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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
235/343

第235話 お姉ちゃんなんて大嫌い!

ダイケー国がヒノデ国を攻撃するシンボルとして計画した"平和の幼女像"と称する物の公有地使用不許可が決まった。

それに対してダイケー移民とその支持者が抗議行動と称して役所に押しかけた。

そうしたダイケー側へに対抗するヒノデ留学生たち。モニカにも声がかかる。


部室でモニカは村上たちに言った。

「サムライ村上にも来て欲しいです」

「面白そうじゃない」と秋葉。

「いや、睦月さん。面白いって・・・」と村上。


モニカに同行して村上たち4人は、ヒノデ留学生たちと合流し、春月市の役所に向かった。



役所では、ダイケー人グループと日本人支持者が、役場の入口からホールにかけてを占拠している。

受付前を埋め尽くす彼らを迷惑そうに見て眉をひそませる市民たち。

窓口で居丈高に叫ぶ彼らの代表。拡声器で叫ぶ罵詈雑言に平身低頭の窓口穣。

彼らは集団で、半ば暴徒の様相を呈して、職員たちを罵る


「ヒノデの人権弾圧に加担するのか」

「人でなし」

「日本人の恥め」


そう叫ぶ彼らに対して、モニカが叫んだ。

「人権侵害をやっているのはあなた達ダイケー人です」

入口先を占領するダイケー側に対してヒノデ側が対峙する。

「ここは日本だ。無関係な国に迷惑をかけるな」とヒノデ側。

「人権に国境は無い」とダイケー側。

ヒノデ側は「国境が無い事にしたいのは特定国を苛めて喜ぶダイケーの宣伝戦争だろ。お前等が言ってるのは人権じゃないぞ」


その時、秋葉が叫んだ。

「私は春月市民です。私たちの税金による財産がヒノデ人に対する人権侵害のために使われるのは不本意です」

ヒノデ側の人たちが口々に叫ぶ。

「そうだ。ダイケーは歴史の捏造を止めろ」

「対ヒノデ宣伝戦争でアジアの平和を壊すな」

「対ヒノデヘイトの洗脳教育を止めろ」


周りに居た市民も口々に言う。

「そうよね。怖い争い持ち込まれて、迷惑だわ」

「適当に宥めてハイハイ言ってれば、おとなしくなると思ってたら、逆効果だもんな」

そんな彼らを見て秋葉は「ざっとこんなもんよ」と村上とモニカに・・・。



その時、秋葉に対して声を上げた女性が居た。

「あなたは春月市民ではなく上坂市民よね、秋葉睦月さん」

秋葉は唖然として、その女性の名を口にした。

「杉原朋恵さん」

彼女は秋葉の親友、杉原の姉だ。


「秋葉さん、こんな所で何やってるのよ」と杉原姉。

「それはこっちの台詞よ」と秋葉。

「知り合い?」と村上が秋葉に訊ねる。

「杉原さんのお姉さんよ」と秋葉は答えた。

「じゃ、杉原さんがウーマニズムの影響受けてるのって」と中条。

「あの人のせいよ」と問って杉原姉を指す秋葉。



杉原姉は村上達を見る。そして、一緒に居るモニカを一瞥して、言った。

「そういう事ね。あなた達はそいつに騙されてるの。そいつらはネトアンケーよ」

「ネトアンケーって?・・・」と中条。

「ネットでダイケーの反ヒノデ運動を批判している人に対するレッテル用語です」とモニカが説明する。


杉原姉は言った。

「批判じゃなくてヘイトスピーチでしょ? ダイケー人に対して差別的で排外的な罵詈雑言を浴びせ、意見する人に対して、お前はダイケー人だろって根拠も無く決め付ける」

「罵詈雑言ってどんな?」と村上。

「例えばこう」と杉原姉は言うと、スマホを出して検索し、ネットの掲示板を開いてヒノデ側の発言を表示。

曰く「それ捏造だから」「戦後処理は終わってるから謝罪は不要」「ダイケー国の芸能人なんて知らん」


「それに対して意見を言う人って?」と村上。

「例えばこう」と秋葉が言うと、ネットの掲示板のダイケー側の発言を表示。

曰く「俺ヒノデ人だけどヒノデ人は罪悪感を持ってひれ伏すべきだと思う」「犯罪国家は罰を受けろ。この間の地震は天罰だ」「お前らネトアンケーは底辺貧困層だからヘイトで現実逃避してるだけ。多くの良心的ヒノデ人は兄の国ダイケーに服従して友好を楽しむ」



芝田はあきれ顔で言った。

「ダイケー側の方が思いっきり差別的な罵詈雑言だと思うが」

「痛すぎなマウンティング根性丸出し」と秋葉。

「ヒノデの方がまともだろ。少なくとも事実関係を言ってるし」と村上。

杉原姉は「ネットで顔も見えないのに、根拠無くダイケー人と決め付けるって駄目でしょ?」


「どういう意味で駄目なのかな?」と村上。

「良心で言ってる事を自国のエゴイズムだと決めつけるって事でしょ?」と杉原姉。

「犯罪国家呼ばわりは良心じゃなくてヘイトだろ」と芝田が言った。

杉原姉は「かつて支配したのは事実よ。ダイケー人は被害者なのよ」


「先ず、戦後処理は終わってるよね。その中で被害加害の関係は清算された。それに支配自体は当時の国際法に沿った形で行われた」と村上。

「暴力で強制されたのよ。あんな併合条約は無効よ」と杉原姉。

「無効だという説は国際的に認められていないよね。手続きに瑕疵とか言うけど、他の国の例から見ても当時として合法だった」と村上。

「戦争裁判で有罪になったわ」と杉原姉。


村上は「裁かれた、つまり責任があるとされたのは指導者個人であって国でも民族でもない。そして彼らの刑も終わり、戦後処理も終わった。社会常識として犯罪者呼ばわりが許されるのは、有罪判決が出てから刑が終了するまで。つまり法がそう具体的に規定した以外で戦犯とか言うのは本来、誹謗であり差別で許されない事さ。マスコミでも有罪判決が出るまで犯人と呼んではいけない事になってる。杉原さんやダイケーの人が言ってる戦犯国呼ばわりは明らかにヘイトスピーチだよ」

「けど支配した歴史は消えないわよ。そうである限り加害者よ」と杉原姉


すると中条が「それって前科者差別って事じゃないかな?」

「それは差別では無いわ。例えば、ヤクザが刑を終えて出てきたとするわよね。彼等はお礼参りってやるわよね。それを警戒して自衛するのは当然よ」と杉原姉。

村上は反論した。

「前科者差別は解消すべき人権侵害の一つとして指定されているよ。その例え話はまやかしさ。法的処理を終えた人に対する警戒的視線として、否定すべき場合と同情すべき場合はある。それは前者は普通に一般人と対等な立場で生きようとしている人に対する場合、後者は暴力的行動様式を捨てようとしない人に対する場合さ。あなたは、前者に相当する場合を後者に例える事で、間違った主張を強弁している。例え話は必ずしも有効とは限らないんだよ」


「ヒノデの軍国主義は復活しようとしているわ」と杉原姉。

「それは具体的に何? 北方にあって侵略的に行動している大国に備える自衛体制の整備だよね? それは軍国主義じゃない。普通の国と同じだよ。それを戦犯国とか前科者とかいう差別用語で否定して、あまつさえ自分たちの国に逆らうな、反論する権利は無いなんて、国家間対等の原則的権利を否定しているのがダイケーの主張さ。普通に一般人と対等な立場で生きようとしている人に対する差別と同じ。紛れもない人権侵害だよ」と村上。

「・・・」



「そもそも、あなたが言う良心って何?」と秋葉が追及。

杉原姉は「ヒノデ人として自国に不利でも国籍を超えてダイケーの正しさを直視してネットで発言するのは良心でしょ?」

村上がバッサリと反論した。

「顔が見えない以上、本当にヒノデ人かどうか解らないよね? ヒノデ人のフリしてるだけって疑われて当然だろ。正しさは誰が言ったかではなく、何を言ったか・・・だよ。"ヒノデ人が言ったから"なんて理由で正当性が主張できると思ってるって事は、国籍を詐称する動機と見られて当然だ。"俺ヒノデ人だけど"とか、しらじらしく言ってる奴がゴロゴロ居る時点でアウトだよ」

「・・・」


「それに、ネットで顔も見えないのにって言うなら、根拠無くネットの発言者を底辺貧困層だと決めつけるのはどーなん?」と芝田。

「根拠はあります。ヤース・ダーコッチというジャーナリストが、何人かのネトダイケーにインタビューしたんです。みんな漠然とした不満や不安を抱えていたそうです。日常生活の不満を無関係な人への批判にぶつけて逸らすために、無関係なダイケー人を攻撃しているだけでしょう」と杉原姉。

「全く不満や不安を抱えていない人なんて、どれくらい居るの? 自国が不当な攻撃を受けたら、どの国の人だって反論するでしょ? それこそ無関係な私生活問題にすり替えてを話を逸らしてるのはヤースって人の方じゃないの?」と秋葉。


「彼はその本を評価されてジャーナリスト団体から賞を貰っているんですよ」と杉原姉。

「ダイケーの反ヒノデキャンペーンを正当化するヘイト運動に加担するマスコミやジャーナリストは多いです」とモニカ。

「リベルタンバイアスって奴だね? 思想的に偏ってる人は、そういう業界に多いんだよ」と村上。

「つまりお手盛り賞って訳だ」と芝田。


「そもそもダイケー側の主張を捏造だと決めつける事がヘイトです」と杉原姉。

「いや、捏造でしょ。古文書でキブンワリー島だと解ってるジャッカーシ島をバンブー島だと言い張って、あれは自国領だとか、ヒノデ領と確定したフランソワ条約を無視するとか」と村上。

「ダイケー国に対する悪い印象を広めて排斥意識を促しています。それがヘイトの要件ですよ」と杉原姉。

「指摘された事実が悪いイメージを促すというなら、それを促しているのは指摘行為ではなく、指摘された事実そのものであり、その事実を作ったのはダイケー国だよね? 一方でダイケー国は悪い印象を広めるための嘘を広めている」と村上。



杉原姉は更にスマホで、掲示板の発言を探す

「このヒノデ人の発言は国交断絶を主張しているわよね。そんな事は不可能よ」と杉原姉。

「ダイケーが破った基本条約は国交の基盤です。本来ならそれで国交継続は不可能となります。口先で友好と言いつつ、公然と条約破りと捏造宣伝を続けるなら、断交は権利です」とモニカ。

杉原姉は別の発言を指して「この発言はダイケー移民を追放しろと言ってるわよね」

「彼が批判しているダイケー人発言はヒノデの主権を否定しています。私たちの権利を奪うというなら、それに対抗するのはヒノデ人の権利だと主張するのも当然です」とモニカ。

「この発言は、過去の支配をより過酷なものにすべきだったと言ってるわよ」と杉原姉。

「この人の反論対象のダイケー人は支配下で大半のダイケー人が殺されるか餓死したと言っていますが、実際にはその期間に人口は倍に増えました。そうした矛盾に対する皮肉ではないのですか?」とモニカ。


そんな二人を見て芝田は言った。

「まあさ、売り言葉に買い言葉ってのもあるだろうさ。少なくとも、あのヒノデに対するダイケーの罵詈雑言は無いわ」

「売り言葉と言うなら、先に喧嘩を売ったのはネトアンケーですよ」と杉原姉。

モニカが抗議した。

「違いますね。ネトアンケーなどというレッテル用語で、そういう間違ったイメージを拡散しても、喧嘩を売ったのはダイケー国側です。こういう攻撃的な発言は、そもそもネットが始まる前にダイケーのマスコミによるヒノデへの攻撃の中で続いていました。ネットが無かった時代にネットでのダイケー国批判も無いですよ」



「私はダイケー人じゃないわ。無関係な日本人として、中立の立場で、あなた達ヒノデ人の自己正当化を批判しているのよ」と杉原姉。

モニカは「中立とは無関係な国の人ではなく、その発言自体が客観的な論理で成り立っている事を言うんです。ここに居る村上先輩のように。元々対立する双方と無関係と言うなら、殺し屋だってそうです。けど、殺し屋が中立者としての良心で人を殺した・・・なんて言っても、誰も認めません。あなたは殺し屋と同じです」

「私を人殺し扱いするの?」と杉原姉は声を荒げる。


村上は言った。

「戦争は人を殺すよ。ダイケーがやっているのは宣伝戦争だけど、それで憎悪を煽るから暴力による戦争になるんだ。お姉さんはそれに加担している。事実を元に意見を言うのは言論の自由だけど、ダイケーがヒノデに対してやっているような、嘘で他国を貶めるのは犯罪ですよ。そして杉原さんたちは、その片棒を担いでいる。共犯もまた犯罪です。杉原さん。あなたは自分が犯罪者だという自覚はありますか?」

杉原姉は真っ青になって「村上君は和恵の友達よね? 友達の家族を犯罪者呼ばわりするの?」

すると秋葉が「お姉さん、ヒノデの人たちを犯罪者呼ばわりしたわよね。自分が他人に対してやった事を、自分がされると怒るんですか? 他人の足を踏んでも痛みを感じない・・・って事ですか?」


「ヒノデ人は言われて当然の事をしたのよ」と杉原姉。

芝田が「それは違うよ。少なくともモニカさん自身は何もしていない。お姉さんが批判されてるのは、お姉さん自身がやった事に対してだよ。そしてモニカさんの祖先は、その"やった事"とやらに対する処理を終えてるだろ。ダイケー人は宣伝戦争っていう犯罪を処理していないし、止めてすらいない。言われて当然なのはお姉さんの方だろ」



その時、後ろから杉原姉に呼び掛ける声があった。杉原だ。隣には津川も居る。

「何やってるのよ、お姉ちゃん」

「和恵」と、杉原姉は妹の名を呟く。


そして姉妹による討論が始まる。

「ウーマニズムの人達が、こんなのに参加してるって聞いて、気になって来てみれば」と杉原。

「被害者には女性も居るのよ。しかも売春の強制なんてひどい事まで」と杉原姉。

「強制したのはダイケー国の業者よね? それを軍がやったって嘘ついてるのよね? しかもその"強制された"って証言自体に矛盾が多いわよね?」

「戦争での性的暴力を根絶するためよ。ヒノデを叩くのが目的じゃないの」と杉原姉。

「だったら、今やってる所を批判すればいいじゃない。それを終わった件で嘘ついてまで。それで強姦民族なんて酷いヘイトスピーチを叫ぶのが、ヒノデを叩く以外の何だってのよ」と杉原。


「ヒノデの政治家は謝罪したわ。つまり自分達が加害者で絶対悪と認めたの。だからレイプセンターも性奴隷制度も全部事実なの」と杉原姉。

「謝罪は女性を癒すためにとかいう泣き落としに騙されたのよね? そしたら掌返して、認めたんだから反論するなとか、どんなヤクザよ。その性奴隷とかいうヘイトスピーチを正当化するために、全ての売春は性奴隷制だとかいう拡大解釈で、ダイケー人売春婦の国外進出を指摘されたわよね?」と杉原が指摘する。


「私はダイケー人じゃないの。彼らに恨みも無いの。全ては女性の人権のために」と杉原姉。

「外国で派手にやってる運動に便乗してるのよね? で、彼女らに共感とか言って憎悪に共感して、捏造上等とか発想が彼女らと同じになってるわよ。傍から見れば一緒にバッシングを楽しんでいるようにしか見えないんだけど」と杉原。

「派手にやってるのは、これが戦争暴力の問題だからよ」と杉原姉。

「ヒノデに対する宣伝戦争の言葉の暴力でしょうが。そんなのだからウーマニズムは支持者を無くすのよ」と杉原。


「和恵、女性の立場はあなたの立場でもあるのよ」と杉原姉は言った。

すると杉原は「私の立場は人間の立場です。私、あの家、出て行くから。津川君の家で一緒に住むの」

「両親も賛成してくれてますので」と津川。


杉原姉は涙目で「私があなたをどれだけ苦労して育てたか解ってるの? 津川君、私から和恵を奪うの?」

「すみません」と津川。

杉原姉は津川に対して居丈高に「今、謝罪したわよね? つまり自分が加害者だと認めたのよね?」

秋葉はあきれ顔で「朋恵さん。それはヤクザの理屈よ」

「本当に発想がダイケーの人みたいになってるんだな」と芝田が言った。



周囲の日本人が口々に言った。

「ダイケー国って怖いよね」

「ヒノデの人、かわいそう」

「あんなのが隣国とか不幸過ぎだろ」

「友好国は選べても、隣国は選べないからね」


冷たい視線がダイケー側デモ隊に集中し、帰れコールが響いた。

ダイケー側は一しきり自分達の主張を叫ぶと、彼らは撤退した。



この様子は映像となってネットに流れ、顔や個人名など個人を特定できる部分は修正されたが、ダイケー国の運動の実態が広く知られ、多くの批判意見が発言された。

そして各地で行われている同様の像建設運動に対する強いブレーキとなった。



杉原・津川と村上達五人は、騒ぎが収まるとヒノデ人留学生たちと別れ、喫茶店に入った。

「杉原さんのお姉さんって、何でああなの?」と村上が杉原に尋ねた。

杉原は言った。

「両親に問題があってね、父はけっこう厳しい人で、そのくせ酒癖が悪くて、母は随分苦労したの。小さい頃にそんな様子を見て育ったから、男性に対して変な印象を持ったのね。父は酒のせいで健康を害して早くに死んで、母が父の悪口を言うのを聞きながら育ったけど、その母も高校生の頃に死んで、就職して働きながら私を育てたの」


「じゃ、彼氏とか居ないの?」と中条。

「高校の時に、好きな人は居たみたい。だけど失恋しちゃったんだって」と杉原。

「今は?」と中条。

「優しくしてくれる人は居るみたい。ウーマニズムに参加してる人でね。けど、その人の居ない所では、男性のウーマニストは家に帰れば男尊女卑・・・とか悪口言ってる」と杉原。

「彼らが言ってた、不満を無関係な人への批判にぶつけて逸らすってやつ、自分の事じゃないのかな?」と芝田。

「心理学ではそういうのをミラーイメージって言うんだって」と中条。

「けど、男性嫌悪って、やっぱり親が問題がある・・・って事なのかな?」と津川。


すると芝田が言った。

「俺の両親も問題があったぞ。親父は婿養子でさ、結婚して苗字を芝田に変えたんだが、優しい人だったらしい。母親は兄貴が生まれた頃から親父に辛く当たり出してさ。けど母親は自分では、家庭を守るために我慢して結婚したとか言い出して、俺が生まれたんだが、ますます酷くなったそうだ。親父はお袋が浪費する分節約して、病気になってもろくに医者に行かずに死んだんだとさ。兄貴にも辛く当たって、こんな母親には頼れない、弟は自分が守るんだって言って、母親が死んだ後も頑張って俺を育ててくれたのさ。俺の学費は結局、親父がお袋に隠して残したものを兄貴に託したらしい」

「それじゃ、お兄さんも女性に対していい印象は・・・」と杉原。

「そうだったら今頃市川さんと付き合ってないよ」と芝田。


「ところで、拓真君の御両親って厳しかったって、前に百物語で言ってたよね?」と中条。

芝田は笑って「あれは作り話。本当に厳しかったのは祖父母だって、まあ聞いた話だけどね」

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