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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第21話 マッキー&タッキー

 藤河芳美は腐女子である。部活は漫研に属して、BL物を専門に書いている。

 そんな彼女が村上達の周囲をうろうろし出すようになったのは、あの糾弾会の後からだった。


 当初は誰も気に留めなかったが、そのうち頻繁に中条に話しかけるようになった。村上や芝田との関係をやたら聞きたがる藤河に、周囲は「宗旨替えでもしたのか」と訝った。

 やがて彼女は八木と行動をともにするようになった。どうやら八木は藤河に漫研への加入を誘われたらしい。

 漫研の元々の部員は藤河も含めて四名で、全員女子。藤河以外は二年生だ。各自其々の専門分野があって、藤河のBLのほかギャグ四コマ、ホラー、そして少女漫画だ。

「そこに八木の百合日常物が加わる訳ね?」と誰もが納得した。

 八木はそれなりに絵は上手い。もちろん女しか描けない。

 最初は「ハーレム状態」に釣られて加入したようで、三人の先輩にそれなりに面倒見てもらって、部活生活を満喫していた。



 やがて一学期の期末試験が終わり、夏休みが近づいた頃、クラスで短いBL本が出回った。

 題して「マッキー&タッキー」


 マッキーとタッキーはホモのカップルで、仲違いして破局寸前だった。

 心配した友人の勧めで、高校時代に一緒に登山した山に行ったのだが、登山道は既に廃止していて、荒れた道で迷ってしまい、二人は廃村状態の村に迷い込んで、サヤという幼い少女に出会う。

 彼女は祖父と二人でここに住んでいたのだが、その唯一の肉親に死なれて、無人状態の村で孤立し、途方に暮れていた。

 マッキーとタッキーは外部と連絡をとって、彼女の祖父の葬儀の面倒を見てやり、行き場の無い彼女を引き取って二人で育てる事にした。

 そして協力して子育てをしながら、二人の関係が修復されてゆく。



「BLでさえなきゃ悪い話じゃないが、何かどこかで聞いたような・・・」と村上が言うと、横に居た津川が言った。

「何言ってんだよ。お前らの事だろ?」

「えーっ?」

 村上と芝田が同時に声を上げる。


 言われてみれば、相当美化されてはいるが、確かに見かけや性格などマッキーは村上、タッキーは芝田、サヤは中条がモデルだと解る。

 聞けば藤河と八木の合作だという。

「なるほど、これを書くために藤河さんは八木を誘った訳かよ」と村上。

 隣に居た八木は「藤河さんは女を描けない。俺は男を描けない。だから協力して書こうって事になったのさ」と説明した。

 藤河も「これ、けっこう評判いいんだよ。夏休みに続きを書いてシリーズ化して、コミケや文化祭に出すんだ」と大はしゃぎだ。



「勘弁してくれよ」と村上と芝田は声をそろえた。

「まさか藤河さんの目に、俺達そんなふうに見えてないよね?」と芝田が言うと、藤河は「少なくとも、相当仲がいいようには見えるよね」

 村上は「あれがBLなら、女子はほぼ全員ガチレズってことになるけど、そうじゃなくてこれ、藤河さんの願望でしょ? そういう願望投影されても迷惑なんだけど・・・」と抗議した。

 八木は「いーじゃん。別にこんなふうに愛し合えって言ってる訳じゃないし、みんな妄想だって解ってて、単なるモデルなんだからさ」と言った。

 だが「モデルって事は、これに近い事やってるって言われてるのと同じなんだけど」と村上が言うと、芝田も「さすがに気持ちいいもんじゃないよな」と言った。

 だが八木は「中条さんはそうでもないみたいだけど」


 見ると中条がこの漫画を嬉しそうに見ている。

 芝田が慌てて「まさか里子、俺達がこんなだとか思ってないよな」と言うと、村上も「もしかして中条さん、こういうのに目覚めちゃったとか・・・」

 中条は慌てて首を横にふって「いや、そんなふうに思ってないし、村上君達が男同士で・・・とかみたいになって欲しくはないけど、ただ、こんなふうに子供みたいに甘えられたらいいな・・・って思って」


 そこに清水が「今でも十分甘えさせてもらってると思うけどね」と口を挟んだ。

 中条は「そうなんだけど、自分が居る事で、二人が仲良くなるのって、嬉しいと思うの」

 鹿島が「子はかすがいって奴だな。二人とも男だけどパパとママみたいな?」

 津川が「どっちがママだ?」と言うと「そりゃ・・・」と、全員の視線が村上に集中する。

 村上は慌てて「え? 何で俺を見るんだよ」と言うと、芝田に「俺、そういう趣味は無いから」

 芝田は「俺だって無いよ」


「とにかく、明らかに俺らだって解るような書き方は、肖像権の侵害だぞ」と村上が言うと、全員が清水の一件を思い出し、藤河も何も言えなくなった。

 その時担任が教室に入ってホームルームが始まり、この話は打ち切りになった。



 放課後、村上と芝田は藤河に呼び出された。藤河と一緒に居たのは佐川だった。

「何で佐川が?」訝る村上に、佐川は「責任とれ・・・だとさ」と笑った。

 藤河は「あんた達をモデルに書こうと思った元々のきっかけが、佐川君に言われた事だったって事」


 それは、佐川の「BLは気持ち悪い」の一言から始まった。

 性的な志向は人それぞれだと主張する藤河に、佐川はその根底にある男性嫌悪を指摘した。

「自分は男が好きだから男同士の関係を描いているんだ」と言う藤河に対して、佐川が挙げたのが「怨みBL」だった。

 つまり腐女子が同性愛に拘るのは、作品世界の男女の間に壁を作って「男を女で癒させない。男は男どうしでやってろ」と言っているのだという。また、性関係をイコール「レイプ」と意識する女の「男を男に犯させたい」という性的復讐願望の意味もあったりすると・・・。


 藤河は「えーっ?・・・って思ったけど、言われてみると自分でも心当たりがある部分もあって、自分達ってけっこう病んでいるんだな・・・って思い知らされたんだよね」と語った。

「確かに・・・同性愛嗜好って性嫌悪の現れである場合も多々あるからね。戦国武将にホモがいるのは、女人禁制のお寺で教育を受けて坊主の中に居るホモの影響受けるから・・・とか、ヨーロッパでは性欲を罪悪視する宗教の中で、同性愛こそ性欲と無関係な綺麗な愛だと語ったりとか、レズなんかは男性を排斥するフェミニズムの一番過激なのがレズビアンフェミニズムって言ったり、とか」と村上。

「まあ、同性愛な人とそれを支持する人とは違うけどね。それに、そういう価値観とかと無関係に体質でそうなっちゃう人も居るし・・・」と佐川がフォローすると、村上も「だよね。単にそうだ・・・ってだけで、異性愛と普通に共存できるなら問題無いんだけどね」と言った。

 そして藤河は「そうなのよね。それで、男女の間に壁をつくる世界が本当に綺麗なのかな?・・・って考えるようになって、そんな時に中条さんを見て、あんなのもいいな・・・って思って・・・」

「なるほどね。だけど、だったら女の子を育てるのがホモのカップルである必要は無いんじゃないの?」と村上が指摘すると、藤河は「それは私の趣味」


 結局、漫画は三人の顔と名前を変えて描き直す事になった。だが、話の続きを書くネタの参考に・・・という事で、相変わらず藤河と八木が彼等につきまとう事は続いた。

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