第227話 暴け!保健室の夜
夕方の授業が終わり、文芸部の二年生が部室へ行く。
一年生は不在だったが、代わりに、思いがけない来客が居た。
卒業して高校教諭として就職していた斎藤だ。
懐かしがる後輩たちは口々に「斎藤先輩、久しぶりです」
「様子を見に来たの。後輩のみんなとか、この二人の様子もね」と斎藤も楽しそう。
"この二人"とは、教育実習を終えた佐藤と佐竹の事だ。
「斎藤さんには実習でいろいろお世話になったから」と佐藤と佐竹が言った。
「で、どうだった? 実物の高校生」と斎藤。
「いろんな点で、これでいいのか?・・・って」と佐藤が笑う。
斎藤は「現実なんてそんなものよ。実習生のうちは新人みたいで珍しいって思ってるから。慣れてからが大変よ」
鈴木と真鍋が斎藤に言った。
「それで、有望な婿候補っています?」
斎藤は「若いだけが取り柄みたいなのばっかり。ある程度は成長ってものも必要ね。けど、あなた達も随分大人っぽくなったわね」
「先輩のおかげで自信っていうか・・・」と鈴木。
「一生忘れません」と真鍋。
斎藤はそっと二人の耳元で「童貞卒業すると、言う事が違うわね」
そんな様子の二人に渋谷と根本は不審そうな視線を向ける。そして二人でひそひそ。
「あいつら、斎藤さんと何かあったんじゃ・・・」と根本。
「只ならぬ雰囲気っていうか・・・」と渋谷。
「追及しなきゃだよね?」と根本。
「けど、本人に聞いても、どうせしらばっくれるだけだと思うよ」と渋谷。
「どうしようか?」と根本。
翌日、渋谷はラウンジで鈴木をつかまえて訊ねた。
「真鍋君って斎藤先輩のこと、どう思ってるのかな?」
「さあ、よく知らないけど」と鈴木。
不自然に目を逸らす鈴木に、渋谷は続ける。
「先輩の話題になると、何だか挙動が不自然になるんだけど、心当たり無い?」
「そう言われても、なぁ」と鈴木。
「鈴木君は斎藤さんの事、どう思ってるの?」と渋谷。
鈴木は「いい人だと思うよ。面倒見のいいお姉さん・・・って言うか」
根本は図書館で真鍋をつかまえて訊ねた。
「鈴木君って斎藤先輩のこと、どう思ってるのかな?」
「さあ、よく知らないけど」と真鍋。
不自然に目を逸らす真鍋に、根本は続ける。
「先輩の話題になると、何だか挙動が不自然になるんだけど、心当たり無い?」
「そう言われても、なぁ」と真鍋。
「真鍋君は斎藤さんの事、どう思ってるの?」と根本。
真鍋は「かっこいいと思う。変に男を軽蔑しない、性嫌悪とか卒業した大人の女性・・・って言うか」
渋谷と根本が互いに得た情報を交換する。
そして・・・
渋谷が農学部実習農場の管理棟で真鍋をつかまえて訊ねた。
「斎藤さんってかっこいいよね?」
「そうだよね。余裕があって、やたら男に攻撃的になったりしない」と真鍋。
「何かやっても許してくれそう・・・みたいな?」と渋谷。
「余裕があるってそういう事だよね。大人の女性っていうか」と真鍋。
渋谷は「何か許して貰った?」
真鍋はギクリとし、慌てて言った。
「俺が具体的に何か許して貰った訳じゃないから」
根本が経済学部棟のロビーで鈴木をつかまえて訊ねた。
「斎藤さんって頼れるお姉さんよね?」
「そうだね。甘えられそう・・・って言うか」と鈴木。
「何か甘えさせて貰った?」と根本。
鈴木はギクリとし、慌てて言った。
「俺が具体的に何かして貰った訳じゃないから」
渋谷と根本が互いに得た情報を交換する。
「何だと思う?」と根本。
渋谷はしばらく考え、そして「まさか・・・」
渋谷は経済学部棟のロビーで鈴木をつかまえて訊ねた。
「鈴木君、もし斎藤さんに誘われたら、どうする?」
「その時になってみないと解らないけど、まさか俺なんか・・・」
明らかに動揺してそう言う鈴木に、渋谷は涙目で畳みかける。
「あんな綺麗で大人な人の誘いを断るなんて、普通、しないわよね?」
ただならぬ渋谷の様子に動揺する鈴木は、渋谷に訊ねた。
「何かあったの?」
「真鍋君に友達止めようって言われちやった」と哀しそうに訴える渋谷。
鈴木は唖然とした顔で「何でまた?」
「斎藤さんの事を好きになったから・・・って。私、中川君の彼女だけど、真鍋君の事も好きなの。真鍋君、もしかして斎藤さんと何かあったの?」
そう言って涙目で迫る渋谷に鈴木は「だって斎藤さんは高校で若い奴を・・・」
「あの人っていろんな男の人に手を出してるし。真鍋君と何かあったの? 知ってるんでしょ?」
そう言って、目に涙を浮かべながら必死に訴える渋谷を見て、鈴木の胸が痛んだ。
そして言った。
「一度だけ誘われて・・・。けどその後は何も無い筈だよ。あいつは渋谷さんの事が好きなんだ。きっと大事にしてくれるよ」
「ありがとう。鈴木君っていい人ね」
そう言って、涙を拭きながら立ち去る渋谷を見ながら、鈴木は呟いた。
「真鍋の野郎!」
根本は農学部実習農場の管理棟で真鍋をつかまえて訊ねた。
「真鍋君、もし斎藤さんに誘われたら、どうする?」
「その時になってみないと解らないけど、まさか俺なんか・・・」
明らかに動揺してそう言う真鍋に、根本は涙目で畳みかける。
「あんな綺麗で大人な人の誘いを断るなんて、普通、しないわよね?」
ただならぬ根本の様子に動揺する真鍋は、根本に訊ねた。
「何かあったの?」
「鈴木君に友達止めようって言われちやった」と哀しそうに訴える根本。
真鍋は唖然とした顔で「何でまた?」
「斎藤さんの事を好きになったから・・・って。私、桜木先輩が好きだけど、鈴木君の事も好きなの。鈴木君、もしかして斎藤さんと何かあったの?」
そう言って涙目で迫る根本に真鍋は「だって斎藤さんは高校で若い奴を・・・」
「あの人っていろんな男の人に手を出してるし。鈴木君と何かあったの? 知ってるんでしょ?」
そう言って、目に涙を浮かべながら必死に訴える根本を見て、真鍋の胸が痛んだ。
「一度だけ誘われて・・・。けどその後は何も無い筈だよ。あいつは根本さんの事が好きなんだ。きっと大事にしてくれるよ」
「ありがとう。真鍋君っていい人ね」
そう言って、涙を拭きながら立ち去る根本を見ながら、真鍋は呟いた。
「鈴木の野郎!」
真っ直ぐ農学部棟に向かう鈴木。そして真っ直ぐ経済学部棟に向かう真鍋。
やがて二人が鉢合う。
「おい、鈴木、話があるんだが」と喧嘩腰の真鍋。
負けずに語気を強める鈴木は「偶然だな。俺もお前に話がある」
「ならお前から言って見ろ」と真鍋。
「お前が言えよ」と鈴木。
鈴木は苛立ちを全面に出して「なら言うが、お前は渋谷さんの事をどう思ってる」
「お前こそ根本さんをどう思ってるんだ」と負けずに真鍋も追及する。
「そりゃ渋谷さんには他に中川って彼氏が居るのは知ってるさ」と鈴木。
「根本さんも他に好きな人が居るのは知ってる」と真鍋。
そして二人は声を合わせてまくし立てた。
「けどなぁ、恋人になれないからって、あんなに優しくしてくれる人と友達止めるは無いだろ。大体斎藤さんは一回相手してくれたってだけで、そのままつき合える人じゃないって解ってるだろ。一度抱いてくれただけで自分の女だと思っちゃうとか・・・」
両者唖然。
「お前、誰の事言ってるんだよ?」と鈴木。
「いや、お前の事じゃないのか?」と真鍋。
「お前に友達止める宣言されたって渋谷さんから相談受けたんだが」と鈴木。
「いや、お前が根本さんに友達止める宣言したって根本さんが」と真鍋。
「どういう事だ?」と鈴木。
「こっちが聞きたいよ」と真鍋。
残念な空気が漂う。
「よーするに、俺たち、騙されて吐かされたんじゃね?」と鈴木。
「って事は全部嘘か?」と真鍋。
「渋谷さんがお前の事好きだってのも」と鈴木。
「俺も根本さんがお前を好きだって聞いたが」と真鍋。
「当然嘘だよな?」と鈴木と真鍋。
両者、残念な表情で溜息。
「で、俺たちが斎藤さんとしちゃったってバレると、どうなる?」と鈴木。
「そりゃ、誘われてホイホイしちゃうなんて不潔、これだから男って・・・ってな話に」と真鍋。
「だよなぁ」と鈴木。
「どうする?」と真鍋。
鈴木は「顔、合わせ辛いよなぁ」
真鍋は「サークル、辞めるか?」




