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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第233話 情報のニンジャ

ダイケー国のヒノデ国排斥モニュメントを巡る対立の中で、ダイケー側団体による説明会と称する宣伝イベントは惨めな失敗に終わった。

当初、この企画を大々的に宣伝した地方メディアだったが、それが主催者側の失敗に終わると、そこで何が行われたかをメディアは一切報道しなかった。

だが、ネットではその様子が大々的に拡散され、ダイケー国の行動は各方面で批判された。

そして幼女像建設計画は批判の的となった。



そんな中で物騒な知らせが届く。

村上の居る文芸部の部室を訪れた鹿島がそれを伝えた。

「春月空港の警備筋からの情報なんだが、ヒノデ国からノマヤ・スーチーが入国したそうだ」


部室に居たモニカが「あのブンナ・グッタル隊のノマヤが春月に?」と表情を曇らせる。

「どんな奴なんだ?」と村上が訊ねた。

「ブンナ・グッタル隊はヒノデ国の親ダイケー派団体です。最近の対立激化の中で、反ダイケー国デモをヘイトスピーチデモと呼んで集団で襲撃するんです。デモ参加者を待ち伏せて集団暴行とか」とモニカが説明する。

「話には聞いていたが、そんな犯罪者が・・・」と芝田。

「マスコミには英雄扱いする人も居て、警察も野放し状態でして」とモニカ。

「ナチスの親衛隊の時代映画でも見てるみたい」と戸田。


「国立大学の留学生たちには十分気を付けるよう伝えたが、モニカさんが狙われる心配もある」と鹿島が真剣な表情で言う。

だがモニカは、毅然とした表情で言った。

「私、そんな奴等には負けません」

「命にかかわる事なんだよ」と村上。

「むしろこの命で奴等が殺人罪で裁かれるなら本望です。そういうのを日本では"男子の本懐"って言うんですよね?」とモニカ。

桜木は「モニカさん、男子って何のことか知ってる?」


鹿島は言った。

「もし奴等がモニカさんに何かしたとして、絶対シラを切ると思うよ。だから、奴等をきちんと裁きたいなら、返り討ちにして捕まえて背後関係吐かせる必要がある」

「そうですね」とモニカも頷く。

「外では一人にならないほうがいい」と鹿島。

「とりあえず大学との行き来はどうする?」と村上。

「集団登校だな」と桜木が言った。



モニカの朝は早い。ベットから起きると、短い仏典を読んだ後、朝食。そして伝統の整体体操。

そろそろ時間かな・・・とモニカが思った時、玄関から芦沼の声。

「モーニカちゃーん」

モニカは「はーい」と返事をして玄関を出る。

「じゃ、行こうか」と外で待っていた数名の大学生。


大学の周囲にアパートを借りている佐竹・桜木・住田と佐竹の居候の芦沼。横断歩道は右を見て左を見て。

渡り終えた所で桜木が言った。

「あのさ、こういう小学生みたいなノリ、止めない?」

「集団登校って、こういう事するんじゃ・・・」と佐竹。

「そういう様式美は要らないから」と住田。



歩きながらモニカが訊ねた。

「それで、休日も外出は控えるべきなのでしょうか?」

「何か用事? 俺たち、付き合うけど」と桜木。

「下着が足りなくなったんで」とモニカ。

「あ、そう」と困り顔の男子たち。

「私が一緒に行ってあげるわよ」と芦沼。


「けど、女子だけで暴漢に対抗出来ないかもな」と佐竹。

「ま、買う時は遠巻きに見ていればいいだけだし」と住田。



週末。

佐竹・桜木・住田・芦沼と、桜木の所に泊まっていた戸田でモニカを囲んで買い物に。

スーパーの下着売り場で買い物する女子たち。離れた所に居る桜木と佐竹。


わいわいやっている女子たちの会話を耳に、佐竹は言った。

「楽しそうだな」

「それは知らないが故だな。芝田が言ってたが、女の買い物につき合うのは相当な苦行だぞ。意見を要求されて派手なのがいいと言えば変な目で見られ、地味なのがいいと言えば拗ねる」と桜木。

「戸田さんはどうなんだよ」と佐竹。

桜木は「それなりにな」


そんな事を言いながら、一緒に居た筈の男子が一人居ない事に気付く桜木。

「ところで住田さんは?」

桜木にそう言われて、佐竹が下着売り場の方を見ると、女子達の中で下着を手に盛り上がっている住田が居た。



そんな中で、ヒノデ人留学生の会合の予定がスケジュールに入った。

国立大に居るリーダーのアタルが、鹿島と相談する。

「もしかして狙われるんじゃないかな?」とアタルが懸念を伝える。

「こちらも集団で行動する必要があるな」と鹿島。

だが、まもなく鹿島は別の情報を捉えた。


鹿島は文芸部の部室を訪れて、村上たちに伝えた。

「ブンナ・グッタル隊のノマヤが帰国したそうだ。さっき春月空港を立ったという事だ」

「一安心という訳かな?」と村上。

脇で聞いていた中条は「良かったね、モニカさん」

だが、村上の脳裏に一抹の不安が浮かぶ。

(本当にそうなんだろうか?)


村上は鹿島に言った。

「リーダーは段取りだけ指示して、帰国後に襲撃実行って可能性は無いのかな?」

鹿島は「なるほどな。そうする利点はある。一つはリーダーが帰った事で標的が安心する。もう一つは万一失敗してもリーダーは無関係だとシラを切れる。解った。警戒は続けるよ」



当日、会場に集まる留学生たち。

モニカは村上たちに送られて会場に入った。

「後は任せたぞ、鹿島」と言って、村上たちは帰った。

会合で留学生たちが運動の成果を報告し、問題点と今後の方針を話し合う。

そして襲撃の可能性について、改めて参加者に注意を促す。


会合が終わって集団で会場を出た時、鹿島は周囲に、何人かの不審な様子を見せる人物が居る事に気付いた。

二人の人物が、何気ない素振りを見せつつ後ろを歩く。

そんな中、春月駅でモニカと別れる。

「モニカさん、一人で大丈夫?」と鹿島。

モニカは「電車の中は人目があるから平気です」

不審人物の姿は消えていた。


だが、春月駅からメンバーのアパートに向かう時、鹿島がそれに気付いた。

「おい、あの車」

中型の白い乗用車が、ゆっくり跡をつけている。

「奴等かな?」とアタルが表情を曇らせる。

鹿島は「来たら返り討ちだ」


だが乗用車は、しばらくついて来た後、角を曲がって姿を消した。

「諦めたのかな?」と鹿島。

「標的を変えたのかも」

そうアタルに言われ。鹿島ははっとして叫んだ。

「モニカさんが危ない」



鹿島の脳内が計算を始める。さっきの奴が彼女を尾行して、襲撃者の乗った車に連絡したとしたら。

電車内や駅は人目に付く。問題は駅から彼女のアパートまでの間だ。


鹿島はモニカに連絡した。

「私が襲われるんですね?」とモニカ。

「その可能性がある」と鹿島。

「解りました。私、受けて立ちます。暴行罪ですよね? 犯人をきっと捕まえて下さい」

鹿島は「何言ってんだ」と携帯に向って言うが・・・。

携帯は既に切られていた。かけ直しても電源が切られている。

(何てことを)と鹿島は脳内で呟いた。


鹿島は留学生たちに事情を話すと、佐竹に連絡した。

「モニカさんが襲われる可能性がある。県立大前には18時05分に着くと思う。迎えに行ってやってくれ」と鹿島。

「解った」と佐竹。

「俺もすぐモニカさんの所に行く。君たちも十分注意してくれ」と鹿島。

「解った。彼女を頼む」と佐竹。


鹿島は住田と桜木にも同様の内容を伝えると、近くに住んでいる佐藤に連絡した。

「鹿島だが、モニカさんが危ない。今、春月駅近くのコンビニが見える所に居るが、緊急の足が無い。お前、バイク持ってたよな?」

「解った」と佐藤。


鹿島がコンビニ前で待つ。すぐに佐藤がバイクで駆け付けた。

「借りるぞ」と言ってバイクに跨る鹿島。

「ああ。モニカさんを頼んだ」と言って佐藤はバイクの鍵を鹿島に渡した。

鹿島は佐藤のバイクに乗って県立大方面へ走った。



モニカが県立大前で電車を降りて駅を出る。すぐに彼女は気付いた。

(誰かにつけられている)

家路を急ぐモニカ。

その時彼女は、背後から白い乗用車が迫るのに気付いた。


数人の男性が車を降りて走って来る。手にはバットや鉄パイプを持っている。

反射的にモニカは駆けだす。そして彼女が走る方向から全力で駆けて来る者が居た。

彼はモニカに追い付いた男性たちの前に立ち塞がる。住田だった。


暴漢が振り下ろすバットを左腕で受け止める。住田の左腕に激痛が走る。一撃、二撃・・・。

その時、一台のバイクが突進し、暴漢たちをヘッドライトが照らした。

乗っていた男が何かを投げ、暴漢の一人の左頬に命中した。鹿島だ。

向こうからは桜木と佐竹が駆けて来る。

暴漢たちは白い乗用車に乗って逃げ去った。



モニカは泣きながら住田に縋った。

「先輩、住田先輩」

「大丈夫だ」と住田はモニカの肩に手を置く。

鹿島は住田の様子を見て「腕をやられましたね? とにかく病院に」


「それより、あいつ等ダイケー派のテロリストだろ。捕まえなくちゃ」と住田。

「大丈夫。行き先は解ってます」

鹿島はそう言って、携帯を出して連絡した。

「矢吹か、モニカさんが襲撃された。彼女は無事だが、住田って人が腕をやられた。恐らく空港に走ってそのまま出国するつもりだろう。移動手段は白の乗用車。ナンバーは隠している。そっちで押さえてくれ。左頬にQDIを喰らわせた。やれるよな?」


電話を終えるとモニカが訊ねる。

「鹿島さん、QDIって?」

「悪人を炙り出す魔法の薬さ」と言って鹿島は笑った。



住田は病院に運ばれ、手当を受けた。

ベットの脇で寄り添うモニカ。それを心配そうに見る桜木と佐竹。

その時、鹿島の携帯に連絡が入った。しばらく鹿島は携帯で話し込む。


電話を切ると、鹿島は笑って言った。

「空港で張り込んでいた矢吹が犯人を捕まえた。もう大丈夫だ」

「よく犯人だって解りましたね?」と佐竹。

鹿島は説明した。

「QDIって蛍光塗料があって、目に見えない波長の光を出すのさ。人体に付着すると一週間は落ちない。これを塗ったボールを左頬にぶつけてやったのさ。光は特殊なゴーグルを通せば見えるから、左頬からその光を出す奴を探せばいい」



襲撃事件は報道には載らなかったが、ネットで拡散され、報道しないメディアは激しく批判された。

やがてメディアは事件を報じ、犯人がヒノデの親ダイケー派ブンナ・グッタル隊のメンバーである事、指導者ノマヤがその直前に来日していた事、これが反ヒノデの攻撃宣伝モニュメントの設置に関わっている事が報じられ、幼女像は厳しく批判された。

数日後、幼女像の設置は不許可が決まった。


翌日、文芸部にヒノデ人留学生の代表としてアタルが鹿島とともに住田の病室を訪れた。

モニカが付き添い、村上たちも見舞に来ていた。

「怪我はどうですか?」とアタル。

「単純な骨折だから、すぐくっつくそうだよ」と住田。


アタルは住田の右手を握って「私たちの仲間、モニカを守ってくれた事を感謝します。ヤリチンショーグン住田」

「それ、定着してるの?」と住田は困り顔で言った。。

アタルは「ショーグンはサムライより上位の敬称と聞いていますが」


脇で聞いていた村上はアタルに「そういう情報って誰から?」

「鹿島から聞きました」とアタル。

「おい、鹿島、もしかしてロジックサムライってのも」と村上は溜息をついて問う。

「面白いじゃん」と鹿島が笑う。

村上は「お前なぁ」


モニカは言った。

「事件を解決に導いたのは鹿島さんの力です。インテリジェンスニンジャ鹿島、私たちはあなたの事も忘れません」

鹿島は戸惑い顔で「え・・・えーっと」

「良かったじゃん、鹿島、面白くて」と村上は笑った。

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