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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第195話 学術の宴とオタクの魔道具

コンピュータ研に出入りする芝田の仲間たちは、コミケでデモを見た人達からコンピュータ研のブログに来た、多くのメールを見る。

メールに曰く「いつ使えるようになりますか?」「俺でもアニメ絵を描けるんだ」「これで漫画を描くぞぉ」


読みながら榊たちが笑う。

「好評だな」と榊。

「期待されてるぞ」と刈部。

「他人事みたいに言ってるけどなぁ」と芝田。


更にメールを読む。

そのメールに曰く「思いっきりエロい絵を描くぞぉ」「モザイクのかかったエロゲームさようなら」「営業妨害は止めてくれ」「女の敵、死んじまえ」


芝田が読みながら溜息をついて言った。

「みんな好き勝手言ってるよな」

「けど、期待されてるのって気持ちいいよね」と刈部。

「学祭で試作版、売り出す?」と小宮。

「売れるようなものは出来ないだろうけど、ちゃんと実現するよってアピールしたいね」と榊。

それを聞いて芝田もやる気になり、言った。

「実演版作ろうか。とにかく動けばいい・・・って事でさ」



犀川教授に報告して許可を貰い、学祭にコンピュータ研究室有志のブースとして登録。

作画コンピュータの実演を目指したプロジェクトが始まった。


芝田は言った。

「デモは単なる映像イメージだが、ちゃんと動く試作モデルを一から作る・・・というのは大変だぞ」

すると榊が「とりあえずグラフィックソフトの基本版のソースがある。あれを元にしたらいいんじゃね?」

「なるほど」と仲間たち。


彼らは過去に作成されたソフトのストックを漁る。

「ペイントソフトとドローソフトがあるぞ」と芝田。

「ペイントソフトは作画画面を一枚のドットの集まりとして扱うから、作画作業での細かい描画に向いてる。ドローソフトは画像を線や面などの部品の集まりとして扱うから、あちこち変えるのが簡単」と言う刈部は絵を描くだけに、この手のツールには詳しい。

「つまり一長一短あるって訳だ。ならドローモードとペイントモードを切り替えて使うとか?」と芝田。

榊は「いや、ドローの部品をペイントで細かく作画する・・・って話になるだろ。つまり同じ土台で両方の機能を使えるように・・・って事になるんじゃね?」


画面に画像を描き込むグラフィックの土台は同じなので、共通する土台の部分の上に、双方の機能を実現する部分を付け足す作業になった。

キャラ作成のイメージはデモで出来ている。その手順をシステム化して実装する形の作業となる。

「キャラの基準線の基本がワイヤーフレームが作ったラインになる訳なんだが」と刈部。

「三次元CGはドローソフトの延長だからな」と榊。

「その基準線をドロー部品として取り込む訳だ」と芝田。


三次元ソフトのソースを探し出し、その機能を組み込む。

人物の全体型は多数の円とラインの組み合わせが大まかな外形となる。

これを構成する球とラインを三次元空間上に組み上げる。


「三次元である程度出来ちゃうね」と榊。

「これ以上リアルにするならポリゴンとか必要なんだが」と刈部。

「それでもいいんじゃない?」と小宮。


「二次元絵にはそれなりの味があるが」と刈部。

「けど、最近の三次元ゲームキャラってそれなりに抜けるぞ」と芝田。

「何を抜くのよ」と泉野が突っ込む。


「まあ、技術の発達は著しく・・・」と榊。

「そこ、誤魔化さない!」と泉野はさらに追及。

「泉野さん、ショタ絵、描きたくないの?」と刈部。

「・・・」


「ってか、丸ごと三次元CGじや困る所って何かな?」と芝田が確認。

「コンピュータ処理に全振りするから、いろいろ不自然な表現が出るんだよね」と刈部。

「それは作画ルールをより洗練する事で対処するんだが」と榊。

「それに要するスキルも手間も必要になる。二次元で手を加える方が直接的だわな」と小宮。

「要は三次元はサポートとして惜しみなく使えばいいって話かと」と刈部がまとめる。



目・鼻・口や髪、その他のパーツを操作するポイントを設定。各パーツのモデルを何種類か用意。

これを基準線に沿って自然なラインとなるように修正描線する曲線描画アルゴリズムを組み込む。


作業が進む中で芝田が「とりあえずのキャラ絵を描けるようになったが・・・」

「漫画描くなら背景も必要だよね」と刈部。

「町とかビル街とかは遠近法をシステムに乗せれば可能だろ」と榊。

「山とか海とかの風景も欲しいね」と小宮。

「宇宙戦艦やロボは男のロマン」と芝田。

「無限に広がる大宇宙・・・」と刈部。


めいめいが勝手な事を言い出し、広げ過ぎた大風呂敷を前に、全員顔を見合わせる。

「とりあえずキャラに限定しよう」という事で榊がまとめる。



作成されるキャラが色々と不自然だという指摘が各メンバーから出る。


刈部は「顔や人体を描く基準線はいいとして、いろんな方向から見ると角度で描画線が変わるよね」

榊が「そういう各パーツの見え方をコントロールする必要があるね」

芝田が「光の当たり方による陰影処理もね」

小宮が「目とかも種類たくさん用意するより、種類の数抑えて、たとえば吊り目から垂れ目へとアナログ的に変化させるようにしたくね?」

「目とか口とかの形や大きさを変えたりする延長で可能だと思う」と刈部。

「部品の入れ替えを三次元空間でやった方がいいのかな? 二次元にしてからの修正に任せるのとは一長一短あると思う」と泉野。


「二次元データと三次元データで自動的に情報をやり取りしてフィードバックさせる仕組みは出来ないかな?」と榊。

「陰影も二次元だとグラデーションだけど、三次元で自動で割り出した光量を出すから楽ではあるんだが」と小宮。

「鼻や唇や頬をいじると、光の当たり方が変って陰がどうなるのかって問題な」と芝田。

「そこらへんは基本パーツに乗せたポリゴンデータを土台のデータと連携させるって事でどーよ」と榊。

「あと、髪でも前髪のばらけ方とか、髷にした部分や束ねた部分の表現とか」と泉野


「髪の毛の線はどうするよ。一本づづとか書いてられないぞ。まとめて自動的に描線出来ないかな」と芝田。

「出来るだろ。ここからここまで何本とか」と榊。

「カールさせるなら、一斉にくねらせるか、くねり方を適当にばらけさせるか、あと線と線の間をどう処理するとかの指定」刈部。

「髪の毛の端を揃えるか、どうするかも」と泉野。


「いろんな所に応用できるね?」と芝田。

「襞とか」と小宮。

「何の襞よ」と泉野。

「衣服の」と小宮。

泉野は「あ、そう」

「何だと思ったの?」と小宮。

「うるさいわね」と泉野。

「縦横方向に応用して屋根瓦とか」と刈部。

「戦場で大勢兵隊描くとかも」と芝田。



「そういういろんな要素をオブジェクトとして管理する必要があるね」と芝田。

「だよな。画像のパーツだけじゃなくて、それの処理の仕方とかも、あとそういうのをどう互いに連携させるか」と刈部。

「その部品の連携なんだが、例えば頬をつねる場合、つねって出来た凹凸ってのは一つのオブジェクトになる。つまりオブジェクトが常時生成消滅を繰り返すんだよ」と榊。

「連携ポイントも常時生成消滅するよ。例えば三次元データ上で衝突した物、髪とかが衝突と認識されないと、腕とかをすり抜けたり」と刈部。

「つまり物体どうしがぶつかったという認識が自動的になされる必要だね? まあ三次元シュミレーターでは普通にやってる事だが」と芝田。


「それと、画像上の線とか面を二次元ペイントで加工するだろ? 色や太さを変えたり、先細り的に変化する線にしたり。その線をオブジェクトとして指定すれば加工は簡単になる。それとか、特定幅の色の範囲を抽出して面としてオブジェクト化するとか、細長い面を線として抽出するとかで、いろんな加工が可能になる」と刈部。

「眼や口単位のオブジェクトの下に、面とか線レベルまでの階層的なオブジェクトが付くって訳だ」と芝田。

「それを加工する動作そのものもオブジェクト化出来ないかな? そういう事が出来るなら、気に入らなくてやり直す時、作業し直すんじゃなくて、オブジェクトの交換として簡単に対応できる」と榊。

「色も情報としてオブジェクト扱いに出来れば、塗り直すんじゃなくて交換として対処できるし、グラデーションを貼り込む事も簡単」と小宮。

「オブジェクト間が連携するポイントをオブジェクトにするとかも・・・」と泉野。


システムの構築を進める中で芝田が言った。

「将来、製品化したとして使う人が理解できるんかいな?」

「俺は取説頭に入れるっていうより、使いながら覚えるタイプだ」と刈部。

「基準型のキャラモデルを用意して、目や髪や体形を変えながら、いろんなポーズを取らせたり視点を動かしたりして、楽しみながら覚えていけたらいいよね」と榊が言った。


全身描画のシステムを論議し磨きをかける。

「素人が書くとどうしても、あちこち不自然になるよな」と芝田。

「骨格や筋肉の造りを踏まえて描く必要があるんだよ」と刈部。

「それより、何で裸なのよ」と泉野。

刈部が「その表現がしっかりしてないと、その上に服を着た姿が不自然になるんだよね」と答える。


刈部は続けて「いろんな所の凹凸を陰影で表現するからね。筋肉とか、あばらとか、どこにどんな凹凸があるかってのが大事になる」

「それを人体構造踏まえてリアルにした上で、好みで強調したい所を変えていく」と小宮。

「二次元画像上に凸ラインを書き込むと、連動する三次元データに対応する凸部分が形成される・・・って出来たらいいと思う。それで画面に出た陰影表現を見て凹凸具合を調整すると」と榊。



仮試作したものを動かしてみる。

「左右の凹凸が微妙にずれるんだが」と芝田が苦情。

榊は「右に付けると自動的に左にも、ってすればオッケーかな」

「いつまで女の裸をやってるのよ」と泉野。

刈部は焦り顔で「そろそろ服、行こうか」

すると泉野は「じゃなくて、小さい男の子はどうしたのよ」


男児表現を試す。泉田の表情が緩み、言葉が漏れる。

「か・・・可愛い」

小宮が「泉野さん、涎」



改造を重ねてシステムが次第に形になる。入力部分の基本は以前のものの流用だ。

プログラムを組み直してデバッグし、修正を繰り返す。何とか動くものが仕上がった。

形になったものを、試しに動かしてみる。

芝田がそれを動かしながら、言った。

「根本的な使いにくさって無い?」

「やっぱりそう思う?」と刈部。


「直線と曲線、太線と細線とか、選択中の色を変えるとか・・・って、このメニュー画面をどうにか出来ないかな?」と芝田が不満を垂れる。

「これ、メニューって考え方自体の問題だと思う」と榊。

「例えば、画面上に線を描いてる時、線の色を変えたくなるよね。それで一々ポインタを線から離してメニューに行く。画面とメニューを行ったり来たり」と刈部。


「メニューからじゃなくてキーボードで選択変えられるといいよね。このキーで細線、このキーで太線とか」と芝田が言った事を受けて、各自好き勝手言う。

「Qキーで直線、Wキーで自由線、Eキーでスプライン曲線とか」と泉野。

「色はどうする?」と芝田。

「10色を当面使う色として指定すれば数字キーを割り当てるか」と苅部。

「使ってる色を調整するキーも欲しい。暗くするとか、明るくするとか、別の色に近付けるとか」と小宮。


「覚えるのが手間だけどね」と芝田。

「マシになると思うけど、マウスと普通のキーボードだと限界があると思う」と刈部。

「とりあえず理想に近づけたらししと思う」と小宮。



大学祭当日。

システムを組み込んだパソコンと、来客に見せるためのモニターを、設置したブースに持ち込む。

キートップに太線・細線・直線・曲線・色①・色➁・・・と書かれた小さなシールを貼ってある。

開幕とともに実演を公開。モニターで繰り返す女子キャラ作成の実演に、次第に見物客が増え、人だかりになった。


看板に曰く

「二次元の世界を自由に創る魔法のツール・工学部コンピュータ研究室有志」


来客が看板を見て笑う。

「まるでファンタジー世界の魔導士が使う魔道具だな」

榊が来客に「動かしてみますか?」

一人の来客がパソコンの前に座って電子ペンを動かす。

「こりゃいいや」と来客。


目の形を変え、髪型を変え、様々なアニメやゲームのヒロインに化ける。

来客は「下着は脱げるんですよね?」

「可能ですが、猥褻罪になりますので」と榊。

そんな客とのやり取りを見ながら刈部は「やっぱり需要、あるよね」

「けど、仮に製品になっても、それが付いてると引っかかるのかな?」と芝田。

「書き込みに必要なデータをオブジェクトとして追加する事は出来るぞ」と榊。

「データは自作して個人的に流通」と小宮。

そんな男子たちの会話を聞いて泉野は「通報しようかしら」



「やってるな」と声をかけてきたのは、小島と園田、そして山本と水沢だ。

小島がパソコンを見て「これが作画コンピュータかぁ」

「動かしてみるか?」と芝田。


小島がコンピュータの前に座る。標準型の女子キャラを画面に出し、衣服を外す。

「下着は脱げないん?」と小島は残念そうに言う。

「可能だが、猥褻罪になるからな」と芝田。

「そうなん?」と小島は言うと、そのまま作業を続ける。


下着の線を外し、下着の色を肌の色に変えて、剥ぎコラを描きにかかる。

「やっぱりメニューからの選択は面倒なのな」と小島。

「このキーとこのキーを押すと線の太さが変わるぞ」と芝田。

小島はキーを押してみて「本当だ」と・・・。

「これを押すと色を変えられる」と芝田。

「なるほど」と小島は言って、キーを多用して作業を進める。

股間の部分を描きにかかる小島。

「そこまでにしてくれないかしら」と止めにかかる泉野の目が怖い



小島は立ち去り際に「完成が楽しみだな」

「ロボとか宇宙戦艦とか描けるのか?」と園田。

「それはこれから」と芝田。

小島はさらに「完成したら動画とか立体視とかも?」

「いいね」と芝田。


刈部は小島たちに声をかける。

「お前等一日居るか?」

榊も「終わったら打ち上げだが、お前等も来るか?」

「そうだな」と小島たち。



大学祭が終了し、芝田は文芸部に戻った後、刈部たちと示し合わせて打ち上げ会場に向かう。

全員、ビールのジョッキを持って乾杯。

水沢にかまう刈部・榊と小島。楽しそうな水沢。

水沢は山本に甘え、芝田に甘え、園田に甘える。泉野は山本に甘える。


「水沢さん、採用試験に合格、おめでとう」と榊。

水沢は嬉しそうに「これで小依も社会人だよ。山本君と結婚できるの」

「水沢さんが人妻かぁ」と刈部。

「早すぎだろ。お前も少しは独身生活楽しんだらどーよ」と山本は水沢に言った。

「山本は二年も独身楽しんだだろ」と園田。

「まだ二年しか・・・だ」と山本。

「私、もう二十歳だよ。行き遅れになっちゃうよ」と水沢。

「普通は25まで大丈夫なんだよ」と山本。

水沢は「五年なんて、あっという間だよ」


芝田は「小島と園田は来年はうちに編入だよな」

「よろしくな」と園田。

「三年はゼミだよな。作画コンピュータ、みんなでゼミのテーマにしようぜ」と榊。

「いいな」とみんなが言った。


だが小島は残念そうに言った。

「それなんだが、俺たち、ドローンとかロボットの制御システムがメインなんだよ。だから多分メカトロニクス研に行くと思う」

「そうなのか?」と芝田。

「そして幼女型アンドロイドの作成を目指す」と小島。

「おいおい」と芝田たち。

泉野はうんざりした顔で「これだから男は」


泉野は園田に甘える水沢を見る。

右側の席に居る水沢に対して、相変わらず逃げ腰な園田を見かね、泉野は園田の左側に座った


「水沢さんは園田君のことが好き?」と泉野。

「大好きだよ」と水沢。

「水沢さんはみんなが好きなんだね?」と泉野。

「そうだよ。山本君も小島君も芝田君も園田君も刈部君も榊君も、みーんな大好き」と水沢。

「そういう大勢の中の一人の事をモブって言うんだよね?」と園田。

水沢は「違うよ。モブって好きじゃない人の事だよ」


小島は真顔で「つまり小依たんは天使なのさ」

「お前の言う天使って何だよ」と山本。

芝田たちは口を揃えて「泉野さんみたいなのと反対の人」

「あんたたち、喧嘩売ってる?」と言って泉野は口を尖らせた。

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