表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
282/343

第282話 時を駆ける街

週末、秋葉は津川の家に行った。同棲中の杉原の様子を見に行く・・・という名目で。

杉原と秋葉が、いかにも女子会といった話題で盛り上がる中、津川は急須にポットのお湯を注ぐ。

「お茶、入れたよ」と津川。


秋葉は「ありがとう、津川君、ちゃんと夫婦生活、してる?」

「昼間っからどこに話振ってるのよ」と杉原が顔を赤くして言う。

「いや、まだ結婚してないし、まあ夕食後の食器洗いとか」と津川。

「そ・・・そうよね。けど、津川君も卒論があるし」と杉原は冷や汗気味に言った。。


そんな杉原を見て、秋葉は笑いながら「ところで杉原。どこに話振って・・・って、どこだと思ったの?」と突っ込む。

「な・・・何でもないわよ」と更に赤くなる杉原。

必死に誤魔化す杉原、嬉々として追及する秋葉、話の流れが呑み込めない津川。



そして秋葉は頃合いを見て、本題に入った。

「ところで、今年の上坂祭り、また何か仕掛ける予定無い?」

「上も色々言ってるけど、また何かやらかす気?」と杉原。

「卒論のネタにしようかと」と秋葉。

「それもいいんだけど、こっちも色々面倒な事になってるのよ」と杉原。

「何か動いてるの?」と秋葉。


杉原は言った。

「今までのアレで成果が出たとかで、その気になっちゃって、歴史的な街並みの復原とか言い出したのよ。江戸時代の頃から栄えた町だからって」

「いろんな所で街道の宿場町を再現してるからね。旅籠とかたくさん残ってるなら可能だろうけど」と秋葉。

「古民家とか文化財として、ってのはこの街でもやれるけど、一軒だけじゃなくて通りを丸ごとよ。十件以上の建物を建て替えるって、予算が馬鹿にならないし、住んでる人をその気にするのが前提だし。あちこちで頭抱えているのよ」と杉原。

「そもそもこの街に古い町屋なんて残ってないじゃない?」と秋葉。

「道路の拡幅やっちゃったからね」と杉原。


秋葉は言った。

「なら、もっといい方法があるわよ。家を建て替えずにそれをやっちゃうって」

「そんな虫のいい話が?」と杉原。

「VRよ。コンピュータの三次元空間で街並みをそっくり再現して、この場所から見るとどう見えるかを計算してCG映像化するの。そこにVR眼鏡を置いて、昔の景色を見せちゃおうってのはどうよ」と秋葉。

「上に話してみるわ」と杉原。



そして翌週、再び秋葉は津川家で杉原と談合。

「どうだった?」と秋葉。

「低コストで出来るからって、市長サイドが反対して」と杉原。

「いや、普通逆なんじゃ・・・」と秋葉。

杉原は「町屋の再現請け負う建設業者近辺よ。つまりコストをかけて美味しい仕事を・・・と」

「賄賂でも飛び交ってるって事か?」と津川。

「って事は、彼の出番ね」と秋葉はニヤリと笑った。



鹿島と連絡をとる秋葉。

上坂市で迷走している街並み復原計画について説明する。

「つまり市長と業者の癒着を暴いて派手に叩こうって訳だな?」と鹿島。

「いや、脅すネタに出来れば・・・」と秋葉は暴走気味の鹿島を押えにかかる。

鹿島は「公表しないのかよ。ネットで炎上させれば面白いのに」

「幼女像とかの件で病みつきにでもなった?」と秋葉。

「最近、そういう案件が無いから欲求不満でさ」と鹿島。

「炎上中毒とか?」と秋葉。

「手が震えるんだ」と鹿島。


「病院に行きなさいよ。それより就活とか卒論もあるんでしょ?」と秋葉。

「そこらへんは抜かり無い。ってかそういう事抱えてる友達にこういう仕事持ち込むのかよ」と鹿島。

「友達は骨の髄まで利用する主義なの」と秋葉。

「怖ぇーーー」と鹿島は笑う。

秋葉は「私だって同じ事抱えてるのに、故郷のために一肌脱いでるんですからね」

「どうせ卒論のネタだろ。観光戦略だっけ?」と鹿島。



鹿島は杉原から貰った市長の背後関係データと、公共事業の常連業者のリストを元に、彼らの周囲を洗い、まもなく癒着の証拠を掴んだ。

これを各方面に流して市長サイドを牽制する秋葉たち。

市長サイドは沈黙し、計画にゴーサインが出る。

  


電話で状況を秋葉に報告する杉原。

そして「で、これから動くとして、とりあえず何をするの?」と電波の向こうの秋葉に訊ねる。

秋葉は「先ず、時代考証ね。役に立ちそうな手駒を当たってみるわ」


大学で早渡に話を持ちかける。

「卒論と就活抱えてるんだが」と早渡。

「就職先って、市町村の文化財とかでしょ? 資格はとってるのよね?」と秋葉。

早渡は「それをやりたいのは山々だが、公務員は試験がなぁ。コネとかあれば別なんだが」

「上坂市の教育委員会とコネが出来るわよ。卒論の資料とかも好きなだけ見せて貰えるし、他市町村の人に紹介して貰えるわ」と秋葉。

「乗った」と早渡。



早渡を杉原と八木に引き合わせて、秋葉は言った。

「彼が街の再現を手伝ってくれるわよ」


杉原は「早渡さんよね? 去年の黒犬伝説で手伝ってくれた・・・」

「あの節はどうも」と早渡。

「今年もお祭り、お願いするわね。けど、あまり派手に変な事で目立たないで欲しいんだけど」と杉原が苦言を匂わす。

「まあ、女性の目を引くのは生まれつきなんで」と早渡。

秋葉は沢渡を指して杉原に「ナンパとか控えろってはっきり言わないと、彼には伝わらないわよ」

「そんなぁ」と早渡。


早渡は具体的な話に入る。

「ところで、これに関する調査ってどこまで進んでるの?」

「町屋再現のために集めた資料は揃ってる筈よ」と杉原。



早渡は杉原の案内で教育委員会に行き、文化財専門員の反町に会う。

「去年の黒犬イベントで時代考証で手伝ってくれた早渡君だね? 話は聞いているよ」と反町。

「よろしくお願いします」と早渡。

「再現する予定だった町屋の資料はあるんだが、周囲の町屋はよく解らないものが多くてね」と反町。

「何を売ってる店だったかは解りますか?」と早渡。

「それは絵図があるから」と反町。

「だったら、他の街の例を参考にすれば想像はつくと思います。それと明治時代の写真とかは?」と早渡。

「残っている所は残っている。あと聞き取り調査とか古文書とか、日記の類に周囲の様子が伺えるものもある。ところで君は四年生だよね? 卒論は何を予定しているのかな?」と反町。


早渡は「戦国時代で、このあたりの領主について・・・を考えてます」

「必要な資料があったら言ってみなさい。近隣市町村のものもコピー資料を交換しているんだ」と反町。

「助かります」と早渡。

「就職は民間かい?」と反町。

「口があれば・・・ですが」と早渡。

「隣の五条市で古文書の読める専門員を欲しがっているんだが」と反町。

「公務員採用試験があるんですよね?」と早渡。

「一年間嘱託で働いて来年の試験を受けたらどうかな?」と反町。



時代考証チームが動き出す。

「次はシステムね?」と秋葉。


コンピュータ研に乗り込んだ秋葉は、芝田と一緒に、の仲間たちに計画を話す。

「三次元CGに一番詳しい人って居るかしら?」と秋葉が訊ねる。

「小島だろうな」と刈部。

「あとVRゴーグルは?」と秋葉。

「泉野さんがやってたよね?」と榊。

「で、何企んでるんだ?」と刈部。

「上坂の祭りで集まる人向けに街並みをCGで再現してVRで見せるんだってさ」と芝田。

仲間たちは「なるほどね。けど俺たち卒論と就活があるからなぁ」



メカトロニクス研に行き、小島に話す。

「資料があれば大丈夫と思われ」と小島。

「卒論は?」と秋葉。

小島は「学祭の出し物をネタにするんで順調ぞ。けど、もっと適任が居るんだなぁ、これが」

「誰だよ」と芝田。

「上坂のパソコン研に居た大塚だよ。今は美大のアニメーション科に居て、CGのプロ目指してるとな」と小島。



小島が大塚に連絡する。

「もしもし」

「小島先輩ですか?」と大塚。

「実はお前に頼み事したいって人が居るんだが」と小島。


秋葉は小島の携帯をひったくって、大塚と直談判を始める。

「三年前の学祭で八上ライブを実現させてあげた秋葉だけど」

「秋葉先輩ですか。あの時はお世話になりました」と大塚。

「それでね、三年前の学祭で八上ライブを実現させてあげた私が、大塚君のCG技術を見込んで頼みたい事があるの」と秋葉。

「すみません、今ちょっと仕上げなきゃいけない課題があって」と大塚。

秋葉はかまわず「上坂祭の盛り上げの一環で、江戸時代の街並みをCGで再建してVRで体験してもらおうっていう企画で、三年前の学祭で八上ライブを実現させてあげた私が故郷のために一肌脱ぐの。協力してくれるわよね?」

「あの・・・」と困り声の大塚。

秋葉は「犬は三日餌を上げたら一生恩を忘れない・・・って諺、知ってる?」


電話を切る。

「すごく興味深い企画だからぜひ協力させて欲しいそうよ」と秋葉。

小島は唖然。そして「秋葉さんって怖ぇーーーーーー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ