第296話 明日に向かって書け
クリスマスが終われば正月が来る。年が明ければ卒論提出だ。
一月末には文系の中条と秋葉の提出期限。二月末には理系の村上と芝田の提出期限だ。
四人で中条家に泊まり込んで卒論執筆に没頭する。
芝田の兄嫁の早苗が頻繁に食事を作りに来ていた。
「正月の準備は私たちに任せて卒論に集中しなさい」と大人たちは大学生たちに言った。
暮れが近づくと芝田夫妻が中条家に泊まり込む。やがて秋葉母も泊まり込むようになる。
村上父は例年より早く帰省してアパートの大掃除を終えると、秋葉母が中条家に連行。
家が賑やかになったと喜ぶ中条祖父。
夕食を大勢で食べながら「こんな日がずっと続くといいね」と中条祖父。
「これから、こうなるんですよ」と秋葉母。
中条祖父は「私は家族に恵まれなかったからなぁ。妻にも息子にも初孫にも先立たれた」
「それをこれから取り戻すんじゃないですか」と村上父。
「私ももう年だ」と中条祖父。
「ここに居る全員が結婚して子供を産むまでは元気で居て貰いますからね」と芝田兄嫁。
「里子が子を産めばひ孫になるんだな」と中条祖父。
「その子が結婚するまで生きてて下さいよ」と村上。
中条祖父は「それはさすがに無理だ」
大晦日になり、秋葉母と村上父がお節の買い出し。
午後にはお節作り。
「手伝わなくていいのかな?」と中条は、二階でパソコンを打ちながら、階下の台所を気にする。。
「俺たち、正念場だからな」と村上は中条を宥める。。
「こんな時くらい甘えようよ」と秋葉も・・・。
中条は「けど・・・」
中条が台所に降りてきて「手伝う事、無い?」
「里子ちゃんは卒論進めてなさい」と秋葉母。
「解った」と中条。
しばらくすると、また中条が台所に降りてきて「手伝う事、無い?」
「里子ちゃんは卒論進めてなさい」と芝田兄嫁。
「解った」と中条。
しばらくすると、また中条が台所に降りてきて「手伝う事、無い?」
祖父が「こんな時くらい、甘えなさい」と言うと、中条は言った。
「私、真言君の所で卒論書いてて、けど、お祖父ちゃんのご飯作らなきゃ、って思って、戻って来て卒論書いてるの、寂しいから真言君たちも来てくれて、なのにまたお祖父ちゃんに甘えてる。こんなのって」
「私たちが居るでしょ?」と秋葉母。
「けど、拓真君のお姉さんや秋葉さんのお母さんにまで迷惑かけて」と中条。
芝田兄嫁は「拓真君の、じゃなくて、もう里子ちゃんのお姉さんだよ。私たち家族なんだから」
「私も里子ちゃんのお母さんよ。倫也さんは里子ちゃんの何?」と秋葉母。
中条は「お父さん? けどまだ・・・」
秋葉母は言った。
「家族というのはね、形じゃないの。一緒に居る大事な人・・・ってみんなで思えたら、もう家族なのよ」
お節が完成し、夕食になる。
神棚で柏手を打ち、お神酒を降ろして全員の盃に注ぐ。
みんなで「来年も良い年でありますように」
大人たちの間で会話が弾む。
大学生たちは卒論の事が頭にあって、あまり会話に加わらない。
村上父が村上に「真言、お前の卒論はどうなんだ?」
「実験が成功したから、それを報告するって話になるな」と村上。
「拓真君は?」村上父・・・・・・。
大学生たちの気持ちがほぐれ、それなりに会話が弾んだ。
そして村上たち四人は食べ終わって二階に戻って執筆再開。
四人それぞれ自分のパソコンを開く中、中条が「気を遣わせちゃってるね」と、ぽつりと言った。
「特別な時期だからな」と村上。
「私が入試の勉強の時も、こうだったんだよね」と中条。
「けど、あれ以来ここで年を越すようになったんだよね」と秋葉。
交代で入浴し、十二時が近づく。
五分前に四人で居間に戻る。そして年明けまでのカウントダウン。
そしてみんなで「あけましておめでとう」
「四人が無事卒論を提出できますように」と大人たち。
「それと、ここのみんなが結婚」と芝田兄嫁。
「そうだね」と芝田兄。
「大事な事だ」と中条祖父。
「もちろん、私たちも含めてよね? 倫也さん」と秋葉母。
村上父は「それは・・・」
「私は除外でいいんだよね?」と中条祖父。
「お祖父さんだって、いい人が居れば、恋愛に年は無関係ですよ」と秋葉母。
「老人会に居ないんですか?」と芝田兄嫁。
中条祖父は「勘弁して下さいよ」
「けど、お祖父さんが長生きしますように・・・は必須ですよね」と村上。
「それと中条家と村上家と芝田家と・・・」と秋葉が言おうとすると・・・。
芝田兄が「それはもう一纏めでいいんじゃないですか? 実質もう家族みたいなものなんだし」
寝ようという事になり、四人は二階に行き、また執筆再開・・・となるが・・・。
「明日の初日の出はどうする?」と芝田が言い出す。
「ちゃんと迎えるなら、早目に寝なきゃ」と中条。
「こんな年くらい、いいんじゃない?」と秋葉。
「いや、こんな年だからこそじゃないかな?」と村上。
「早目に起きて、そのまま執筆再開って事でいいんじゃないか?」と芝田が言った。
二つ布団を敷いて、二組の男女で添い寝。
いつの間にか、彼等は寝落ちする。
「もうすぐ初日の出だよ」と中条の声で村上は目を覚ました。
四人が起きて支度をする。
外に出ると、芝田兄夫妻と村上父と秋葉母も居た。
「親父たち、早いな」と村上。
「お前等、どうせ夜遅くまで卒論書いてて早起きは出来ないだろうと思って、代わりに拝みに来たんだが」と芝田兄。
「そこまで気を遣わなくていいよ」と芝田が頭を掻く。
「それに、お願いしたい事もあるし」と秋葉母。
「俺たちの卒論なら」と村上が言いかけると・・・。
「違うわよ。私たちの結婚よ」と秋葉母は言って、村上父に「今年こそプロボースして貰いますからね」
「そろそろ日が昇るよ」と村上父は言って、話題を逸らした。
丘陵の上から登る太陽に向けて拍手を打った。
「良い年でありますように」と、みんなで呟く。
そして中条は、隣に居る村上をちらっと見て、もう一つ願い事を付け足した。




