第259話 先輩たちの忘年会
年末が近づく。
各研究室での忘年会の計画が進む。
そんな話題で盛り上がる文芸部室。
「去年みたいに農学部でやらないのかな?」と芝田。
「あれは卒論圧力絡みのボイコットがあったから。今年はどこも、また各研究室単位で計画してるよ」と村上。
村上も芝田も三年生として後輩を指導する立場にある。
四年生は卒論で忙しいからと不参加も多い。生化学研究室では関沢が幹事となって計画した。
大学近くの居酒屋での、生化学研の忘年会。
「牛沢先輩も能勢先輩も居なくなって、どんどん寂しくなるわね」と愚痴を言う芦沼に村上は言った。
「とてもそうは見えないんだが」
村上の目の前には、芦沼で童貞を卒業した下級生に囲まれて盛り上がる芦沼が居た。
経済学部の経営技術研の忘年会。
秋葉が下級生達に一発芸大会をやらせている。
「優勝した人はパフパフしてあげるわ」と宣言する秋葉に、下級生男子は大喜びで口々に言った。
「やったー」
「俺、頑張るから」
一人づつ進み出て一発芸をやる一年生と二年生。
彼等は、不参加を決め込む鈴木と中川に「お前等、秋葉先輩の御褒美、欲しくないのか?」
「要らないから」と鈴木は苦笑しながら答えた。
次々にエントリーする挑戦者。ブーイングを受ける者、笑いをとる者、そして、嬉々として採点する秋葉。
優勝者が決まり、秋葉の前に進み出る。秋葉は両手の平で彼の頬を挟んで「パフ、パフパフ」
「あの、秋葉先輩、これは?・・・」と怪訝顔の優勝者。
「パフパフよ。何だと思ったの?」と、彼の不満顔を見て喜ぶ秋葉。
優勝者は「いや、いいです」と諦め顔で言った。
そんな秋葉を呆れ顔で眺める津川に、一年の女子が言った。
「秋葉先輩っていつもああなんですか?」
「まあね」と、頭痛顔の津川。
「よく神経が保ちますね?」と一年女子。
「そういうのは彼氏に言ってあげてよ。工学部に居るから」と津川。
その工学部のコンピュータ研の忘年会。
小宮が幹事になって盛り上げる姿を他所に、芝田・刈部・榊はまるで他人事。
「飲み会ってかったるいよな」と芝田。
「同感」と刈部と榊。
小宮は後輩たちにおだてられて次々にジョッキを開け、すっかり出来上がって、同様に酔いの回った泉野と肩を組んで騒ぐ。
会場を出る時には小宮と泉野は酔い潰れていた。
芝田が泉野を背負い、刈部と榊で小宮の両肩を支えて、五人で榊のアパートに向かった。
心理学研の忘年会では島本が幹事になったが、会場の仕事は全部佐藤に丸投げだ。
盛り上げ役をやらされる佐藤を心配そうに見ながら佐竹に甘える中条。
店を出る時、佐竹の携帯が鳴った。
電話は村上からで、「芦沼さんが潰れて寝てる。お前のアパートに担ぎ込んでいいか」
「いいぞ。こっちは佐藤が潰れた」と佐竹は答えた。
経済学部では会場を出る時には秋葉が酔い潰れていた。
眠り込んでいる秋葉を前に途方に暮れる男子たち。
「この人、どうする?」と栃尾。
「誰かお持ち帰り、するか?」と寺田。
「後が怖い。冗談で何言い出すか」と時島。
「栃尾はアパート暮らしだよな?」と寺田。
「それより寺田はこの人の下僕だったろ? 毒喰わば皿までだ」と栃尾。
「勘弁しろよ。それより時島は?」と寺田。
「いや、一番安心なのは津川だろ」と時島。
「これ担いで上坂までかよ」と津川。
「それより、栃尾のアパートで津川と三人で泊まるってのはどーだ? 津川が一緒なら下手な事は言わんだろ」と寺田。
「だったら時島と寺田も来いよ」と栃尾。
翌朝、アルコールが抜けて元気になった秋葉は、日を跨いだ二次会だと言い出し、四人の男子を連れて遊び歩いた。
二日後、文芸部の忘年会だ。
どこに行くか・・・という話になる。
「せっかくモニカさんが居るんだし、ヒノデ国のエスニック料理の店って無いの?」と秋葉が言い出す。
「ありますよ」とモニカ。
当日、モニカの案内で、部員一同でヒノデ料理の店へ。
スープにサラダに肉料理に、もち米を使ったご飯や麺の類など、様々なメニューが並ぶ。
いくつか、モニカのお勧めを注文する。
様々な料理がテーブルに並ぶ。
食べるのに使うのは、普通はスプーンとフォークだ。
食べながら好き勝手言う部員たち。
「辛いのが多いね」と戸田。
「けど甘みや酸味のあるものとかも」と秋葉。
「ココナッツや果物で味付けしてあるんだね」と渋谷。
「暑い国で辛いものは、汗をかいて暑さに耐える事で、健康にいいと思う」と桜木
「ジャングルにはいろんな香辛料があるからね」と森沢顧問。
「インドとか中国の影響もあるからね」と村上。
「これ、カレーみたい」と中条。
食べながら、年末の予定の話題が出る。
「ところで、モニカさんは年末はどうするの?」と真田が切り出す。
「年末って?・・・」とモニカ。
「クリスマスと正月だよ」と中川。
モニカは「クリスマスは国のみんなと騒ぎます。正月は一か月以上先ですから」
「いや、来週だが」と芝田。
「モニカさん。正月というのは一月一日の事よ」と戸田。
「いや、普通そうだと思う」と真鍋。
モニカは「ヒノデでは旧正月ですね。中国式が二月、ヒノデの元々の伝統は四月になりますね」と説明する。
「何で四月?」と芝田。
「釈迦の誕生日って事になってる花まつりは四月だよね?」と渋谷。
「仏教国だからなのかな?」と中川。
「けど年が変わるのは一月だよ」と根本。
「年が変わるだけだけどね」と鈴木。
「日本でも年度が代わるのは四月だし」と戸田。
「何でだろう」
そう言って、全員考え込む。
「今の暦って西洋式の太陽暦だろ?」と村上。
「そーいやそーか」と部員たち。
「それにしてもズレが大きい」と芝田。
「あの時期なのは、古い宗教で太陽神が一度死んで再生するっていう発想があったからだろうね。それで一番日光が弱まる冬至の時期がそうだって事になった。けど、冬が終わって春になった時が始りって発想があっても、おかしくない」と森沢顧問。
「確かに」と部員たち。
「モニカさんは正月には国に帰ったりしないの?」と真田。
「帰らないですよ。帰ってもやる事無いし」とモニカ。
「日本では年の変わる正月が最大の行事なんだよ」と桜木。
「みんな家で大掃除してお節作って初詣に行って」と秋葉。
「そういう時に一人で何もしないって、寂しいかも」とモニカ。
その時、中条が「うちで一緒にお正月、しない?」
「家族でもないのに?」とモニカ
「毎年、真言君や拓真君たちの家族がうちに来てくれるの」と中条。
モニカは嬉しそうに「日本のお正月を体験ですか? 是非!」




