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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
270/343

第270話 お前のものは俺のもの

春合宿の論評会での、「正義とは」に関するモニカの問いかけについて、議論は続く。


モニカは言った。

「もう一つですが、何が正しいかは、"何を言ってるか"の主張の内容の問題で、"誰が言ったか"は問題ではない・・・という村上さんの論は正しいと思います。けど、ダイケーのマスコミの反ヒノデの記事が、やたらネットに流れるんです。何を言うか解ってるから、それだけで読む気はしないというか・・・」

「まともな理屈が皆無で無駄に腹が立つだけだからね。けど、こんな馬鹿な事を言ってるというデータを集積する意味はあるよ」と村上。

「そうやって信用を無くした人達だという事実は、客観的に積み上がるよな」と芝田。

「逆に、ダイケー批判者をそういう立ち位置に無理やり置こうと、現実をスルーするためのレッテル用語として、マスコミがでっち上げたネトアンケーって用語を拡散するんですね。あいつらの言う事なんか聞かなくていい、みたいに刷り込もうとして」と真鍋。

「どっちに耳貸すべきかってのは、ダイケーによる捏造に双方どう向き合ってるかで一目瞭然なんだけどね」と根本。

「ヒノデ側に立ってる記事では"事実がこうだから"って、言ってる事が客観的なのさ。ところがダイケー側の記事では、ダイケー人がこう言ってるとか、支持してくれる誰某がこう言ってる・・・って、結局自分側の主観なんだよね。結局、そういうスタンスが通用すると思ってる人達だから、ああいう論の中身になる・・・って問題だよ」と村上。



「それと、お前の立場でこれを言うのはおかしい・・・って言い方があるよね? 所謂ダブスタだ・・・みたいな」と森沢。

「ごまかすつもりで言ってる人達なんだろうけど、日本でも、ネットでリベルタン派がよく言いますね。"保守派というのは金持ちの味方なのに、貧乏人のお前が何で庇うんだぁ"とか」と桜木。

「庇うとかって話じゃないだろって事よね。だって立場がどーだじゃなくて、みんなのための社会をどう作るか・・・って問題なんだから。例えば貧富の差とか言うけど、バブル破綻期に日本が低調になったのは、経済摩擦で企業が外国から締め上げられて、どんどん潰れて社会全体が貧しくなった結果なのよ」と秋葉。

「そもそも"お前貧乏人だろ"自体が、ただの私生活透視エスパーの妄想だし」と芝田。



「最近、隣国を侵略した独裁者が居るよね。あの独裁者と会って別件で交渉した他の国の保守派の首相に対して、リベルタン派が"お前が友達アピールして甘やかして調子に乗らせた結果だ責任とれ"・・・とか」と戸田。

「そりゃおかしいだろ。元々は"対立してた国の権力者とでも、顔突き合せて対話して仲良し目指せば解り合えて解決する"とかいうお花畑思想を"協調外交"とか言って要求したのはリベルタン派だよ。その要求を受けて、ああいう外交をやったのに、今更何言ってるって話さ」と村上。


「ああいうお花畑思想の大本が200年前のガブリエルってドイツの哲学者で、リベルタン思想の源流の一つ。"殺しに来る相手との壁は友情と愛によってしか破れない"とか言ってたんだよね。そんな"政治上の争点を脇に置いた仲良しゴッコ"に何の意味も無い。その友情とやらの中身は結局、イジメやる奴の"俺たち友達だよな"と同じだもん。で、リベルタン派はその元首相に、"お前あの独裁者との対談で、君と僕は同じ未来を見ていると言ったよな"とか言ってる訳だが、同じ未来ってまさにガブリエル思想だよね。政治家だから反対派にも耳は貸して、ああなった訳だが、それに対して"そんなお花畑要求に耳貸すなよ"って言うならまだしも、それが誰の思想かって事実に口を拭って、叩く口実にしたつもりとかバレバレ。その一方で今だにそれをやってるのが、"トラストミー"とか"友愛"とか言ってるリベルタン派の元首相だ。その仲良しゴッコ思想で、ヒノデのマスコミも個人的にダイケー人と付き合えばいいとか言って騙してる。日本のリベルタンも同じ。何の事はない、叩かれるべきは自分たちだろーが・・・って事さ」と住田。


「詐欺師なセールスマンが、会って話せば解るとか言って、家に押しかけるのと同じね。直接会うってのは、解るんじゃなくて、解ったつもりにさせて騙すのよ。ヒノデでは学校教育の上層部までが、"直接ダイケー人と会うと反ヒノデじゃないと解るからダイケーにヒノデヘイトは無い"と言い張ってるそうだけど、社会組織全体が敵対国に奉仕する詐欺組織になってるわよね」と秋葉。

「そういうの、日本にもあるよ。リベルタン派の大学教授がでっち上げた和平学とかいう偽学問がそれだね」と住田。



「いろんな場面で、相反する二つの発想がある。そういう場合、その人の意見全体の整合性の中で"どう考えるか"って問題になる。論理の問題ってのは、その人の主張総体がどんな社会を目指して、何にどう影響するか・・・って、そういう整合性は問われたりするね。その中で建前的な美辞麗句の正体が露見したり、駄目な論理の駄目な所以としての背景が理解出来たりする・・・ってのがあるね」と森沢。


「逆に、整合性を無視した強弁を、大量の言い張り発言の動員で押し通す事って多いですよね。例えば、治療法の確立していない新種の伝染病の蔓延を防ぐために"人の移動"を規制すると経済が阻害される・・・みたいな、あちら立てればこちらが立たずな状態で、どこをどう妥協しながら全体を動かすか・・・って時に、人命尊重だから一人でも病死が出たら責任取れ・・・って極論を出して、経済については言わない。その一方で、俺たちの経済どーすんだの1点張りを出して、病気については言わない。野党とマスコミが一緒にこれを盛り上げて、政府を引きずり回そう・・・みたいな。野党が批判ばかりで具体策を言わないって、そういう事さ。国民にとっては害悪しか無い。ってか、むしろ害悪をもたらすためにやってるのと実質同じさ」と桜木。



「ところで立場っていうと、リベルタン主義って国家や民族主義を否定する立場よね。ところが民族主義は実は民主主義の支えであって、正しい思想である事が明らかになって、多くの人が支持するようになった。それで最近ではリベルタニストが自分たちこそ愛国者だと言い張るようになってきてるのよね。アメポチという言葉があってね」と秋葉。

「アメリカの下僕って意味ですよね? 国際問題でアメリカの立場を支持する奴はアメリカに日本を売り飛ばす売国奴だと」と鈴木。

「アメリカは実際、かつての貿易摩擦に見られるように、日本に対して不当な悪意を向ける事がある。そういう時にアメリカに抗うのは正しいよ。けど問題は、どういう時に彼等がその言葉を持ち出すか・・・というと、本当にアメリカが日本を害する時に、彼等がその"害する行為そのもの"を否定してアメリカを非難するという事は絶対に無い。むしろ、例えば日本が民主主義を守る立場として、大陸国やダイケーみたいな独裁的で侵略的な国に対抗しようって時に、その同盟者としてのアメリカを非難して手を切れと。つまり実際には日本を害するための日米離間要求なんだよね」と住田。

「それで、彼等はアメリカに対抗するために、日本やヒノデに対して、こちらに悪意を向ける国の、その悪意に迎合しろ・・・って訳よね?」と戸田。


「民族主義は正しい。けどその正しさは必ずしもその名前には無い。それは、自国の当然の権利を守るために、悪意ある国の悪意的行動に抗うという意味で正しいんだよ。リベラリストが口にする"自分たちこそ愛国者"とかいうのは、その正しさを妨げるための、ただのスローガンであって論理じゃないんだ。正しさはその中で具体的に何をするか・・・って論の中にあるんだ」と桜木。

「ヒノデでは今、大陸国の侵略的姿勢に対抗するため、ダイケーを味方に取り込むべく妥協して、あの国の条約破りを半ば容認し支援せよ・・・と主張する人達の欺瞞に直面しています」とモニカ。

「それは馬鹿げているよ。ダイケーがアメリカ側に就くのはダイケー自身のためだろ。ヒノデの譲歩が無ければ敵方に就く・・・などと言うなら、そんなのは味方についたとは言わない。大陸国が悪なのは、あの被侵略国やヒノデのような特定国を生贄とする暴力の論理が悪だという事さ。大陸侵略国との戦いも、ダイケー国のヘイトや条約破りに対するヒノデの戦いも、同じ論理に基づいた同じ戦いなんだよ。どちらで妥協しても、それは等しく世界の敗北だよ。ヒノデは絶対妥協すべきじゃない」と村上。



モニカは言った。

「ダイケーで"ヒノデの首相に土下座させる像"を作ったレイシストが居て、あれはさすがにダイケーの人の間でも批判が起きたんです。そういう批判意見を楯に、"ダイケー人が反ヒノデだというのは嘘"だと主張した人が居ました。その人に問うたんです。"その人達はバンブー島問題でも理性的な事を言っているのか?"って。そしたら、他の問題に関する意見の確認を要求すべきでないと」

「いや、要求すべきよ。意見の整合性を問わないと、"あー言えばこう言う"がまかり通るだけよ」と秋葉。

「その"批判した人が居た"って事自体は、あの像が駄目だという論理の中の話でしか無い。それを論じた人を、それだけで評価できるか・・・という話にはならないって事だ」と村上。


「ドライマンという漫画にケイヤンという乱暴者が居るよね? 彼が"お前の物は俺の物"って言った。それに耳を貸すべきか」と桜木。

「ジャイアニズムですよね? 駄目に決まってるじゃん・・・って」と渋谷。

それを受けて桜木は「けど、同じ事を、しず子ちゃんや出来高君が言ったら、耳を貸すんじゃないのかな?」

「あなたの物は私のものだけど、私の物はあなたの物・・・って事だから?」

「ケイヤンのは、お前の物は俺のもので俺のものも俺のもの・・・だから駄目なんだよな」と真鍋。


「そこらへんを確認出来るか・・・だよね?」と真田。

「そこを、出来高君のフリをして、"お前の物は俺のもの"を通させるんだよ。それで後でケイヤンの正体を現して、全部毟っちゃう」と鈴木。

「そのために騙す・誤魔化す・脅すって訳か。ダイケーみたいなののいつもの手口だね」と芝田。

「"主権の共有化"なんてトンデモを選挙公約にしちゃった奴等なんて、その典型だよね」と戸田。

「けど、確認も何も、ダイケーやリベルタン主義者が、そういう騙し屋だって、みんな解ってるんだよね。騙し屋だからネトアンケーなんてレッテル用語を連呼して議論をスルーしようとする。だからリベルタンは相手にしちゃいけない奴等って事になる」と住田。



モニカは言った。

「ダイケー派とかリベルタニストが、人権だ共感だ寛容だと言ってる事の嘘って、そういう事なんですよね? それにずっと私たちは騙されてきたんです。それはもう全部解ってる。解ってて、まだ騙されろ・・・と彼等は言ってるんです。人権は大切です。けど、ああいう人達の語る人権という言葉は信用出来ません」

「だから人権なんて信用できない・・・って思う人達が居るのは当然なんだが、そこに大陸の超大国みたいな、本物の人権侵害勢力が便乗して、異民族を抑圧したり隣国を侵略したりの、本物の悪事を働く訳。しかもそれを止めるために制裁しようとすると、妨害するのが、偽の人権騙るリベルタニストなんだよね」と森沢は言った。



村上が言った。

「さっきの、相反する二つの発想・・・って、典型的なのに"どっちもどっち論"があったよね。この間の隣国を侵略した大陸国のピータン大統領の件で、"侵略した方だけを非難してていいのか、侵略された方にも問題が"・・・って言ってた人が居た件。特にリベルタン主義者に多かった」

「けど、そもそもあの大陸国の言い分って、かつて自分達が支配していた国が先進国を頼ったから・・・って、それ侵略した理由にならないだろ」と芝田。

「ヒノデ国でも、それに便乗したダイケー派が、"昔ダイケー国を支配したのと同じだからヒノデに非難する資格は無い"とか言っていました」とモニカ。

「とんでもないトンデモ論だな。武力で他国を支配するのが当たり前だった昔と、今の話を同レベルで語る時点で間違っているよ。今は国際的な枠組みがあって、そういう事を否定する認識が定着しているんだよ。それを無視したのがピータン大統領の言い分で、"昔の帝国主義の時代にやってたんだから、俺がやってもいーじゃん"って奴さ。だからピータンに対して"そういう事がやりたきゃタイムマシンで19世紀に戻れ"って言った人が居る訳で、昔の話と一緒にするのは、それこそピータン的な侵略者の論理だよ」と住田。


「要するに、あの侵略者の問題で"どっちもどっち論"を語るのは、"初めにどっちもどっち論ありき"なんだよね。つまり、侵略者を擁護するためのものでしか無い。"どっちもどっち論"が大人に見えるのは、双方の言い分にちゃんと向き合おうよ・・・って言う話になるからで、それに向き合った上でピータンが悪いと言ってみんなが非難している訳だから」と桜木。

「ヒノデとダイケーの昔の支配関係の原因がダイケーが近代化に背を向けた事にあるという指摘を、同じ"どっちもどっち論"じゃないかと言う人も居ます」とモニカ。

「全然違うよ。そういうのが当たり前の時代だってものあるし、そもそも、ちゃんとダイケーの言い分に向き合った上で戦後処理を完遂した、その上での話なんだから。ダイケー側がその事実に向き合わない。"どっちもどっち論"以前の問題だよ。むしろダイケーによる歴史捏造による対立で、無理に"ヒノデも責任を"・・・とか言ってる奴こそ、ピータン擁護と同じ"悪しきどっちもどっち論"だよ」と村上。


「結局、二つの対立する立場だからって、自動的にイーブンになる訳じゃない。ちゃんと基準とすべきものがあるんだよね。例えば、現在行われている被害を先ず防ごうよ・・・とか。人同士、国同士で対等な立場を認めようと、平等というより対等としてね・・・とか。それと、一方的な感情・・・被害者中心主義とか報復的正義みたいな感情論で道理を無視するのは止めよう、とか。そして、その時代での行為に対する評価は、その時代の状況の中で形成されたルールに沿って行われた事を念頭に置くべき、とか」と森沢。



「あの大陸国は、昔の戦争で戦勝国だったんだよね。自分達自身がファシズムで周囲を侵略したのはスルーして、"敵のファシズム国に攻め込まれた被害者として戦って、犠牲を払って悪を打ち破った正義の味方で絶対善である"・・・という認識を、戦勝国の力と立場で強引に定着させた。だから、何をやっても自分達が正しい。自分達だから正しいと。他の国も、その認識に従えと・・・。その傲慢であんな暴挙に走った訳だ」と住田。

「けど矛盾があるよね。で、それを突っ込まれると、"いや、戦争の結果なんだ。正しい認識は勝者が決めるんだ文句あっか"・・・と」芝田。


「つまり、論理ではなく存在自体で善悪を語った結果だと。ダイケー国の言う"正しい歴史認識"と称するものと同じですね。だからダイケー人も戦勝国の名を騙って、ヒノデに対して敗戦国としての服従を不当に要求する。やはり、正しさの根拠は人ではなく論理にある・・・は基本ですね」とモニカ。


「誰が言ったか・・・というのは、その論理の全体像を明確にするための手段として意味がある訳で、やはり大事なのは論理・・・って事なんだろうね。だから逆に、タカ派の保守を攻撃するリベルタニストがあれこれ言うのも、その相手の主張する"自分の国を実力で守る体制を"というのが気に入らない、ってのが実態なのよね。だからそれを否定するのは現実的にどうなの? ってのが問題の本質なんだけど、それだと論理的に不利だから、論理ではなくそれを主張する"個人"に対する攻撃に走る・・・ってのが見透かされるのよね」と秋葉。

「"憲法改正は否定しないけど、彼個人が嫌いだから、その手柄にさせないため妨害するんだ文句あっか"・・・みたいに。それで他の人が改正を主張すると、その人も標的にする訳だ」と鈴木。



その後、各自の作品が俎上に乗る。夜が更けた頃、最後に森沢が言った。

「三年生が六人居るが、どんな卒論を考えているんだい?」


桜木は「ファンタジー小説にはいろんなテーマがあって、いろんな世界観があって、その世界観はテーマに沿うものですよね? その関連性を探ってみたいです」

戸田は「恋愛小説では異性愛を欲望として見る部分がありますよね? その核としての独占欲が満足感や悲劇を産み出す構造を探りたいです」

芝田は「眼鏡みたいに装着して情報を見る事のできる情報端末をデザインしたいです」

秋葉は「街や農村をどう観光的にどうアピールするか。景観とか、あと伝説や由来みたいな場所に関わる物語も含めて、その土地を魅力的なものとして観光に活かす仕組みを考えたいです」

村上は「受精卵が子宮に取り付く着床を人工子宮で実現する実験です。人口子宮で一から胎児を育てるのに必要なものですから」


「それじゃ中条さんはどうかな?」と森沢。

「人格が形成される鍵って、その人が救われたって思える体験じゃないかと思うんです」と中条。

「救い・・・かね?」と森沢。

中条は言った。

「私、友達が作れなくてずっと寂しかった。けど、真言君と拓真君が優しくしてくれて、居場所をくれて、それで救われたんです。それで今の私があると思う。そういうのって、きっと他の人にも。その上で、その人の性格や価値観があると思う。どんな経験がどんな性格を作るのかを考えたいです」

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