第249話 出撃ドローン戦隊
文化祭で秋葉が計画した、ドローンを使う遠隔山岳観光実験。
ドローンはメカトロニクス研が数基保有している。
小島と園田、曽根のほか二年生の武田と毛利が改造作業の中心となった。
ネットを通じて遠隔制御するシステムと、地上物に接近し過ぎないよう自動コントロールするプログラムは芝田と榊が組んだ。
「突風とか鳥に対処しなきゃだぞ」と曽根。
気流や接近物を探知するセンサーを整備する武田。
動力周りを調整する毛利。
「航続距離は大丈夫か?」と芝田。
「ユーザーからの操作はどうするよ」と榊。
「ジョイスティックで十分と思われ」と小島。
ドローンに搭載した二基の視覚カメラの映像は、ネットを通じてVRゴーグルに送られる。
その映像データを受け取る。ゴーグル内の左右の接眼ディスプレイ。
立体視は二つの目が同じものを見る角度の違いで生じる距離感覚を利用する。
装着者の視界をこの二つの接眼ディスプレイで覆う事で、その場に居るように錯覚させるのがVRゴーグルだ。
まるで自分がドローンに乗り移ったみたいな感覚になる。
「意外と簡単でしたね」と毛利。
「元々このドローンは遠隔操作で動かすものだからなぁ」と曽根。
実験してみようという事になる。
中庭を飛び回るドローンを操縦する芝田。
固定した椅子に座ってぐるぐる旋回するドローンを操る。
「自分・・・ってかドローンがどっちの方向向いてるのか、よく解らん」と芝田が苦情を言う。
「方向表示があるだろ?」と榊。
「もっと体感的に解るようにならんか?」と芝田。
「自分が向いている方向は変わらないからな」と園田。
曽根が「ドローンが南向いたら自分も南向くように出来んか?」
「回転イスに座って、椅子の向きをドローンに連動させたらどうでしょうか」と武田が提案した。
ドローンに搭載した方向センサーと連動させる自動回転イスを試作。
完成すると、試験と称して毛利と武田がドローンで遊び出す。
「使用感はどーよ」と曽根。
毛利は「もう少し試させて下さいよ。ちょっと違和感が残ってるんで」
「単に遊びたいだけなんじゃないのか?」と園田。
芝田は「まあ、遊ばせておこうよ。ほぼ完成だし」
そのうち、二基のドローンで空中戦を始める毛利と武田。
通信技術研究室では小宮が最上教授の指導で通信機を整備した。
「飛行船で通信の中継ってのは、わりと昔からあるアイディアなんだが、自動操縦により可能性が大きく開けたのさ。何しろ、滞空自体にエネルギーを使わない。風で流されないよう位置を固定するだけの推進力があればいいんだからね。ドローンと組み合わせて無人地帯の管理に使うというのは、いいアイディアだと思うよ」と小宮に語る最上教授。
通信技術研最上ゼミの尼子が協力する。彼は小宮とは通信制御システムの研究でよく協力してる研究仲間だ。
尼子は工学部の倉庫に秋葉を案内した。
「あれが飛行船だよ」と言って実物を指す尼子。
「意外と小さいのね」と秋葉は感想を述べる。
尼子は「人が乗るための代物じゃないからね。ドローン基地と通信中継機を乗せるには十分な大きさだよ」
現地で事前実験を行う事になった。
調整したドローンを乗せた飛行船は早朝発進すれば予定時間に到達するには十分だ。
問題は上坂市側の受け入れ態勢。
各方面からの物言いを杉原がまとめた物を持参して作戦会議。
「法的規制の問題もあるから、飛ぶ場所を決めて欲しいのよ。地権者の許可が必要だからね」と杉原。
「地上から150m以上の高度だと航空局の許可が必要になるよ。地形が複雑だとそうなる場合があるからね」と八木。
「景色のいい所はどこ?」と秋葉。
「私に聞かれても・・・」と杉原。
「山岳会の人達が知ってるんじゃないかな?」と八木。
高橋に連絡し、登山する人達の意見をまとめてもらう事になった。
「ところで、あそこは絶対外せないのよね?」と高橋が確認する。
「何の話?」と秋葉。
高橋は「四十四丈の滝よ。もしかして忘れてた?」
秋葉は「そんな訳無いじゃない、あは、あははは」
飛行エリアの地図を作製し、杉原と八木が地権者を割り出し許可を取り付ける。
ドローンの調整が進み、ネットで告知される。
「ドローンによる遠隔観光実験で人跡未踏の秘境の映像をライブ配信」
そんなネット記事を確認しながら秋葉はふと芝田に問うた。
「VRは特殊な映像なのよね? 普通のネット映像で見れるの?」
「片目側だけなら普通の映像だよ」と芝田は事も無げに答えた。
学祭一週間前。
予行実験のため、大学からドローンを乗せた飛行船が発進した。
登山口で待ち構える秋葉たち。村上・芝田・中条も居る。
杉原ら観光課の人たちや、高橋・時島ら登山会の人たちに観光協会の人、経済学部の仲間、中川と真鍋と渋谷も居る。
そしてメカトロニクス研の曽根・小島、コンピュータ研で制御システムを担当した榊たち、通信を担当する尼子と小宮。
中継制御機器を搭載した大学のワゴンからアンテナが伸びている。
飛行船が来た。
「あれかぁ」と村上が指さす。
「意外と小さいのな」と八木。
大学と連絡をとる。
「飛行船を確認しました」と尼子が大学に送信。
大学から「了解。以降のコントロールを引き渡します」
「了解。コントロール、引継ぎました」と尼子が送信。
そんな尼子の通信機との会話を聞いて、小島が言った。
「こういう場合、アイハブコントロールとか言うのと違うん?」
「制御自体は自動だからな」と尼子。
制御ワゴンのモニターが飛行船搭載のカメラの映像を映し出す。
「綺麗だな」と芝田。
「私たちの山だものね」と秋葉。
山岳地に向けて山影に消える飛行船。
「そろそろ目的地だな」と村上。
榊が「ドローンの状態はどうよ」
「ばっちり」と曽根が答える。
目的地上空に到達。
「ドローン発進するぞ」
飛行船からドローンが飛び立つ。
VRゴーグルを付けてジョイスティックを操作する小島。
ドローンのカメラが捉えた映像がモニターに映し出される。
「凄い峡谷だね」と、見ている人達が一様に溜息をつく。
狭くて深い峡谷を刻む激流。複雑な起伏を描く切り立った崖面。
川底は剥き出しの岩盤に急流と淵が交互に存在し、いくつもの小滝が連続する。
点在する巨岩の造形の美しさに誰もが息を呑んだ。
そんな絶壁の向こうに見える高大な滝。
多量の水が高い崖に落ち、滝壺を激しく叩く。
「あれが四十四丈滝だな」と村上。
「あんなに高いんだ」と中条が呟いた。
轟々と傾れ落ちる水飛沫の迫力はモニターでも伝わる。
「小島君、そっちはどう」と秋葉。
「さすがVRの臨場感は伊達じゃないと思われ」と小島。
「代わってよ」
そう言ってゴーグルを取ろうとする秋葉をみんなが慌てて止めた。
小島は慌てて「駄目だよ。こんな所で操縦缶離したらドローンがコントロール失って崖に激突墜落しかねない」
「いいじゃん、ドローンはまだあるんだから」と秋葉がゴネる。
「墜落したら回収義務が絶対なのよ。あんな所、行くだけで滅茶苦茶大変なんだからね」と高橋も必死。
「ちぇっ、ケチ」と秋葉は口を尖らせる。
村上は笑って「お楽しみは本番にとっておくものだよ、睦月さん」
騒ぎが落ち着くと、小島は慎重にドローンを近づけ、衝突防止の自動コントロール機能を試す。
「これなら大丈夫そうぞな」と小島が胸を撫でおろす。
「じゃ、代わって」と秋葉。
「当日までのお楽しみ」と芝田。
「ケチ」と秋葉は口を尖らせる。
その時、横で見ていた観光協会会長は秋葉に言った。
「本番では、秋葉さんのお祖母さんに、先ず、体験して貰おうと思うんだ。彼女の笑顔はこの計画に尽力した全員の笑顔だ」
「ありがとうございます。きっと祖母も喜びます」と秋葉は嬉しそうに言った。
そんな会話を聞いて村上は冷や汗を流した。
「睦月さん、そのお祖母さんは実在しないんだよね?」と秋葉の耳元で囁く。
秋葉は「大丈夫よ、何とかなるわ」
ドローンを飛行船に戻す。
飛行船は現場を離れ、大学にコントロールを戻して帰還の途に就く。
録画した映像やデータを再生。それをネタにみんなでわいわいやる中、渋谷が曽根に言った。
「曽根さん達って、ああいうドローンとかロボットの専門家なんですよね?」
「そういう事になるね」と曽根。
「農作業ロボットとかも?」と渋谷。
「AI制御の無人稲刈りロボットなら、もう実用化してるよ」と曽根。
「稲作は作業が単純で自動化しやすいからね」と中川。
渋谷が「野菜や果樹の収穫とかはどうなのかな?」
曽根は「熟し具合の選定とか、植物本体や収穫物を傷めないような取り方とかは自動化が難しいからなぁ」
「人手が必要だから小規模でも付加価値をあてにする園芸農業の経営が成り立つんだけどね」と中川。
「けど、難しいからこそ発展の余地はあると思うの」と渋谷。
曽根は「農業を知ってる人と一緒なら可能かもね?」
渋谷は目を輝かせて「やってみませんか?」




