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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第271話 さよなら住田先輩

三月末の住田の卒業式を控えて、後輩たちは寄せ書きを用意する。真ん中に森沢講師が差し障りの無い一筆を書く。

そして部員たちに渡す時、彼は言った。

「頼むから変な事を書かないでくれよ」

「先生の記念館が出来たら展示物になるかもですからね」と村上。

「いや、そんなものは絶対出来ないから」と森沢。


「解りませんよ。出身地にとって絶好の観光ネタですよ」と秋葉。

「私程度の作家はゴロゴロ居るから」

そう森沢が言うと、桜木が「ま、本当の著名作家なら文学碑の一つも・・・って、先生、どうしました?」

「何でもない」と意気消沈顔の森沢。

「もしかして今のでダメージ受けました?」と根本がニヤニヤ。

森沢は大声で「そんな訳無いだろ!」


「どうせなら俺たちで建てちゃおうか」と桜木が言う。

森沢は慌てて「頼むから絶対止めてくれ」



色紙に書く順番が部員たちに回る。

「先生の次はモニカさん」と秋葉。

「なんたって正妻だもんな」と芝田。

「ありがとうございます」とモニカ。

すると真鍋が「喜んでるけど、いいのかな。正妻ってまるで妾が居るみたいな言い方だが」

残念な空気が場を覆った。


だがモニカは意に介さず色紙に向かうと・・・。

「ところで去年の寄せ書きを見たいのですが、夫は去年何と書いたのでしょうか」

「えーっと・・・」と、二年生と三年生は冷や汗をかいて互いに顔を見合わせる

「あ・・・あれは斎藤先輩にあげたからここには無い」と村上。

モニカは残念そうに「そうですよね」


すると真鍋が「いや、コピーがあるよ」と言って一枚の紙を出した。

他の部員が慌てて「ちょっと待て」

止める間も無くモニカに渡ったコピーには、住田が一年前に書いた一筆に曰く。

「お前は最高の女だったぜマイハニー」


それを読んでモニカは「寄せ書きというのはこういう事を書くのですか?」

「真似しなくていいからね」と先輩たち。

「けれども、これを受け取るのは私の夫ですよね?」とモニカ。

「それはそうだが」と村上。



モニカはすらすらとマジックを走らせる。

「ちょっと待って」と言いながら、慌てて村上が色紙を見ると、書きかけの一筆に曰く。

「愛してます」


部員たちもそれを見て「まあ、まともかな」

彼らは、ほっとして「次は誰が・・・」

モニカが書き終えたそれを見て、彼らは唖然。

色紙に曰く「愛してますマイハニー」


部員たちは残念そうに「やっちゃったよ」

「マジックで書いたら消せないからなぁ」と桜木。

「いっそ、去年みたいにシール貼って冗談ですとか」と芝田。



彼らが頭を抱える中、モニカが言った。

「ところでサムライ村上に質問ですが・・・」

「何かな?」と村上。

モニカは「去年の寄せ書きに、"あの夜の事は一生忘れません"と書いてあったのですが、何があったのですか?」

「えーっと・・・」と村上は頭を掻く。

秋葉は笑って「真言君、住田先輩の事を言えないと思うわよ」



みんなは気を取り直して「とりあえず、次、書こうよ」

村上が書き込む。曰く。

「浮気ダメ、絶対」

それを見た部員たちは「その手があったか」と言って、大喜びで真似る。

「不倫はロマンス違います」と戸田。

「女の嫉妬は怖いぞぉ」と桜木。

「ヤチリン封印」と真鍋。


モニカはそれを見て、感動の表情で言った。

「皆さん、そんなにまで私の事を」

「いや、あはははは」と部員たち。

「先輩のキャラで遊んでるだけなんだが」とバツが悪そうに鈴木が独り言を言う。

根本は「いいんじゃない? モニカさん喜んでるし」



卒業式当日。

住田の両親と新妻のモニカも父兄として出席。

卒業式を終えて、モニカは文芸部室へ。

「卒業式はどうだった?」と部員たちがモニカに感想を聞くと、モニカは言った。

「素晴らしい儀式でした。オモテナシの心に満ちた厳粛さの中での、夫とその友人たちの旅立ちへの祝福は今も心に響きます」

「なぁ、卒業式でオモテナシって・・・」と真鍋が鈴木に・・・。

「突っ込むのは止そう。どうせ秋葉さんがいい加減な事を吹き込んだのを真に受けただけだろ」と鈴木。



住田が文芸部室へ。そして追いコンの幕が上がる。

寄せ書きを進呈。


「お前ら、俺を何だと思ってるんだよ」と口を尖らせる住田。

部員一同「だって住田さんですから」

住田は「俺は浮気はしない」

「絶対?」と根本。

「多分しないと思う」と住田。

「もういいです。今までが今までだもんなぁ」と村上。


するとモニカは「私は気にしません」

「モニカ、お前・・・」と住田。

モニカは言った。

「夫の過去は他の女性にあげます。その代わり、未来は全部私が貰います」

戸田が苦笑しながら「モニカさん、独占欲の鬼になってない?」



周囲の、物言いしたげな視線に、住田は言った。

「いや、女性経験を積んだからこそ、女の愛し方が解るんだろーが」

「ヤリ捨てさえしなければね」と村上。

「俺はヤリ捨てなんて」と住田。

「一度も?」と戸田。

住田は「まあ、何事にも例外ってものはあるけどな」


すると戸田は「早渡君から聞いたんだけど、漫研の櫛木さん」

「えーっ?」と部員たち。

「ヤリチン界隈じゃ知られた話って言ってたけど」と戸田。


住田は弁解した。

「捨てるつもりは無かったんだよ。ただ、あの人を落としてすぐに斎藤さんが男に振られて、慰めてやったら気に入られて。けど落としだばっかりで乗り換えってのもあんまりだ・・・って躊躇してたら斎藤さんが・・・」

「手錠で拘束されて無理やり?」と村上。

住田は唖然とした顔で「何で知ってるんだよ?」

村上は笑って「まあ、推測ですよ。前に斎藤さんが岸本さんに彼氏取られた時、その手を使われたって聞いたんで、やり返したんだろーなぁと」

「こうすれば住田君を責める人は居ないから・・・とか言われてさ。そんな可愛い事言われたらその気になるだろ」と住田。

「それで櫛木さん、あんなに斎藤さんに敵対心持っちゃった訳かぁ」と芝田が言った。



お菓子と飲み物を並べてわいわいやる。

これまでの部活での馬鹿騒ぎをあれこれ話題にする部員たち。


「色々ありましたよね?」と戸田。

「住田君が入らなかったら廃部になってたからね」と森沢講師。

「俺、ナンパを教えもらいました」と真鍋。

「哲学者フルボッコ、面白かったです」と村上。

「筋肉比べ、しましたよね」と芝田。

芝田・村上・桜木は「先輩の事は忘れません」

「文芸部は任せたぞ」と住田。

「先輩」と男子たち。

そして住田は「それとさ、俺ら、ホモじゃないから、そのバラとか、しまってくれない?」



周囲を飾るバラの花を片付けながら、渋谷と真鍋は言った。

「品種改良で完成した棘の無いバラですよ」

「どこからこんなの持ってきたんだよ」と芝田。

「花木園芸部門の人達から貰ったんですが」と渋谷。

「渋谷さんかよ」と村上。

すると渋谷が「いや、文学部の女の子たちが」


戸口で何人もの文学部の後輩女子たちが「住田せんぱーい」

「君たち、会いに来てくれたの?」と嬉しそうに住田は彼女たちの所に飛んでいく。

女子たちは口々に・・・。

「先輩、卒業しちゃうんですか?」

「留年して私たちと一緒に卒業しません?」

「今度は私に乗り変えてよ」


そんな彼女たちと住田の集団イチャイチャを横目に、秋葉は笑いを堪えながら言った。

「モニカさん、ハリセンブレード」

「そうでした」

そう言うと、モニカはハリセンで住田の後頭部を思い切り叩く。そして戸口に居る女子たちに言った。

「皆さん、ごめんなさい。これ、私のだから」



騒ぎが収まると、モニカは先輩たちに言った。

「あの、日本の宴会文化には二次会というものがあると聞いたのですが」

「秋葉さん、計画してる?」と桜木は部長に確認。

秋葉は「特には・・・」

するとモニカが「実は、祖国の仲間が、夫とその臣下の皆さんのために、場所を用意してくれているのですが」

「もしかして忘年会の時のヒノデ料理の?」と戸田。

「そうです」とモニカ。


「けど臣下って?」と村上が口を挟む。

モニカは「ショーグンは全てのサムライの君主と聞きました」

「俺たちサムライじゃないし平民だし」と芝田。

「つまり臣下は村上だけって事で」と桜木。

部員たち一同「異議無し」


村上は「嫌だよ、四民平等身分制反対だ」

「村上、往生際が悪いぞ」と芝田。

「平民は農奴だと聞きました」とモニカ。

部員一同「四民平等身分制反対だ」

「ってか誰だっけ? ヤリチンショーグンなんて言ったのは」と芝田が口を尖らす。

すると中条が「拓真君だったと思う」



全員でヒノデ料理店へ移動。

モニカは入口の扉を開けて、住田の腕を掴んで、中に居る人たちに言った。

「みんな、これが私の夫よ」

中には十人以上のヒノデ人留学生。そして彼らのリーダーのアタルが住田に右手を差し出す。

そして笑顔で住田に言った。

「ようこそ、新たな同胞」

二人の握手とともに、留学生たちの歓声が上がった。

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