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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
234/343

第234話 目指せ漫画の国

コミケの季節が来た。

住田は就活中で、秋葉部長と三年生は後輩たちを率いて13人で会場に向い、文芸部のブースを設営した。

芝田は今年も画像作成コンピュータ絡みでコンピュータ研のブースに出向いた。

開場すると三年生たちは言った。

「とりあえず一年生三人で回ってきなよ」

「あの・・・」と何か言いたげな一年生。

それを察して桜木は「真鍋と渋谷さん、ついて行ってやりなよ。モニカさんは・・・」

「私はヒノデ国の仲間たちと廻ります」とモニカ。


やがて四人のヒノデ国の留学生がブースを訪れた。

留学生たちがはしゃいで、あれこれ言う。

「ここが県立大学の文芸部ですか?」

「あなたがサムライ村上ですね?」

モニカとわいわいやる四人。


秋葉は「それじゃモニカさん、一緒に廻って来なよ」

すると留学生の一人が「是非サムライ村上も」

「なら私たちも」と中条と秋葉。

だが、戸田が「秋葉さんは駄目よ。留学生に何吹き込むか解ったものじゃないわ」



村上・中条と一緒に、あちこちの漫画サークルのブースを巡る留学生たち。

エロ同人誌を一斉に開き、一斉に固まり、一斉に盛り上がる。

「HENTAIカルチャーの楽園日本万歳」

そう叫んではしゃぐ彼らを見て村上は「カルチャーショックって奴だな」と笑って呟く。


同人誌を見て留学生は「柴野あかりってこんなプレイするんだ」「メグミンって処女だと思ってた」等、あれこれ言う。

それを見て村上は言った。

「言っておくけど、これに書いてるの全部妄想だから」


「そうなんですか? 小学生の妹がいきなり風呂場に乱入とかも」と留学生。

「無いから」と村上。

「電車の中で女子高生襲ってそのまま懐かれちゃうとか」と留学生。

「絶対無いから」と村上。

「アイドルが秘密のサイン会でアソコにサインしてくれてそのまま乱交に・・・とか」と留学生。

「絶対ある訳無いから」と村上。


意気消沈する四人の留学生にモニカは「がっかりしないでよ。まるで私たちが、そういうのを目当てで日本に来たみたいじゃない」

留学生の一人が「だったら俺たち、何しにこの国に・・・」

「勉強しに来たんでしょうが」とモニカ。

「そうだった」と留学生。


するともう一人の留学生が「けど、そういうの全部実話だってネットに・・・」

「どこのサイト?」と村上。

「毎朝新聞の英語版です」と留学生。

村上はあきれ声で「あの新聞、まだそんな事やってたのかよ。それ書いたのってデカチョーの着ぐるみ来た白人のオッサンだよね?」

「確か、そんな管理人の紹介写真」と留学生。

「捏造宣伝だってバレて大問題になったやつだよ」と村上。



国立大のパソコン研に行く。論理解析支援システムのデモをやっていた。何人かのヒノデ人留学生も居る。

モニカと一緒に居るヒノデ人が彼らに声をかけた。

「やってるな、アタル」

「お前たち、よく来たな」とブースに居る留学生の一人。

留学生仲間でわいわいやる。そして彼らのリーダーであるアタルと、システム開発を主導した土方が村上に話しかけた。

「よく来たね、村上君」

村上は「こんにちは、土方さん、アタルさん。あのシステムの実証にはあの留学生たちも?・・・」

「双方の主張論理の膨大なデータを彼らが提供してくれたんだよ。それを論理解析してデータベース化したのさ。だから、あの場で飛び交った主張は殆ど解析済みの主張論理で、それを当てはめればいいだけだったのさ」と土方。

「それを大勢で手分け作業するのに全国に居る多くの留学生がネットを通じて協力してね、彼らも、そこで働いてくれた奴等さ」とアタル。


ブースに来た客に、先日のダイケー国派との討論データを配布している。

デモを見た来客が口々に言う。

「これ、無茶苦茶だな」

「こんな事やってる国があるんだ」

「怖ぇー」


そんな彼らを見てアタルは言った。

「多くの日本人が解ってくれています。感謝します。ロジックサムライ村上、そしてコンピューティングサムライ土方」

「いや、俺は本来コンピューターは専門じゃないんだが」と土方。

「サムライって付けるのはヒノデ国じゃブームになってるの?」と中条。

「日本人に対する最高の敬称ですよね?」とアタル。

「間違った日本人イメージのような気もするが・・・」と村上。


ブースの一画で剣持が別のシステムの実演をやっている。

「こっちはアニメーション作成システムだね?」と村上。

「デモデータもあるよ」と剣持。

村上はデモデータの映像を見て、「やたらモザイクだらけなんだが」

そして、それを見たヒノデ人留学生たちは一斉に固まり、一斉に盛り上がる。

「HENTAIカルチャーの楽園日本万歳」



美術大の漫研のブースに行く。

藤河が村上を見つけて「村上君、久しぶり」

「繁盛してるね」と村上。

「何せ、この世界のプロを育成する学校ですから」と田中。

高梨が留学生たちを見て「そちらの人たちって外国の人ですよね?」

「ヒノデ国の留学生だよ。うちに一人入ってさ」と村上。

「この間、ダイケー国と騒ぎがあったんですよね?」と田中。

「私たちです」と留学生。

「ダイケー国って怖い国よね」と高梨。


村上は「そーいや、田中はまだツッパリ女の漫画描いてるのか?」

「今は異能バトル物に転向しました」と田中。

「ようやくまともな路線に・・・って所かな?」と村上が笑う。

田中は「中条先輩の小説読んで、これだ・・・って思いまして」

「あの亜人探偵団かぁ」と村上。

中条は嬉しそうに「どうしよう、真言君、私の小説の影響受けた人が居るって・・・」

村上は「良かったじゃん。それだけ評価されてるって事だよ。ところで高梨さんは相変わらずのホラー?」


「現代の闇に潜む悪魔の脅威により迫る人類の危機を題材にしました」と高梨。

村上は笑って「かなりハードだな」

「最後は神の裁きによって悪霊たちは滅ぼされるんです」と高梨。

村上は心配になって「まさか宗教に嵌ったりしてないよね?」



そんな村上に高梨は「村上先輩、このパンフレットを読んでみてくれませんか」

見ると、怪しげなカルトの宣伝パンフだ。

「まずいんじゃないの?」と村上が呟いて心配顔になる。


それを見たモニカが毅然と高梨に語りかけた。

「高梨さんでしたね? あなたの信仰する集団はまやかしです」

「脱洗脳だね?」と村上。

「モニカさん、かっこいい」と中条。


高梨は反論する。

「そんな事はありません。教祖様は本物です」

モニカは「いいえ、真実を知るのは御仏だけです。是非、我がヒノデ国の霊地に来て、高僧たちの言葉に耳を傾けて・・・」

村上、唖然。そして言った。

「モニカさんの、そういう勧誘もどうかと思うんだが・・・。ってか田中、どうにかしろ。お前の彼女だろ」

田中は「大丈夫ですよ。一週間くらいで飽きます。これで三度目なんです」

「人騒がせだなぁ」と村上は言った。



その時、藤河はモニカに一冊の冊子を渡して言った。

「モニカさんって言ったよね。これ、読んでみない?」

村上は困り顔で「あまり留学生に変な事を勧めないでくれない?」

藤河は「失礼ね。漫画文化のれっきとしたジャンルよ。それにこれは女性向けですからね」


それを見て、モニカは目を丸くして言った。

「これって男性の同性愛じゃないですか。こんなHENTAIカルチャーもあるんですね?」

「失礼ね、変態じゃないわよ」と藤河。

村上は藤河に「まあまあ、外国の人はサブカルの事をHENTAIって呼ぶと思ってるんだよ」とフォローする。

藤河は「それ自体、ある意味偏見なんじゃないかと思うんだけど」

「どうしてですか。ヘンタイってアニメ絵の事ですよね?」とモニカ。


藤河は溜息をつくと、改まった顔でモニカたちに説明した。

「あのね、変態っていうのは日本語で、変化した性態、つまりアブノーマルセクシャルの事よ」

「な・・・」

留学生たち唖然。そして慌てて言った。

「日本の皆さんごめんなさい」

「俺たち、何て事を」と一人の留学生。

「日本ではこういう時、包丁でお腹を切るんですよね」と、もう一人の留学生。


村上は溜息をつくと「お前ら、この国を何だと思ってるんだ」

「まあまあ、悪いのはネットに無責任な事を書いた人達なんだし」と中条。

そしてモニカは仲間たちに「けど、あなた達この前、アニメイベントの会場で、"俺たちHENTAI"って叫んで盛り上がってたわよね?」

「あ・・・」

「俺たち、何て事を」と留学生たち。

村上は思った。(知らないって怖ぇー)



そんな彼らを見て中条は「ねえ、真言君、前に聞いた事があるんだけど」

「何だい?」と村上。

「エッチって、ヘンタイの頭文字なんだよね?」

「そうだね」

「だとすると、性欲がある人ってアブノーマルなのかな?」と中条は少し残念そうに言う。

「まあ、所謂性嫌悪って奴なんだろうけど、それもある意味偏見かもね」と村上。


そんな村上にモニカは、さっき藤河から渡された冊子を示して言った。

「ところでこの主人公たち、村上先輩と芝田先輩に似てませんか?」

「この二人がモデルなのよ」と藤河。

モニカは目を丸くして「先輩たち、そんな関係だったんですか?」

村上は慌てて「違うから。藤河さんが勝手に外見似せて書いただけだから」

「けど、話し方とか性格とか雰囲気とかもそっくり」とモニカ。

「それも勝手に似せただけだから。俺も芝田もノーマルだからね」と村上は汗だくで言った。

  


県立大の漫研に行き、コンピュータ研に行く。


芝田が画像コンピュータをやっている。榊・刈部・泉野と小島、そして山本も居る。

「お、来たな村上、それに里子にモニカさん、そっちはヒノデ国の人達だね?」と芝田が彼らを迎える。

村上が芝田たちに声をかけ、モニカが「こんにちは」と芝田の仲間たちに挨拶。

わいわいやる留学生たちと工学部の面々。


モニカはそっと芝田に「あの、芝田先輩。私、先輩と村上さんの関係、応援してますから。同性愛には理解はあるつもりです」

芝田は顔を青くして「何言ってんの? 違うから」

村上もモニカに「さっき俺たちホモじゃないって言ったよね? 話聞いてた?」

「もしかしてマッキー&タッキー見せられたのかよ」と芝田。


それを脇で聞いていた泉野は「何? 芝田君ってBLの人だったの?」

「お前ら、そういう趣味があったのかよ」と榊と刈部。

村上と芝田は「違うから。俺たちモデルにして関係捏造した漫画描いた人が居るってだけだよ」



そんな中で榊が言った。

「それより作画コンピュータ、見て行けよ。かなりバージョンアップしたぞ。背景を書く機能やアニメーション作成も追加した」

「萌え動画は男のロマン」と刈部。

「エロゲームもあるけど、やってみる?」と小島。

「俺はいいよ。その手のゲームに興味は無い」と村上。

すると小島は留学生たちを指して「彼らはそうでもないみたいだが」


留学生たちがエロゲームの体験版に夢中になっている。

「HENTAIカルチャーの楽園日本万歳」と叫ぶ留学生たち。

モニカがあきれ顔で「あなた達、さっき聞いた事、忘れたの?」

「そうだった、ごめんなさい」と留学生。


芝田は村上と留学生たちに言った。

「あと一か所、案内したい所があるんだが」



芝田がコンピュータ研を離れて、そのブースに案内する。

「美術大学じゃないか」と村上。

芝田は「そのアニメ研だよ。自主制作アニメをやってるのさ」


見た顔が出迎える。

「久しぶりです。村上先輩」

そう言って出て来た学生を見て、村上は目を丸くする。

「大塚に田畑じゃん。八上ライブやってると思ってたが」

「俺たち、こっちが本業ですから」と大塚。

「こいつら、美大のアニメ科に入ったんだよ」と芝田。


「アニメで自然な動きを演出するにも、いろんな技術が必要ですから」と田畑。

芝田が「作画コンピュータのアニメ機能のために、こいつらに協力して貰ってるのさ」と説明。

「自主制作アニメ、買いません?」と大塚。

「エロいやつなんだよね?」と村上。


留学生たちがデモ動画を見て盛り上がり、口を揃えて叫ぶ。

「HENTAIカルチャーの楽園日本万歳」

「あなた達、さっき聞いた事、忘れたの?」とモニカ。

「そうだった、ごめんなさい」と留学生。

「懲りない奴等だなぁ」と村上があきれ顔。



芝田も一緒に文芸部のブースに戻って昼食。ヒノデ国の留学生も混ざってわいわいやる。

留学生が弁当箱を開けて「我が国の民族料理です」

一口食べた芝田は「かなり辛いな」

中条も一口食べて「けど癖になるよね」


秋葉はその留学生に「これ、どうぞ。日本料理ならやっぱりお寿司よね」

「生魚はちょっと」と留学生。

「手巻き寿司よ」と秋葉。

それを食べながら、留学生は言った。

「これ、カリフォルニアロールみたいですね」

村上は笑って「あれは寿司のアメリカバージョンだから」



食べながら、留学生の一人が村上に話しかけた。

「あの、サムライ村上。日本のアニメは素晴らしいと思います。何故、日本でこれほどアニメが発展したのでしょうか」

「大人の鑑賞に堪える作品として最初に評価されたのは何だか知ってる?」と村上。

「機甲戦士ゲンドムですよね?」と留学生。

「あの時代まではアニメは子供向けだと思われてたのさ。けど、あの作品の作者たちはその思い込みを踏み越えたんだ」と村上。

「大人向けに高品質に作れば売れると思ったからですか?」と留学生。

「ちょっと違うな。彼ら自身がアニメが好きだったからさ。自分たちが見て楽しめる作品を作りたかったんだよ」と村上。

「売って儲けるつもりは無かったと?」と留学生。

村上は言った。

「同じ想いの人は居たし、そんな作品があれば見たいという需要はあった訳だけどね。けど彼らにはそんなの二の次だったんだろうね。見てくれる人が居れば儲けものくらいの気持ちだったと思う」

そして秋葉が言った。

「私たちの先生がいつも言ってる言葉があるの。文芸は自己満でナンボ・・・ってね」

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