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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第272話 若き作家たち

新学期が来た。

村上たちは四年生となり、文芸部の中心は後輩の真鍋達が担う。

入学式直前の部室で、新体制を決めるため、部員たちは部室に集まってわいわいやる。


そして部長は鈴木に決まった。

「俺、ちゃんとした自分の作品を書いてないんだが」と困り顔の鈴木。

「ジャンケンで決まったんだから文句言うな」と真鍋。

秋葉は笑いながら鈴木に「大丈夫よ。日本的経営って言って、トップはお神輿と一緒で何もしないお飾りなのが理想的なの。人形みたいにね」

「じゃ、会社は誰が動かすんですか?」と鈴木。

「下の人達がみんなで相談して動かすのよ」と秋葉。

「それはそれで嫌な話だな」と鈴木。


「だったらその、動かすみんなのリーダーは、お飾りトップのパートナーである私って事よね?」と根本。

「パートナーって何?」と鈴木。

「彼女は彼氏のパートナーよね?」と根本。

すると戸田が根本に「桜木君はもういいのね?」

根本は「それはそれ、これはこれだから」

「一番主導権握らせちゃいけないタイプだな」と真鍋が笑う。

根本は「何か言った?」と真鍋を睨む。


「けど、そう言ってる睦月さんは去年のトップだったんだが、おとなしくお飾りやってたっけ?」と村上。

秋葉はしれっと「私はトップがバリバリリーダーシップ発揮するアメリカ式経営がモットーの有能なビジネスウーマンですから」

「これだよ」とみんなが笑う。



「それで、午後は新歓祭ですよね?」と渋谷。

「何かパフォーマンスはやる?」と戸田。

「朗読会でもやるか?」と芝田。


するとモニカが「私、やりたいです。ヒノデの国民的叙事詩ロマンサーガ。ヒノデ語で朗読します。聞いた人はきっと御仏の慈悲をその身に感じて・・・」

「いや、ヒノデ語なんて理解できる奴居ないから」と村上。

モニカは「大学では英語の他に第二外国語があるんですよね?」

「その中にヒノデ語ってあった?」と村上。

モニカは残念そうに「無かったです」



午前中は各学年のオリエンテーションだ。

コースやゼミに分かれての履修登録。四年生は各ゼミで卒論に向けて本格的な研究に入る。

三年生はゼミに入る。

農学部の真鍋は増殖技術研究室、渋谷は園芸農業研究室、文学部の根本は現代文学研究室、経済学部の鈴木は経営技術研究室でそれぞれ指導を受ける。

また二年生では、コースに分かれる。

経済学部の中川が経営学コース、文学部の真田が文字文化コース、モニカは歴史哲学コース。

部室でコース選択の話題が出る。

「仏教学を学びたくて去年から哲学研究室に出入りしていました」とモニカ。

「あそこって変人ばかりって聞いたけど」と村上。

「夫の後輩の方が居て、良くして貰っています」とモニカ。

「住田さんって、あれで面倒見のいい人だからなぁ」と芝田。



午後の新歓祭で、文芸部のブースを設営する。


一日目で二人の一年生女子が来た。

「あの、文芸部に入りたいんですが」

そう言ってブースに来た二人に「いらっしゃい」と在校生たち。

「二人とも文学部で、小説書いてます」と一年女子たち。

「歓迎するよ」と部長の鈴木。



新入部員の名前は金田と新田。開始早々、二人もゲットしたと、在校生たちは大喜びだ。

「ここって小説書く人の集まりですよね?」と新田。

鈴木は「まあ、文字で表現するのは何でもありだけどね。詩とか評論とか旅行記とかもね」と説明。

「部長さんも?」と金田。

「俺は漫画なんだが・・・」と鈴木。

「文字でなくてもいいんですか?」と二人とも不思議そうな顔をする。

「まぁ、色々あってね」と鈴木は頭をかく。


そして金田は期待を込めた目で「それで、ここの顧問は小説家の森沢涼也先生だと聞いたんですけど」

「そうだよ。講義のある日に来て指導してくれたりする」と真鍋。

「やったー・・・」と言ってはしゃぐ二人。

「ファンなのね?」と根本。

新田が「あの、それで先生は今、どこに」

「今日は講義は無いから。あの人兼任講師だからね」と渋谷。



その時・・・。

「あれ、森沢先生じゃない?」

あたふたと逃げるように走って来る森沢を中条が指さす。

「ちょうど良かった、君たち、匿ってくれ」

そう言って、ブースの長机の下に隠れる森沢。唖然とする新入生。


まもなく編集の目黒が鼻息荒く歩いてきた。

そして「あなた達、文芸部の子よね? 森沢先生見なかった?」と・・・。

在校生たちが何か言う前に、金田と新田が「先生なら、ここですけど」


目黒は森沢を長机の下から引っ張り出す。

「新入生の子かい?」と森沢。

「あの、いけなかったでしょうか」と不安そうな表情の新田。

森沢は「いいんだ。原稿を書けない俺が悪いんだ」

「行きますよ。締め切りは過ぎてるんですから。抑えてますんで。ホテルアイアンメイデン56号室」と目黒は言って、森沢を引っ張って行く。


「あの、森沢先生って・・・」と金田。

「いつもああなの。気にしないでいいのよ」と秋葉が笑って言う。



その後、一人の男子が入部した。

「文学部の衛宮です。小説を書いてます」と新人男子の自己紹介。

「歓迎するよ。ちなみに小説のジャンルは?」と鈴木。

衛宮は「歴史小説です。だから来年は歴史哲学コースに入りたいです」

「私も歴史哲学コースです。一緒に勉強しましょう」とモニカ。

「よろしくお願いします」と衛宮。


そしてモニカは「3年になったら哲学研究室で?」

「いや、俺、中世史やりたいんですけど」と衛宮。

桜木が困り顔で「モニカさん、自分の世界に引っ張り込もうとしちゃ駄目だよ」

「ごめんなさい。けど中世って熱心な仏教信者や偉大な宗祖様が大勢居るのよね?」とモニカ。


衛宮は「仏教勢力は大きいですよね。拠点の寺には僧兵っていう武装した坊さんが大勢居て、戦争で殺し合ったり山賊の群れに紛れて・・・って、モニカ先輩、どうしましたか?」

「そうよね、そういう現実ってあるのよね? 昔だものね」と憂鬱そうなモニカ。

衛宮は頭を掻いて「俺、何か悪い事、言いました?」



その日の終盤、もう一人、男子が入部した。

「伊藤といいます。小説書いてます」と新人男子の自己紹介。

「文学部?」と根本が訊ねる。

伊藤は「理学部です。SFのネタが欲しくて入りました」



2日目と3日目は希望者は居なかった。ブースを撤収する。

「4人入れば上出来よね?」と根本。

「けど全員小説とか、前代未聞だな」と芝田。

「雪でも降るんじゃ」と真鍋。

「何言ってるのよ。文芸部って元々そういう所よ」と戸田。



4人を部室に案内する。

書棚に過去の部員たちの作品が並ぶ。


4人の新入生に在校生たちが自己紹介。そしてサークル活動を説明。

「ここに並んでいる部員の作品は、文芸部の作品として、校内の図書館とかラウンジとか各所に置いて、いろんな人に読んで貰えるんだ。活動では自分の作品をみんなが読んで論評する」と部長の鈴木。

「森沢先生も?」と金田。

「そうだよ。ただ、缶詰が明けるまでは無理だから」と桜木。

「私たちのせいでしょうか?」と新田が心配そうに言う。

秋葉が笑って「いや、編集から逃げ隠れするのは単なる問題の先送りだから」

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