第297話 卒論提出
年が明け、三が日は終わる。
村上父は遠方の職場に戻ったが、秋葉母と芝田夫婦はそのまま、卒論執筆中の四人を世話すると言って中条家に残った。
四人の学生の執筆が進む。
時折、芝田か村上がお菓子を買い出し。それを食べ、コーヒーを飲みながら執筆。
次第に砂糖の量が多くなる。
「こんな生活してると太っちゃうね」と中条が言い出す。
「運動が必要だな」と芝田。
すると秋葉が「セックスはカロリーを消費するわよ」
四人で交わり、調子に乗って何度も・・・。疲れて寝落ちしそうになる。
「裸で寝ると風邪をひくぞ」と村上。
「体がベタベタ」と秋葉。
中条が「お風呂沸かしたから、みんなで入ろうよ」
風呂場はアパートのものより大きい。湯舟に四人で浸かる。
「何だろう。この、ただれた生活は」と芝田。
「俺たち、何やってたんだっけ」と村上。
「卒論書いてたんじゃ・・・」と中条。
秋葉が「そうだった。こんな事やってる場合じゃない」
風呂から上がって脱衣場で服を着ながら、村上が言った。
「睦月さんと里子ちゃんは提出が一か月早いが」
「順調よ。かなり書き終わってるし」と秋葉。
「大丈夫だと思う」と中条。
だが、書き進む中で、どんどん思い付きが湧く。
曖昧に書いていた所についてアイディアが浮かぶ。書き足していく中で矛盾が出てくる。
重要なヒントが書かれていた論文があった事を思い出す。
「あの文献ってどれだっけ」
「この雑誌の記事だと思ったんだけど何号だっけ」
そんな台詞が何度も二人の口から発せられる中、秋葉も中条も焦り出す。
提出に一か月余裕のある村上と芝田は必然的に、自分の卒論をそっちのけにして手伝う破目になる。
「この論文の掲載雑誌、図書館で調べて欲しいんだけど。文献目録に載せなきゃなの」と秋葉も中条も・・・。
村上が図書館に行って文献を確認。
村上と芝田で文章のチェック。あちこちにボロが見つかる。
「これ誤字なんじゃ・・・」
「ここ、日本語的に変」
残る日数を数えながら秋葉が「ところで文系の提出期限って何時だっけ」
「一月三十日だよ」と村上が言った。
「そうだっけ?」と秋葉。
「あと何日も無いよ」と中条。
徹夜で文章を直す作業が何日も続く。
四人とも睡眠不足で、居眠りを繰り返しながらの作業となり、ミスを連発。
「どうしよう。データ消しちゃった」と中条が悲鳴を上げる。
「ゴミ箱ファイルから復活しなよ」と村上。
ゴミ箱ファイルを開ける。同じファイル名が三つある。
「一つづつ復活させて確認するしかないな」と村上。
中条はファイルを復活して確認作業。
「これは違う」
「これも違う」
「ならもう一つの・・・」
残るファイルを指定して・・・。
「間違えて、"ゴミ箱を空にする"のボタン押しちゃった。どうしよう」と中条が悲鳴を上げる。
「バックアップで残したファイルがあったよね?」と村上。
「バックアップ取った後の作業が無駄になっちゃう」と中条。
「どこを直したか憶えてるでしょ? 同じ作業をすればいいだけだから」と村上。
中条は「そうだね。ところで、どこを直したんだっけ?」
グダグダな作業が進む中、時間は容赦なく流れた。
そして・・・。
「やっと完成だ」と中条が歓声を上げた。
「私も終わった。何とか締め切りの前日に終わったね」と秋葉。
「明日提出だし、もう夜遅いし」と村上。
「眠い。疲れた」と芝田。
四人は安堵と疲労の中、布団を敷いて泥のように眠った。
そして翌日・・・。
目をこすりながら布団から起き上る四人の男女。
「あー、良く寝た」と秋葉。
「まだ暗いね」と中条。
「まだ六時だよ。大学行くには早すぎる」と村上。
「もうひと眠りしようか」と芝田。
「そのまま夕方まで寝てました・・・なんて事になったらシャレにならん」と村上。
「そうだね。ご飯食べて早目に大学に行こうよ」と秋葉。
「で、窓口が開いたらすぐ提出」と村上。
すると芝田が「ちょっと待て。今、何時だ?」
「だから六時」と村上。
芝田が真っ青になって「午前六時じゃなくて、午後六時なんだが」
「えーっ」
秋葉は一階に駆け下りる。夕食の支度をしている母。
「随分ゆっくりだったのね」と秋葉母が娘を見て笑う。
そんな母親に秋葉は「何で起こしてくれなかったのよ!」
「徹夜が続いて疲れてたんでしょ? けど丸一日眠って睡眠不足は解消したんじゃないの?」と秋葉母。
「提出時間、過ぎちゃったじゃない」と秋葉が悲鳴を上げた。
"留年"という言葉が頭を駆け巡る秋葉。
「どうしよう」と秋葉は涙目になる。
「どうにかなるでしょ?」と秋葉母。
秋葉はまくし立てた。
「留年であと一年大学に行けって言うの? せっかく決まった就職だってパーだし、学費だってあと一年かかるのよ。そのお金、母さん出してくれるのよね? それに何より・・・」
「何より?」
そう言って首を傾げる母に、秋葉は「私はみんなの笑い物よ」と絶叫。
「睦月の最大の問題って、それ?」と秋葉母。
秋葉は「女子学生には外聞以上に大事なものは無いの」
秋葉母は「けど、提出期限は明日の一月三十一日なんでしょ?」
「へ?・・・・」と秋葉唖然。
村上が背後で笑っていた。そして言った。
「こういう事になるんじゃないかと思って、一日サバを読んだんだよ」
秋葉さらに唖然。
秋葉は真っ赤になって叫んだ。
「真言君! 縮んじゃった寿命の三日分、返してよ!」
村上は「てへ」と・・・。
そんな村上を見て芝田は「あのな村上、それ、男がやると滅茶苦茶気持ち悪いんだが」
翌朝、四人で大学に行って秋葉と中条の卒論を提出。
ようやく終わった・・・と安堵した顔で、秋葉は芝田と村上に「次はあなた達の卒論よね?」
芝田と村上は「あと一か月ある。提出は二月28日だ」
すると秋葉は「何言ってるのよ。二月25日よ」
「そういうサバ読みの二番煎じはいらないから」と村上は笑った。
すると提出窓口の係員が言った。
「いえ、25日です。県立施設のシステムの一斉点検が必要になって、月末にうちの順番が回って来る事になりまして、三日間ほど業務がストップする影響で提出期限が早まりました。学生向けメールでお伝えした筈ですが」
「そうなの?」と村上。
「どうしよう。三日も提出が早まった」と芝田。
村上は「たった三日だ。俺たちもかなり書き終わってるし」
「余裕だよ」と芝田。
「そうならいいんだけど」と中条。
だが、書き進む中で、どんどん思い付きが湧く。
曖昧に書いていた所についてアイディアが浮かぶ。
書き足していく中で矛盾が出てくる。重要なヒントが書かれていた論文があった事を思い出す。
「あの文献ってどれだっけ?」
「この雑誌の記事だと思ったんだけど何号だっけ?」
そんな台詞が何度も二人の口から発せられる中、村上も芝田も焦り出す。
「睦月さん、里子ちゃん、手伝ってくれ」と村上。
「だから言わんこっちゃない」と秋葉。
女子二名で男子二名の論文の文章チェック。あちこちにボロが見つかる。
提出期限までの数日間は殆ど徹夜で、ようやく期限当日の午後に卒論を提出した。
 




