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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
227/343

第227話 暴け!保健室の夜

夕方の授業が終わり、文芸部の二年生が部室へ行く。

一年生は不在だったが、代わりに、思いがけない来客が居た。

卒業して高校教諭として就職していた斎藤だ。

懐かしがる後輩たちは口々に「斎藤先輩、久しぶりです」


「様子を見に来たの。後輩のみんなとか、この二人の様子もね」と斎藤も楽しそう。

"この二人"とは、教育実習を終えた佐藤と佐竹の事だ。

「斎藤さんには実習でいろいろお世話になったから」と佐藤と佐竹が言った。

「で、どうだった? 実物の高校生」と斎藤。

「いろんな点で、これでいいのか?・・・って」と佐藤が笑う。

斎藤は「現実なんてそんなものよ。実習生のうちは新人みたいで珍しいって思ってるから。慣れてからが大変よ」


鈴木と真鍋が斎藤に言った。

「それで、有望な婿候補っています?」

斎藤は「若いだけが取り柄みたいなのばっかり。ある程度は成長ってものも必要ね。けど、あなた達も随分大人っぽくなったわね」

「先輩のおかげで自信っていうか・・・」と鈴木。

「一生忘れません」と真鍋。

斎藤はそっと二人の耳元で「童貞卒業すると、言う事が違うわね」



そんな様子の二人に渋谷と根本は不審そうな視線を向ける。そして二人でひそひそ。

「あいつら、斎藤さんと何かあったんじゃ・・・」と根本。

「只ならぬ雰囲気っていうか・・・」と渋谷。

「追及しなきゃだよね?」と根本。

「けど、本人に聞いても、どうせしらばっくれるだけだと思うよ」と渋谷。

「どうしようか?」と根本。



翌日、渋谷はラウンジで鈴木をつかまえて訊ねた。

「真鍋君って斎藤先輩のこと、どう思ってるのかな?」

「さあ、よく知らないけど」と鈴木。


不自然に目を逸らす鈴木に、渋谷は続ける。

「先輩の話題になると、何だか挙動が不自然になるんだけど、心当たり無い?」

「そう言われても、なぁ」と鈴木。

「鈴木君は斎藤さんの事、どう思ってるの?」と渋谷。

鈴木は「いい人だと思うよ。面倒見のいいお姉さん・・・って言うか」



根本は図書館で真鍋をつかまえて訊ねた。

「鈴木君って斎藤先輩のこと、どう思ってるのかな?」

「さあ、よく知らないけど」と真鍋。


不自然に目を逸らす真鍋に、根本は続ける。

「先輩の話題になると、何だか挙動が不自然になるんだけど、心当たり無い?」

「そう言われても、なぁ」と真鍋。

「真鍋君は斎藤さんの事、どう思ってるの?」と根本。

真鍋は「かっこいいと思う。変に男を軽蔑しない、性嫌悪とか卒業した大人の女性・・・って言うか」



渋谷と根本が互いに得た情報を交換する。

そして・・・



渋谷が農学部実習農場の管理棟で真鍋をつかまえて訊ねた。

「斎藤さんってかっこいいよね?」

「そうだよね。余裕があって、やたら男に攻撃的になったりしない」と真鍋。

「何かやっても許してくれそう・・・みたいな?」と渋谷。

「余裕があるってそういう事だよね。大人の女性っていうか」と真鍋。


渋谷は「何か許して貰った?」

真鍋はギクリとし、慌てて言った。

「俺が具体的に何か許して貰った訳じゃないから」



根本が経済学部棟のロビーで鈴木をつかまえて訊ねた。

「斎藤さんって頼れるお姉さんよね?」

「そうだね。甘えられそう・・・って言うか」と鈴木。


「何か甘えさせて貰った?」と根本。

鈴木はギクリとし、慌てて言った。

「俺が具体的に何かして貰った訳じゃないから」



渋谷と根本が互いに得た情報を交換する。

「何だと思う?」と根本。

渋谷はしばらく考え、そして「まさか・・・」


 

渋谷は経済学部棟のロビーで鈴木をつかまえて訊ねた。

「鈴木君、もし斎藤さんに誘われたら、どうする?」

「その時になってみないと解らないけど、まさか俺なんか・・・」

明らかに動揺してそう言う鈴木に、渋谷は涙目で畳みかける。

「あんな綺麗で大人な人の誘いを断るなんて、普通、しないわよね?」


ただならぬ渋谷の様子に動揺する鈴木は、渋谷に訊ねた。

「何かあったの?」

「真鍋君に友達止めようって言われちやった」と哀しそうに訴える渋谷。

鈴木は唖然とした顔で「何でまた?」

「斎藤さんの事を好きになったから・・・って。私、中川君の彼女だけど、真鍋君の事も好きなの。真鍋君、もしかして斎藤さんと何かあったの?」

そう言って涙目で迫る渋谷に鈴木は「だって斎藤さんは高校で若い奴を・・・」

「あの人っていろんな男の人に手を出してるし。真鍋君と何かあったの? 知ってるんでしょ?」


そう言って、目に涙を浮かべながら必死に訴える渋谷を見て、鈴木の胸が痛んだ。

そして言った。

「一度だけ誘われて・・・。けどその後は何も無い筈だよ。あいつは渋谷さんの事が好きなんだ。きっと大事にしてくれるよ」

「ありがとう。鈴木君っていい人ね」

そう言って、涙を拭きながら立ち去る渋谷を見ながら、鈴木は呟いた。

「真鍋の野郎!」



根本は農学部実習農場の管理棟で真鍋をつかまえて訊ねた。

「真鍋君、もし斎藤さんに誘われたら、どうする?」

「その時になってみないと解らないけど、まさか俺なんか・・・」

明らかに動揺してそう言う真鍋に、根本は涙目で畳みかける。

「あんな綺麗で大人な人の誘いを断るなんて、普通、しないわよね?」


ただならぬ根本の様子に動揺する真鍋は、根本に訊ねた。

「何かあったの?」

「鈴木君に友達止めようって言われちやった」と哀しそうに訴える根本。

真鍋は唖然とした顔で「何でまた?」

「斎藤さんの事を好きになったから・・・って。私、桜木先輩が好きだけど、鈴木君の事も好きなの。鈴木君、もしかして斎藤さんと何かあったの?」

そう言って涙目で迫る根本に真鍋は「だって斎藤さんは高校で若い奴を・・・」

「あの人っていろんな男の人に手を出してるし。鈴木君と何かあったの? 知ってるんでしょ?」


そう言って、目に涙を浮かべながら必死に訴える根本を見て、真鍋の胸が痛んだ。

「一度だけ誘われて・・・。けどその後は何も無い筈だよ。あいつは根本さんの事が好きなんだ。きっと大事にしてくれるよ」

「ありがとう。真鍋君っていい人ね」

そう言って、涙を拭きながら立ち去る根本を見ながら、真鍋は呟いた。

「鈴木の野郎!」



真っ直ぐ農学部棟に向かう鈴木。そして真っ直ぐ経済学部棟に向かう真鍋。

やがて二人が鉢合う。


「おい、鈴木、話があるんだが」と喧嘩腰の真鍋。

負けずに語気を強める鈴木は「偶然だな。俺もお前に話がある」

「ならお前から言って見ろ」と真鍋。

「お前が言えよ」と鈴木。


鈴木は苛立ちを全面に出して「なら言うが、お前は渋谷さんの事をどう思ってる」

「お前こそ根本さんをどう思ってるんだ」と負けずに真鍋も追及する。

「そりゃ渋谷さんには他に中川って彼氏が居るのは知ってるさ」と鈴木。

「根本さんも他に好きな人が居るのは知ってる」と真鍋。


そして二人は声を合わせてまくし立てた。

「けどなぁ、恋人になれないからって、あんなに優しくしてくれる人と友達止めるは無いだろ。大体斎藤さんは一回相手してくれたってだけで、そのままつき合える人じゃないって解ってるだろ。一度抱いてくれただけで自分の女だと思っちゃうとか・・・」

両者唖然。


「お前、誰の事言ってるんだよ?」と鈴木。

「いや、お前の事じゃないのか?」と真鍋。

「お前に友達止める宣言されたって渋谷さんから相談受けたんだが」と鈴木。

「いや、お前が根本さんに友達止める宣言したって根本さんが」と真鍋。

「どういう事だ?」と鈴木。

「こっちが聞きたいよ」と真鍋。


残念な空気が漂う。



「よーするに、俺たち、騙されて吐かされたんじゃね?」と鈴木。

「って事は全部嘘か?」と真鍋。

「渋谷さんがお前の事好きだってのも」と鈴木。

「俺も根本さんがお前を好きだって聞いたが」と真鍋。

「当然嘘だよな?」と鈴木と真鍋。


両者、残念な表情で溜息。

「で、俺たちが斎藤さんとしちゃったってバレると、どうなる?」と鈴木。

「そりゃ、誘われてホイホイしちゃうなんて不潔、これだから男って・・・ってな話に」と真鍋。

「だよなぁ」と鈴木。

「どうする?」と真鍋。

鈴木は「顔、合わせ辛いよなぁ」

真鍋は「サークル、辞めるか?」

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