを」

「渋谷さん、それはもういいから」と困り顔の真鍋。

「今年のは、ちゃんと砂糖を使いましたから」と渋谷。

「あれまで自家栽培に拘る意味は無いものね」と鈴木。

渋谷は「自家栽培のビートの糖分を使いました」

「あ・・・、そう」と男子たち。



「じゃ、ここに居る人達で評決と行きましょうか」と、秋葉と芦沼。

その場に居た人達に、秋葉と芦沼の名前の入った小さな旗が一本づつ配られる。


理学部の学生は芦沼の旗を、経済学部の学生は秋葉の旗を上げた。

工学部の学生は芦沼の旗を上げた。

「俺たちの技術の成果だもんな」と工学部生たち。


秋葉は「農学部の人達はどうかしら。実は私のチョコケーキには渋谷さんのチョコを使ってるんだけど」

農学部生たちは口々に言った。

「渋谷さん、いい子だよね」

「けど、それだけじゃ・・・」

すると秋葉は「それと、真鍋君が提供してくれた、ここの実習農園未調整牛乳のクリームも使ってるわよ」

「それは・・・」

秋葉は更に「ここの実習農園の小麦と卵も使ってるわ。つまりこのケーキは、農学部の食材を使った、みんなの作品でもあるのよ」

農学部の学生は秋葉の旗を上げた。


文学部の女子学生たちは・・・。

「手作りチョコを否定する気は無いわよね」と一人の女子学生は言った。

だが、別の女子学生は「けどあれって、ある意味女の武器よね」

文学部の女子達の票は半々に割れた。


こうして両者の得票は完全に互角となった。



残りは村上たち立会人。

「あなた達はどうなの?」と、芦沼と秋葉は彼等を追及。

「いや、俺たちは中立の立会人だし」と村上。

「けど、自分の考えってあるわよね?」と秋葉。

「はっきりさせてよ。ショー・ザ・フラッグよ」と芦沼。


「村上は理学部だよな」と学部の仲間たちが村上に迫る。

村上は芦沼の旗を上げた。

「拓真君は私の彼氏よね?」と秋葉が芝田に迫る。

芝田は秋葉の旗を上げた。


これで同数。後、投票していないのは中条だけだ。

「どっちに入れるの?」と、芦沼と秋葉は中条を追及。

「お友達よね?」と芦沼。

「家族よね?」と秋葉。

中条は泣きそうになって「えーっと・・・。真言君、どうしよう」


村上は中条の両肩に手を置いて、言った。

「ねえ里子ちゃん。人間の手って、どうして二本あるか、知ってる?」

中条は両手で両方の旗を上げた。

「これで引き分けだ」と村上が宣言、



「そんなのずるい」と秋葉・芦沼。

すると村上は「まあまあ、勝ち負けを決めるなんて、何の意味があるのさ。それと、これは俺から」と言ってお菓子の包みを開ける。

それを見て「ショコラ大福だな」と桜木。

「じゃ、これは俺から」と芝田も言って、お菓子の包みを開ける。

それを見て「水沢さんお勧めの桜餅か」と津川。


すると中条が「あの、私、ごめんなさい。用意してなくて」

村上は笑顔で言った。

「いや、もう貰ってるから。里子ちゃんのその笑顔が最高のスィーツだよ・・・って、何だよお前等、その顔は」


全員の残念そうな視線が村上に向いている。

戸田が「いや、村上君が、そんな歯の浮くような台詞言うとか、雪でも降るんじゃないかと」

「悪かったな。恥ずかし過ぎる台詞で」と不満顔の村上。

「いや、誰もそこまで言ってないけど」と戸田。

「けど、本当に雪が降ってきたよ」と渋谷が窓の外を見る。

「本当だ」と学生たち。


大学構内を飾る植込みの木々の間を舞う季節遅れの雪を見て、村上は大声で言った。

「そこまで恥ずかしい台詞かよ」

「雪雲に文句言ってどーすんだよ」と芝田が笑う。

「ってか、あれは雪どころか槍でも降ってきそうなレベルだぞ」と笹尾が言った。

「本当に槍が降ってきた」と刈部が言った。

村上は「嘘を言うな嘘を」


そんな村上に佐藤が「まあまあ、けど・・・あの村上が」

「いいだろ」と村上。

「里子ちゃんのその笑顔が最高のスィーツだ」と佐竹がニヤニヤ顔で。

村上は「うるさい」

「里子ちゃんのその笑顔が」と津川が笑いを堪えながら。

村上は「黙れ!」

全員爆笑。


中条は困り顔で「ごめんね、真言君、私のせいで」

「いや、里子ちゃんは悪くない」と村上。

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