第240話 山岳にGO!
秋葉が休日の登山イベントに、村上・芝田・中条を連れて参加する事になった。
上坂市山岳クラブが観光課とタイアップした市民登山の企画に、杉原が強引に巻き込んだのだ。
「杉原さんとは長い付き合いだってのは解るけどさ、長い付き合いだからこそ、遠慮せず断れるんじゃないの?」と村上が苦言を呈す。
「祭りの件以来、あそこの観光関係と色々あってね」と秋葉。
「けど、知らない人ばっかりなんだよな」と芝田。
「高橋さんと武藤君たち、あと経済学部の時島君が来るわよ」と秋葉。
「あの人、登山部だったよね」と中条。
四人とも登山の素人という事で、時島がレクチャーする事になった。
時島が彼らを登山部室に連れて行き、登山に必要な装備を説明する。
「先ず、登山靴ね」と時島。
「運動靴じゃ駄目なのか?」と村上。
「無理にとは言わないが、疲れないように出来てるんだよ」と時島。
部室の棚に様々な装備が並ぶ。村上たちには使い方の解らないものも多い。
「テントやステッキ、ロープにハーケン・・・」と、あれこれ説明する時島。
「ハーケンとか、そんなものまで要るのかよ」と芝田は時島に・・・。
「岩登りのある所だとね」と時島。
「岩なんて登るのかよ」と村上。
「今回の山は、そういうのは無いけどね」と時島。
「脅かすなよ」と芝田。
「ただ、チームのリーダーはロープくらい持って行くよ。遭難者が出た時必要だから」と時島は言った。
内海の会社の系列店に行って登山靴を試着
「踵の部分が曲がらないんだが」と村上。
「疲れないよう固定してるんだよ」と時島が説明。
村上は仲間たちと顔を見合わせて「いらないか」・・・。
「登山用のウェアも色々とあるぞ。これなんか吸湿性に優れて風通しも良く・・・」と時島。
「ジャージじゃ駄目なのか?」と村上。
「いや、それでもいいんだが、標高が高いと気温が下がるから防寒装備としての必要が出たりする」と時島。
「夏だけどね」と芝田。
時島は「夏でも高山は寒くなるし、天候が不安定だから雨具も必要・・・って事で雨合羽だ。暑くて蒸れるから通気性が優れ・・・」
「標高が高いから寒いんじゃ無かったのか?」と村上。
「歩いているうち暑くなるんだよ。そして万一遭難して山の上で一夜を明かすための装備もあった方がいい」と時島。
すると中条が「そういう時って仲間とお互いの体温で温め合うんだよね?」
「だからワンゲルってホモが居るのね?」と秋葉。
時島は慌てて「それ、偏見だから」
「けど、そういえば藤河さんのBLのホモカップルも高校で登山部だったよね?」と中条。
時島は全力で「俺は絶対違うから」と強調する。
「寺島の部活には居ないのか?」と村上。
「居ないよ。居ないと思う。居ないんじゃないかな・・・じゃなくて、絶対居ないから」と時島。
「動揺が凄いな」と芝田と芝田が笑う。
「それと、エネルギー補給に甘い物を用意する」と時島は強引に話題を変える。
「チョコとか」と中条。
「バナナとか」と芝田。
「それは昼食じゃないのか?」と村上。
「バナナはお菓子に入りますか?」と芝田は時島に訊ねる。
「小学校の遠足じゃないんだから。それと予備の食料と水分。一人ペットボトル五本な」と時島。
「水分をペットボトル五本ってかなり重いんじゃないのか?」と村上。
「そうかな?」と時島は首を傾げる。
村上が「重みに耐えられないようだったら捨ててもいいか?」と確認。
「環境汚染になるから駄目、絶対!」と時島。
あれこれ話した後、時島は言った。
「後、ステッキはどうする?」
「年寄りじゃないんだから」と芝田。
だが村上は「俺は買っておくよ」
時期が迫る。四人で水分と食料を買いに行く。
大はしゃぎでお菓子を買う秋葉と中条、そして杉原。
そんな女子たちを見て、村上が笑いながら「どっちがいいか・・・とか言わないのかな?」と芝田に耳打ち。
まもなく杉原が秋葉に「シュークリームとロールケーキ、どっちがいいと思う?」
「両方買おうよ」と秋葉。
そんな彼女等に村上は「悪くならないのにしなよ」
「あと、バナナと」と杉原。
「やっぱり買うのかよ」と村上。
杉原は「消化にいいのよ」
「後、昼食のパンと」と秋葉。
芝田が笑って「どうでもいいけど、そんなに買ってリュックに入るのか?」
「水分はどうする?」と中条。
「ジュースがいい」と秋葉。
中条は「お茶でいいよ」と言うが、村上は「水で、ってか水がいいと思う」
「味気ないよ。せっかくの登山なのに」と秋葉が口を尖らす。
二日間の予定で、麓のキャンプ場で一泊し、翌朝早くに登山開始だ。
イベント当日の午後に役所に集合。
かなり大所帯で、年配の人も居る。
「内海と松本さんも居るのか?」と芝田。
「いつも四人で登ってるから」と言う高橋の隣で神妙な顔の内海と松本。
役所からは杉原と八木。
「津川は?」と村上が聞くと、杉原が「前回で懲りたんだってさ」
「時島君、今日はよろしくね」と中条が隣に居る時島に笑顔を向けた。
車を連ねて麓のキャンプ場へ。
到着すると、各自のテントを張る。高橋たちのテントの隣に村上たちのテント。
「ここが秋葉さん達のテントだね?」
そう言って様子を見に来た時島。30才ほどの女性が一緒だ。
「時島君はテント張りは終わったの?」と中条。
「慣れてるからね」と時島。
時島は隣に居る女性を紹介する。
「彼女は山家さん。登山ではベテランだよ」
「もしかして時島君の彼女?」と秋葉。
「だったらいいんだけどね」と山家が笑った。
山家は2つのテントを見て「ところで、どっちが男性用でどっちが女性用?」
「私たち、四人で一緒のテントなんですけど」と秋葉が怪訝な顔をする。
「それじゃ、高橋さん達も?」と山家は隣に居た高橋に・・・。
「大勢の方が楽しいから」と高橋。
山家は自分が妙な事を想像していた気がして「そ、そうなんだね」と思わず赤面する。
「山家さんのテントは?」と中条。
「女性の登山仲間と一緒だけどね」と山家。
高橋のテントの所では、内海が松本に小言を言われ、それを武藤が庇っている
それを見ながら山家は思った。(楽しそうだなぁ)
「ところで時島君のテントって誰と一緒?」と秋葉。
「俺は一人用を持ってるから」と時島。
秋葉は意味ありげな表情で「どうせなら私たちのテントで寝ない?」
時島は「いいの?・・・って喰い付いた所をボイスレコーダーで録音して、みんなに聞かせたりとかするんでしょ?」
「時島って、普段睦月にどんな目に遭わされてるんだ?」と芝田が怪訝な顔で問う。
時島は困り顔で「そりゃもう、色々とね」
各小グループがテントを張り終えた所で、全員が集まって翌日の打ち合わせ。
日の出前に起きて朝食を済ませて出立する予定だ。
登山手帳と称するものと地図が配られる。
解散して各自で夕食の支度。村上たち、武藤たちと時島・杉原・八木が、一か所に集まって各自の夕食作り。
「お前らもカレーかよ」と他チームを見て笑う。
「定番だからな」と武藤。
「ご飯は米から飯盒で炊くのか?」と村上。
「定番だからな」と武藤。
村上は「失敗すると悲惨だぞ」
武藤は真顔で「コツを覚えるのも登山家としての修行だからな」
「お前の専門は登山家じゃなくて料理人だろ」と芝田。
「けどご飯炊きは料理人の基本だ」と武藤。
「始めパッパで中チョロチョロだっけ?」と芝田。
武藤は「逆だ」と一言。
暗くなる中、あちこちでグループが集まり、コーヒーを沸かし、酒を酌み交わす。
村上たちと高橋たち、そして杉原、八木、時島の11人が輪になって、わいわいやる。
「蚊が出て来たな」と時島が言い出す。
芝田が「そろそろテントに入るか」
11人で村上たちのテントに入る。
中条が村上の膝の上に乗る。
中条が芝田と村上に甘える。
秋葉が芝田と村上にじゃれる。
松本が高橋に甘え、高橋が内海に甘え、武藤が松本と内海の頭をポンポンやる。
杉原は思った。
(無理にでも津川君、連れてくれば良かったなぁ)
前回の登山で、山の上でへばる津川にハッパをかけた事を思い出す杉原。
そして(楽しかったなぁ)と呟く。
その時、八木が言った。
「もしかして杉原さん、津川連れてくれば良かったって思ってる?」
「そんな事ある訳・・・って強がっても意味無いよね。八木君こそ、藤河さんが居ればって思ってるでしょ?」と杉原。
八木は笑って「登山にあの人連れて来るのはご法度だから。こんな所に連れてきたらあの人、ここの全員ホモ認定しちゃうよ」
そんな彼らを見ながら時島は思った。
(一緒のテントで・・・と言ったのはあながち冗談でもなかったのかな?)
夜が更けて、各自のテントに戻る時、秋葉は時島の腕を掴んで言った。
「やっぱりうちのテントに来ない?」
時島は「そうだなぁ・・・って、そのポケットの中にあるの、ボイスレコーダーでしょ?」




