第260話 女子達のプロポーズ大作戦
上坂高校を卒業した村上のクラスメートたちの間で、例年の如く、渡辺のマンションでのクリスマスをしようという雰囲気になる。
武藤の店で秋葉と杉原、その他数名の女子が居る中で、その話題が出た。
「ようやく片桐さんも片付いたから、心置きなくクリスマスが出来るね」と篠田。
「片付いたって、渡辺君との結婚が決まったの?」と吉江がテンションを上げる。
「いや、司法試験に合格したって事よ」と薙沢。
「そーいやそうだった」と吉江のテンションを下げる。
「けど、東京組は相変わらず地元には戻らないね」と高橋。
「だけど専門学校組は卒業して社会人だよね。松本さんは結婚したし。次は誰かな?」と秋葉。
秋葉はそっと、みんなに耳打ちするように言った。
「みんな彼氏からのプロポーズ待ってる訳よね? 結束して男子にプロポーズ圧力かけてみない?」
「いや、それは・・・」と吉江が反応する。
「吉江さんは結婚したくないの?」と秋葉が追い打ち。
「清水君はまだ学生だし」と吉江。
秋葉は「けどあいつ、やたら他の女子にお世辞言いまくるじゃない。放っとくと浮気しちゃうわよ」
「それは困るなぁ」と吉江。
その後も何人かの女子に呼びかけ、武藤の蕎麦屋に集まって作戦会議。
「結局、今時点で両方が就職してるカップルって、三組だけかぁ」と篠田。
「松本さんは結婚したから、後は高橋さんと内海君、水沢さんと山本君ね」と吉江。
「学生結婚って手もあるけどね」と秋葉。
「今時流行らないんじゃ・・・」と杉原。
「けど少子化の時代よ」と秋葉。
「それじゃ、どちらか一方が就職って、誰かな?」と松本。
高橋がリストアップして、言った。
「篠田さんと佐川君、坂井さんと柿崎君、藤河さんと八木君、大野さんと小島、吉江さんと清水君」
「大野さんと小島はカップルって言えるの?」と杉原。
「大野さんはあいつを控えだと思ってるみたいだけど」と篠田。
「山本君は逃げ回ってるからなぁ」と坂井。
「米沢さんは?・・・」と吉江。
「いや、あの人は置いておこうよ」と薙沢。
集まれる奴だけで集まろうという事で24日に渡辺のマンションでのパーティの日程が決まる。
あちこちに居るクラスメートたちに計画を伝える。
当日、キッチンで料理の腕を振るう片桐・秋葉・薙沢。
手焼きのケーキを持ち込む坂井。
坂井が「ケーキを持ってきたのは私だけ?」と不思議そうな顔をする。
「差を見せつけちゃう人が居るからね」と秋葉が笑う。
「誰よ?」と坂井。
その時、米沢と矢吹が到着し、秋葉は「ほら来た」
ウェディングケーキ紛いの三段重ねを持ち込む米沢と矢吹。
その後、七面鳥の丸焼きを持ち込む八木、握り寿司を持ち込む武藤。
キッチンでは大きなスープの鍋。
「このスープって?」と坂井が興味を示す。
「鹿島君が留学生から貰ったんだって。ヒノデという国の民族料理だそうよ」と薙沢が説明した。
参加者が揃い、家主の渡辺が乾杯の音頭をとる。
みんなで「メリークリスマス」
そして全員で「片桐さん、合格おめでとう」
そしてまた全員で「松本さん、武藤、結婚おめでとう」
宴が盛り上がった所で、佐川をターゲットに秋葉が切り出す。
「ところで佐川君、篠田さんはもう社会人なんだけど、そろそろ結婚よね?」
「俺、まだ学生だけど」と佐川。
「あと一年で卒業でしょ?」と杉原。
佐川は「卒業したら大学院に行くから」
「まだ親の脛齧る気?」と杉原が追及。
「司法試験があるからな」と平然と答える佐川。
杉原は「片桐さんはもう合格したよね?」
「普通は大学院生で試験を受けるんだよ」と佐川。
「女性に先越されるって男のくせに、どうなのよ」と杉原。
佐川は「いや、片桐さんには事情があったんだし、男のくせにって性差別だろ。ウーマニズム的にどうなんだよ」と反撃。
「ウーマニズムはもう止めたから」と杉原。
「ってか、ウーマニズムの人は男のくせにって、むしろ言うよね」と内海。
「本来の人権から見たら残念過ぎる人達だもんなぁ」と武藤。
「それより篠田さんは注射は上手になったの?」と芝田が言い出す。
篠田は「私、もうプロの準看護婦だし」
「で、上手に打てるようになったの?」と芝田は追及を続ける。
「薙沢さん、私たちって、ちゃんと注射、打てるよね?」と篠田は隣に居る薙沢に振る。
「人を巻き込むんじゃなくて篠田さん自身は?」と不審顔で内海も追及。
「私、患者さんに評判いいのよ。若くて愛嬌があるって」と篠田。
「で、注射は?」と芝田。
「篠田さん、誤魔化してない?」と鹿島。
「うるさいわね。女性のプライベートな職業に首突っ込むものじゃないわよ」と篠田。
「職業はプライベートじゃないと思うぞ」と佐川。
芝田は溜息をつくと「まあ、注射が痛いってのはナース物ギャグの定番だもんな」
「ナース物ギャグって、他に何があるっけ?」と内海。
鹿島が「医療ミスとか」
全員青くなる。
佐川は慌てて「篠田さん、医療ミスなんて事は無いよね?」
「私は手術で患者さんのお腹にハサミ残したりしないわよ」と篠田。
「そういう具体例限定で否定されてもなぁ」と困り顔の佐川。
「よくあるじゃん。失敗しちゃった、てへ・・・って」と村上が秋葉を見て笑う。
秋葉が「何で私を見るのよ」と言って口を尖らせる。
そして芝田が「で、"可愛いから許す"って」
篠田はいきなり目を輝かせて「つまり私が万一医療ミスやらかしても、可愛いから許して貰えるのよね?」
「それはぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーったい無い!」と佐川は力を込めて断言した。
篠田は口を尖らせて「そんなに全力で否定しなくたっていいじゃん」
「だって人の命に関わる事だぞ」と頭痛顔の佐川。
篠田は拗ねた口調で言った。
「どーせ私は可愛くありませんよーだ。ねぇ佐川君、仮に佐川君が医者で私が医療ミスしても庇ってくれるわよね?」
「もちろんお前のためを考えて行動するぞ」と佐川。
「佐川君大好き」と篠田。
そして佐川は「それで自首を勧める」
「佐川君の薄情者!」と篠田は口を尖らせた。
そんな彼等を見ながら高橋は言った。
「結局みんな、まだ学生なのよね」
「高橋さんは結婚しないの? 両方とも社会人なんだし」と言ったのは、隣に居た吉江だ。
「そうね。結婚もいいわね。ねぇ内海君・・・」と高橋が言うと、吉江はその言葉を遮って高橋に言った。
「ちょっと待ちなさい。自分でプロポーズしてどーすんのよ」
「違うの?」と高橋。
「内海君にどうやってプロポーズさせるかって話よ」と吉江は高橋に耳打ち。
吉江は内海に「ねぇ、内海君はまだ高橋さんにプロポーズはしないの?」
「まだ独身を楽しみたい時期だって事さ」と内海。
吉江は怖い顔で「内海君ってそういう人だったのね? 結局男って・・・」
「いや、高橋さんがそう思ってるんじゃ・・・。本人が結婚言い出さないのはそういう事だろ?」と怪訝顔の内海。
「女からプロポーズさせる気?」と吉江は目を吊り上げる。
「駄目なの?」と内海。
「こういうのは男からってのが常識でしょーが!」と吉江。
「吉江さんに言われてもなぁ。それに高橋さんってそういうキャラじゃないし」と内海。
隣に居る篠田が高橋に言う。
「ねぇ、高橋さんは早めに結婚したい?」
「えーっと・・・」と高橋。
それを見て内海は「ほら、高橋さんだって、気が進まないじゃん」
高橋は慌てて「じゃなくて、もちろん、したいわよ。なるべく早く」
「じゃ、早めに」と内海。
「そうね、なるべく早く」と高橋。
「おめでとう。高橋さん」と、吉江と篠田と松本。
高橋は嬉しそうに「ありがとう、みんな」
「来年か再来年か五年後か、いつになるか解らないけどなるべく早く」と内海。
「そうよね、なるべく早く」と高橋。
「まあ、30才までには」と内海。
吉江と篠田と松本は怖い顔で「うーつーみーくーん」
内海は「え? 何? みんな何でそんなに怖い顔してるの?」
松本は水沢に話しかける。
「それより水沢さんは山本君とはどうなの?」
「山本君と同棲してるよ」と水沢。
「ちゃんと戸籍上の夫婦になったの?」と松本。
「山本君、そういうの嫌がるんだよね」と水沢。
「あのガキンチョは・・・」と松本は呟く。
そして松本は山本に食ってかかる。
「ちょっと山本君、水沢さんはこんなにいい子なのに、結婚嫌がるって贅沢過ぎじゃないの?」
「松本さんと比較されて"いい子だから"とか言われてもなぁ」と山本。
「いや、私と比較して言ってる訳じゃないから」と焦り顔の松本。
「武藤も大変だよなぁ」と山本。
松本は冷や汗を流して武藤に「そんな事無いよね? 武藤君」
「結婚直前に武藤の気を引きたくて、高橋さんにレズアピールして困らせたんだって?」と山本が追及する。
松本は顔を真っ赤にして「いや、あれは可愛い女心ってやつで」
山本は「あれは無かったよなぁ」
武藤は困り顔で山本に「お前さ、俺の嫁がああなのは解ってるから、そこらへんにしといてくれないか」
「やっぱり武藤君は私の味方だよね」と松本は武藤の左腕を掴む。
「こういうの突かれて落ち込まれると、後の八つ当たりが怖い」と武藤。
松本は口を尖らせて「武藤君ってば」
そんな中で大野が小島に言った。
「それより小島、私と結婚してよ」
小島は「何で俺が大野さんと?」
「またイブ直前に彼氏に振られた。童貞貰ってあげたじゃん」と大野。
「俺、まだ学生だし」と小島。
「小島は県立大に編入したんだよ」と芝田が説明する。
大野は不満顔で「それじゃ、また卒業待てっての?」
「新しい彼氏作ればいいじゃん。それに俺、結婚とかする気無いから」と小島は宣言。
「一生一人で居る気?」と近くに居た坂井があきれ声で言った。
「別に、そういう奴も居るさ。結婚とか無理にせんでも・・・」と柿崎が言う。
すると坂井は柿崎に怖い顔で「柿崎君はちゃんと結婚するよね?」
慌てて柿崎は「する。ちゃんと就職したら結婚するから」
小島は言った。
「ってか俺、ロリっ子を赤ん坊から育ててお父さんと呼ばせて独占する」
「捨て子でも拾って来る気かよ」とあきれ声の村上。
小島は「何言ってるの。そのための人口子宮だろ」
「頼むから、それを外で言うのは止めてくれ」と困り顔の村上。
津川は笑って「で、その子が大人になって他の男と結婚するとか言ったらどうする? "俺の娘は誰にも渡さん"とか言って、日本刀でも振り回すか?」
「次の子を育てるだけですが、何か?」と平然と言う小島。
その場に居た男子たちは思った。
(案外、こういう奴が少子化解消の鍵になるのかも)




