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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第27話 津川君の三人デート

 村上達が温泉から帰って間も無く、中条が杉原・秋葉と水着を買いに行く事になり、村上と芝田にも同行を求めた。

 宿題会の件で懲りた中条は、男子を伴う事で杉原の了承を求め、杉原は了承するとともに津川を誘った。六名が駅前で合流してデパートに向かう中、津川はひとり状況を理解出来ずにいた。

 デパートに着いて、先ず喫茶店に寄る。全員が飲物を注文し終えると、出し抜けに津川が切り出した。



「これって中条さんの水着を買いに来たんだよね」

「そうだけど」と杉原。

「それでまあ、女子三人が居るのは解る。芝田と村上は中条さんの保護者だから解る。俺って何で居るの?」と津川。

 秋葉が大笑いして言った。

「そりゃ、杉原が中条さんに一方的に見せ付けられないように、でしょ? 自分達が散々やったみたいに」

「え? 杉原さんが誰に何を見せ付けたんだ?」と芝田。

「ちょっと、止めてよ秋葉。もう悪かったって・・・」

 真っ赤になって話を遮ろうとする杉原だったが、秋葉は更に楽しそうに、話を続けた。

「だってこんな面白い話、ネタにしない手は無いもん。それでね、この二人が付き合い始めてから杉原、デートの度に私に同行させるの。友情を恋愛の犠牲にはしない・・・とか言って」


 村上と芝田は大爆笑。

 村上が「二対一で女の感覚で主導権握ろうって訳だ」と言えば芝田が「津川お前、一対一だといきなり襲われるとか警戒されたんじゃないのか?」

「えぇーっ? そうなの? 杉原さん」とまごつく津川に、秋葉は「そもそも、二人っきりになれない津川君が被害者じゃない?」

 津川は「それで秋葉さん、俺に親切にしてくれて、色々話しかけたり気を使ってくれた訳なんだ。俺もつい嬉しくてさ・・・」

「そしたら杉原、そのうち私に津川君取られちゃうんじゃないかと心配したらしくて、私が居ない所で津川君追求しちゃって」と秋葉が笑いながら言う。

「だって、どう見たって秋葉のほうがルックス上だし・・・」と杉原。

「だからさぁ、俺が好きなのは杉原さんだって言ってるじゃん」と津川。

「それで津川君、杉原さんの前で、"秋葉さんの親切は嬉しいけど俺の彼女は杉原さんだから"なんて私に言っちゃうんだもん」と秋葉は大笑い。


「それは秋葉さんに対して酷い」と、村上と芝田。

 杉原は汗だくになって「もう悪かったって。だからそういうのもう止めたじゃん」

「それでやっと、自分の彼氏とちゃんと向き合うようになった訳だ」と芝田が言う。

 村上は「それってラブコメの定番だよね。ヒロインが主人公との間の壁を消せないんだけど、そのうち主人公を好きになる子が出てきて、主人公がその子を振って、ようやくヒロインが認めてくれて、女の子は泣いて去っていくっていう・・・」

 悪乗りした秋葉は「そうなの。私って可哀想な子なの。どっちでもいいから私を慰めてよ」と冗談半分に芝田と村上に迫る。

 それを見て杉原はこめかみをヒクヒクさせながら作り笑顔で「中条さん、こいつ殴っていいから」



 喫茶店で一息ついた後、衣服売り場で水着選びが始まる。売り場に並ぶ水着の前であれこれ・・・というのは女子の独断場だ。

 男子三人が少し離れた所でうろうろする中、秋葉が「中条さんはどんな水着がいいの?」と言うと、中条は少し頬を染め、嬉しそうに「村上君が、ビキニが似合うって言ってくれて、そういうのにしようかな、と・・・」

 杉原と秋葉の「へぇー・・・、村上君がねぇ?」とわざと不審感を込めた声とともに、好奇心を込めた視線が、少し離れた所に居た村上に突き刺さった。

「え? 何?」と状況を理解できない村上。

「いえね、村上君が中条さんに、ビキニを着せたがってるって話なんだけど」と杉原が言えば、秋葉も「村上君って意外とムッツリスケベだったんだ・・・」


 村上は絶句し、そして言った。

「いや、あれはそうじゃなくて・・・」

 中条は、自分の失言が、村上にとんだ迷惑をかけている事に気付き、あわてて訂正した。

「そうじゃないの。私がヘマをして、村上君が取り繕ってくれて、そのために適当に言った事なんだけど、私、それでも嬉しくて・・・」

 杉原は更に追求する。

「ヘマって何? ビキニって事は、水着に関係した事なんだよね?」


 困って泣きそうな中条を見て、芝田は助け舟を出した。

「そのくらいにしといてくれないかな。村上が恥をかくのは構わんが、里子に恥ずかしい思いをさせるのは見過ごせない。俺達にだって言いたくない事はあるよ」

 次いで津川も「杉原さんも、前に中条さんに馴れ初めとか無理やり聞き出して、あんな騒ぎを起こしちゃった経験は活かそうよ」

 さすがにそれを突かれると、杉原は追求を止めざるを得なかった。


「あの時は悪かったわよ。けど・・・」

 杉原はそこまで言うと、秋葉に視線を向けて「なら、さっきの三人デートのあれは何なのよ」と不満そうに言った。

 秋葉は「てへ」と誤魔化し笑いを見せると「はいはい、もうこの話は止め。で、ムッツリスケベの村上君は、どんなビキニを着させたいのかなぁ?」と、村上を陳列棚の前に引っ張り込む。

「あーもう好きなように言ってくれ」と諦め顔の村上。



 陳列棚の前で二人の物言いに悪戦苦闘する村上を、津川と芝田は離れた所で眺めながら、津川は「あれってかなり苦行だよな」と面白半分に言った。

「そうか?」と芝田。

「だって、どっちがいいかって言われて、派手なのや際どい目のを選ぶと、女子から変な眼で見られる。かと言って、地味なのやおとなしいのを選ぶと、女子はがっかりするぞ」と津川。

 芝田は「なるほど」と相槌を打ちながら、こいつも彼女持ちになって経験積んだんだなぁと感心した。


 やがて話が決まったらしく、村上が消耗しきった表情で戻ると、倒れ込むようにベンチに座った。

「お疲れ!」と楽しそうな津川と芝田。

「いやほんと疲れた。中条さんは面倒な事言わないんだが、あの二人ときたら・・・」と村上。

「そういう苦難を乗り越えて男は経験値を積むもんだ」と芝田と津川。

「そんな経験値いらないよ。ったく他人事だと思って・・・」と村上。

「だって他人事だもん」と声をそろえる芝田と津川。


 そこに杉原と秋葉が来る。

「今度は私達の水着選ぶから、津川君も見てよ」と杉原。

「杉原さんも買うの?」と津川。

「当然でしょ? 何その態度。大好きな彼女の水着だぞ」と言いながら津川を連行する杉原。


 村上と芝田は笑いながら「しっかり経験値積んでこいよ、この彼女持ち!」と見送る。

 だが今度は秋葉が「じゃ、私のを選ぶのに芝田君の参考意見を聞こうかしら・・・」

 芝田はきょとんとして「え? 俺、秋葉さんの彼氏でもないし・・・」

 秋葉は「私、可哀想な子なの」とすねてみせる。

 芝田は泣きそうな顔で「村上ー」と助けを求めるが、村上は「苦難を乗り越えるんだろ? 自分ひとりだけ逃れようとか甘いぞ」と笑いながら突き放し、芝田は秋葉に展示棚へと連行された。



 買物を終えた六人は、とりあえずデパートの玄関前広場にたむろした。

「まだお昼まで時間があるし、この後どこに行く?」と杉原。

 呼応して秋葉が「ムッツリスケベの村上君は、どこか行きたい所ある」

 (定着させる気かよ)と村上の、いささかうんざりした様子に、中条は「村上君ってまじめだから、ギャップを面白がってるんだと思うの」と言って村上の手を引いた。

 秋葉は悪乗りして「そうなの。ギャップ萌えなの。村上君もぇー」


「あーもういいよ秋葉さん。中条さん、ありがとうね」と、村上は言って、中条の頭を撫でつつ「けどさ、ムッツリスケベって言葉自体、なんか違和感あるんだよな」

「違和感って?」と杉原。

「だってさ、これってエロい事に興味が無いフリをするって事だろ? けどムッツリって機嫌が悪い時の表情の事だよ。エロい事に興味が無いと、女子には機嫌悪く見える訳?」と村上。

「なるほどな。これじゃまるで女って、男がエロいのを期待してるみたいだ」と芝田が言うと、すかさず杉原が「芝田君、それセクハラ」

 だが芝田が「それを言うならムッツリスケベ呼ばわり自体、セクハラじゃないのかよ」と言うと、女子達はしんとなった。

「確かにそうよね。村上君、ごめんなさい」と杉原。


 そして中条は続けた。

「それにね、悪い事じゃないと思うの。前に村上君が教えてくれたんだけど、江戸時代にお風呂屋さんが混浴で、でもそれ場所が無くて、男女用に分けられなくて、仕方なかったって。それで女の人が気持ちよく入れるように、男の人は裸が見えたとか言って喜ぶのを自粛して、興味が無いみたいな顔して、それで一緒に入る、みたいなのが、粋な心遣いだったんだって」

 それを聞いた津川が「なるほどね。それも一種のムッツリスケベなんだろうけど、けっこういい話だよね」と言うと、場の雰囲気は落ち着きを取り戻すかに見えた。



 だがその時、杉原の「どころで村上君、その時どういう脈絡で、その話出したの?」の一言で、村上、芝田、中条の三人は、ギクリとなって冷や汗が吹き出した。

 村上が「いや、別に脈絡なんて無いから。ほら俺って、役に立たない蘊蓄ひけらかして自慢するのが趣味の、嫌みな奴だから」と焦り丸出しで弁解する。

 芝田も「そうなんだよ。村上って嫌みな奴だから、な、里子?・・・」


 ふーん? と杉原は彼等の様子を眺めつつ「もしかしてあんた達、一緒にお風呂に入ったりしてる?」

 更なるギクリが三人を襲った。

「そ・・・そんな事無いから」と村上。

「そうそう、いくら俺達だって」と芝田。

「それに、ちゃんとバスタオル巻いてるし」と中条。

「中条さんってば!」と泣きそうな声の芝田・村上。


 しまった・・・という表情の中条を見て、杉原は一言「入ってるんだ」・・・と言うと、いきなり津川の方を向いて「津川君、今夜、私のうちに来て」と言い渡した。

 何故話が自分の所に来たのか理解できない津川が「え? 何で急に?」とおろおろしながら言うと、杉原は「いいわね?」と一言念を押す。



 一連の騒ぎを笑いながら眺めていた秋葉は、「はいはい、もうこの話は終り。暑いし、せっかくだからこの後みんなでプールに行かない?」と提案した。

「俺達は水着持って来てないよ」と芝田が言うと、秋葉は「レンタルがあるから大丈夫。買ったばかりの水着、見たいでしょ? ムッツリスケベの村上君も・・・」

 (いや、それセクハラだから)と男子達は思った。口には出さなかったが・・・。

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