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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第223話 心に平和の砦を

モニカは文芸部の作品として政治評論を書き、ダイケー国のヒノデ国に対する攻撃を批判した。

それは校内各所に置かれて、学生たちが読む。



日本各地の大学には、同様の動きを見せるヒノデ国人の留学生たちが居た。


そうした人達が春月国立大を中心にまとまるきっかけとなったのが、ダイケー人グループが世界各地に設置してヒノデ国排斥のシンボルとしている「平和の幼女像」を春月市中央公園に設置しようとする動きだった。

公有地である公園への設置を市当局が許可する事は、彼らの主張をそこに住む日本人が認めた事なのだ・・・という筋書きだ。

つまり"日本人がヒノデヘイトに加担した"という既成事実として宣伝して、何も知らない春月市民をヘイト運動に巻き込み、対ヒノデヘイトの共犯者に仕立て上げる事になる。


ヒノデ人留学生たちの、これに対する反対運動に、モニカも加わった。



その日の文芸部会で論評始まる時、彼女は話を切り出した。

「村上さんにお願いがあります。私たちの運動に参加して下さい。ロジックサムライに参加して貰えれば、とても心強いです」

「つまり俺に君達のシンボルになれと」と村上。

「駄目でしょうか?」とモニカ。

「俺、ただの学生なんだが・・・」と尻込みする村上。



「私たちはみんな、あなたの事を知っています」と訴えるモニカに、村上は言った。

「君たちの運動って、自分達の立場を日本人に訴えるって事だよね? だったら、日本人に知られている人でなければ意味無いと思うよ」

「日本人の中には、私たちに敵対する人達が居ます」とモニカ。

「リベルタニストの人達だね? 彼らは日本人の代表じゃない。ヒノデ国が親日国である事は、大勢が知っている。誰某が支持している・・・ではなく、言っている中身の正しさで訴えるのが正道じゃないのかな?」と村上は言った。



そして、モニカの政治評論に対する論評が始まった。


「今の問題って、その"平和の幼女像"って奴をどうするか・・・って話なんだよね?」と森沢顧問。

「ヒノデ国が周囲の国と戦争していた時期に、ダイケー国から労働力として送られた挺身労務者の話だよね?」と桜木。

「ヒノデ国軍が組織的に強制連行して奴隷労働をさせられた被害者だという主張なんですが・・・」とモニカ。 

「その、軍が組織的に強制連行して・・・ってのが捏造って訳だ。実際には募集で、ダイケー人の勧誘業者によるものだったり、その実態は職場を求めて応募した人達なんだよね?」と村上。

「奴隷労働というのも、ダイケー人の証言で下着一枚で炭鉱労働させられたとか、食事は災害時の炊き出しみたいにお椀持たされて並ばされたとかって書かれた本が出てるんだけど、そこに住んでた大勢の人たちの証言で、実は真っ赤な嘘だと」と桜木。

「中には家族に売られた・・・ってのがあって、その業者がダイケーによる宣伝の中で軍人にすり替わり、"売られた"が"誘拐"にすり替わり。証言している人も居て、同じ人がいろんな所で証言してるんだけど、その内容が食い違うんです」とモニカ。


「それで何で幼女?」と渋谷。

「女子工員として14才の女の子が居たって記録があって、だから挺身労務者は年端もいかぬ子供であるとか、もう一つは戦争中に兵士向けの売春婦をダイケー人の勧誘業者が集めるのに、挺身労務者の名を騙っていた者が居たと」とモニカ。

「売春婦というのは挺身労務者とは本来別の話なんだよね? それで、さっきの親に売られたってのは、そういう人達の話だね?」と村上。

「それが本人の意思に反して悲惨だったとか言うけど、昔の売春って大抵そういうものだからね」と桜木。

「そういう軍用売春婦というのも、いろんな国にあって、ヒノデを占領していた戦勝国も使っていたんだよ」と森沢。


「それに軍が関与したから軍が加害者だって言うんですけど」とモニカ。

「その関与の中身が問題で、実際は、酷い事をしないよう規制する・・・みたいな代物なんだよね?」と村上。

「そりゃ規制するわな」と芝田。


「その関与をすり替えて、女性の強制連行を軍がやらせたと」と村上。

「それはおかしい」と部員たち。

「更に、親から買うんじゃなくて、軍が自ら女性を誘拐した・・・なんて話にすり替える」と桜木。

「ますますおかしい」と部員たち。

「実はいろんな兵隊の日記に出てきて、かなりお金貰って買い物楽しんでたって記録が多いですけど、それが全員地獄みたいに虐待されてたって話になってるんです」とモニカ。


「中には悪質な業者も居たって言うんだけど、そういう被害者が20万人とか。つまり全員そうで、その悪質なのを軍がやらせたと」と村上。

「確信犯的な嘘じゃないか」と部員たち。

「自分はその被害者だって証言してる人で、軍人に拉致されたとか酷い扱い受けたとか言ってる人が居ます。けど、言ってる中身に矛盾があって、実は別の所では、養い親の売春業者に売られたって、違う事を言ってた事実が露見したりとか。何十人か居る証言者を聞き取り調査したダイケーの学者が、半分は明かに嘘をついていると結論付けた報告もあります」とモニカ。


森沢は語った。

「注意しなきゃいけないのは、中に酷い証言があって、逃げようとして殺された仲間の人肉スープを見せしめに飲まされた、みたいな猟奇的な体験談語る人が、数人まとまって出て来た事があるんだ。その話を持ち出して、性奴隷だとか大虐殺だとか言ってる人が居るんだけど、言ってる中身のレベルが他のと全然違う。実は彼女たちはダイケーの反政府エリアの独裁地方政権が出した人たちでね。あそこは大陸国の支援を受けた反政府軍が停戦協定で独立国みたいになってるけど、鎖国状態の中から出て来た人達だから、どこの誰かも解らない。本物だって保証は全くない。あそこを支配する独裁者は、支配下の民衆を洗脳して物凄い人権侵害をやってて、生き残るためなら何でもする。ダイケーの対ヒノデヘイトを煽って軍の関心を外に逸らす宣伝工作用の偽証言者だと考えるのが自然だろうね。あの話が出てすぐ、その人肉スープとかいうのはソルロンっていう牛肉スープの郷土料理を元に考えた創作だろうって言った学者が居たよ」


「悪質ですね」と部員たちが溜息をつく。

「奴隷労働目撃したとか強制連行に加担したとか、捏造証言を本に書いて嘘がバレた人もそうですけど、捏造証言をプロとしてやってるんですよね。その背後に、外国を排斥しようという宣伝戦略をやる国家が居る。前に隣国を侵略した国が"偽旗作戦"っていう事をやって、"虐殺行為やってるから止めるために攻め込んだ"・・・なんて捏造で戦争を正当化しようとして、嘘がバレた。あれと同じです」と桜木。



「それを各国のウーマニズム団体に売り込んで、いろんな国でヒノデに対する中傷に巻き込んでいる訳です」とモニカ。

「"これはヒノデとダイケーの問題ではなく、男性と女性の問題だ"って言うんでしょ? けど、実際にはヒノデとダイケーの問題だから、戦時下の性暴力と言いながら、他の国の問題と無関係な運動としてやっている。そこを指摘すると、これは世界に類の無い特別な非道だと言い張る。その非道の中身が実は捏造」と秋葉。

「ウーマニストって理屈が通らないから。要は男性は非道で抑圧すべき存在だって、攻撃的イメージ盛り上げたくて加担してるのよね?」と戸田。

「結局、扇動というのはイメージだから、そのイメージ作りのための像って事になる訳だ」と村上。

「そういう、何をどう捏造したか・・・って話は、ヒノデ国ではかなり知られた事実なんですが、各国に居るダイケー移民団体がその国のウーマニスト団体と結託して、事実を突き付けると"これは女性の人権を守るための見せしめだから何が事実かは問題ではない"と言うんです」とモニカ。


「つまり大衆裁判のリンチを気取ってる訳だ。それ自体が無法者根性丸出しだし、裁くってんなら事実に基かなきゃ話にならない。結局は他人を殴って楽しむ口実以外の何物でもないよね」と村上。

「左翼思想家って、そーいうの大好きだからなぁ」と真鍋。

「被害者の心を癒し満たすためだからバッシング目的じゃないとか言ってるけど、満たしたいのは現在まで煽ってきた対ヒノデヘイトの攻撃感情よね。それがバッシング目的だって言うのよ。そんなの満たすのは女性の人権じゃないわよ」と秋葉。


「ダイケー国は自分達の捏造話を世界中に流布する司令塔として、国家評判委員会という宣伝戦略機関を作って、ディスカウントヒノデ政策というのを公言しています」とモニカ。

「その目標が、ヒノデ国の評判をいかに下げるか。その受け皿になっているのが各国のリベルタン主義者たちって訳だ」と村上。

「奴隷労働というのは、労働者が悲惨な扱いを受けていた・・・という証言なんですが、これを本に書いて宣伝したのがグヨン・チョーラ―というという人です。フリゲート島という炭鉱の島に子供の頃滞在して目撃したというんですが、彼が言った状況は、その島に居た人達から悉く否定されていて、例えば、その島からヒノデのプーサン港が見えたと書いてありますが、フリゲート島はそんな位置には無いです。通ったという小学校の記録にも彼の名前は載っていない。明らかな作り話なんです」とモニカが語る。

「悪質だね」と部員たち。



「もう一つ深刻なのがバンブー島問題でして、ダイケーではサミシー島と呼んでいる島で、あの国ではこの運動を"サミシー愛"などと呼んでいます。実際はヒノデへの憎しみだけど、それだとイメージが悪いから、愛国運動として美化する訳です。そうやって国民を煽動し、学校教育で子供たちを動員して、世界中で自分達の領土だと宣伝し、私たちの返還要求に対して官民で罵声を上げています」とモニカが訴えた。

「近代化以前からヒノデの漁民がパイン島と呼んで行き来していた島なんだよね?」と村上。


「あの島からダイケー方向に100kほど行ったキブンワリー島の属島だと彼らは言うのですが」とモニカ。

「100k離れて属島と言われてもなぁ」と鈴木。

「ダイケーの古い記録にジャッカーシ島というのが出て来るんで、それだと彼らは言うのですが、それが間違いでして、ジャッカーシ島というのはキブンワリー島の昔の名で、記録にもはっきりそう書いてあるのです」とモニカ。

「それなら嘘とはっきり解ってるんじゃん」と真鍋。


「あの島の名がキブンワリー島で定着した後、そこからすぐ沖合の、今コンチク島と呼ばれている島が、ジャッカーシ島として近世の地図に載っているんです。それでキブンワリー島とジャッカーシ島は別の島だと」とモニカ。

「その時点でのジャッカーシ島がバンブー島ではなくコンチク島・・・という事実から目を背けていると」と桜木。

「わざと間違えてるとしか思えないね?」と中川。

「いや、わざと間違えているんだよ」と真鍋。



「戦争が終わってダイケー国が独立する時のフランソワ条約でも、バンブー島はヒノデ国領だと確定しました。ダイケー国はそれを認めず、あの島を軍事占領し、勝手に海に境界線を主張して、漁船を銃撃して40名もの命が犠牲になり、拿捕によって拉致された漁民は4000人にもなりました。ヒノデは戦後の軍が解体された時期で、対応できずにずるずると。普通は武力で奪い返すけど、ヒノデ国は平和主義なので」とモニカ。

「無抵抗で領土を差し出すのは平和主義じゃないわよ」と根本。


「けど、もう国際社会も武力戦争自体を止めようという時代だからね」と森沢。

「だったら、領土を取り返して本当の平和を維持するのは、国際社会の責任だよね」と渋谷。

「だから言論で批判するしか無いんだと思う」と真田。



「日本みたいな外国が声を出して、国際世論が盛り上がればいいんだけど」と中条。

「けど実際は、テロとか繰り返してあちこち被害が出ないと、普通は外国は誰も注目しないんだよね」と森沢。

「むしろダイケー国みたいな、嘘でも大声で騒ぐ、一方的に宣伝戦争仕掛けてる側の国に、リベルタン主義者が加担して、戦争を悪化させてる」と桜木。

「そりゃ戦争が無くならない訳よね?」と戸田。

「リベルタン主義って戦争の犬ね。諸悪の根源よ」と根本。


「日本だって外国からいろんな問題で被害を受けてるんだが、加害する外国じゃなくて日本政府に文句を言う奴等とかね」と村上。

「口先だけじゃないかとか、外国頼みだとか。それって戦争に訴えろと言ってるのと同義なんだが」と桜木。

「それを平和主義を騙るリベルタン主義者が語る。挙句政府は有言不実行・・・つまり不戦争って事だよね。それが誠意に欠けるとか、罵る和歌まで書いちゃうプロの歌人が居るんだよ」と森沢。


「和歌の世界ってどうなってるんでしょうね?」と哀しそうに訴える渋谷。

「わからん・・・」と何気なく口にする森沢。



部員たちの残念な視線に、森沢は慌てて「あ、いや、忘れてくれ」

「あの、今のって」とモニカが不思議そうに・・・。

「日本の文化よ。オヤジギャグって言ってね」と秋葉が楽しそうに・・・。

森沢は頭を掻いて「秋葉君、説明せんでいい」

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