表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
253/343

第253話 はじめてのぱそこん

一年前、村上たちが二年生になると同時に、二年生となった水沢の居る保育専門学校に、上坂高校から沢口が入学した。

高校の先輩でもある水沢と関わる沢口。

ショタ属性の彼女は保育実習で触れ合う園児、特に男児たちに夢中になるが、周囲から園児とのスキンシップが激し過ぎるのではないかと疑問の目を向けられ。沢口も自制せざるを得なくなった。


その一方で、親しくなっていた水沢から山本の話が出る。

「山本先輩かぁ。懐かしいなぁ。会いたいなぁ」

そんな事を呟く沢口に水沢は「今度の週末、一緒に遊ぶ?」

「いいんですか?」と沢口。



そして週末。

「山本君、この人が沢口さんだよ」と水沢が紹介。

沢口は懐かしそうに「山本先輩、久しぶりです」

「上坂高校の人?」と怪訝顔の山本。

水沢は「バスケ部の子だよ。仮入部して試合に出て辞めた後、入れ違いに入った」

「ああ、あの時の」とおぼろげな記憶を辿る山本。


山本はやたらベタベタ来る沢口に閉口したが、同様な行動をとる泉野で慣れていたため、それほど気にする事も無く、しばしば三人で遊んだ。

「今度、仲間と一緒に温泉行くの。沢口さんもどう?」と、三人で街に出かけた時、沢口を誘う水沢。

山本は「温泉っていうか、あれは温水プールだよな。水着来て男女一緒ってだけの」

「仲間って女性ですか?」と沢口。

「ほぼ男だけど」と山本。

「知らない人?」と沢口。

「上坂の卒業生も居るよ」と水沢。

「芝田は知らないかもだけど、小島とか」と山本。

沢口は「もしかして試合の時、応援団やってた・・・」

小依たんを連呼しながら三人でオタ芸をやっていた痛い人を思い出した沢口は・・・。

「あれは・・・いいです」



そして水沢が専門学校を卒業し、上坂保育園に就職した後も、彼女らの交友は続いた。

山本と水沢が同居してからは、沢口は彼らの家に頻繁に出入りした。

コミケが終わり、山本は戦利品の紙袋を自室の押し入れに放り込んでいた。

元々仲間たちが強引に勧めたのを買ったもので、整理を後回していたものだ。


水沢が沢口を連れて帰宅する。

「山本先輩は?」と沢口。

「出かけてるみたい」と水沢。

居間に通してコーヒーを入れる。

砂糖が無い事に気付く水沢。

「お砂糖が切れてたんだ。買ってくるから待ってて」

彼女はそう沢口に言って、後輩を残して家を出た。



一人で取り残された沢口の関心は、自然と山本の部屋に向かった。

「エロ本チェック」という言葉が脳内を過る。

「山本先輩もああいうの、持ってるのかなぁ。水沢先輩、五分くらいは戻らないし・・・」



二階に上がって山本の部屋に入る。かなり散らかっている。

「ちょっと覗くだけだから・・・」

ベットの下を覗く。引き出しを開ける。


押し入れを開けると薄い本が何冊も入った紙袋があった。

「これって、あの同人誌って・・・」

そう呟きながら、沢口は袋の中身を出してページをめくる。見知ったアニメキャラのあられもない姿を見て、沢口は真っ赤になる。


「他の本には何が・・・」

各本の表紙を確認する中、ショタ系の同人誌を発見する。

夢中でページをめくりながら沢口は心の中で叫んだ。

(可愛い)

彼女は夢中のあまり、山本が帰宅した事に気付かなかった。



「沢口さん、何やってるの?」

そう山本にいきなり背後から声をかけられ、一瞬、彼女の心臓は鼓動を停止した。

硬直した体を無理に動かすと、入口で山本が頭を掻いている。

「いや、けして水沢先輩がお砂糖買いに出たのをいいことに山本先輩のエロ本チェックとかしたかった訳じゃなくて、偶然というか成り行きというか不可抗力な不慮の事故というか」と意味不明な弁解を口走る沢口。


山本は溜息をついて、言った。

「はいはい、どういう不可抗力か解らんけど、悪気は無かったって事ね? それ、この間のコミケで仲間に無理に買わされた奴で、整理とか後回しに放ったらかした代物なんだが・・・って、それ」


山本は沢口が手にしている本の正体に気付いて青くなり、慌ててひったくって確認。

幼い男児のあられもない姿。

「山本先輩もそういうの見るんですか?」と沢口。


山本は慌て声で「見ねーよ。何で泉野さんのが紛れ込んでるんだよ」

沢口は「泉野さんって?」

「仲間に居るオタ女子で、こういうのが好きなんだよ。まいったなぁ」と言って、山本は溜息をつく。

「こういうのもあるんですか?」と沢口が問うと、山本は言った。

「人の趣味は色々だからな。まぁ、画像だけならネット漁ればいくらでも見れるさ」


沢口は心の中で呟いた。

(ネットかぁ)

知らなかった世界への妄想が膨らむ。



次の週末、沢口はパソコン店に足を運んだ。パソコンを購入し、業者に頼んでネットを繋いだ。

わくわくしながらネットに接続。そして・・・。


水沢が夕食を終えて山本とじゃれていると、スマホが鳴った。

「もしもし」と水沢が携帯に出ると・・・。

「水沢先輩ですか? 沢口ですが、助けて欲しくて」と後輩の泣きそうな声。

水沢は「どうしたの? 今、山本君と代わるね」

「いや、出来れば山本さんには・・・」

そんな沢口の慌て声も空しく、受話器からは山本の声。

「どうしたの? 沢口さん」


沢口は「あの・・・、ってそんな場合じゃないですよね。実はパソコン買ってネットに繋いだんですが、大変な事になっちゃいまして、ウィンドゥって言うんですよね? 物凄い勢いで開くんです。次から次へと」

「それウィルスだろ。とりあえず電源切るとか接続外すとか」と山本。

「動作を受け付けないんです。接続ケーブルも無いし」と沢口。

山本は「詳しい奴呼ぶから、玄関を出て待ってなよ」

「お願いします」と沢口。



沢口が玄関を出て待っていると、駆け付けたのは小島だった。

「君が沢口さんぞな? 山本から頼まれて来たんだが」と小島。

「こっちです」と沢口。


小島が部屋に入ってパソコンを見ると、相変わらずウィンドゥの増殖が続いている。

「電源ケーブル抜いても止まらないし」と泣きそうな声で沢口が言う。

「バッテリーがあるからね。ネットの接続は無線?」と小島。

沢口は「はい」と答える。

「ルーターは?」と小島。

「あの、ルーターって?」と沢口。

「無線接続の機械入れたでしょ?」と小島。

「玄関です」と沢口は答える。


小島は玄関に行ってルーターの電源ケーブルを抜いた。そしてウィンドゥの増殖が止まったパソコンを復旧する。



作業が一段落した所で小島は訊ねた。

「もしかして、エロサイトとかアクセスした?」

「ごめんなさい」と、沢口はしゅんとなる。

小島は平然と「いや、悪い事じゃないし」

「ないんですか?」と沢口。

「俺だって見てるし。けどセキュリティソフトは必要な。それと情報は漏れたかもだから、キーワードは変更した方がいいと思われ」

そう言うと小島はネットに接続し直し、キーワード変更とセキュリティソフト購入の手続きをしてあげた。


そんな小島を見て、沢口は訊ねた。

「小島さんって、水沢先輩の事・・・」

「可愛いは正義。小さい子は世界の宝・・・でしょ?」と平然と言う小島。

「そういうのってドン引きされません?」

そんな沢口の問いにも小島は笑って答えた。

「関係無いし。奴等は奴等、俺は俺、沢口さんは沢口さんだよ。例え世界中の奴が引いたって、俺は沢口さんの趣味に引いたりしないから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ