第217話 真田さんミーツボーイ
真田はサークルでの人間関係で悩んでいた。
留学生のモニカは同国人との付き合いを優先している。そのため真田は、唯一の同学年である中川を気にするようになった。
その週の金曜日、真田は同期の仲間を誘った。
「明日の土曜日、三人で遊びに行かない?」
「私は祖国のみんなと予定があります」とモニカ。
「モニカさんは、そうよね。中川君は?」と真田。
「ごめん。渋谷さんと約束があるんだ」と中川。
真田が「そうなのね。中川君と渋谷さんって?・・・」と尋ねると、中川は・・・。
「一応、俺、あの人の彼氏だから」
翌週、真田は部室で根本に「先輩たちってみんな、誰かしらと付き合ってるんですよね?」
「そうね。村上先輩は中条さんの彼氏だし、芝田先輩は秋葉さんの彼氏。桜木先輩は」と根本が言いかける。
戸田が口を挟んで「駄目よ。彼は私のだから」
真田は「彼女の居ない人って居ないですよね? 聞いてました。ここってカップル率が高いって」
「鈴木君と真鍋君は居ないわよ」と戸田が言った。
真田は思った。
(鈴木先輩って根本さんの彼氏じゃ無かったんだ)
ラウンジで真田が根本を見つけて声をかける。
「根本先輩」
「何かしら」と根本。
「真鍋先輩ってどんな人ですか?」と真田が訊ねる。
「エッチだけどヘタレね。けど、根はいい人で、渋谷さんの事が好きみたい。けど、中川君との関係知ってて、一緒に受験の面倒見てあげてたの。他の女性の誘いを断ったって話もあるわよ」と根本が解説。
「それじゃ、鈴木先輩は?」と真田。
「いい人よ。元々漫画を描くんだけど、ストーリー作りが残念で、みんなの小説を漫画にしてるの。桜木先輩の小説を漫画にした事で、先輩と仲良くなって、私が先輩の事を好きだって事で仲取り持ってくれたんだけど・・・まさか彼に興味が?」と、解説しながら警戒心を匂わせる根本。
「そういう訳では・・・」と真田は怯えた表情で答え、そして思った。
(何か不味かったかな?)
その日の夕方、みんなが帰宅する時間に真田は鈴木に言った。
「鈴木先輩」
「何かな?」と鈴木。
「このあたりで飲みに行けるいいお店って、あります?」と真田が訊ねる。
「そうだな、"甚兵衛"とか"なおみ"とか」と鈴木。
「一人で入るのって敷居が高いんで、連れて行ってくれません?」と真田。
「いいよ」と鈴木。
その時、根本が言った。
「鈴木君、この後、戸田さんと桜木先輩の部屋に行くんじゃなかった?」
鈴木は「そうだったね。真田さん、ごめんね」
根本ら四人が部屋を出る。廊下で彼らが話す声が聞こえる。
「まさかあの子、本当に鈴木君に興味があるのかな?」と根本の声。
「別に鈴木君があんたのって訳じゃ・・・」と戸田の声。
「そうですけど、新人なんだから、粉つけるんなら、もう少しここの人間関係把握してからじゃないですか?」と話す根本の声に真田は棘を感じた。
真田は思った。
(駄目だったかな? そういえば根本先輩も彼氏が居ないんだよね。桜木先輩が好きみたいだけど戸田先輩が居るし、それで鈴木先輩を控えとしてキープしてるつもりなのかな?)
その次の日の夕方、みんなが帰宅する時間に真田は真鍋に言った。
「真鍋先輩」
「何かな?」と真鍋。
「このあたりで飲みに行けるいいお店って、あります?」と真田が訊ねる。
「そうだな、"甚兵衛"とか"なおみ"とか」と真鍋。
「一人で入るのって敷居が高いんで、連れて行ってくれません?」と真田。
「いいよ」と真鍋。
その時、渋谷が言った。
「真鍋君、今日、授業が終わったら一緒に中川君の家でお泊りだったよね?」
真鍋は「そうだったね、真田さん、ごめんね」
三人で連れ立って帰宅する後ろ姿を見て、真田は思った。
(何なんだろう? ここの人達)
真田が学食で村上たちを見かける。
中条が芝田の膝に乗り、村上に甘える。秋葉がふざけて村上と芝田にじゃれる。
佐藤と佐竹が来て彼らの隣の席に座る。芦沼が来て隣の席に座る。
中条が佐藤と佐竹に甘える。芦沼が村上と芝田にじゃれる。
みんなが帰宅する時間に真田は住田に言った。
「住田先輩」
「何かな?」と住田。
「先輩はヤリチンなんですよね?」と真田が訊ねる。
「俺に興味ある?」と住田。
「無いです」と真田はきつぱり。
「はっきり言うね?」と住田は笑う。
「それで、村上先輩たちって、どんな人たちなんですか?」と真田。
「あいつらは四人で付き合ってるみたいなものだからな」と住田。
「体の関係とか含めて、ですか?」と真田と怪訝な顔。
「あいつ等、そういうの、隠そうとしないからな」と住田。
「芦沼先輩とかも? いろんな男性を誘ってるって聞きましたけど」と真田。
住田は「村上とは同じ研究室に居るし、かなり仲はいいよ。そっち方面でもね」
その日、真田はラウンジで村上たちが四人でいる所に出くわした。
「真田さん、空き時間?」と秋葉が声をかけた。
「先輩たちも、ですか? ちょっとお話が・・・」と真田。
鈴木・真鍋と根本・渋谷の関係を聞かれて、村上が答えた。
「なるほどね。鈴木と根本さん、真鍋と渋谷さん、それぞれ付き合ってる訳じゃないけど、仲いいんだよね」
「そうなんですよね。私が入る隙間、無いみたいで。先輩たちは四人で仲良しなんですね?」と真田。
「いろいろあったからね」と村上。
真田は「中条さんは村上先輩とつき合ってるんですよね?」
中条は語った。
「私、以前は人と話せなくて、友達居なかったの。だけど真言君と拓真君が仲良くしてくれて、それで人と関われるようになったの」
「里子は俺の妹みたいなものさ」と芝田がドヤ顔。
「自称兄だけどな」と村上。
真田は「妹ゲームマニアなんですね?」と真顔で言う。
「みんなそういう目で見るのは何でだ?」と芝田は困り顔。
中条は「私、小さいころ、大好きだったお兄ちゃんが死んで、それがショックで殻に閉じ籠っちゃったんだよね。だからその代わりに・・・って」
「そうだったんですか。ごめんなさい。それで秋葉さんは?」と真田。
「私はこの三人に後から割り込んだの」と秋葉。
村上は言った。
「それで真田さん、もしかして、鈴木か真鍋のどっちかと付き合いたいとか?」
「サークルに出会いを求めるって、間違ってませんよね?」と真田。
「よく聞く話ではあるけど、別にそれに拘らなくても・・・」
そう問う芝田に対して、真田は語った。
「高校の時はSNSで相手を探したんです。仲良くなって写真データとか送って貰って、すごくかっこいい人で。けど、好きになっても会えなくて。そのうち、会っても実は写真は本人のじゃないかも? とか、変にヤリチンで騙されてるかも?・・・とか疑心暗鬼になっちゃって。それで、別の人と仲良くなって、けどその人も実は騙すつもりじゃないのか?、とか」
「ネットだと、どういう人か解らないからね。ひどい目に遭ってもそれっきりだから、騙そうと思えばいくらでも騙せちゃう」と秋葉。
そして村上が「高校の時の同級生で、SNSで知り合った女と付き合った奴が居るんだよ。その女に、縋って来る男を弄んでやってるとか、ブログに書かれてさ」と話す。
「どんな人ですか?」と真田。
「軽いタイプ・・・だよな?」と芝田。
真田は軽蔑感丸出しで言った。
「馬鹿ですよね?、そいつ。エッチな事したいだけってのを見透かされて」
すると中条が「私、一時期付き合ってた事のある人なの。その後付き合った恋人が引っ越して、私、助けてあげたくなっちゃって」
「一時期って?」と真田。
「一か月くらいで別れたんだけど」と中条。
「まさか体の関係とか無かったですよね?」と真田。
「あったよ」と、中条は笑顔で答えた。
それを聞くて、真田は感情を露わにして「そいつ最低じゃないですか。男の屑ですよ。どうせ、他の彼女が出来て捨てられたんじゃないですか?」
すると中条は「その新しい彼女って、失恋して引き籠っちゃった人でね。彼が学級委員で、毎日通って立ち直らせたの。それで何でそこまてするんだ?・・・って聞かれて、お前が好きだからって言っちゃって。見捨てられなかったのよね」
「何かいい人っぽい話なんですけど」と戸惑い顔の真田。
中条は「私、今でもその人の事、大好きだよ」
それを聞いて、真田はおろおろ顔で中条に「ご・・・ごめんなさい」
「気にしなくていいから」と中条。
真田は涙目で「私、何も知らなくて、酷い事いっぱい言っちゃって、私なんて生きてる価値無いですよね?」
中条もおろおろ顔で「どうしよう、真言君。何だか大変な事になっちゃった」
村上は溜息をついて「真田さん、反省し過ぎだよ。知らないで誤解してすれ違ってなんて、人生山ほどあるよ」
「けど、中条さんが好きだった人に、あんなひどい事」と真田。
「里子ちゃんって、こういう人だから、嫌な事言われたとか思ってないよ」と村上。
真田は「そうでしょうか? 村上先輩はその人の事・・・」
「あいつはいい奴だし、それに、誰かを助けたいって思うのはいい事だよ。あいつも里子ちゃんもね。俺はそういう里子ちゃんだから好きなんだ」と村上は笑って言った。
黙って聞いていた芝田は「村上、話が途中から、のろけになってるぞ」
「これは芝田の話でもあるだろーがよ」と村上。
中条は「真言君も拓真君も大好き」
「里子ちゃん、私は?」と秋葉。
「睦月さんも大好き。レズじゃないけど」と中条。
その後、文学部の廊下で真田は中条を見かけて声をかけた。
「中条先輩は村上さんを独占したいとか、思わないんですか?」と真田。
「真言君は真言君のものだもの」と中条。
「先輩だけのものになってくれないって、寂しくありません?」と真田。
中条は言った。
「真言君は私のことを真言君自身の頭で考えてくれるもの。それって、真言君が彼自身ものだからこそ出来る事じゃないかな?」
「けど、村上さんは秋葉さんや芦沼さんともエッチしてるんですよね?」
そう問う真田に、中条はさらに語った。
「一度、真言君、私と二人っきりになってくれた事があったの。睦月さんが拓真君と付き合うからって、私たちと距離置いて。二人っきりも楽しかったけど、拓真君と三人で居た時も楽しくて、その後、睦月さんと四人いる居ると、もっと楽しくて、それでね」
「芦沼さんは?」と真田。
「あの人は真言君を独占させろ、なんて言わないから」と中条。
文芸部室で村上たち四人、真田について話した。
「それで、要するに真田さん、近くに居る人と付き合いたい訳だよな?」と芝田。
「けど、ここがカップル率が高いって聞いてたって言ってた。何でわざわざ、空いてる人が少ない所に?」と中条。
「というより、自然と付き合える雰囲気を期待したんじゃないのかな?」と村上。
「どうする?」と芝田。
「要は、本人どうしが"その気"になるか・・・でしょ?」と秋葉。
「だったら、あそこだろ」と村上。
村上と中条が真田と真鍋を連れて農学部棟へ。
「どこに行くんですか?」と真鍋。
「来れば解る」と村上。
「勿体ぶらないで下さいよ」と真鍋。
「勿体ぶるも何も、行き先はお前のホームグラウンドだ」と村上。
畜産部門の繁殖棟に着く。
村上は笑って真鍋に行った。
「女の子が来たなら、先ず、こういう所を見せるのがセオリーだろ?」
兎に子豚に子ヤギに・・・。生後まもなくから数か月まで。
様々な小さい生き物を見て、真田は目を輝かせて言った。
「可愛い」
「家畜の子供を見るのは初めて?」と真鍋は真田に・・・。
「テレビでは見た事あるけど、こんなに小さいんだ」と真田。
「うちは酪農家だから見慣れてるけど」と真鍋。
「そうなんですか?」と真田。
「子豚はこんなふうに抱くんだよ」と言いながら、真鍋は子豚を抱いてみせる。
真田は子ヤギを撫でながら「こっちは子ヤギですか? もふもふだぁ」
そんな後輩たちの様子を見ながら、中条は顔をほころばせて村上の手を握る。そして言った。
「これなら大丈夫だね?」
その後、真鍋は部室に来て、深刻そうな顔で村上に言った。
「あの、村上先輩」
「どうした? 真鍋」と村上。
「何だかあれから真田さんに避けられてるみたいで」と心配顔の真鍋。
「変な事したのか?」と村上。
真鍋は「してませんよ。あれからすごく会話が盛り上がって、何か懐かれたかな?・・・と思ったら」
「会話って、どんな話をしたんだ?」と隣に居た芝田が問う。
真鍋は「どんなって、畜産の話ですよ。家畜の餌とか病気とか繁殖とか」
「まさか種付けとか交尾とか?」と村上。
「駄目だったでしようか?」と真鍋。
「それ下ネタだから。普通の女子は引くわ」と村上はあきれ顔で言った。




