表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
262/343

第262話 モニカさんと上坂の聖女

中条家の年越しにモニカが参加した大晦日の夜。

夕食を食べ終わり、風呂から上がった順に二階の畳部屋に引き上げる学生たち。


布団を敷いて寝転んで、お菓子を食べながらわいわいやる。

「大人の人たちはお酒を飲みながらテレビを見ていましたけど」とモニカが言う。

「最近のテレビはつまらんからなぁ」と芝田。

「特に大晦日は歌番組ばっか」と村上。

「ヒノデもそうです。特に歌手とか、ダイケーの人がやたら出るんで、誰も見なくなりました」とモニカ。


12時が近づく。

「そろそろ下に行こうか」

そう芝田が言って、四人で大人たちの居る居間へ。

年明けまであと一分。時計を見ながらカウントダウン。

みんなで「明けましておめでとう」


「中条家の未来のために」と村上父。

「村上家の未来のために」と芝田兄。

「芝田家の未来のために」と中条祖父。

「秋葉家の未来の・・・というか、私が村上奈緒になれますように」と秋葉母。

「だそうだぞ親父」と村上。

「婚姻は両性の合意により・・・だぞ」と村上父。

「そういうのはいいから」と村上。

「良くないだろ」と村上父。


「それとヒノデ国の繁栄とモニカさん一族の未来もね」と村上。

「だったら日本の繁栄もだ」と芝田。

「ありがとうございます」とモニカ。

「それと人口子宮の完成」と村上。

「お祖父ちゃんが長生き」と中条。

「上坂の観光の発展と、そして今年もいっぱい楽しい事が出来ますように」と秋葉。

「それって悪戯しまくるって話か?」と芝田。

「いいじゃん、減るもんじゃなし」と秋葉。

「場合によっては減ると思う」と村上。

「あと、みんなの卒論と就職があるんだよね?」と中条。

「そーいや、そーだった」と、みんなで・・・。



学生たちが二階に引き上げる。

「皆さん、ここで寝るんですよね?」とモニカが遠慮がちに言う。

「男と同じ部屋で寝るのは抵抗あるよね?」と村上。

「隣に私の部屋のベッドがあるけど」と中条。


モニカは「抵抗は無いですけど、皆さん、やるんですよね?」

「何を?」と秋葉がニヤニヤしながら言う。

「睦月さん、そういうの止めようよ」と村上は困り顔。


秋葉は芝田と村上を見て「ってか、やりたい?」

「別にいいけど」と芝田。

「私の体に飽きたとか言わないわよね?」と秋葉。

「だから、そういうの止めようってば」と村上。


「私のために我慢させるのは、ちょっと」とモニカ。

「別に我慢とかしてないよな」と芝田。

「いつでもやれるし」と村上。

「女にはしたくない時だってあるんですけど」と秋葉。

「そういう時はネットのエロ動画で抜くから」と村上。

秋葉は口を尖らせて「じゃなくて、彼女が居るんだから、お願いしなさいよ」



結局、畳部屋で五人で寝る事になる。

布団を三組敷いて、しばらく雑談。そして、電灯を消す。

村上と中条が一緒の布団で、芝田と秋葉が一緒の布団で、互いに温め合う。

モニカは布団が妙に広く、そして掛け布団が妙に冷たく感じた。

隣で寝ている中条が村上にすり寄る様子が妙に気持ち良さそうに見えた。



「そろそろ初日の出の時間だぞ」

いつのまにか寝落ちしたモニカは、村上の声で目を覚ました。

暖房に火をつけて、着替え、防寒着を着て外に出る。


東の丘陵から昇る初日の出に向けて拍手を打つ。

元日の夜明けが一年の始まり・・・それが暦の上では自然なのだと、モニカは初めて気付いたような気がした。

「お祖父さんたちは?」とモニカ。

「年寄りにはこの寒さはこたえるから」と芝田。


二階の畳部屋に戻ってわいわいやっていると、下から秋葉母の呼び声が聞こえた。



神棚のお神酒を降ろし、餡で餅を煮て、お節を開ける。

みんなで「あけましておめでとう」

お餅を食べ、お節をつつきながら、会話を弾ませた。


「私の祖国もみな、こんな大家族です」とモニカが実家を思い出して、楽しそうに言う。

「日本では家族がバラバラになってるけどね」と村上父。

「うちはお祖父ちゃんと二人なの」と中条。


「うちも息子と二人だなぁ」と村上父。

「ってか親父は年中遠くに居て俺は実質一人暮らしなんだが」と村上。

「父との暮らしが恋しくなったか?」と村上父。

村上は憮然と「なるかよ」


「うちも二人だったが、去年結婚して三人になったぞ」と芝田兄。

「私も二人」と秋葉母。


モニカは怪訝な顔で「それじゃ、皆さんは・・・」

「これから大家族になるのよ。村上さんと一緒になって」と秋葉母。

「それで私が拓真君と一緒になって真言君は私の弟になるのよね?」と秋葉。

「そしてサムライは中条先輩の夫としてこの家に来るのですね?」とモニカ。

「サムライって?」と大人たちは怪訝顔。



モニカの話を聞いて、大人たち全員爆笑。

「喧嘩じゃ殴られ役しか出来ないお前がサムライかよ」と村上父は村上に。

「俺は頭で勝負するんだよ」と村上。

「でも、それってお父さんの影響なんじゃ。名前だって道徳より論理が大事だから理屈で考えろって趣旨なんですよね?」と中条。

「って事は、俺のキャラは親父譲りかよ。それは嫌だなぁ」と村上。

村上父は口を尖らせて「お前なぁ」



全員で初詣に行く。

みんなで社前で柏手を打つ。

それが終わって、石段を降りる時、モニカは言った。

「日本人は信仰心が薄いと聞いていたのですが」

「薄いっていうより、意識していないって感じかな?」と村上。

「説教臭い事が嫌いなんだよ」と芝田。

「けど、海外からは、とても真面目で道徳的に見えます」とモニカ。


「宗教って教祖が言った事を鵜呑みにするだけでしょ? それって、ちゃんと人生考えてるとは言えないと思うんだよね」と村上。

「神社の神はどんな教えを語っているのですか?」とモニカ。

「そんなのあったっけ?」と、全員、頭をひねる。

「無い訳じゃないけど、殆ど仏教とかの受け売りだよな」と村上父。

「まあ、それがいいんだと思うよ」と芝田兄。

「お寺には行かないのですか?」とモニカ。

すると中条祖父が「お年始には行くけど、一緒に行くかい?」

「行きます」とモニカは嬉しそうに答えた。



菩提寺に年始に行く中条祖父。モニカと村上と中条が同行した。


住職は温厚で笑顔の似合う老人で、いかにも無欲といった風体だ。

上がるよう勧められ、お茶を飲みながら会話する。

モニカはいくつか教義について質問し、当たり障りの無い答えを示す住職。


そして一人の老婦人が茶菓子を持って来て、彼らにすすめた。

モニカは老婦人を見て、住職に「こちらの方は?」

「妻です」と住職が紹介する。

モニカは「そ・・・そうですか」



寺を出て歩きながら、モニカは言った。

「あの、一つ聞いていいですか?」

「何かな?」と中条祖父。

「日本の僧侶の方は結婚しておられるのですか?」とモニカ。

「じゃないと寺を維持できないからね」と村上が答える。


モニカは真剣な表情で言った。

「ヒノデでは僧侶はけして女性を近づけません。触れる事も、近づく事さえ・・・」

「日本も昔はそうだったけどね」と中条祖父。

「つまり堕落したという事でしょうか? けれども先ほどの方は、とてもそうは見えなかったです」とモニカ。

「宗教が性嫌悪を剥き出す事は、ままあるよね? けど、それが本当に正しい事とは俺は思わない」と村上は言った。


村上は考えた。そして、ある人物の顔が浮かんだ。そしてモニカに言った。

「モニカさんに会わせたい人が居るんだ」 


 

村上は岸本の母親に連絡し、モニカを連れて岸本家に行った。

岸本の母親が出迎える。


玄関で「潤子さんは?」と村上が訊ねる。

「東京に行ったきり、滅多に帰ってこないわよ。よほど楽しくやっているのでしょうね」と岸本母。

「お父様は?」と村上。

岸本母は「仕事の付き合いで挨拶廻りよ。それで、その子が例の留学生ね?」

「モニカと言います」と本人が自己紹介。



案内されて居間へ向かう時、モニカは訊ねた。

「村上先輩、こちらの方は?」

「岸本さん。以前に住田先輩と付き合ってた人のお母さんだよ。昔、尼さんとして修業した事があるんだそうだ」と村上。


居間でお茶と茶菓子を前に、岸本母と向き合い、モニカは言った。

「日本には女性が修行する制度があるのですね?」

「そうね」と岸本母。

「ヒノデは上座仏教で、男性はみんな二年くらい出家します。高校生の頃にそんな期間があって、修行を終えると、すごく素敵になって戻ってきます。お母さまは何故出家なさったのですか?」とモニカ。

「夫に死なれて、何もかも失ったように思えて、人生の楽しさを捨てるつもりだったの」と岸本母。

「けど、修行を辞めたのですよね?」とモニカ。


岸本母は語った。

「諸行無常という言葉の意味を自分なりに考えたの。大切なものを失うからといって諦めるのではなく、それがある時を楽しもう。今が常に変化するのなら、また大切なものが巡って来る。大切なものを失う事を嘆くのではなく、それに出会えた事を感謝しようとね」

「修行とは、そうしたものを求める欲望を捨てる事ですよね? そのための出家ですよね?」とモニカ。

「近くのお寺の方がアメリカで布教したのだそうね。そこで大企業の創業者が信者になって、救われるために出家したいと言ったそうなの。そしたら、修行に出家など必要無い。本当の意味での修行は普通の日常生活そのものだと言ったそうよ」と岸本母。



モニカは言った。

「ヒノデでは修行には女性を遠ざける事が不可欠とされています」

「日本の仏教では女犯と言うのよね。女性と交わる事自体が罪だと。あなた、観音様って知ってる?」と岸本母。

「大乗仏教で崇拝されている菩薩ですよね?」とモニカ。

「昔、ある修行者がそうした煩悩を断つため観音堂に籠って祈ったという話があるの。その時、観音が夢に現れて言ったというのよね。あなたが女犯を侵すのが宿命なら、私が美女となってあなたに抱かれましょう。その代わり、しっかり供養して下さい・・・とね」と岸本母。


「供養って信仰してお供えをする事ですよね?」とモニカ。

「そうね」と岸本母。

「そういう交換条件付きの愛って、売春と同じ理屈になりませんか?」と言うモニカに対して、岸本母は語る。

「そうね。だけど問題は、それをどんな心で受け止めるか、ではないかしら。男性は女性を必要とし、女性にも男性の愛が必要。それで相手が自分を求めると、相手を軽蔑したりする人って居るわよね? けど、相手の求めに応じるって、相手を救う事じゃないのかしら。お互いがお互いを求め、お互いを救うのなら、自分を救ってくれる存在に対する感謝と敬意を持つ。そう思い会える関係の上で結ばれる事は、けして罪じゃないと思うの」


その後しばらく会話は続いた。

そして岸本家を辞す村上とモニカ。

「また何かあったら、いつでもいらっしゃい」と岸本母はモニカに手を振る。

「ありがとうございます」とモニカ。



中条家へ戻て、モニカは村上たちに訊ねた。

「岸本さんって、どんな人なんですか?」

「すごく綺麗で、いろんな男性と付き合った人よ」と中条。

「つまりヤリチンショーグンの女性版ですか?」とモニカ。

「その表現は嫌だなぁ」と村上。

秋葉は笑いながら「真言君、あの人に抱かれた事、あるのよね?」

村上は慌てて「な・・・何で知ってるの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ