第269話 モニカさんの正義
芝田の評論が終わった時、そこに出て来た「正義」という言葉に反応して、モニカが問いかけ、さらに評論は続いた。
彼女の問いかけは続く。
「ヒノデにもダイケーからの移民が多く居ます。団体を作り社会的地位を得て、バンブー島などの問題でヒノデを非難して、歴史の捏造や歪曲が横行する。彼らの行動による害悪をどう防ぐのでしょうか?」とモニカは言った。
「そうだね。言論の自由はあるよね。けど、それは間違った主張が間違っていると指摘され、それに社会がきちんと向き合うのが前提だ。そうなってないって事だね?」と村上。
「リベルタニズムみたいに、間違っててもそれを押し通す権利があるみたいなノリで言い張って、押し通しちゃう奴等だな?」と芝田。
「論理的正しさが社会を守るものである以上、論理を拒絶する自由って、社会を害する自由を主張するのと同じだよね」と桜木。
「そういう、正しさを評価する機能って、本来マスコミが担う筈なんだが、現実のマスコミはそれと真逆に行動して、正しさを必死に潰そうとする」と住田が言った。
「何でマスコミには、ああいうのが居るのかな?」と中条。
「リベルタンバイアスって言って、メディアにはリベルタニズム思想が蔓延る傾向ってあるんだよ。その思想が論理的正当性を拒絶して、システムの中でのさばるのさ」と森沢が言った。
「泥棒が警察やってるようなものね」と戸田。
「ヒノデでは、そういうマスコミ勢力に反ヒノデのダイケー団体のシンパが浸透して、そうしたものに対する批判を民族差別呼ばわりする。彼らの民族学校に補助金を出さないのは差別だとか」とモニカ。
「補助金は好意の問題で権利義務じゃないし、日本でも普通、他の国から来た人たちの民族学校は補助金なんか要求しない。ああいうのは差別とは言わないわよ」と秋葉。
「彼らにヒノデでの選挙権を与えないのも差別だと言います」とモニカ。
「それも差別じゃないね。選挙は国籍を持って国民意識を有する主権者の権利だ。主権って"外部から介入されない権利"って明確な定義がある。外国籍を持つ外国人は他国の主権者だから、そういう人の介入を阻むのは、その国の主権者の基本的人権だよ」と村上。
「ヒノデはそれを拒んでるんだよね?」と中条。
「そういう反論を無視して差別社会呼ばわりする・・・って事自体、ヒノデ主権者に対する差別偏見だよ。ヒノデが拒んだからいいってもんじゃないよね」と根本。
「そういう変な理屈が社会を動かすのを防ぐものは何か・・・って事なんですが」とモニカ。
「問題は彼等の主張が変に社会的な影響力を持って、しかもそれに役所や政治家が加担して強制力を行使し、本来の国民の立場からの批判を不当に差別認定して、言論が封殺される、って事じゃないかな? そういう不当な影響力さえ解消されて、社会にかける迷惑が無くなれば・・・という気もするが」と桜木。
「その防ぎ方・・・というか、正義として何を基準にどうすべきかをどう決定し、どう実行するか・・・。それは公という事だろうね」と村上。
「よくお上の言いなりとかマイナスイメージで言われますけど」と渋谷。
「お上=正義じゃない。けれどお上=反正義でもない。というよりお上=政府だけど、それは公でも国家でもない。それは論理によって明かされた正義の代行者の役目を担っているに過ぎない。その正義は、みんなの正当な権利のために正常に社会を機能させるもので、その目的論理が公なんだよ」と村上は言う。
「それを彼らは、お上は権力=強制力=暴力機関で悪・・・みたいな間違った短絡イメージで人を騙すんだよ」と桜木。
「強い存在だから、それを叩いて強きを挫き弱きを助けるのが正義でかっこいいんだ・・・とか言ってる訳さ」と住田。
「かっこいい・・・って何だよ、って話なんだが。そいつらって何のために政治語ってるんだ? 女にモテアピールでもする気かよ(笑)」と芝田。
「トンデモ女が自分のトンデモを突っ込まれて"モテないわよ"とか言って逆ギレる感覚だよね」と真鍋。
根本は「ほんっと、ロクでもない奴等よね・・・って、何で私の方、見てるのよ」
「いや、別に・・・」と部員たち。
モニカは「彼らはこう言ってます。"保守派政府は強者で権力者だから、どんな批判でも甘んじて受け入れろ。間違ってるとか言って反論するのは自画自賛で恥知らず。彼らへの批判に反論する奴は強者に媚びる卑怯者だ"・・・と」
「政治論議で反論するのは社会のためで、政治家の利益の問題じゃない。中味が間違ってるのを受け入れろは無いぞ。ってか自賛って何だよ。しかもその是非を判断するのが媚びとか・・・。社会運営論議を政治家個人の毀誉褒貶問題と勘違いするリベルタンこそ恥知らずだわな」と芝田。
「叩かれて抵抗しないのがかっこいいって言いたい訳だ。つまり都合のいいサンドバックになれと。それは駄目だろ。公の目的は等しく国民の権利を守る事で、その目的こそ正義のはずだよ。それを公でお上で国家だから叩け・・・って、国民を害せよと言ってるのと同じだね」と村上。
「こういう、権力者と国家社会を混同した発想って、独裁者が自分=国家って認識で好き勝手やるのと同じさ。ダイケーの政治って、大統領に権力が集中した独裁指向が強いんだよ。その間違った混同を元に発想するリベルタニストが独裁主義的な認識に染まってるって事だろ」と住田。
「というより、そもそも社会全体の利益のために何が有益かを考える事が悪だと、彼等リベルタニストは言います。社会にとっての有益性を考慮して優先課題とする者はナチスだと言うんです。ナチスが少数民族を有益性が無いからという理由で弾圧したのと同じだと」とモニカ。
「それって"優先しない"と"弾圧する"をすり替え、"有益かどうか"と"偏見による有害認定"をすり替えて、無理なナチス認定で相手を貶めようってトンデモ論理だろ。ナチス呼ばわりって、ああいうトンデモ連中の十八番だよ。この前隣国を武力侵略した独裁者が被害国をネオナチ呼ばわりしたのと同じ」と桜木。
「民主主義は自分たちの国と社会にとっての利益、つまり社会的有益性を個々人が主体的に考える事よ。それを否定するリベルタニストはさすがに駄目よね」と秋葉。
「日本でもヒノデでも、憲法は主権在民。それを彼等は、国民から主権を奪って外国人に差し出す=主権在外にしたいんですよ。つまりダイケーみたいな敵対的な外国のものに・・・って事ですね?」と鈴木。
「あの人達がよく、自分たちはグローバルで・・・って言ってるけど、彼等の言うグローバルって、奪うために国境を越えるって事よね」と根本。
「で、その公としての正義を誰が決めるか・・・なんだけど、普通は国民が数で・・・だよね?」と中条。
「その数にヒノデに対して悪意を持つダイケー移民に割り込ませろと」と渋谷。
森沢は言った。
「だから移民に選挙権を与えるのには重大な問題がある。アメリカがメキシコからテキサスを奪った時もハワイを侵略した時も、先兵として決定的な役割を果たしたのはアメリカ人移民なんだ。相手国を乗っ取るのに移民を使う。民族浄化ってのも本来の主権者民族を追い出す一方で、送り込んだ移民に土地を支配させる」
「大陸国も、侵略した少数民族エリアに移民送り込んで、彼らの土地を奪おうとしてるのよね」と秋葉。
「ダイケー移民のリーダーのブログには、ヒノデを奪うためにヒノデの国籍を取得するのは、祖国に対する裏切りではなく愛国的侵攻作戦だって書いてあります」とモニカ。
「そんな事書けば立場を失うのが普通なんだけど、そうならないと思ってるのが異常だよね」と戸田。
「ネットではヒノデ人の立場を騙る人が、ダイケー人の利益を要求して、ヒノデ人と物凄いバトルをやっています。そのヒノデ人の立場に対して親ダイケーのマスコミはネトアンケーというレッテルネームを大々的に定着させて、意見の排斥や無化を図るんです」とモニカ。
「勝手な空想で、あいつらは無職で不満を発散してるだけだから相手にするな・・・って言って、本来の多数意見を無化する訳ね。その一方で移民団体とかの組織的書き込みでネットで多数派を偽装すると」と根本。
「民主主義にとっての正義、つまり本当の主権者の意思は、単に数があればいいという問題ではないんだよ。ルソーは一般意思と呼んでいるけどね。その国と国民の利益という目的に適う、それを目的とした意思であるという事さ」と森沢。
「ダイケーでヒノデに対する過激で不当な攻撃を、ダイケーの利益だと偽って是とするのは、その理屈ですね。そんなのがダイケーのためとも思わないけど」と中川。
「一方で最近のヒノデや日本のリベルタンは、自分たちこそ国の利益を主張していると言う。けどその利益の中身が、自分たちに憎悪を向けてる国を喜ばせて歓心を買う事だと。つまり敵対する国の満足を国益と詐称する。これは自分たちの不利益を喜ぶ者に奉仕する事で、利益のためと称して不利益を目指す。つまり詐欺だね?」と桜木。
「そうだよな。マスコミや政府がそんなのを担いだら、それこそ国民への裏切りだよ。外からの害意を防ぐという正義に権力が背を向けるなら、自分達主権者が暴力でそいつらを排除すべしという、革命みたいな話になるぞ」と芝田。
「まあ、解決策は追放だけじゃないからなぁ。選挙権をよこせ・・・みたいな変な話を変だと社会的に認識できる環境を・・・じゃ駄目なのかって」と住田。
「それが可能かどうかって話なんですよ。先輩が言うような、彼らが私たちの主権と尊厳を認めるなんて、有り得ないじゃないですか」とモニカ。
「ヒノデはヒノデ人だけのものじゃないとか、トンデモ言っちゃう人達も多いからなぁ」と村上。
「ヒノデ人だけのものよ。主権とは排他的権利って定義だから。ヒノデの野党がダイケーの侵略欲に忖度して、ヒノデの主権を外国と共有なんて公約とか、どーいうジャイアニズムかって話よ」と戸田。
「だから、解決不可能なら最後は闘争・・・って話になるんだが、それを解決不可能なものにしている側ほど、間違った"どっちもどっち論"を言い出すのな」と村上。
「過去の侵略戦争と呼ばれている戦争も、そこに入った移民を排斥したり殺害した事が原因ってのがあるんだよね。あの戦争が侵略者を破った正義の戦争だって言うなら、そうした排斥行為もまた正義だったという事になる。正当な主権の行使としてね。過去の問題だから合法とかいう言い逃れはあるだろうさ。けどこれはそもそも誰かを裁こうって問題じゃない。移民に関する問題のちゃんとした対応を考えようよって話なのさ。その対応はけしてダイケー移民の好き勝手を容認しろって結論にはならない筈だよ」と森沢。
「ダイケー人も"公"という概念をよく使うよね」と中条。
「むしろ非論理的なヘイトのために振り回していますね。ヒノデに対する憎悪を"公憤"とか言って、彼らのヘイトを批判する比較的良心的な人の発言を塞ぐんですよ」とモニカ。
「彼らの言う公は公じゃないし、彼らの言う正義も正義じゃない。報復的正義なんて造語まで使って」と桜木。
「報復は正義じゃないだろ。それは被害者意識を持つ側が攻撃欲を満足させたいっていうだけの、ただのエゴイズムだよ」住田。
「ヒノデとダイケーの争いにとっての"公"は何かって言ったら、それは世界・・・というより国際法だよ」と村上が言った。
モニカは「世界というと、双方がどれくらいの国に支持されているか・・・という話でしょうか? ダイケーの宣伝は声の大きさで多数派を装おうとします。事実を知らない各国でも、偏向したマスコミに彼らの移民が入り込んで、勝手な主張に基づくイメージで記事を書いて、その国の人を騙そうとします」
「世論操作は怖いからね。どこかを悪者にしたい人たちはどこの国にも居る。叩かれる被害者が無関係な外国なら猶更だ。けど、本当の正しさを反映する立場はそれと違うんだよ。国際法理ってのがある。国際社会ではこうあるべきという国際法の基本がね」と村上。
「例えば国際人権規約に規定された戦争宣伝禁止は、ダイケーによるヘイト宣伝を禁止している筈だ。模擬裁判とか言って、弁護士もつかない法理論を踏み躙った裁判ごっこを自称法学者が演じるなんて、もっての他だ。国際社会における公の正義の基本は、どう言い繕ったって両国が戦後処理を終えた条約だよ。条約は国際法だからね」と住田。
「ダイケー人はあの条約自体が不当だと言うんです。かつて自分たちを併合した昔の条約を非合法と認めていないとか、ヒノデを悪と認めていないとか、謝罪の意が示されてないとか」とモニカ。
「そういう道徳的優劣を規定しないのが国際法理だよ。昔の併合条約の合法性だって、あの当時の他の例と対比すれば合法性は動かない。あの戦後処理条約は確かに、国際的なルールや常識が反映された結果で、だから、ああいう形になったんだ。あれは確実に国際的な公と正義の基盤だよ」と桜木。
「だから、戦後処理への不満だの謝罪が不十分だのと言って、彼らがやってる事こそ正義に反する悪だよな。バンブー島の不法占拠とか」と芝田。
「それを裁くべき国際的な公、国連とかはその機能を果たしていないんだよね」と鈴木。
「国際世論って言っても、いろんな国が外国での出来事に関して無責任だからね。ダイケーの宣伝に乗ってヒノデ苛めに加担する一部の人たちとか」と根本。
「だから闘争による私的救済って話になって、戦争は無くならない。そして、それを口実に隣国を侵略して平気で居直るんですよね?」と中川。
「要は、それを闘争にしたダイケーの責任だよね。戦争責任とはそういう事よ。公である条約で解決した以上、ヒノデにはもう責任なんて無い」と戸田。
「ダイケーが主張してるような報復主義こそが次の戦争を起こすという第一次大戦後の歴史の教訓を元に、19世紀的な戦争の時代は終わったんだよね。報復を正義だとか言う発想を否定したのが世界という公であり、それこそが正義だ」と森沢。
「あの戦後処理を戦争参加国どうしの対立で不徹底に終わったとか言うんですけど」とモニカ。
「王政下での戦争なのに王が処刑されないとか、君臨すれど統治せずで形式的に残ったから清算になってなくて、恨みが続くのは当然だとか言うんでしょ? それは対ヒノデヘイトの言い訳にならないわよ。戦争や支配の原因は軍部の暴走と主権在君といった体制だって結論で、ああなったんだから」と秋葉。
「責任だのってのは過去の主権在君の非民主性こそが対象として清算され、今の民主的なヒノデになった。与党の政権が長期に及んで政権交代してないから独裁政治とか、牽強付会にも程がある。あんなの野党が駄目だってだけの話で、敵対国に媚びる野党が選挙で勝てないのは当然だよ。むしろ、今やってる宣伝戦争におけるダイケーの責任が、これから裁かれなければいけない。今のヒノデがまた戦争を始める可能性なんて、ダイケー以外の国はみんな否定してるよ」と村上。
「ヒノデが戦争をしないのは、非武装中立を建前とした憲法があって、極右勢力を牽制してるからだと彼等は言い張ります」とモニカ。
「自分の国をちゃんと実力で守るべき・・・ってのは極右じゃないし、ダイケーが平和的なのは今の体制だからで、あの憲法があるからじゃない。むしろ大陸国とか中国の侵略姿勢に備えるため、改憲して自衛力を整備するようダイケー以外の外国から期待されてるくらいだ」と桜木。
「あの憲法は、実はまだヒノデは"受刑者として保護観察状態にある"っていう、裏の国際ルールによるものだって言うんですよね」とモニカ。
「"闇の世界大統領"なんてのが出て来る陰謀論みたいな話だよね。"そういう事であって欲しい"っていうヘイトな人達の本音なんだろうけど、解釈次第で何でも言えちゃうってつもりとしても、トンデモ過ぎだ。"裏の国際ルール"って何だよって話でね。趣旨があるなら明記するのが法でありルールだ。ヒノデの憲法はヒノデ人のヒノデ人によるヒノデ人のための最高法規として、ヒノデ人の利益と安全のみで改正を考えるべきものだよ。それを外国であるダイケー人の感情を考慮するから改正出来ない・・・なんて民主主義に対する冒涜さ」と村上が言った。




