第214話 誕生、秋葉政権
新年度が来た。中条たちは三年生となり、ゼミを選択する。
ガイダンスで、各選択授業と履修登録に関する説明とともに、ゼミ選択に関する説明を受ける。
村上は芦沼・関沢・笹尾・宮田と生化学研の湯山ゼミに入った。
芝田は小宮・刈部・榊・泉野とコンピュータ研の犀川ゼミ。
そして工学部にはコンピュータ専門学校から編入した小島と園田が居る。彼らは曽根とメカトロニクス研究室の葉山ゼミに入った。
秋葉が所属した経営技術研の須賀ゼミには津川の他、寺田・時島・栃尾。
文学部では桜木と戸田が現代文学研の上山ゼミを選択。梅田・竹下・柏木もここを選択。
中条は心理学研の坂口ゼミを佐藤・佐竹・島本と一緒に選択した。
文芸部の知り合い達が学生課前のゼミ参加者一覧の前でわいわいやる。
「島本さんは心理療法研究室に鞍替えしたんじゃなかったっけ? イケメンの先輩が居るとか言って」と佐竹。
「あの人、彼女が居たのよ」と島本。
「けど、早渡君が日本中世史研究室・・・ねぇ」と戸田。
「お前が歴史好き・・・ねぇ?」と桜木。
「戦国武将ファンの女子って多いじゃん」と早渡。
「はいはいそーですか」と佐藤が笑う。
それぞれ、その他数名のゼミ選択者とともに、教授から研究活動についての説明を受ける。
湯山ゼミで、村上・芦沼・関沢・笹尾・宮田ら三年生を前に、湯山教授が語る。
「各自、自分の研究するテーマを考えるように。これからのゼミ授業の中で、自主的にそのテーマに沿った研究をしてレポートを書き、発表してもらう。その延長が四年次に書く卒論だ。ゼミ活動は四年の先輩たちと一緒だから、いろいろ教えてもらうといい。もちろん発表時には厳しい意見も出ると思う。精進しなさい」
四年生の先輩たちが自己紹介。そして三年生たちの自己紹介。
午後は新一年生のための新歓祭だ。今年もブースを構えて入部希望者を呼び込む。
体育館では各部のパフォーマンス。
「うちも何かやるか?」と住田。
「朗読会とか?」と渋谷。
「渋谷さんの和歌でカルタとか」と根本。
「そんなに作品の数が無いですよ」と渋谷。
村上が「そもそもパフォーマンスなんて、興味の無い人は帰っちゃうから。外を廻ってる人を呼び込む方が早いんじゃないかな?」
「あいつらなんか廻ってる奴ら向けにパフォーマンスやってるじゃん」と芝田が指さす。
植込みの間の芝生で、指揮が振る棒に合わせて十人ほどの男女が合唱している。
「一年生を待ってるよ、一年生を待ってるよ、新人百人来ないかな」
「何ですか? あれは」と渋谷。
「合唱部だよ。あいつら、替え歌を合唱するのが売りなんだよ。渋谷さんも、ああいう歌、作らない?」と桜木が笑う。
渋谷は「急に言われても」
「ま、ここは部長の住田さんが・・・」と芝田が言うと、住田が「俺、もう部長じゃないから」
芝田は「そうなんですか?」
「四年生は就活や卒論があるから活動にはあまり参加できなくなるからな。三年生のお前等の中から部長を選ぶんだったよな?」と住田。
「そーいや、そうだった」と新三年生たち。
「で、誰が部長に?」と、3年生6人で額を寄せて相談するが・・・。
「ちょっとなぁ」と村上。
「いろいろ責任が」と桜木。
「かったるいしなぁ」と芝田。
中条が泣きそうな顔をしている。
村上が慌てて「いや、里子ちゃんにやれとか強制しないから」
「だったら村上がやれよ」と芝田。
村上は「絶対嫌だ」
すると芝田が「ここはジャンケンで決めるって事でどうよ」
六人でジャンケンし、中条が負ける。
「あの、私・・・」
そう言って泣きだす中条を全員で慰める。
村上が「部長は勝った奴がなるんじゃないのか?」
「そうよね」と秋葉と戸田。
五人でジャンケンし、村上が勝つ。
「絶対嫌だ」と村上。
「往生際が悪いぞ」と桜木。
秋葉が村上の両肩に手を置いて「真言君、部長は王様よ」
村上は「王様って何するんだよ」
秋葉が「椅子の上でふんぞり返って葡萄とかつまみながら膝の上で猫撫でて」
「いや、いらないから」と村上。
「女を侍らすの」と秋葉。
「女って中条さん?」と桜木。
「真言君、大好き」と中条が悪乗りする。
村上が「よしよし、苦しゅうない・・・って今までと変わらん!」
「部の運営に絶対的権限を持つのよ」と戸田。
「権限って何決めるんだよ」と村上。
「合宿、どこに行くとか」と秋葉。
「秋葉さんの趣味で温泉だろ?」と桜木。
「料理当番を誰にするとか」と戸田。
「いや、交代でやるのが当番だろ?」と芝田。
「俺が指名されたら何時でもやってやる」と村上。
「村上の男料理は飽きた」と芝田。
「なら芝田がやれよ。お兄ちゃんだろ?」と村上。
「それを言うなら、睦月がやってよ。お姉ちゃんだろ?」と芝田。
秋葉は溜息をつくと「仕方ないわね。私がやるから、女王様として絶対的権限、よろしくね。温泉合宿は毎週やるわよ」
「費用はどうするんだよ?」と芝田。
「当然、部費でしょ?」と秋葉。
「部費は部員から徴収するんだが」と桜木。
秋葉は「そこは当然、税率の引き上げで行くわよ。ちなみに私は税を徴収する側だから」
「勘弁してよ」と他の五人がブーイング。
「あの・・・」
村上は「睦月さん、上に立つ者は気前良さが必要なんだよ。臣下の収入は君主が与えた領地でしょ? 御恩と奉公って言ってね」
桜木が「それと経費節減は政権の務めだから」
「絶対的権限はどこに行ったのよ」と秋葉が口を尖らす。
「あの・・・」
村上が「お客さん、毎週行ってもお金のかからない格安な穴場がありまっせ」
「それは耳よりな情報ね。どこよ」と秋葉。
「上坂市温泉のホテル村上。秘密基地仕様のわくわくな雰囲気で評判」と村上。
「いつも行ってる真言君のアパートじゃない」と秋葉。
「あの・・・」
表で呼びかけている一年生の存在に、彼等はようやく気付く。
自分たちが新人勧誘をやっていた事を思い出す。
「いらっしゃい入部希望者ですよね?」と秋葉
「久しぶりです。先輩」と、見覚えのある顔が言った。
上坂高校で後輩だった中川だ。
「待ってたぞ」と真鍋が中川の手を執る。
「これからは一緒だね」と渋谷。
中川は嬉しそうに「渋谷さん、真鍋さん、俺、ちゃんと後輩になりました」
三人の世界に割って入り、秋葉が言った。
「よく来たわね。今年から私が部長なの。歓迎するわよ。中川君は経済学部よね? いろいろ教えてあげるわ」
「よろしくお願いします。鈴木先輩も、ですよね? 受験の時はお世話になりました」と中川。
「楽しくやろうな」と鈴木。
「私は根本よ。文学部。それとこっちが文学部三年の桜木先輩と戸田先輩。こっちが四年生の住田先輩よ」
中川は先輩たちに「よろしくお願いします」
そして秋葉は「あとね、大学では先輩には絶対服従よ。特にあなたにとって、学部でもサークルでも先輩の私がどういう存在か、解るわよね?」
「じゃ、鈴木先輩も?・・・」と中川。
秋葉は「もちろん。彼は私の・・・」
その言葉を遮って、鈴木は「俺が自分の下僕だとか中川に吹き込まないで下さいよ、秋葉先輩」口を尖らす。
秋葉は鈴木に「何よ、いろいろ教えてあげたじゃない」
「教えてくれたのは主に津川先輩ですけど」と鈴木。
「私だって面倒見てあげたでしょ?」と秋葉。
「あれは面倒見るというより、普通はいじるって言いません?」と鈴木。
桜木が「鈴木、お前、経済学部で秋葉さんに何されてたんだ?」
真鍋が「もしかして童貞引き受けて貰ったとか?」
秋葉と鈴木と根本が声を揃えて「それは無いから!」
「秋葉さんと鈴木が否定するのは解るけど、何で根本さんも?」と不思議そうな顔の真鍋。
根本は慌てて「な・・・何でもないわよ」
「で、中川は何か書きたいものは?」と桜木が問う。
「評論です。農業評論」と中川。
「そうなるよね」と村上。
二日目、一人の女子が入部した。
「文学部の真田です。恋愛小説を書いてます」と名乗る新入生女子。
在校生が自己紹介する。
中川や根本たちとわいわいやっている真田を見ながら、村上は呟いた。
「これで二人か」
三日目。
「もうすぐ終わりだね?」と村上。
「せめてあと一人、来ないかなぁ」と秋葉。
その時・・・。
「あの・・・」と呼びかける新入生の声。
アジア系の浅黒い肌が健康的な女子学生だ。
「入部希望者ですね?」と戸田。
「はい。入部したいです」と女子学生。
「外国の方ですか?」と渋谷。
「ヒノデ国から来た留学生で、モニカと言います。文学部です」と名乗る新入生女子。
秋葉が彼女を歓迎して、言って。
「よろしくね。部長の秋葉よ。それでこっちが三年生の中条さんに芝田君に村上君で・・・」
モニカの表情が見る見る嬉しさに満ちた。そしていきなり村上の胸に飛び込み、言った。
「会いたかったです。村上。私のサムライ」
「へ?・・・」と村上唖然。




