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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
261/343

第261話 南国の謹賀新年

中条家で年越しの準備が始まる中、中条は祖父に言った。

「今年の年越し、友達呼んでいい?」

「村上君たちかい? 毎年来てるじゃないか」と中条祖父。


中条は「大学の後輩でモニカさんという留学生が居るの」

「それは楽しみだね。けど、外国はそういう行事はむしろ盛んなんじゃないか?」と中条祖父。

「旧正月というのをやるんだけど、日本の元旦の日は何もしないんだって。日本ではみんな家族で年越しする時期だから、そういうのを体験させてあげたいの」と中条。

「それはいい事だね。是非連れておいで」と中条祖父。



年末で大学が閉鎖される前の文芸部室で、モニカと村上達が年越しについて話す。

中条がモニカに「お祖父ちゃんが、ぜひ連れて来いって言ってたよ」

「どんな事をするんですか?」とモニカ。

「一週間くらいかけて準備するのよ」と秋葉。

「準備って、どんな事をするんですか?」とモニカ。


芝田が村上を見て「何だっけ?」

「先ず大掃除だろ」と村上。

「中条先輩の家を?」とモニカ。

「その前に先ず、自分の住処を・・・だよね?」と中条。

「前の年の汚れを落として、きれいな状態で新年を迎えるんだよね」と芝田。

モニカは「聞いた事があります。ケガレを払い清浄さを重んじるのが日本の文化だと」

「よく言うよね」と村上。


「滝に打たれて心身を洗い清めるのですよね?」とモニカ。

「いや、そんな事はしないから」と村上。

「古い道具を廃棄して新しいものに取り換えるんですよね?」とモニカ。

「やらないから」と芝田。

モニカは言った。

「そうやって買い替え需要を作って、日本は発展したんですよね? 電通十訓というのがあって」

「いや、それは違うから。とにかく普通に掃除をすればいいから」と四人は口を揃えて、言った。



大晦日、村上父がアパートに来て、いつものように秋葉母が秋葉を乗せて迎えに行く。

「モニカさんという人は?」と村上父。

「芝田のお兄さんが迎えに行ってます」と村上母。


秋葉母は秋葉と村上を中条家に降ろすと、村上父を連れて買い出しへ。


「買い物デート、楽しんできなよ」と村上が意味ありげに父親に言う。

「お前、他人事だと思ってるだろ」と村上父。

「俺はまだ学生ですから」と村上。

村上父は「卒業したら憶えてろよ。目いっぱい結婚圧力かけてやる」

「よろしくお願いしますね」と嬉しそうに言う中条。

村上は頭を掻きながら「里子ちゃん、そういう事を期待しないでよ」


「日本の少子化の行方がかかってるんだからな」と村上父。

「だったら自分が貢献しろよ。まだ一人くらいいけるだろ」と村上。

「だとしても産むのは俺じゃなくて奈緒さんなんだが」

秋葉母は「私は産みたいわよ」と言って笑った。



買い出し隊の車が発進すると、まもなく芝田一家がモニカを乗せて到着。

中条祖父が「君がモニカさんだね?」

「よろしくお願いします」とモニカが頭を下げた。

買い出し隊が戻るまで居間でくつろぐ。


モニカの視線が仏壇に向かう。そして「この国でも、家の中で御仏を祀っているのですね?」

「まあ、家族が死ねば仏壇くらいは置くよ」と中条祖父は頭を掻く。

モニカは仏壇を覗き込んで「この御本尊も素晴らしいです。とても綺麗な画像で、さぞ名のある絵仏師の方が描かれたのですよね?」

「本山が配布した印刷物なんだが」と中条祖父。


少しだけ残念な空気が漂う。



モニカの目が仏壇に飾られた写真に向く。

そしてその写真を見て「この方が無くなられた・・・」

「里子の父、私の息子です」と中条祖父。

「こちらの幼い子はお父様の幼少の頃の姿ですか?」とモニカ。

中条が「私の兄なの。小さい頃に死んじゃった」

「そうなんですね。私も兄を亡くしました」とモニカが言った。


「そうなんだ。モニカさん、悲しかったよね」と中条。

モニカは「はい、それで下の兄と、その下の兄と、そのまた下の兄が必死に慰めてくれて」

「兄さん達だって辛かったのに」と中条。

モニカは「はい。そして姉と、その下の姉が・・・」

「まだ居る訳ね?」と秋葉がぽつり。

残念な空気が漂う。


村上が「いや、他に兄弟が居れば救われるってものでも無いだろ」

「けど、一人になるよりマシだよ」と芝田。

モニカが慌てて「まあまあ、皆さん落ち着いて」


すると中条が言った。

「私、お兄ちゃんが大好きだったの。だから小学校に上がる時、保育園から居なくなるって聞いて、泣いたの。そしたらお兄ちゃん、事故で死んで、小学校に上がれなくなっちやった。そうなったのは私が小学校に行かないで欲しいって思ったせいなのかな・・・なんて考えちゃって」

「そうなんですか、中条先輩、悲しかったですね」と哀しそうな顔のモニカ。

中条は「うん。だけど今は平気。真言君も拓真君も居るから」



場が落ち注いだ所で・・・。

「ところであの二人はいつ帰るんだ?」と芝田。

「昼食食べて来ると思うよ。だってデートだからな」と村上。

「じゃ、松飾とか始めようか」と芝田兄が作業開始を促す。

するとモニカは「ところで正月の儀式は御仏を祀るんですよね?」

「いや、仏壇は基本無関係だよ。祀るのはあれ」

そう言って村上は神棚を指さす。


「日本の民族宗教ですね? 日本人は二つの宗教を同時に信仰するのですね?」とモニカ。

村上は「近代以前は神仏習合とか言って、神も仏も同じだって事になってたけどね」と説明。

「どちらも多神教ですものね」とモニカ。

「そんな中でも本地仏とか言って、あの神とこの仏は呼び名が違うだけで中身は同じだって言って。坊さんみたいな人がお経をあげて神様を祀ったんだよ」と村上は説明を続ける。


「それじゃ、あの神棚に祀ってるのも・・・」とモニカ。

「ここの鎮守は神明宮だから天照大神。本地仏は大日如来という事になるね」と村上。

「そうなんですね」

そう言うとモニカは神棚に向けて合掌し、何やら呪文を唱える。

村上は「それって?・・・」

「大日如来のマントラです」とモニカが説明。


そしてモニカは仏壇で合掌して、同じ呪文を唱える。

村上は頭を掻きながら「モニカさん、それは大日じゃないんだ。あれは日本では真言宗が拝むけど、ここの菩提寺は宗派が違うから」



神棚を塗れ手拭で拭き、切り紙の飾りを乗せてその上に鏡餅を乗せる。榊を変えて注連縄を飾る。

玄関に松飾を付け、履棚の上にも鏡餅を上げる。


「玄関で年越しの飾りを付けるのって、どんな意味があるのですか?」とモニカ。

「歳神様という目に見えない神様的な存在が訪問するんだよ。それを迎えて歓待するのさ」と村上が説明。

「けど、悪意を持った魔物的な存在は来ないのですか?」とモニカ。


今度は中条祖父が説明する。

「それは荒御霊って言って、祀られずに機嫌を害した神様なんだそうだ。だから祀ってお供えをあげる事で機嫌を直して、人を助けてくれる和魂になるって考え方があるそうだ」


「仏教で言う供養ですね。こちらが優しくすれば相手も優しくなる。だけど、逆に優しくすると付け上がる人達も居ますよね?」とモニカが言った。

「ダイケー国みたいな国の人たちだね?」と芝田。

「かつてあの国を支配した事を恨んで、賠償的なお金を払って戦後処理を終えたのに、自分達はまだ被害者の立場だと言い張って謝罪を要求し続ける。それを優しさで容認して謝罪を続けると、増長したダイケー国は被害者意識をエスカレートさせて、歴史を捏造し教育で憎悪を煽って私たちを中傷し続け、"それは誠意ある反省じゃない"とか言いがかりをつけて、何でも言いなりになる奴隷になる事を要求するんです」とモニカは悲しい顔をする。


「ああいう人達は、相手が反発して自分の身に害が及ぶ事でしか、自分を変えられないのよね」と秋葉は言った。

「善意が邪悪を育ててしまうというのは、悲しいが現実だよ」と村上も言った。



昼食を食べるて間もなく、秋葉母と村上父が帰還。お節作りが始まる。

秋葉と芝田の兄嫁。そして村上父と秋葉母が手伝う。村上と中条、そしてモニカも手伝った。


村上父がモニカに説明する。

「お節にはいろいろ意味があるんだよ。例えば海老は長寿を祈る。海老は腰が曲がってるけど、人も年をとると腰が曲がるからね」

「けど、お祖父さんは腰、曲がってませんが。海老を食べると曲がっちゃうんですか?」とモニカ。

「それは縁起悪いわね」と秋葉が笑う。

「いや、それだけ長生きして欲しいという願いだから」と村上。

「曲がらないに越した事は無いね」と中条。



「数の子は子供がたくさん生まれますように」と村上父。

「食べると妊娠しちゃうんですか?」とモニカ。

「避妊具を無効化されるのは困る」と村上が苦笑。

「けど少子化が緩和されるんじゃ?」と秋葉母。

「そんな少子化対策は嫌だ」と芝田も居間で笑う。


「昔は子宝って言って、多産は幸せだったのよ」と芝田の兄嫁。

「子供なんてお荷物じゃん。友達の影響受けてジジイ死ねとかお父さん汚いとか」と芝田。

「それは個人差があるし、昔は変なマスコミ宣伝もスマホゲームも無かったから」と村上。


「ってか拓真君の子供時代ってそんなの?」と秋葉が笑う。

「いや、違うよな。だろ、兄貴」と芝田が慌てて言う。

「どーだったかなぁ。かなり生意気だったよーな気がするが」と芝田兄が笑う。

「弟の名誉は兄の名誉って、解ってるよな?」と芝田。


「人口過多の悪影響が意識されるのは近代に入ってからだものな」と村上。

「ヒノデではまだ子供をあまり産まないようにって、政府がキャンペーンをやっていますが」とモニカ。

「けど、今の日本は子宝が必要よ。切実にね」と秋葉が言った。



「黒豆はいろんな事をマメにこなせる、働き者になれと」と村上父。

「日本の妖怪に豆男ってのが居てね」と秋葉。

「どんな妖怪ですか?」とモニカ。

「住田先輩みたいな」と秋葉。

モニカが「つまりヤリチンショーグンですか?」


「昔は女性にモテる条件が、マメに世話をしてあげるって事だったんだよ」と村上。

「接待みたいな事をして機嫌をとるって訳だ」と芝田。

「お前は身も蓋も無さ過ぎだ」と芝田兄。

「拓真君にも真言君にもいっぱい食べて貰わなきゃ」と秋葉が笑う。

芝田と村上が口を揃えて「そういうの期待しないで欲しいんだけど」



夕方になり、夜になる。神棚で柏手を打ち、お神酒を降ろして全員の盃に注ぐ。

そして、みんなで「来年も良い年でありますように」


お神酒を飲み、御馳走を食べながら、会話が弾む。


芝田兄が新婚生活について語る。

秋葉が上坂の観光について語る。

モニカがヒノデの風習について語る。

秋葉母が村上父に結婚を迫り、中条祖父と芝田の兄嫁が後押しする。


そして食事を終えて後片付け。



芝田兄嫁が「お風呂が沸いたから、入りなさい」

秋葉が「里子ちゃん、入りなよ」

「真言君も一緒に」と中条。

「次は私と拓真君」と秋葉。

「モニカさんを忘れちゃ駄目だよね」と中条。

「日本のアニメでは女の子どうしが一緒に入るものだと・・・」とモニカ。

秋葉は笑って「モニカさんは女どうし裸でイチャイチャしたい?」

モニカは慌てて「いや、いいです」

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