第246話 魔法少女と真鍋君
真鍋が魔法少女物の小説を書いた。
文芸部で、例の如く論評会の俎上に載る。
「何で真鍋が魔法少女物?」と芝田。
「ああいうのは幼女主人公目当てのロリコンとか、魔法少女戦隊の女子キャラ達のキャッキャウフフ目当ての百合豚が好むものだと思ってたが?」と村上。
「そういう傾向は否定しませんが」と真鍋本人。
「コスチュームが露出度高くてエロいんでしょ?」と根本。
「何で解ったの?」と真鍋。
根本は「だって真鍋君だもの」
「なるほど」と芝田が頷く。
「納得しないで下さいよ」と真鍋は口を尖らせた。
「まあ、エロい女子キャラ衣装は男のロマンだからな」と芝田。
「ビキニアーマーとか?」と鈴木。
「けどこれ、小説だよね? 漫画ならビジョアルに訴えて、ってあるけど、小説は文字で読ませて想像だぞ」と桜木。
すると秋葉が「もしかして主人公が、こんな恥ずかしいのは嫌だ・・・とか?」
「そういうの、あるよね」と村上。
渋谷が「そうなの?」と確認。
「ま、まあ・・・」
「それで、エロい事をやると魔力が増えるとか?」と村上。
真鍋は「そこまでは考えてないから」
「って事はそれに似たような?・・・」と秋葉。
「魔法のスティックがバイブとか」と芝田。
「変身ポーズがМ字開脚とか」と根本。
真鍋は困り顔で「ありませんから」
みんなで作品を読む。
女子中学生の主人公の住む町に魔物が出現し、大暴れして街に被害を出した。
その時、彼女だけに見える小動物型の妖精が現れて、言った。
「魔法を使う適性のある女の子を探していた。あの魔物は魔力で無ければ倒せない。みんなのために変身して戦って欲しい」
それを承諾し、彼女は変身して魔法少女になった。
魔法少女としてのコスチュームを身に付けはしたが・・・。
「あまり普通の服と変わらない気がするけど」と主人公。
「まだレベル1だからね」と妖精。
「で、どうやって戦うの?」と主人公。
妖精は「念じて剣を出すのさ。レベルアップすると銃と楯も出せる」と説明。
「目からビームが出るんじゃないの?」と主人公。
「宇宙怪獣と闘う変身ヒーローじゃないんだから」と妖精。
「魔法少女は変身女の子ヒーローでしょうが」と主人公。
「魔物、こっちに気付いちゃったよ」と妖精。
魔物が近づいてくる。主人公は焦った。
必死に剣を念じる主人公は言った。
「なかなか出ないよ」
「もっと集中して」と妖精。
迫って来る魔物への恐怖に足が動かない。魔物は主人公に向かい、右腕を振り上げた。
その時、彼女の右手に出現した剣が魔物を貫いた。
光が彼女を包んで、コスチュームが変化した。
「おめでとう。君はレベル2になったよ」と喜ぶ妖精。
だが、主人公は不審顔で言った。
「何だか布面積減ってない?」
途中まで読んだ部員たちが好き勝手言う。
「要するに、戦が進んでレベルアップする度に露出度が高くなると」と森沢顧問。
「って事は、このまま行くとビキニアーマーみたいになる?」と渋谷。
「まさか最終形態は全裸とか?」と秋葉。
真鍋は「そこまでは行きませんよ」
「そうなんだ」と部員たち。
「肩や膝に飾り的なものが」と真鍋。
「それを全裸って言うのよ」と不審顔の根本。
真鍋は「けど、小説だから。絵とかで全裸を見せる訳じゃないですから」
「これだから真鍋君は」と根本。
「とりあえず続きを読もう」と部員たち。
翌日、主人公が学校へ行くと。学校の生徒全員が彼女の活躍を知っていた。
「一応変身したんだけど」と主人公。
「顔も髪型も変わってないからね」と妖精。
クラスメートから質問責めにされ、男子達にちやほやされる主人公。
靴箱には大量の手紙。それを見て友達は口々に言った。
「いいなぁ、こんなにラブレター」
「よりどりみどりじゃん」
彼女には、好きな男子が居た。もしかしたら、彼からも・・・とウキウキ気分で片っ端から手紙の封を開けた。
全部が激励の手紙で、ラブレターを期待していた主人公はがっかり。
だが、最後に開けた手紙は意中の彼からで、時間と場所を指定した呼び出しの手紙だった。
告白を期待してその場に行くと、彼は待っていて、彼女に言った。
「俺と付き合って欲しい」
夢見心地で彼についていく主人公だったが、着いた先は剣道部で、彼は剣道部員だった。
「君は剣で闘うんだよね? 最初は魔物も油断したけど、これからはちゃんと戦う訓練をしないと、すぐ敵にやられてしまうよ。そうならないように、剣を使えるよう自分を鍛えて欲しい。俺たちの部活に付き合ってくれ」
途中まで読んだ部員たちが好き勝手言う。
「残念系のラブコメって訳だ」と森沢顧問。
「一人で闘うというより、サポートに徹する人が居る訳だ」と桜木。
「恥ずかしいのは嫌だけど、好きな彼のために・・・って事になる訳ですか?」と真田。
「にしては彼女、無自覚な彼に振り回されっぱなしだな」と芝田が笑う。
「とりあえず続きを読もう」と部員たち。
告白ではない事にがっかりした主人公だったが、自分を心配してくれる彼と部活で一緒になれる事を喜んだ。
だが彼女は、たちまち厳しい練習に音を上げた。
週末、彼女は彼に連れられて、街に出てファミレスで食事をした。
彼は「好きな物をどんどん頼んでいいからね」
これはデートなのだと食事を満喫した主人公。そして彼は言った。
「お腹が一杯になったら、次に行こうか」
着いた所はスポーツセンターだった。
「エネルギー満タンになった所で、次の戦いに備えて体力を付けよう」
ハードなトレーニングの日々が続いた。
だが、次の魔物が襲って来た時、部活で剣の使い方を学んだ成果が出て、魔物を撃退した。
次の日、軍から派遣された3人の男性が彼女の元に現れた。
そして、通常兵器で太刀打ちできない魔物を倒せる主人公をサポートすると言う。
彼女は今まで世話をしてくれた彼と一緒ならと、彼らの申し出を受け入れた。
二人は本格的な訓練を受けて銃撃や格闘をマスターし、襲ってくる魔物を次々に撃退した。
魔法で銃と楯も出せるようになった。
だが、レベルアップとともに、次第にコスチュームの露出度が高くなった。
恥ずかしくて戦えないと苦情を言う彼女のために、軍はコスチュームの上に着るバトルスーツを用意した。
途中まで読んだ部員たちが好き勝手言う。
「露出祭り、終わっちゃうの?」と鈴木。
「何で残念そうなのよ」と根本。
真鍋は「それが終わらないんです。当面、それでお茶を濁すんですが、そのうち限界が来ます」
「もしかして、女の子の羞恥心がパワーの元とか?」と村上。
真鍋は「何で解るんですか?」
「そういうパターンって他にもあるからね」と村上。
「とりあえず続きを読もう」と部員たち。
バトルスーツで、もう恥ずかしい思いをせずに済むと喜んだ彼女だったが、小動物妖精はそれでは本来の力は出せないと言う。
バトルスーツで戦い、ピンチになるとそれを脱ぐ。
終わってから思い出して、しばらく部屋に篭ると、彼が慰めに来る。
そんな中で彼女のコスチュームはビキニ状態になった時、三体の魔物が現れた。
二体を倒した所でレベルアップした結果、下一枚になった主人公は、さすがに胸を隠して蹲った。
戦えなくなった彼女を魔物が襲おうとした時、彼は、彼女が落とした剣を拾って三体目の魔物を倒した。
そして彼は見えない精霊に向かって叫んだ。
「神様か何か知らないが、趣味でこんなふざけた格好をさせるのは止めてくれ」
すると、小動物妖精が彼の目の前に現れて言った。
「そうはいかない。魔法少女のパワーの源は女の子の羞恥心なんだから」
こんな格好で戦うのは嫌だと言う彼女に対して、軍から来た三人は言った。
「魔法少女の武器があれば本人でなくとも戦えると解った以上、戦いは我々戦闘のプロが引き受ける。君はもう戦わなくてもいい」
彼女はベースワゴンの個室で変身して武器を出す役目に徹し、三人の男性が剣と銃と楯を持って戦った。
元々戦闘のプロだけに、何とか魔物を撃退出来た。
だが、次に来た魔物は強力で、魔法少女が出した武器も魔力が尽きてしまう。
主人公は意を決すると、ベースワゴンの隣室に居る彼の所に来て、言った。
「みんなに見られるのは嫌だけど、あなたは大好きだから、どんな恥ずかしい姿を見られてもいい」
そう言って、彼女は足を開いて"くぱぁ"をして見せた。彼は鼻血を吹いて昏倒。
彼女の羞恥心から生まれた魔力は武器に転送されて魔物を倒した。
途中まで読んだ部員たちが好き勝手言う。
「くぱぁって何ですか?」と真田。
「それはね」と戸田が真田の耳元でひそひそ・・・。
「えーっ!」
「これだから真鍋君って」と根本が残念そうに言う。
桜木が言った。
「けど、そういう葛藤の中で、意思の力によって羞恥心を克服するんじゃなくて、あれこれ逃げ道を探すってのが姑息で真鍋らしいな」
「姑息って言っちゃいますか?」と真鍋。
「とりあえず続きを読もう」と部員たち。
強力な魔物を倒した主人公たちに、妖精は言った。
「次を倒せばこの戦は終わる」
だが、それはあまりにも強力だった。三人の軍人も力尽きて、魔物は主人公が乗ったベースワゴンを襲い、彼が運転して逃走した。
だが、魔物の攻撃で車は転倒。
女の子は既に全裸となったコスチュームの上にバトルスーツを着て魔物の前に立つと、全国に向けて中継している報道ヘリの前で、自分の恥ずかしい過去を洗いざらいぶちまけ、そして最後に自分が好きな彼の事を告白した。
その恥ずかしさが魔力となって、魔物に致命傷を与えた。
だが、転倒したベースワゴンの運転席から彼が這い出すのを見て、魔物は最後の力で彼に怪光線を浴びせる。
彼女は彼を守ろうとしてその前に立ちはだかり、怪光線を浴びて彼女のバトルスーツは崩壊。彼女は全裸で魔物にとどめを刺した。
裸で蹲る彼女に彼は上着をかける。そして言った。
「帰ろうか」
「うん」と彼女むは頷く。
その時、小動物妖精が二人の前に現れて、言った。
「君達の戦い方を見せて貰った。とても参考になったよ」
彼がその意味を問おうとした時、妖精は消えていた。
主人公と彼は、三人の軍人が担ぎ込まれた病院で手当を受け、軍の車で家に帰る。
車中で彼女は憂鬱な表情で言った。
「あんな事やこんな事をみんなに知られちゃうくらいなら、裸見られた方がましかも」
「誰も聞いてないから。君が小学校の頃、男子のアレが気になってプールの時間に更衣室覗いたとか」と彼。
彼女はハリセンで彼を思い切り叩く。
「もう知らない」と言って口を尖らせる主人公。
しばらくして冷静になった彼女は、彼に言った。
「ところで、まだ返事を聞いてないんだけど」
「俺でいいの?」と彼。
「あなたがいいの」と彼女は言った。




