第228話 彼女たちの修羅場
教育実習を終えた後輩たちの様子を見に来た斎藤。彼女と鈴木・真鍋の様子に疑問を感じた渋谷と根本。根本と渋谷の尋問に乗せられた鈴木と真鍋が、斎藤との関係を漏らしてしまう。
そして、斎藤との一夜の関係が根本と渋谷にバレた事で悩んだ鈴木と真鍋が退部を決意した日・・・。
夕方、斎藤が勤務する春月南高校の校門前に、渋谷と根本が居た。
勤務時間を終えて職員玄関を出る斎藤。職員駐車場を自分の車に向かう。
自転車置き場から出た二人の男子生徒が斎藤を見かけて挨拶する。
「斎藤先生、さよなら」
「気を付けて帰るのよ」
そう言って、自転車で走り去る二人の男子生徒に手を振る斎藤。そして彼女は二人の後輩女子に気付いた。
「斎藤先輩」と根本が声をかける。
「あら、あなた達」と斎藤。
「ちょっと聞きたい事があるんですけど」と渋谷。
「そうね、場所を変えましょうか」と斎藤は二人の後輩に言った。
喫茶店で向き合う女教師と二人の女子大生。
一通り話を聞いた斎藤は「つまり私があの二人を抱いちゃったのか?・・・って事ね?」
「どうなんですか?」と根本。
「抱いたわよ」と悪びれる様子も無く、斎藤は答えた。
「いつ?」と根本。
斎藤はストレートに「春合宿の夜、保健室に別々に連れ込んでね」と話した。
「どうしてそんな事を」と問う根本に、斎藤は言った。
「住田君と別れてフリーになって、就職するまでの短い時間を楽しみたかったの。二人ともけっこう可愛いし。もしかしてあなた達、あいつらは自分の男だとでも?」
「違うでしょうか?」と根本と渋谷。
「あなた達、あいつらの彼女になる見込みなんて無かったでしょ?」と斎藤。
「それを承知でお互いに大事に思っていたんです」と渋谷。
斎藤は「それであいつら、ずっと童貞だった訳よね?」
渋谷は言った。
「そんなの求めて無かったし、そんなつもりで私に優しくしてる訳じゃない。だから・・・」
「そりゃ言わないでしょうし、多分、思ってもいないのでしょうね。別に気を引くためじゃなくても、男が女を思いやるって、そういう事だもの。けど、知らないが故のセックスへの憧れってのがあるのよ」と斎藤。
「それは解ります」と根本。
斎藤は溜息をつくと「それをガツガツしてキモい・・・なんて思っちゃうからガキだって言うの」
「けど、だからって、童貞貰ってくれた女性に夢中になっちゃうあいつら見るのは嫌なんです」と根本。
斎藤はさらに語った。
「男って、一度抱いた女に興味が無くなる事があるって知ってる? けど逆に、抱いた事で、自分を受け入れてくれた女だって事で夢中になる人って居るのよね」
「男には二種類居るって事ですか?」と渋谷。
「そうかもね。あいつらはどっちだと思う?」と斎藤。
「後者なんでしょうね」と根本。
「で、どっちが真っ当な男だと思う?」と斎藤。
「それは後者だと思います」と根本。
翌日、鈴木と真鍋が秋葉の所に来た。そして言った。
「秋葉部長に話があるんですが」
文芸部室で聞こうという話になり、部屋に移動。
「で、どうしたの?」と秋葉が問う。
「サークル、辞めたいんです」と鈴木は単刀直入に言った。
秋葉は笑って「根本さんと渋谷さんの事ね? つまり斎藤さんとしちゃったのがバレて、合わせる顔が無いと」
「何で知ってるんですか?」と真鍋。
秋葉は言った。
「斎藤さんから相談を受けたのよ。自分のせいであの二人が部を辞めるのは・・・って」
「あの人に、そんな事を気にする義理は無いと思いますけど。いくら以前は潰れかかった弱小サークルだからって」と鈴木。
「そうじゃなくて、辞めたら自分との繋がりが無くなっちゃうのは寂しいって言ってるのよ。斎藤さんはね」と秋葉は言う。
「そんな」と鈴木も真鍋も唖然。
秋葉は真面目な表情で二人の後輩の目を見据え、そして言った。
「はっきり伝えるわね。斎藤先輩はあなた達に自分のセフレにならないかって言ってるわ」
「セフレって?・・・」唖然とした顔で鈴木と真鍋が声を揃える。
「高校生落とすって言っても、そう簡単に行く話でもないでしょ?」と秋葉。
「確かに」と鈴木。
「それまでの間、性欲解消の相手にならないか・・・って言ってるの」と秋葉は言った。
鈴木と真鍋は嬉しそうに声を合わせて言った。
「喜んで」
それを聞いて、机の下から根本と渋谷が飛び出し、ハリセンで真鍋と鈴木の後頭部を思い切り叩いた。
驚いて後ろを振り向いた真鍋と鈴木。鬼の表情の二人の女子を見て唖然。
そして声を揃えて「何で居るの?」
憤懣やるかた無いといった表情の渋谷と根本が声を揃える。
「何でじゃないわよ! ってか秋葉先輩、話が違うじゃないですか。私たちの仲を取り持ってくれるんじゃなかったんですか? なのに斎藤先輩の下請けになってセフレ勧誘って」
「あれ、嘘だから」と、笑いが止まらないといった体の秋葉。
「秋葉先輩!」と二人の後輩女子。
鈴木と真鍋は唖然とした顔で「嘘なんですか?」
「何がっかりしてるのよ。セックスなら私がいくらでも相手になってやるわよ」と根本がまくし立てた。
「いや、だって根本さん、桜木先輩が好きなんじゃ・・・」と鈴木が慌てる。
根本は「鈴木君の事も好きなの。それとも同時に二人好きになっちゃ駄目なの?」
「俺でいいの?」と鈴木。
「鈴木君がいいの」と根本。
「俺、こんなだし」と鈴木。
「優しいじゃないの。面倒見てくれるじゃないの。先輩との仲、取り持ってくれるじゃないの」と、いつのまにか涙目になっている根本。
「結局それなんだよね?」と鈴木は溜息。
その時、根本はいきなり鈴木にキス。
そして根本は「私の、とりあえず彼氏になってくれるわよね?」
「うん」と鈴木。
根本は「返事が小さいっ!」
鈴木は「喜んでっ!」
そんな鈴木を見て、真鍋は「良かったな、鈴木」
「とりあえず・・・だけどな」と鈴木。
「じゃ、幸せになりなよ」と言って、真鍋は部屋を去ろうとするが・・・。
渋谷が「ちょっと、真鍋君、どこに行くのよ」
「根本さんは桜木先輩と付き合えなくて、ああなったけど、渋谷さんには中川が居るから、俺は必要無いよね?」と真鍋。
「必要無くても居て欲しい。三人で居ると楽しい。エッチだって」と、渋谷は涙目になる。
その時・・・。
「それは困ります」
そう言ったのは、書棚の影から出てきた真田だった。
渋谷は驚いた表情で「真田さん、何で居るの?」
「秋葉先輩、私と真鍋先輩の事、取り持ってくれるんじゃ無かったんですか?」と真田。
秋葉は「真田さん、こういう時は最後は自分で言わなきゃ駄目なのよ」
真田は「渋谷先輩に二又されるなんて、中川君が可哀想です。あんなにいい人なのに。真鍋先輩、私じゃ駄目ですか?」
真鍋は慌てて「いや、そんな事のために真田さんが」
「私、真鍋先輩が好きです」と真田は真剣な表情で言った。
すると渋谷が「真田さん、私から真鍋君を遠ざける気? 彼とは付き合い長いのよ」
「だって中川君が」と真田も食い下がる。
その時・・・。
「俺の事はいいから」
そう言ったのは、掃除道具入れのロッカーの中から出てきた中川だった。
真田は驚いた表情で「中川君、何で居るの?」
「秋葉さんに呼ばれたんだよ。俺のせいでややこしい事になってるって」と中川。
真鍋はうんざりした顔で「秋葉先輩、もしかして、まだ誰か隠れてます?」
鈴木もうんざりした顔で「もしかして楽しんでません? 秋葉先輩?」
そんな後輩たちに、秋葉は楽しそうに笑って言った。
「そりゃ、修羅場くらい端で見てて面白いものは無いもの。もう、四人で温泉でも行ってきたらどう? 青湯温泉とか、どうかしら」




